広がる“後払いサービス” トラブルも…

NHK
2023年5月1日 午前11:33 公開

みなさんは買い物の際の「支払い」、どうしていますか?

現金払いや銀行振り込み、クレジットカード、電子マネーなどさまざまな決済手段がありますが、いま新たな方法として「後払い決済サービス」が注目されています。

特徴的なのは、買い物時、お金を持っていなくても購入ができ、商品を受け取れること。

そして、利用にあたっては、クレジットカードのような本人確認の書類や年収・職業などの情報が“必要ない”ことです。そうした手軽さがうけて、若い世代を中心に利用が広がっています。

その一方、利用者の急増に伴いトラブルも起きているといいます。

後払い決済サービスの実態を取材しました。

(おはよう日本ディレクター 上定涼乃)

若者を中心に広がる後払い決済サービス

後払い決済サービスはどれぐらい利用されているのか、街のひとに聞いてみました。

ディレクター:“後払い”で支払ったことありますか?

高校生:めっちゃあります。給料前でも欲しい物が買えて、_給料が出た後に支払いができるからいいです。_

男性:日常の買い物全般が“後払い”です。基本、その次の月にまとめて支払っています。_スマホでの支払いができるので、楽で便利です。_

女性:後で払えていま負担がかからないから、“後払い”を結構使っています。_服とか買うときに、月に1回くらいの頻度で_

今回、都内5か所で街頭インタビューを実施したところ、数百円~数千円の比較的少額の買い物で、後払い決済サービスを利用しているという若者が少なくありませんでした。

都内に住む20代の女性も、後払い決済サービスを頻繁に利用するひとりです。月に4回ほど、通販サイトで買い物をする際に利用するといいます。

20代女性

「コスメだったりスキンケア商品が多いんですけど、日用品やガジェット(電子機器)も時々買ったりします。月に3万円いくときもあります。電車の移動中など、欲しいなと思った時にすぐ買えるので重宝しています」

いまお金を所有していなくても後で払えるということで、「BNPL」(Buy Now Pay Later)とも言われている後払い決済サービス。

その利用は、主に、次のようなステップを踏んで行われます。

①後払いの決済を行う事業者のアプリやサイトに、名前や電話番号など簡単な情報を登録

②販売店で購入する物を選び「後払い」を選択

③商品は支払う前に届く

④購入者は後日代金を払う

会社員のこの女性はクレジットカードも持っていますが、より手軽に購入できる後払い決済サービスにメリットを感じています。

20代女性

「クレジットカードでは、番号の入力やセキュリティー認証など、購入するまでの段階がすごく長いので、挫折しちゃうこともあります。例えば、いざ買おうとしたら手元にクレジットカードがなくて番号が分からないとか、人前ではカードを出しづらいとか。“後払い”だとそういう手間が全くなく、すぐに買えるのですごく便利に感じています」

利用者の増加に伴い、消費者トラブルも多発

利用が広がる一方で、トラブルも多発しています。

国民生活センターに寄せられる後払い決済サービスにまつわる相談は、ここ数年急増。

全国で集計を始めたおととしの相談数は2万件余りでしたが、昨年はおよそ4万件と、2倍近くに増えています。

国民生活センターとともに消費者トラブルの啓発活動を行う山本正行さんによると、後払い決済サービスは、いまお金がなくても購入できる決済方法ゆえ、利用者が支払い能力を超える商品を購入してしまうケースもあるといいます。

決済サービスに詳しい山本正行さん

「ギリギリあるいはちょっと遅れて払うというのを繰り返してしまう若年層は一定数います。利用者は、自分の支払い能力つまりいくらまでなら支払えるのかを認識しておくことが、後払い決済サービスの基本的な注意事項です」

寄せられる相談の中で最も多いのは、“後払いによる定期購入トラブル”です。首都圏に住む20代女性は、そうした被害にあったといいます。

首都圏に20代住む女性

「クレジットカードを持っていなくて、他に手段がなかったので“後払い”でサプリメントを購入したんです。そうしたら、勝手に定期購入になっていたことがあって…」

女性はSNSで「初回80%オフ」という広告をみて、通販サイトで健康食品を後払い決済で購入。後日商品が届き、その代金をコンビニで支払ったと言います。

すると・・・。

1回だけの注文のはずが、2回・3回と商品が送られてきて、その都度、高額の請求書が届きました。確認をしてみると、知らぬ間に「定期購入」の契約を結んだことになっていたといいます。

首都圏に住む20代女性

「購入ページのどこかに“定期購入”と小さく書いてあったのかもしれないんですが、気が付かずに購入してしまいました。そういうトラブルの怖さを何も知らない頃だったので、“やってしまった”と後悔しました」

女性はその後、定期の契約を解除しましたが、すでに届いた商品の代金はやむなく支払ったといいます。

トラブルの背景には“後払い”ゆえの構図が…

後払い決済サービスには、定期購入トラブルに巻き込まれやすい要因があると、決済サービスに詳しい山本さんは語ります。

決済サービスに詳しい山本正行さん

「あまり質の良くないと考えられる販売店は、クレジットカードが使えない場合がほとんどです。そのため、クレジットカードに代わってコンビニなどで支払う後払い決済サービスが利用されているということが、この問題を大きくしているのではないかと思います」

そもそも、後払い決済サービスは、「販売店」が「後払い決済を行う事業者」と加盟店契約を結ぶことで成り立っています。この「後払い決済を行う事業者」が、「購入者」の代金を立て替えて「販売店」に払い、その後、購入者に請求するのです。

この3者の関係はクレジット決済も基本的に同じですが、クレジットカードの加盟店契約の場合、割賦販売法に基づき、「クレジットカード会社」は、「販売店」が適正な販売などを行っているか調査する義務があります。

一方、後払い決済サービスの場合、「決済を行う事業者」は「販売店」を調査する法律的な義務はなく、自主的な取り組みに委ねられているのが実情です。

こうしたことから、国民生活センターは、後払い決済サービスについて、加盟店調査などが十分ではなく、契約内容が認識しづらい販売店があるとして、利用者に注意を呼びかけています。

決済サービスに詳しい山本正行さん

「特に『無料期間』『お試し期間』といった売り方をされている場合、無料期間はどれだけか、最終的に支払う金額はいくらかなど、きちんと表示を確認することが必要です。また信用できる販売店かどうかも大事なポイントですので、そこは十分注意していただく必要があります」

“後払い”トラブルを防ぐ業界の取り組み

トラブルが多発していることを受け、後払い決済を行う事業者も対策に乗り出しています。

一昨年、後払い決済を行う複数の事業者が集まり業界団体「日本後払い決済サービス協会」を設立。取引の公正を確保し、購入者の利益を保護することを主な目的として「加盟店審査に係る自主ルール」を去年策定しました。その中で、販売店の調査や、消費者からの苦情があった際には原因の調査や改善要請を行うとしています。

加盟している事業者の中には、具体的な取り組みを始めている企業もあります。

若者を中心にここ数年で急速に広がっている“後払いサービス”。

私(筆者)は20代ですが、普段あまりインターネットで買い物をしないため、今回の取材をするまでこうした決済手段を知りませんでした。

利用している方々から話を聞くと、根底には、より手軽に少しでも手間を省いて買い物がしたいという現代人の思考があるように感じました。

一方で、後払い決済サービスにはトラブルのリスクがあることも事実。利用の際にはよく注意しなければならないですし、上限以上の買い物をしないよう自制することも必要です。その意味で、考え方によっては利用者の“自己責任”や“負担”が増したと言えるかもしれません。

決済手段の選択肢が増えているいまだからこそ、場面に応じた適切な選択をし、賢い買い物を行ってほしいと思います。