まぶたを二重にしたい、脱毛したい、しわをとりたい…。「美容医療」の人気が世代を超えて広がっています。ある調査によると、2010年に約80万件だった施術数は2019年には約147万件と倍近くに達しました。「コンプレックスがなくなった」と明るく話す人がいる一方、高額な手術を契約させられたといったトラブルも増えています。
トラブルを防ぎ、安全に美容整形を受けるにはどうすればいいか、注意するポイントをお伝えします。
整形を求める若者が次から次へと…
東京・新宿にあるクリニックを訪ねると、平日の昼間に10代~20代前半とみられる若者たちが次々とやってきていました。
このクリニックで一番人気があるのは二重埋没法(ふたえまいぼつほう)と呼ばれる簡単な美容整形です。
手術にメスは使わず、所要時間は約10分。値段は7万から16万円程です。
<二重埋没法による効果(東京イセアクリニック提供)>
こうした「プチ整形」と呼ばれるメスを使わない手術について、このクリニックで受ける10代から20代前半の若い世代の数は、6年間で6倍以上に急増しています。
形成外科専門医の鈴木知佳医師は「若い方の来院者数がすごく増え、今では10~20代の若い人の手術が毎日ある」と実感を語っていました。
二重埋没法の手術を受けた男子大学生に話を聞きました。
二重にしたいと思っていた男子大学生がプチ整形をうけるきっかけとなったのが、SNSの動画でした。
SNSで動画を見るうちに興味を持ち、美容整形について調べるようになったといいます。
手術の結果に満足していると、とても明るい表情で話してくれました。
二重埋没法を受けた男子大学生
「もともと目がコンプレックスで。目を見て、眠くないのに眠そうだねとか言われたり、目が小さいのがすごいコンプレックスでそこを改善したくて受けました。SNSを見て、最初ちょっとまだあか抜けてない感じの人が整形してすごくあか抜けていて、憧れじゃないですけど羨ましいなとか。やっぱり気持ち的にコンプレックスが1つなくなったっていうのはすごく僕の中で大きいのと気持ちもすごく明るくなりました」
美容整形への”親世代”の意識も変化している
美容整形が若い世代に広がっている背景には、親世代の意識の変化もあります。
ことし「プチ整形」を行った女子高校生とその母親が話を聞かせてくれました。
目元にコンプレックスを感じていた娘に対し、母親の方からプチ整形を勧めたといいます。
女子高校生
「二重じゃないのがコンプレックスだったこともあって1年前ぐらいからそういう手術があるよって母が教えてくれました。父も歯の矯正と同じようなものだって全く抵抗ない感じで言ってくれました」
女子高校生の母親
「高校に入ってから毎朝二重にするメイクを朝バタバタ支度する姿をみて、プチ整形でやった方がいいんじゃないのって感覚ですね。学生時代、プチ整形したいっていう気持ちはすごく分かるんですね。私もそういう感覚を持った時期がありましたし、プチ整形やったことによって気持ちを明るく持てたりそういうような気持ちになれるんだったらいいかなと」
クリニックの鈴木医師は、若い世代だけでなく幅広い年齢層で以前より抵抗感が少なくなっていると感じています。
鈴木知佳医師
「以前は整形しても”周りに隠す”ということが皆さんの考えとしてあったと思うんですけれど、最近は自分が整形したことを不特定多数の方にSNSを通して公表するような考え方に移行していると思います。親世代も自然な変化で、“この子に合ったものでこの子のコンプレックスが治ればそれでいい”と思っているとおっしゃる親御さんがすごく増えてきていると思っています」
年々増加する金銭的トラブル
美容整形に対する意識が変化し利用者が増える中、美容医療に関するトラブルの件数も年々増加しています。
昨年度、国民生活センターに寄せられた相談件数は約2600件で、前年度に比べて1.2倍に増加しています。
特に10代と20代の占める割合は全体の4割で、近年増加傾向にあります。
思い通りにならなかったり、腫れがなかなか引かなかったりなど、手術そのもののトラブルがある一方で、増えているのが金銭的なトラブルです。
●カウンセリングで「あなたの目ではこういう手術をしないと理想にならない」と、どんどんオプションを追加され、当初の2万円と聞いていたはずの手術が40万円に膨れあがったケース。
●「10万円で全身脱毛」というネット広告をみてクリニックに行ったところ「広告の施術は効果が低いので60万円の施術がオススメ」と言われ、その場でカードで契約してしまったケース。
高額なのにも関わらず思いとどまらずに契約してしまい、後悔するケースがなぜあとを絶たないのか。
専門医は「期待が大きすぎると冷静な判断ができなくなる」と指摘しました。
日本美容外科学会理事長 鎌倉達郎医師
「きれいな症例写真とかをみると、やはりそこに非常に期待してしまうというのがあるんですよね。やっぱり期待されることが頭にすごく強いと、費用がアップセル(より上位のサービスを勧めること)で上がっていったとしても、そこにたどりつけるんだっていうふうに思ってしまうっていうのは実際あるかなと思いますね。ですが夢が膨らみすぎるがゆえに、ちゃんと見定めなければいけない部分を見落としがちになってしまうというのがありますね」
トラブルを避ける3つのポイント
どうすれば金銭トラブルを避けられるか、鎌倉さんは3つのポイントを挙げました。1点目は最低でも2か所のクリニックでカウンセリングを受けることです。
1つのクリニックでカウンセリングを受けるだけでは、一般のクリニックに比べて費用が高いか低いかを判断できません。
また他のクリニックに足を運んで比較することで、その場で決断せずに冷静に判断することができるといいます。
2点目は、アフターケアをどこまでしてくれるのか確認をすることです。
手術後に何か不満があった場合、信頼できる病院は手術後にもしっかりと対応してくれるものだということです。
さらに鎌倉さんが強調したのは、「きょう手術したら安くなる」という言葉には要注意ということでした。
日本美容外科学会理事長 鎌倉達郎医師
「別の日にやったからといって技術が落ちるわけでもないですよね。だから医療に関しては、その日にディスカウントされて、というのはあまりよく聞かないことだから、その辺りやっぱり注意した方がいいとは思います」
また消費者庁では、ことし4月、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたことでさらに若い世代の被害が広がることを懸念し、SNSを通しての呼びかけを行っています。
最寄りの消費生活センター等につながる「188」(いやや)に電話すれば、専門の相談員が解決への手助けをしてくれます。
消費者庁消費者政策課長の尾原知明さんは「18歳だとまだ『契約の重要性』を十分理解していない懸念がある。トラブルに巻き込まれないために、契約についての法的な知識や、本当に必要な契約なのかを判断する力を身につけてほしい」と話していました。
冷静な判断で悔いのない美容整形を
取材していると、中学生や小学生までもプチ整形を考えているというケースもあり、美容整形に対するハードルが下がっていることを実感しました。
それだけに、コンプレックスにつけこんで不安をあおり、高額な請求を受けるトラブルも身近なものになってしまっていると感じます。
ハードルが下がったとはいえ、安いものではありません。あわてず冷静に比べてじっくり検討するよう、どうぞご注意ください。
(おはよう日本ディレクター 三宅 響)
【2022年8月7日放送】