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SOSを発しないヤングケアラー 本人も 家族も 支援のカギは

NHK
2021年10月5日 午後6:21 公開

18歳未満で家族の介護などに追われるヤングケアラー。一刻も早い支援が必要ですが、「ヤングケアラー自らがSOSを発しないこと」が支援の大きな壁と言われています。いったいどういうことなのか、具体的なケースを元に、対策までを見つめます。

<読み解くポイントは>
▼SOS発しない背景に ヤングケアラーの“日常”!?
▼親も抱える葛藤 「娘に頼らざるを得ない」
▼支援のカギは“近所のおじいちゃん”

ヤングケアラーの“日常” ~はるなさん(仮)の場合~

山梨県の高校2年生、はるなさん。全身の関節の骨が壊死していく難病の母親を10年以上介護しています。30キロの電動車イスを運ぶため、月に2、3度ある母親の通院に学校を休んで付き添っています。

はるなさん 「あざまみれですよ。乗せるときはまだいいけど下ろすときが大変」

入浴と食事作りなどはヘルパーの支援を受けていますが、そのほかの家事や買い物、外出する際の介助は、全てはるなさんが行っています。

母親 「車に車いすを積むのにこの子じゃないとできないんです」

小中学校に通えず介護 「誰にも頼らないこと」が当たり前に

はるなさんは、小学2年生の頃から母親のケアを続けています。
精神的に不安定だった母親は、かつては何度も自傷行為を繰り返していました。
はるなさんはそばを離れることがこわくなり、小学校も中学校もほとんど通えませんでした。

はるなさん 「友達にも話せないし学校の先生にもあまり話せなかった。(何度も救急搬送されていたため)救急隊の人が顔見知りみたいになっちゃって『ガス栓を閉めた?』とか言ってくれた」

いつしか、誰にも頼らないことが「当たり前」になっていきました。

はるなさん 「(今は)そんなに困っていないです。“日常”になっちゃったんで」

母親の葛藤 「娘しか頼れない」「子どもらしい生活奪っている」

母親のゆうこさん(仮)にも事情がありました。はるなさんが生まれてまもなく離婚したゆうこさん。
難病を発症した頃、子育てや病気、生活費などの不安を役所で相談しましたが、たらいまわしにされていると感じることが続き、次第に孤立。他人に頼ることをあきらめていきました。
「娘にしか頼れない」。でも「子どもらしい生活を奪ってしまっている」。ずっと、葛藤を抱えています。

母親 「本当に申し訳ないなって思っているんですけど手を貸してくれるし、支えてくれるし、『申し訳ない、申し訳ない』で今まで来ちゃいました」

“介護”と“夢”の両立も 「たぶん大丈夫」

いま高校2年生のはるなさん。そろそろ進路選択の大切な時期です。
夢は臨床心理士になることですが、「介護が続く日々」と「夢の実現」は両立するのか。
ここでも、はるなさんから聞かれたのは「たぶん大丈夫」という声でした。

はるなさん 「今までもなんとかなってきたんで、なんとかなるだろうって思っています。お母さんだし私がやらなきゃと思っています」

支援の壁は「日常」と「大丈夫」

本当は大変な状況なのにもかかわらず、本人たちは「大丈夫」と言いがちなこの問題。「支援の壁」を読み解くキーワードの1つ目は、「日常」です。はるなさんたちヤングケアラーにとっては、幼いころから介護やケアをすることが「日常」です。そのため「他の家庭の日常」との比較ができず、「これが普通なんだ」と思い込んでしまうことが多いといいます。

大阪歯科大学・医療保健学部 濱島淑恵教授 「介護が日常化していくと、当然それ以外の生活とかそれ以外の人生というのを想像できない状況になっていきますし、子どもが介護することを否定してしまうと、自分が積み重ねてきたものを否定する事につながってしまったり、その家族のあり方を否定することにもつながっていきます。家族の中でぎゅっと『何とかしなきゃ』という思いにしているというのは、頼れるのは自分たちだけという状況に社会が追い詰めている。そういった中で起こってくる現象なのではないかと思います」

キーワードの2つ目は、「大丈夫」という言葉です。ヤングケアラーの言葉が本心なのかどうかわからないケースや、子どもだけでなく、介護を受ける親が「大丈夫だから」と言って支援につながらないケースもあり、状況は複雑です。こうした中、山梨のNPOでは、はるなさんたち親子に頼ってもらえる存在になろうと、試行錯誤を続けています。

支援のカギは“近所のおじいちゃん”

NPO法人「こどもサポートやまなし」の事務局長・木村輝三さんです。
はるなさんへの学習支援などに加え、大切にしているのは、母親のゆうこさんに寄り添うことです。

木村さん 「お母さんにやっぱり共感するっていうことが、必要だと思う。そのお母さんが、なんでそう(人に頼れなく)なっているのかということを、責めるんじゃなくて、一緒に考える。それが第一歩だなって」

木村さんがサポートを始めたとき、支援の話を真正面からしても、かえって心を閉ざしてしまうかもしれないと考えました。そこで、いわば「近所のおじいちゃん」のように接することを始めました。

ある日は、取れたての野菜やコメを届けたり、またある日は、引っ越しの手伝いをしたり。
些細な相談事にも親身になってこたえていくうち、次第に心を開いてくれるようになったといいます。はるなさんと木村さんが初めて出会ってから、およそ4年がたっていました。

母親 「お米は4年買ったことがないくらい。助けてもらって知恵を貸してもらって、もうちょっと早く知っていればよかった」

木村さん 「相手に信頼してもらえないと、本当の実態を話してもらえない。だから時間をかかると思いますけれども、結局それの方がいい結果になる。何をしてほしいか、相手が言葉には出さないことも含めて我々がどうやって理解するか。その努力を毎日積み重ねていければ、頼ってもらえるようになると思う」

家族以外との接点 どう増やす?

木村さんの支援が始まって以来、はるなさんは何かあったときに頼れる存在ができたことで、大人を信頼できるようになったといいます。また、母親も木村さんに心を開くことで、精神的に落ち着き、自傷行為などはなくなったため、はるなさんは学校にも行けるようになりました。

専門家によると、これまでは、障害者福祉・高齢者福祉・児童福祉・医療などの福祉関係者が、ヤングケアラーの問題に気づきながらも、専門領域ではないからと、深入りしにくかったといいます。ようやく国も動き出したヤングケアラーの支援。これからは、支援者の間でヤングケアラーを中心的に支援するのは誰なのかを明確にし、そのうえでその家族と日常的に接する機会の多い立場の周囲の大人も「自分の支援対象者なんだ」という認識を持って声をかけてほしいし、声をかけやすい仕組みを作っていく必要があると指摘します。

大阪歯科大学・濱島淑恵教授 「ヤングケアラーというと、子どもの支援の必要性を求められてきましたが、親や家族を含めた支援も大事。また、ヤングケアラーやその家族がSOSの声を上げやすくするために、家族以外の人との接点をいかに増やせるかが鍵だ」

【2021年9月14日放送】

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