150年後の未来へ ”国宝”として残したいものはなんですか?

NHK
2022年12月1日 午後2:33 公開

みなさんご存じこちらのゴジラですが、いるのは映画館でも遊園地でもなく「博物館」です。

東京・上野公園の東京国立博物館で開かれている「150年後の国宝展」。ゴジラは、れっきとした展示品の1つなんです。

「時代を象徴する文化とは何なのか、後世に伝えたいものは何か」、思いの詰まった展示品からはそんなことを考えさせられました。

(おはよう日本リポーター 片山智彦、ディレクター 多々良啓子)

コンビニやケータイ・・・ 現代を象徴するモノたち

東京国立博物館は1872年(明治5年)に開館し、ことし創立150年を迎えました。

そこで開かれている記念の企画展が「150年後の国宝展」、いつもとひと味違った展覧会になっています。

例えば、私が気になったのが、こちら。

いまから48年前、日本初のコンビニにはホウキやソロバンが売られていて、赤電話も置いてありました。

この展覧会は、創立150年の節目に企業や個人から「いまとても大切だと思っているもの」を集め、「いまから150年後の未来にも伝えたいもの」を展示しているんです。

この「コンビニ」も展示の1つです。 48年前、東京・豊洲に1号店が出来たところから始まり、その後ATMや公共料金の支払いなどサービスが増えて、いまでは欠かせない“社会のインフラ”になりました。

突然ですが、ここでクイズです。1号店の開店初日に最初に売れたもの、なんだかわかりますか?

おにぎり?

お茶?

アイスクリーム?

正解は800円の「サングラス」です。午前7時の開店を待って買ったお客さんがいたそうなんです。

意外ですけれども、当時、早朝にサングラスが買えるのは画期的だったのかもしれません。

「企業部門」にはモノやサービス31点が展示されています。

例えば、一世をふうびしたキャラクターや世界中で利用されているオートバイなどもあるんです。

冒頭にご紹介したゴジラも、映画会社が出展したものです。

ほかにも、「デザインケータイ」と呼ばれるものも展示されています。

見覚えがある方も多いのではないでしょうか。

携帯電話は、いつも持つものだから格好よく美しいほうがいいと、携帯電話会社がアーティストなどと組んで個性的な製品を出したんですね。

一般の人たちから寄せられた品々 懐かしい思い出とともに未来へ

そしてこの展覧会、一般の方からも展示品を公募しているのも特徴です。

東京国立博物館では初めての試みで、345点の応募から選ばれた67点が展示されています。

わたしたち一人ひとりが大切に思うものとして未来に託すものー。

「残したい」という個人の思いが強いものが選ばれたといいます。 

例えば、「使い込んだコンピューターゲーム機」や「足踏みミシン」の実物もあります。

ミシンはおばあさまが長年大切に使ってきたものをお孫さんが出展したそうです。

そして、その隣にあったのが「子ども時代の勉強机」です。

ずいぶん懐かしい感じがしますが、こちらも公募から選ばれたものです。

「よい子を育て、狭い国土の中で学力と国力を上げて発展を目指した時代のひとつのシンボル」と評価されました。

どんな思いで出展されたのでしょうか。

勉強机を出展したのは、奈良市でゲストハウスを営んでいる坂本隆司さん、53歳です。

坂本さんのゲストハウスは、昭和レトロなモノが豊富に置いてあるのが特徴です。

主に実家で使っていた品々を並べています。

そして2階に置いていたのが、今回出展された勉強机です。

文房具やラジカセなど、坂本さん自身が勉強や遊びに使っていたものがほぼ当時のまま置かれています。

坂本隆司さん

「40年ぐらい前のものになりますね。(勉強机にあるのは)全部私が当時小学生から中学生くらいのときに使っていたもの、リアルなものばかりです。その中から1つだけ出展しても雰囲気が伝わらないですし、ガラクタも含めて全部残っているので、この机まわり全体という形で提示したら、面白いかなと思いました」

それぞれの品に思い出がつまっています。

筆箱には、中学生のときの時間割表が残っていました。

坂本隆司さん

「クラスの女の子がいたずらで書いてくれたのがそのままですね。当時丸文字が流行っていたんですよね、かわいい丸文字。いい思い出です」

牛乳瓶のフタを友だちと交換しあったこともありました。

ぺナントは、旅先でついお土産で買ったのも思い出です。

愛着がわいて捨てることができなかった品々。

やがて大人になり、友人や知人に机を見せると、驚きや賞賛の声が寄せられるようになりました。

今回選ばれた、子どもの頃の勉強机。捨てずにとっておいて間違いはなかったと感じたといいます。

坂本隆司さん

「今のものと違って効率性や合理性ばかりではなく、作りこみの楽しさというか手作り感というものがあるので、ちょっとした温かさを感じることもあるのかなと思いますね。自分自身も懐かしさを感じているのかもわからないです。日常生活で使うものは使い古して新しいものに替えていきますし、もっといいものが出てきたらそれに憧れて買い替えていくものです。こんなもの、もうみんな残してないだろう、すごいだろうなっていう思いはありました。今回展示に選ばれて、改めて自信がついた気がします」

こんなコレクションも!大切にしたい日本の味 

さらにもう1つ注目した展示が「煮干しのコレクション」です。

展示に選ばれた理由が、「魚介類を豊富に摂取する日本独特の食文化のニッチさがあらわれている」

こちらも相当な思い入れがあるに違いありません。

静岡県にある海産物を製造・販売する会社を訪ねました。

出展したのは、実家の会社に勤める沼田行雄さんです。

幼いころから「だし」に親しんだ沼田さん。

仕事や旅行で訪れた場所で煮干しを買い集め、コレクションは40種類以上になりました。

ノドグロは島根県産。コクのあるだしがとれます。

サバの煮干しは長崎県産。ほんのり甘みが出るといいます。

各地で出会うさまざまな煮干しの姿や味に魅了されたといいます。

沼田行雄さん

「煮干しはまず見て楽しい、というのがひとつあります。いろいろな色の魚がありますし、日本各地のその土地を代表した魚が集まっていると思います。その結果がこのコレクションにつながっています」

おもに「だし」の材料として使われ、わたしたちの食生活に大切な煮干し。

しかし「煮干し」に魅了されてきた沼田さんには、最近気がかりなことがあるといいます。

食生活の変化などにより、煮干しの生産量がここ30年近くで半分ほどに減っているのです。

沼田さんは、今回の展覧会が「煮干し」の現状を知るきっかけになるとうれしいといいます。

沼田行雄さん

「”国宝”の候補に選ばれたということは、煮干し自体が価値のあるものとして認められたということだと思います。150年後も煮干しが残っていてほしいという思いがあるので、この展覧会を見た方々が少しでも煮干しやだしに対して、”将来国宝になるぐらい大事なもの”ということで興味を持っていただけたらうれしいです」

それぞれ思い入れが込められた展示の数々。

見ているとその時代の記憶や思い出がよみがえってきます。

それらがどう将来に残っていくか思いをめぐらせるのも楽しいかもしれません。

150年後に残したい宝物、あなたにとってはなんですか? 

▼東京国立博物館 「150年後の国宝展―ワタシの宝物、ミライの宝物」                           

~2023年1月29日(日)まで