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ミャンマー 突然のクーデター その理由は
NHK
2021年4月13日 午後12:00 公開

2月1日に軍によるクーデターが起きたミャンマー。

軍はなぜ、突然とも言える強硬な手段に出たのか。その理由を探ります。

スー・チー氏と軍 憲法改正めぐる攻防

2015年の総選挙でみずからが率いる政党を圧勝に導き、半世紀以上にわたって続いてきた軍主導の政治を終わらせたアウン・サン・スー・チー氏。

軍との融和姿勢を打ち出す一方、実態は緊張関係にありました。

背景にあるのが、スー・チー氏の選挙公約です。

スー・チー氏は「真に民主的な国家の実現」を掲げてきました。

公約実現のため、スー・チー氏が取り組もうとしたのが憲法改正です。

スー・チー氏の政党は、去年、憲法改正案を議会に提出しました。

現在の憲法は、議会の4分の1の議席が軍人に割り当てられるなど、軍が政治に強い影響力を持つことを保証しています。改正には、議会の4分の3を超える賛成が必要なため、事実上、軍の同意なしには改正できません。改正案には、軍人の議席を削る案が盛り込まれていました。

結局、憲法改正案は軍人議員の反対などで否決。軍はスー・チー氏への不満を募らせていきます。

そして迎えた去年11月の総選挙。スー・チー氏が率いる政党は再び「真に民主的な国家の実現」を掲げ、圧勝します。

ミャンマーの政治に詳しい京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏准教授は、選挙に圧勝したスー・チー氏は軍の政治への影響力の低下を狙う動きを強めるのではないか。こうした軍の危機感がクーデターにつながったと指摘しています。

京都大学東南アジア地域研究研究所 中西嘉宏准教授

「国軍からすると、そうした(改正案提出という)行為自体が、国軍にとって望ましいと考えるいまの憲法に基づく政治体制を変えようとする動きに見えたわけです。そのスー・チー氏が、選挙で勝つと、政権を続けるということに対して(軍が)危機感を覚えるというのは不思議ではないと思います」

スー・チー氏と軍 行政改革めぐる攻防

スー・チー政権が民主化の一環として進めた行政改革が軍の危機感を高めたと指摘する専門家もいます。

オーストラリアのカーティン大学、トェ・トェ・ティン准教授です。

3年前、徴税や土地の管理などを担当し、地方行政の重要部局といわれる「総務局」が、内務省から連邦政府省へと移管されました。憲法の規定で、内相は現役の軍人が務めますが、連邦政府相は文民から任命されます。

トェ・トェ・ティン准教授はこれは軍の既得権益を脅かすもので、軍はスー・チー政権がこれ以上続くことを容認できなくなったのではないかと指摘しています。

カーティン大学 トェ・トェ・ティン准教授

「軍の統治下では、軍は自分たちに都合のいい人たちを地方行政の重要役職に送り込んでいました。軍による独占的な統治に、より制限が加えられるにつれて、そして文民統治が、より効果的になるにつれて、それが軍にとって脅威になったにちがいありません」

影響は日系企業にも

こうした事態は、日系企業にも影響が及んでいます。

人口5000万を超えるミャンマーはアジア最後のフロンティアとよばれ、高い経済成長が期待されてきました。

この10年で進出した日系企業の数は、約8倍に増え、今では400社を超えています。軍によるクーデターはミャンマー経済や日系企業に影を落としています。

軍事政権が長く続いたミャンマーでは、軍と関係する企業が経済において今も影響力を持っているとされています。

こうした企業と提携する日系企業の中には戦略の見直しを迫られるケースもあります。クーデターを受けて、大手ビールメーカーの「キリンホールディングス」は、現地で合弁事業を行っている企業との提携を解消する方針を発表しました。

市民への弾圧を続ける軍に対し、アメリカのバイデン政権も制裁を強めています。3月下旬には軍と関わりが深く、現地で幅広い事業を手がける大手企業2社に対し、新たに資産凍結などの制裁を科しました。このうち、1社はキリンが提携解消を発表した企業です。

さらに、軍による市民への弾圧で現地の混乱が深まる中で、帰国する外国人も出ています。こうした状況を踏まえ、世界銀行は、ミャンマーのことしの成長率はマイナス10%と予想しています。

一方、国連は、軍の暴力を止めるための具体的な措置を打ち出せないままです。3月31日の安全保障理事会でも、欧米が武器の禁輸などを求めたのに対し、中国やロシアは反対。平和的な抗議デモに対する軍の暴力への非難にとどまっています。

今後の見通しは?

弾圧を強める軍に対し、抵抗を続ける市民。ミャンマー情勢はどうなるのか。専門家は、厳しい見通しを示しています。

京都大学東南アジア地域研究研究所 中西嘉宏准教授

「(軍は)外からの声というのは、聞こえないというか耳に入らない。むしろ言えば言うほど強硬になっている可能性もあるぐらいで、ちょっと悲観的にならざるをえないところがある」

中西准教授は、軍が弾圧の手をゆるめない理由について「弾圧を始めてしまった以上、軍には責任を問われる可能性が将来は出てくるので、市民との和解もますます難しくなる」とも指摘しています。見通しは厳しいですが、国際社会は引き続き注視していくことが必要です。

(おはよう日本 ディレクター 大久保宙美)

【2021年4月4日放送】