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新型コロナワクチン 巧妙に作られた誤情報 どう対応すればよいか ヒントも

NHK
2021年9月7日 午後9:50 公開

大手IT企業も注力  誤情報との攻防

「ワクチンを打つと遺伝情報が書き換えられる」 「ワクチンによって感染し、高齢者が相次いで亡くなった」 「ワクチンを打つと不妊になる」

 ネット上で繰り返し拡散している誤情報。厚生労働省が否定し、注意を呼びかけていますが、IT大手各社も対策を強化しています。グーグルが運営するユーチューブで「公認報告者」と呼ばれる人たちが活動を始めました。「公認報告者」は医師などの専門家で、医学的に根拠のない情報が含まれた動画をチェックします。

 グーグルはこれまでにコロナに関して医学的に誤解を招くユーチューブの動画など100万本以上を削除してきましたが、さらなる監視が必要として専門家が誤情報の対策に加わったのです。
(ユーチューブ公認報告者 山田悠史 医師)
「こういった誤情報というのは本当に人の命に関わるものだなという危機感を持っています。医療の誤情報に対する取り組みは、ユーチューブなどのオンラインコンテンツの利用が拡大するにつれて、近年ますます重要性が増してきていると思います」

 一方、ツイッターでも誤解を招く投稿に対し、「ラベル」と呼ばれる目印をつけ、繰り返された場合にはアカウントを凍結することにしています。

(ツイッタージャパン 公共政策本部 服部聡 部長)
「人々が健康について情報に基づく決断を下せなくなっています。そうした中で、多くの方が決断できるようなお手伝いができればいいと考えています」

見抜けない?公的文書を使った巧妙な誤情報

 IT大手が対策の強化に迫られるほど広まる誤情報。取材を進めると、公的機関の情報などを使い、巧妙に生み出されていることが分かってきました。ツイッターの投稿を調べたところ、数多く目にしたのが「ワクチンを接種すると不妊になる」という情報。誤情報の研究を行う国際大学の山口真一准教授の分析によると「ワクチンと不妊・流産」についての投稿は、この5か月で推計2万6000件も投稿されていることが分かりました。この情報は科学的根拠がないとして国や感染症の医師などが明確に否定しています。また日本産科婦人科学会などの3つの学会も、妊娠の時期にかかわらずワクチンの接種を勧めているほか、アメリカCDC=疾病対策センターも、妊娠中の女性にも接種を強く推奨する声明を出しています。
 こうした中、なぜ不妊に関する誤情報は広がり続けたのか?山口准教授は拡散された誤情報の中に一見すると根拠が示されているように見えるものが多くあるといいます。

(国際大学 山口真一准教授)
「(誤情報は)一部を切り取って切り貼りして誤解を招くようなミスリーディングな表現にしている、こういったことが結構多いのです」

 「ワクチンと不妊・流産」の誤情報を広げる人たちの間で、特に多く支持されているデータがあることがわかりました。ワクチンを製造するファイザー社の“機密文書”とされるものです。ツイッターの投稿には「ワクチンの成分が卵巣に大量に蓄積」、「不妊になる可能性がある」などと不安をあおるものが目立ち、その根拠とする実験データが示されています。

 実は根拠とされた実験データは、日本で医薬品の承認審査をする公的機関がホームページで公表していた資料に含まれているものでした。そして、この資料は不妊とは全く関係のない目的で書かれたものだったのです。なぜ不妊の根拠に使われたのか。資料を公表した公的機関が取材に応じました。

(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 ワクチン等審査部 荒木康弘 部長)
「これはファイザー社が日本で新型コロナウイルスワクチンの承認申請をした際に情報公開用に提出した資料です。掲載されている資料が(不妊の根拠に)使われていることは承知しています。コロナウイルスワクチンについては、卵巣への蓄積や不妊流産といった生殖への影響は考えにくいです。(誤情報が)世の中に流布していることはよく注意した方がいいと思います」

 誤情報に使われていた実験データは、ファイザー社が日本での承認に向けて提出したもののひとつでした。ラットを使った実験データをまとめたこの資料には、ワクチンの成分の一部が卵巣に分布するという表記はありますが、その量は全体のわずか0.095%以下に過ぎないことが記されています。さらに、これらは最終的に体外に排出されることも分かっていますが、ネット上では「卵巣に分布」のみが強調されて「不妊や流産」をあおる投稿が多く見られました。

海外から逆輸入された誤情報も

 さらにこの資料を詳しく調べると、日本語の部分を自動翻訳したと見られる「英語版」も存在し、海外でも「不妊や流産」の根拠として使われていたことが分かりました。この内容について調べた千葉大学医学部附属病院の岡田玲緒奈医師によると、「英語版」の資料もなぜか日本で多く出回っているといいます。

 調べてみると、ある医療従事者のブログなどには、英語翻訳されたと見られる資料が「ファイザーから流出した内部資料」として紹介されており、それに共感した多くの人が情報を拡散していることが分かってきました。

(千葉大学医学部附属病院 次世代医療構想センター 岡田玲緒奈 特任助教) 「日本のものを手に入れて自動翻訳したものを日本の人が逆輸入しているという構図になっています。海外発の誤情報を積極的に発信している医療従事者の方もいます。これに限らず英語の動画を流したり媒体を流したりしている方もいる。海外から発せられる情報を利用しているという形になっているのかなと思います」

「口コミ」などで身近な人に多く拡散

 国際大学の山口准教授などによる研究プロジェクトが行った調査では、新型コロナの誤情報がどのように広がったのかも見えてきました。最も多く拡散させていたのは「口コミ」、次に多かったのが「チャットなどのメッセージアプリ」でいずれも身近な人への伝達が多かったのです。

 誤情報を身近な人に広めてしまった50代の女性が取材に応じてくれました。きっかけは近所のかかりつけの医師からの情報。医師はマスクをつけることやワクチンを打つことに反対していたといいます。そしてSNSで「ワクチンで永久に妊娠できなくなる恐れ」などと発信していました。そして女性は複数の友人、さらに20代の自分の娘にもそのことをチャットで送り、不妊の誤った情報を伝えます。

(誤情報を広めてしまった女性) 「私は本当に主治医のことを信頼していたので、その医師が発信しているので正確な情報なのだろうなって思いました。この知らせを一刻も早く教えてあげないといけないと思いました。家族を守りたいという気持ちが大きかったです」

 その後、女性の気持ちは変化します。科学的根拠に基づいた情報を連日SNSなどで発信している医療者たちとつながり、多くの情報を集めたことがきっかけでした。8月、女性はワクチンを接種し、情報は誤りだったという訂正のメッセージを娘や友人に送ったと言います。

(誤情報を広めてしまった女性) 「いくら信頼する人が発信している情報でもうのみをするっていうのはよくないことだなと。必ず一度は疑ってかかってみる。立ち止まってみる。人に伝えるのはそれからだなということを感じました」

誤情報にどう対応すれば?3つのポイント

巧妙な形でやってくる誤情報。私たちはどのように対応すればいいのでしょうか。国際大学の山口准教授は3つのポイントをあげています。

(国際大学・山口真一准教授) 「1つ目は、家族や友人などといった身近な人からの情報であったとしても、それをうのみにしないということです。2つ目は、拡散しようとする前に一呼吸置く。特に怒りと不安を感じた時ほど、そのまま拡散してしまうのではなくて「これ本当かな?」と立ち止まる。その上で他の情報源に当たってみたり、一次資料を確認したりするなどして、自分でしっかり考えて判断するのが大切です。3つ目は、分からないことは人に伝えないことです。調べても分からなかったら拡散しない。これだけです。拡散しないで自分でストップさせておく。そうすれば少なくとも自分がその誤情報を拡散する立場にはならないわけですよね。そのことを一人一人が守ることが非常に重要だと言えます」

 あくまでワクチンの接種は任意です。正しく理解して打つかどうか判断することが大切です。判断材料に迷ったときは、科学的に根拠のある、公的機関などの情報を集めることが重要です。例えば厚生労働省のホームページや、およそ30人の医療者たちがワクチンの情報を検証している「こびナビ」のサイトなどで詳しく解説しています。
 また、NHKのホームページでもワクチンに関する誤情報などについて紹介していますので参考にして下さい。

NHK  コロナワクチンQ&A

(おはよう日本ディレクター 髙野浩司)

【2021年9月6日放送】