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ひとり親世帯に食料支援を 江東区が取り組む「子ども食堂」の新たな形

NHK
2021年8月11日 午後5:23 公開

「子ども食堂」がコロナ禍で苦しい状態が続いています。NPOの調査によると9割以上が従来通りの開催ができていないと言います。こうした中、東京都内で「デジタル通貨」を使い、ひとり親世帯の食を支援する新たな取り組みが始まっています。取材を進めると、食の支援にとどまらない、地域の“つながり”が生まれていました。

この記事のポイント
◆町の飲食店が子ども食堂に?デジタル通貨で新たな支援
◆“感染” “後遺症” “収入減”苦しむ「ひとり親」世帯の支えに
◆食の支援を通じて、地域のセーフティーネットへ

町の飲食店が子ども食堂に?デジタル通貨で新たな支援

シングルマザーのヒロミさん(仮名)です。小学校低学年のひとり息子と月に2~3回ほど、東京・江東区にある中華料理店を利用しています。息子のお気に入りは、チャーハンと餃子で、いつも同じメニューを選んでいるそうです。食事を終えて会計へと向かいますが、取り出したのは、スマートフォンです。

QRコードを読み取り、1ポイント=1円で使えるポイントで決済をします。この地域で始まった新しい取り組み、「Table for Kids」です。ひとり親世帯など、困窮する家庭の支援を目的にNPO法人が行っています。

カギとなるのは、黄色で示したNPO法人が発行する「ポイント」です。ひとり親世帯には、世帯の人数に応じて、NPO法人からスマートフォン上でポイントが付与されます。1人あたり2640ポイント、親子2人であれば5280ポイントを毎月、受け取ることができます。利用家庭は、加盟店の中から自分の好きな店で食事やティクアウトをして、その付与されたポイントで支払います。加盟店は、ポイントを売り上げとしてNPO法人に申請すると、その分の現金がNPO法人から振り込まれます。原資となっているのは、企業や個人からの寄付金などです。NPO法人が発行するポイントが、いわば「デジタル通貨」として機能しているのです。

この取り組みを始めたNPO法人「夢職人」の理事長・岩切準さんです。子どもの社会活動や教育の支援に携わる中で、長引くコロナ禍で、非正規で働く「ひとり親」世帯がこれまでになく苦しい状況にあると耳にしたことが、きっかけとなったと言います。

NPO法人「夢職人」の理事長・岩切準さん 「コロナの影響で、非正規の人のシフトが来週いきなり真っさらになってしまうとか、急激な変化があると聞きました。特にひとり親世帯は、その影響が大きく苦しい状況にあります」

“感染” “後遺症” “収入減”苦しむ「ひとり親」世帯の支えに

ヒロミさん(仮名)もコロナ禍で、苦しい状況に陥ったひとりです。現在、飲食店でアルバイトをしていますが、シフトが減り、去年11月、12月の手取りは月10万円ほどでした。さらに、東京都で2度目の緊急事態宣言が出されたことし1月、追い打ちをかけるように自身が新型コロナウィルスに感染してしまいました。

ヒロミさん(仮名) 「まず思ったのは、息子をどうしよう、預け先はどうしよう、と。シングルマザーはそういうところで頼れるところがあまりないんです」

息子は陰性でしたが、一緒に過ごすことができる病院が見つかるまでには、感染確認から4日かかりました。そして治療を受け退院した後、今度は後遺症の苦しみがヒロミさんを襲います。

ヒロミさん(仮名) 「ちょっと動いただけで頭痛、吐き気でトイレに行く。関節がとにかく痛いので夜中寝つきが悪く眠れない」

後遺症はしばらく続いたため、仕事ができず、手取りは5万円にまで下がってしまいました。そしてヒロミさんは「児童扶養手当」も受け取れていません。去年3月まで正社員として働いていたため、年間の所得では、手当支給の対象から外れてしまったのです。

外食はもちろん、食費も節約する中で助けとなったのが「Table for Kids」です。

ヒロミさん(仮名) 「支援いただいて、無料で食べられる。うれしいかぎりで、救われている」

さらに、金銭的な面だけではなく、店の人と言葉を交わす中でつながりが生まれ、心の支えにもなっていました。

ヒロミさん(仮名) 「お店の人に『頑張ってね』と言われて。コロナになって、息子のこともあった中で、その『頑張ってね』のひと言で、おなかもいっぱいになっていたんですけど、胸もいっぱいになったんです。それで私が泣いてしまって、そしたらお店の人が『大丈夫よ、あなた強いから』と、励ましの言葉をくれたんです。お米の量も多いんですけど、それと同じ、愛情もたっぷりなんです」

食の支援を通じて、地域のセーフティーネットへ

2020年12月にスタートした「Table for Kids」は、2021年6月時点で江東区内の24店舗が加盟。利用家庭は63世帯に上り、ひとり親世帯と地域の飲食店とのつながりが生まれています。

支援の輪をさらに広げる上で、課題となっているのが資金です。岩切さんは、さらなる協力を得ようと地元をまわっています。この日は加盟店のひとつ、チキンバーガー専門店を訪れました。

こちらのお店では、募金箱を設置しています。少しでも資金の足しになればと、一般のお客さんにも募金を呼びかけています。

加盟店の山口恵摩さん 「よく来てくれるお客さんだと、お財布の中にある小銭を全部入れてくれるお客さんもいて、本当にありがたい。子どもたちのご飯になるからわかりやすいから募金しやすいと言ってくれています」

新たに寄付を申し入れてきた会社もあります。江東区に支社を置く大手生命保険会社は、地域に貢献する活動に寄付を行っていて、子どもへの支援はもちろん、地域の活性化につながると賛同しました。

明治安田生命 地域貢献室 室長 大島信之さん 「地域を全体で盛り上げる意味で、コロナ禍においてどこの飲食店も厳しい環境に置かれている中で地元の飲食店をうまく巻きこんで行われる取り組みは、地域の活性化という面でも有益な取り組みであると考えています」

岩切さんは、感染が収束したあとも、この取り組みを通じて地域全体で支える仕組みを広げていきたいと考えています。

NPO法人「夢職人」の理事長・岩切準さん 「単独の団体でできることは限られています。地域の方々、ひとりひとりから借り物競走のようにお力添えをいただきながら、長くセーフティーネットとしての機能を果たせるように取り組んでいきたいと考えています」

寄付は店頭の募金箱のほか、インターネットでも受け付けています。また、7月からは隣接する墨田区の飲食店も一軒、加盟することになるなど、支援の輪は少しずつ広がってきています。岩切さんは、今後、東京以外の他の地域にも広げていきたいと話しています。

(おはよう日本 ディレクター 山野弘明)
【2021年6月27日放送】