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"ひぼう中傷"と闘う 木村花さん母の一年

NHK
2021年6月11日 午前10:00 公開

「毎日100件近く率直な意見。傷付いたのは否定できなかったから」

これは去年亡くなった、プロレスラーの木村花さんが死の直前に残していた言葉です。花さんは人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演中にSNS上でひぼう中傷を受け、わずか22才の若さで、自ら命を絶ちました。

私たちは花さんの母親、木村響子さんに事件の1か月半後から、取材をしてきました。どうすれば「ひぼう中傷」をなくすことができるのか、この1年間、闘い続けてきた日々を見つめました。

弱い立場の人に寄り添いたいと語っていた花さん

一人娘の花さんを、シングルマザーとして育ててきた響子さん。花さんが「弱い立場の人に寄り添いたい」と語っていた姿をよく覚えているといいます。生前、「どんなプロレスラーになりたいか」花さんが答えている映像が残っていました。

木村花さん(2019年10月 所属団体の記者会見より) 「(プロレスは)ハンディキャップがある人たちに勇気を与えることができる職業だと思っているので、自分たちの可能性とか、若い人たちの可能性をみせて、こういう選択肢もあるよって伝えていきたいと思っています」

しかし、フジテレビのリアリティ番組「テラスハウス」に出演したことで、連日のようにひぼう中傷にさらされました。こちらは花さんに対して投稿された実際の言葉です。

2020年5月、花さんは帰らぬ人となりました。

最愛の娘の死から立ち上がるために

事件の1か月半後(2020年7月)、母親の響子さんが私たちのインタビューに応えてくれました。カメラの前に現れた響子さんの髪型が、変化していることに気付きました。実は、響子さんもかつてはプロレスラー、通称は"反骨のアフロコング"でした。現役時代の髪型に戻すことで「気持ちを強く持ちたかった」と、その理由を話してくれました。

木村響子さん(2020年7月) 「最初はやっぱりほんとに憎しみにちかいような、すごく怒りというか悲しみというか、結構、マイナスの感情がすごく大きくて。ただただ今後、こんな気持ちを誰もしないように、花の名誉を回復できるようにという、それだけなので…」

このインタビューの1か月後(2020年8月)、響子さんの姿は自民党本部にありました。花さんの死をきっかけに立ち上がった、ひぼう中傷問題への対策を考える会合に参加するためです。花さんの死後、はじめて立った公の場で“ひぼう中傷があふれる社会を変えたい”と遺族の思いを訴えていました。

木村響子さん(2020年8月) 「私たちの苦しみを他人事と思わずに、もしご自身の家族や友達、お子さん、お孫さんが花とおなじような目にあったとしても、同じことが言えるのかということを思ってほしくて」

知られざる悩み 加害者の罪を問うかどうか

実はこの頃、社会への発信をはじめた一方で、響子さんはもうひとつ決断を迫られていました。花さんをひぼう中傷し、死に追いやった加害者に対して、刑事罰を問うかどうかです。

悩みに直面するたびに、響子さんは花さんに問いかけていました。

木村響子さん 「常に何か大事なことを考える時に花ならどう思うかなと思うし、一緒に考えるという感じですね。花の思いをいつも感じるんですよね」

優しかった娘なら加害者を追いつめることを望まないのではないか。しかし、ここで罪に問わなければ、再び同じことが起こるかもしれない。

半年、悩み抜いた結果、花さんにひぼう中傷を投稿した人を侮辱罪で訴えることにしました。

木村響子さん(2020年12月) 「本当に失ったものっていうのが 計り知れないっていうのを考えたときに、やっぱりしっかりとした形で罪を償って欲しいというふうに、はっきり思ったので決断をやっとすることができたって感じです」

刑事告訴されたのに… 変わらない景色

そして、2021年3月末。響子さんの元に、ある知らせが飛び込んできました。刑事告訴していた加害者が略式起訴されたのです。

裁判所は加害者に対して「侮辱罪」を認定。しかし、命じたのは9000円の科料でした。その時、このニュースを見た人たちがSNSに投稿した言葉です。

抑止につながると期待していた刑事罰を軽く見る人が少なくない現実に、響子さんは無力感を抱いたといいます。

木村響子さん 「私は本当に刑事告訴されればその景色がちょっと変わると思ったんですね。『交通違反より軽いなら言いたいことを言った方がいい』とか言っている人も本当によく見かけたので、残念でしたね」

母として何が出来るのか考え続ける

そうした中で前進したこともあります。2021年4月下旬には、「プロバイダ責任制限法」が改正。ひぼう中傷の投稿者を速やかに特定できるようになったのです。

ひぼう中傷と闘い続けた、この1年。響子さんが大切にしてきた時間があります。それは外出した際に花屋に寄ること。

木村響子さん 「お花を買うのが唯一、ささやかな楽しみだから私の。(花さんの)お花の好みもだいたいわかるので」

仏壇に供えるため、娘が好きだった花を選びながら、母親として何ができるのか、考え続けています。

木村響子さん 「他の人に行われているひぼう中傷も、もうひと事じゃないんですよね、私からしたら。花に見えちゃうから、なんとかしなきゃという思いになっちゃうんですね。誰かにひぼう中傷したら、その人のことを大切に思っている人も全員が悲しい思いをするから、そこまで想像して考えてほしい」

「時代に法律があっていない」

響子さんはいま、侮辱罪の厳罰化を求めて、インターネットで署名活動を行っています。「SNSを誰でも使う今の時代に、法律があっていないのではないか」という訴えに対し、これまでに6万人以上が署名するなど共感の輪が広がっています。これ以上、誰もひぼう中傷の被害者にも加害者にもさせない。SNSが欠かせないこの社会で生きる私たちにいま問いかけられています。

悩みを聞いてほしい方へ

厚生労働省のホームページ「まもろうよ、こころ」では、悩みを抱えている人に対して利用を呼びかけています。

自治体などの電話相談の連絡先や、複数のNPO法人がSNS上で行っている相談窓口のQRコードなどが掲載されています、ご活用ください。

厚生労働省のホームページ「まもろうよ こころ」 (※NHKサイトを離れます)

(おはよう日本 ディレクター 岡本直史)
(社会部 記者 藤島温実 若林勇希)
【2021年5月28日放送】