めざせ!5大陸走破 “ウルトラマラソンランナー“

NHK
2023年7月21日 午後6:45 公開

「世界の5大陸を走る!」そんな挑戦を始めた日本人アスリートがいます。

飯野航さん、43歳。フルマラソンを超える長距離種目「ウルトラマラソン」の選手です。30歳で始めたランニングにのめり込み、その翌年には250キロのレースに出場。気温40度を超える砂漠のレースや、標高2500メートルの山岳地帯のレースなど、数々の国際大会で優勝してきました。

飯野さんは6月8日にアメリカのアラスカ州をスタートし、来年の2月までに北アメリカの縦断を目指します。その後、南アメリカ、ユーラシア、オーストラリア、アフリカの順で5つの大陸を7年から8年かけて走りきる計画です。その距離は、およそ10万キロ、地球を2周半する計算です。

5大陸走破に挑む飯野さんの姿を追いました。

(おはよう日本 ディレクター 鏡桜之介)

5大陸走破の挑戦 スタート!

飯野さんが5大陸走破に向けてスタートを切った、その瞬間の映像です。

https://movie-a.nhk.or.jp/movie/?v=b41tp1rb&type=video&dir=oaf&sns=true&autoplay=false&mute=false

陸路で到達出来るアラスカ州の最北端、プルドーベイから挑戦が始まりました。日中でも気温は氷点下。見渡す限り雄大な自然が広がるアラスカの大地を進みます。目標とする走行距離は1日70キロから80キロです。走るときの服装は「お遍路」の姿。「この挑戦は修行なんだ」という思いが込められています。

飯野さんに伴走するのは、食料や撮影機材などを積んだ車とドライバー1人。アラスカ州内の道路沿いには宿泊施設や飲食店はなく、睡眠や食事はテントの中で行います。凍えるような寒さで野宿し、翌日10時間以上走り続ける、そんな日々を繰り返しています。

飯野航さん

誰もやったことのないことをやるのって面白い。レースって安全が確保されていて、みんな同じ道を通って同じところにゴールしますよね。もちろん完走したり早くゴールしたりするのはすごいですけれども、そこには達成感はあっても、ちょっともの足りなさを感じます。決められていないコースを走ると自由度が一気に広がって、時間や旅をする生活のマネジメント計画もそうだし、これだけ長い距離を走るといろんなことを考えなくちゃいけない。頭をフル回転していかなきゃいけない。そこの面白さがある

ランニング始めたきっかけは“ダイエット”

高校では柔道部に所属し、陸上競技の経験が一切なかった飯野さん。ランニングを始めたのは、30歳の時です。当時は大手自動車会社のエンジニアとして、ドイツに駐在していました。高カロリーの食事で太ってしまい、ダイエットとして始めたランニングにのめり込んだといいます。

飯野航さん

南ドイツの自然が多い地域に住んでいたんですね。丘の上に登ると遠くの方にまた別の丘が見えるんですよ。そこの上に教会があって行ってみるとまたちょっと奥に別の教会があって、行こうと思うけど、そこまではさすがに行けないって引き返したりしていました。何回か走っていると体が慣れてくるもんで、じゃあきょうは行けるなと

長い距離を走ることが、最初から苦にならなかったという飯野さん。走れる距離はどんどん伸び、自宅から20キロ離れた勤務先に走って通うことが日課になりました。

休日も40キロを欠かさず走り、1日40キロをひと月で30回、毎月およそ1200キロ走る生活を10年続けてきたといいます。そうすることで、長距離を走ってもスピードが落ちない持久力を身につけ、砂漠や山岳地帯を200キロ以上走るような過酷なレースで何度も優勝を手にしてきたのです。

5大陸走破を支える人たちの存在

過酷なレースに、どうして何度も挑もうとするのか? そして「5大陸走破プロジェクト」などという途方もない挑戦に、なぜ立ち向かおうとするのか?その理由の一つには、飯野さんを応援する多くの人たちの存在があります。

現在、飯野さんが所属している会社の社長で、自らもウルトラマラソンに出場するという此下竜矢さん。レースで出会った飯野さんの前向きな人柄にほれ込み、3年前、社員として契約することを決めました。これまで出場してきた海外レースの費用はすべて会社が負担。5大陸走破の間も資金的な支援をしています。

此下竜矢さん

レースで飯野さんの足の爪がぐちゃぐちゃになってものすごく痛いときに、『まだ走るんですか?』って聞かれても、笑顔で『走りに来たんで』って言って走って行くみたいな。私も同じような大会に出るけど、とてもできない。ずっと笑顔で、ずっと笑顔なんだけど、言ってることとかやってることとか、最後出てくる情熱、根性みたいなのがやっぱり壮絶なものがありますよね。彼を見ることによってうちの人間が燃えられるかとか、そういうのがすごく大切です。応援するだけしようって感じですかね。ほれた相手なので

5月、香川県で開かれたランニングイベント。「飯野さんに一目会いたい」というランナーたちが集まりました。アラスカ出発前の飯野さんと一緒に走ることができる絶好の機会。参加者たちは、5大陸走破プロジェクトの詳細や、長距離を走るコツなどを飯野さんから聞きながら10キロのコースを和気あいあいと走りました。

多くのランナーにとって、飯野さんはモチベーションを高めてくれる存在のようです。5大陸走破のために始めたというクラウドファンディングでは、およそ250人から450万円近くが集まりました。

ファン

こちらも応援したくなるし、逆に走るのを応援することで元気をもらえるようなそういうパワーのある方だと思います

世界を走って感動を届けたい

飯野さんは、挑戦の様子を多くの人に届けたいと現在地をGPSで記録し、ホームページで公開しています。

さらに、SNSで世界中の景色や生活の様子を毎日投稿。「バイソンやグリズリーの横を通り過ぎた」「ローラースケートでアラスカを縦断する人と併走した」「すれ違った現地の人の自宅に招待され料理を振る舞ってもらった」など、挑戦を通じた経験や出会いを発信しています。

飯野さん

走って行くから見える景色があるんですよ。普段は車だとか電車だとかバスだとか、すっ飛ばしちゃうけど、走って行くからこそ行ける山とか、世界遺産に指定されてないけれどそれに匹敵する、それ以上の景色を発信していきたい。この世界を走ることでいろんな景色を見せることで、みんなが行ってみたいなとか、こういう景色があるんだとか感動を与えられたらうれしいです

スタートから1か月あまり。走行距離は7月11日に2000キロに到達しました。現在はアラスカ州を通過し、カナダ国内を走っています。1週間後、1か月後、1年後・・・。飯野さんはどこを走ってどんな景色を見ているのでしょうか。