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「デジタルヒューマン」 コロナで注目 授業や手話にも

NHK
2021年8月27日 午後3:00 公開

一見、モデルの冨永愛さんが2人いるように見えますが、実は右側が本物の写真、左側は本人の姿を3DCGで再現した「デジタルヒューマン」なんです。近年の技術の進化によって、かつてでは考えられなかったようなリアルな質感のデジタルヒューマンが新たに登場。しかも今、コロナ禍の様々な場面でニーズが生まれているんです。

たった1時間で 自分そっくりのデジタルヒューマンが…!?

取材で訪ねたのは、大手IT企業のスタジオです。中には100台以上のカメラが設置されていて、シャッターを1度押し写真撮影するだけでデジタルヒューマンが作れてしまうんだそうです。今回、特別に私(黒田アナウンサー)も撮影してもらいました。撮影後、たった1時間で、パソコンの中に私そっくりの“分身”が生まれました。

このように写真からデジタルヒューマンを作り出す技術は「フォトグラメトリー」と呼ばれています。一度データを作ってしまえば、思いのままに動かすことができ、本人ができないこんな動きも。

もちろん私、普段はこんなに激しく踊ったりはできないのですが。
この企業では、今月から、モデルや俳優などのデジタルヒューマンを作り出す事業を始めていて、本人の代わりに広告やイベントに出演することを想定しています。
企業の担当部門責任者である芦田直毅さんは「コロナ禍でタレントさんも撮影ができず、著名な方の活動の幅を広げていこうというご要望をいただくことが、ここ1年で急増している」と話していました。この企業では、今後数年で、およそ500人のデータを集めていくということです。

授業を行うデジタルヒューマン 学生の「孤独感」解消へ

教育現場でデジタルヒューマンを活用しようという試みも始まっています。
都内の立教大学ではコロナ禍で1年半、ほぼすべての授業がオンラインになり、学生たちからは「狭い部屋でずっとパソコンを毎日毎日眺めてというのは、すごくつらかった」と孤独感を訴える声が。

そこで今、大学の学科で準備を進めているのが、教員や学生のデジタルヒューマンを作って行う授業です。教員の動きをカメラで捉え、バーチャル空間にいるデジタルヒューマンと連動。学生はゴーグルを付けてバーチャル空間に入り、同じ場所にいるかのような感覚を持ってもらうのが狙いです。

デジタルヒューマンを使った授業の実証実験を担当している人工知能科学研究科の内山泰伸教授は「ふだんのオンラインの授業だと、情報はもちろん画面から伝わるのですが、そこで落とされてしまっている場の雰囲気など、受けている人たちと、ある種空気の共有ができることを期待している」と話していました。

東京五輪・パラで手話CG実況サービス

さらに、デジタルヒューマンの活用は「手話」の世界でも始まっています。
NHKでは、手話CGの研究を12年前から行っていて、今回、東京オリンピック・パラリンピックで初めて競技の実況に使うことにしました。こちらが完成したデジタルヒューマンです。

実は手話が伝わるためには、手だけでなく、顔の動きが重要です。そこでデジタルヒューマンの技術を使ってよりリアルな手話サービスを開発。これまで手話がつくことがほとんどなかったスポーツの実況に活用し、聴覚障害の有無をこえて競技中継を楽しんでもらえることを目指しました。

先日閉幕したオリンピックでは、インターネットでライブ配信されたバスケットボールの試合で実際に手話CG実況が行われました。試合映像の横に手話CGとテキストが表示されます。

ろう者の当事者に、実際に手話CG実況付きの試合を見てもらい感想を聞きました。

全日本ろうあ連盟 𠮷田航さん 「手話の表情や表現は大変軟らかく、見やすかったです」

全日本ろうあ連盟 内川大輔さん 「手話の時間が遅れ気味になるので、うまく調整してほしいです」

実は現在の手話CG実況のサービスは、あらかじめセットされた文章を手話で表現する仕組みです。IOCなどから送られてくる得点者や反則の内容などのデータを定型文に当てはめて発話していて、アナウンサーの実況をそのまま手話にできるわけではありません。サービスを見ていただいた当事者のお二人からは、期待感の一方で、実際のアナウンサーの実況のように、試合の盛り上がりに応じて手話にも抑揚をつけてほしいなどの要望が寄せられました。

東京パラリンピックでは、車いすバスケットボールと車いすラグビーで手話CGのサービスを行います。配信スケジュールなど詳しい情報はこちらのサイトをご覧ください。

https://sports.nhk.or.jp/tokyo2020/universal/paralympic/

リスクへの対応は

様々な分野で活用が進むデジタルヒューマン。ここまで来ていると驚く反面、例えば、人の画像を無断で使って偽のデジタルヒューマンを作ってなりすますなど、負のリスクも指摘されています。今回取材した会社では、ネット上の偽の動画を検出して悪用を防止する仕組みも強化していきたいとしていました。技術の進化と同時にしっかりとした仕組み作りを行い、良い方向に活用されるよう、期待したいです。

(おはよう日本 アナウンサー 黒田信哉)
(社会番組部 ディレクター 近藤伸郎)

【2021年8月20日放送】