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盛り土崩壊の危険性 熱海にとどまらない問題とは

NHK
2021年8月14日 午前10:00 公開

7月3日、静岡県熱海市で起きた大規模な土石流。被害を拡大させたとみられるのが、
土石流の起点にあった盛り土です。取材を進めると、この盛り土の問題が熱海だけに
とどまらないことがわかってきました。

被害拡大させた盛り土の“実態”

熱海市で起きた土石流では、26人が亡くなり、1人が行方不明になっています(9月8日午前11時現在)。県の調査によると、流出した土砂の大部分を占めていたのが、上流部にあった盛り土です。盛り土の高さは約50m。熱海市に届け出ていた15mを大幅に超える、不適切な状態が続いていました。

この盛り土について、施工を請け負った建設会社の元幹部が取材に応じました。元幹部は、崩落が起きた場所に持ち込んでいたのは、住宅地の造成などで出た、“建設残土”だったと証言します。

熱海の盛り土の施工を請け負った建設会社 元幹部 「造成工事、それの土とよそから搬入させた土、ごちゃごちゃですよね。いらない残土を捨てていた」

大量の残土が持ち込まれた理由の一つとして指摘されているのが、建設残土に対する規制の弱さです。静岡県内で建設残土の処分を請け負っている業者は、県の条例では、違反しても罰則は最大20万円の罰金で、懲役刑などもある近隣の県に比べ、 “規制が緩い”と証言します。

静岡県内で建設残土の処分を請け負っている業者 「(他では)条例違反の中で懲役刑となってくるわけだから、なかなか選ばないよね。静岡って、残土処分の場所的にしやすいところだと思います」

建設残土の不適切処分 全国的な問題に

崩落した盛り土に含まれていたとみられる建設残土は、近年、全国的な問題となっています。建設残土とは宅地の造成などの工事で発生する土のことで、国土交通省によると、毎年約2億9000万立方メートル=東京ドーム約230杯分が発生しています。そのうちの8割は臨海部の埋め立て工事などで使われるなど、再利用されていますが、残りの一部の中には、不適切に処分されているケースもあるとしています。しかし、建設残土そのものを規制する国の法律はなく、不適切な行為への対処は、自治体がそれぞれ条例を定めて行っているのが実情です。

追跡 不適切な建設残土 対策の最前線

建設残土の不適切な持ち込みを防ごうと、今年から新たな対策を始めたのが、茨城県です。去年、無許可だったり、申請した量を超えたりする不適切な残土の持ち込みが、県内で60件近くありました。

こうした事態に対応するため、4月に結成したのが、専門の対策チーム。メンバーは、元警察官など10人による機動調査員です。県内各地を昼夜を問わずパトロールし、残土の不適切な処分が行われていないか、監視を強化しています。
 
この日、土を積んで県内に入った、気になるダンプカーを見つけ、追跡を開始。
機動調査員 「荷物は積んでるわ、かなり。これ、かなり積んでるぞ…」

追跡開始から30分。ダンプカーが土を下ろす現場を見つけました。

機動調査員 「すみません、県のほうの廃棄物規制課の者なんですけど、許可は出してますか?」 現場責任者 「いや、出してないよ」 機動調査員 「出してない?条例があって、一切の土砂の埋め立てをするときには、許可を取らないといけないんですよ。許可もらったら初めて工事ができるんだけど。無許可でやっちゃうと条例にひっかかってくるんだわ」 現場責任者 「ああ、そうなんだ」
機動調査員は、役場に許可申請を出すよう指導。相手は従うと約束したため、今後を見守ることにしました。これまでに実施したパトロールや追跡、指導などは300回あまり。不適切な残土の処分は去年に比べ、大幅に減ってきているといいます。  
機動調査員 「抑止もありますよね、当然ね。(建設残土の)不法投棄がなければ一番いいこと」

条例による規制では限界も…

しかし、限界もあります。条例で直接取り締まることができるのは、残土を受け入れて埋め立てる業者のみ。排出する大元の建設業者や運搬業者は、たとえ関わりがあっても処罰できません。

さらに、県外の業者への対応は難しいのが実情です。
不法投棄対策室長 「うちの職員が追跡したと、ほかの県のほうに行って、土を積んできた。県外です」
茨城県内の不適切な処分の現場は南西部に多く、首都圏方面から持ち込まれていると見ています。しかし、県外の業者に情報提供を要請しても、応じる義務はなく、全容の把握は難しいといいます。
茨城県廃棄物規制課 不法投棄対策室 藤川忠興 室長 「おそらく他県にあるであろう発生元、こちらに対する規制というのは、なかなか難しいところがある。ぜひ県境を越えた管理の仕組みができるといいと思います」

建設残土の問題に詳しい専門家は、豪雨が多発し、不適切な残土が崩れることが懸念されるなか、一刻も早く、国による法規制が必要だと指摘します。

桜美林大学 藤倉まなみ教授 「台風の威力が増し、雨の勢いが激しくなる。そうしますと、非常に埋め方が悪いような残土が崩れる危険性というのは、もう増えるいっぽうと思います。やはり国として統一のルールを作るべき時期に来ていると私は思います」

建設残土については、自治体によって対策の内容はばらばらなのが実情で、そもそも残土の管理について取り決めた、いわゆる「残土条例」がない自治体もあります。「一般財団法人 地方自治研究機構」のまとめによると、「土砂埋立て等の規制に関する条例」、いわゆる“残土条例”のない都道府県は26あり、ここに不適切な残土の処理が集まってしまう実態があります。なお、静岡県では、届け出をするだけで、知事が許可する制度になっていないので、残土条例は「なし」となっています。こうした中で、過去にも、持ち込まれた残土が崩落して、中には住民が亡くなるという事態まで起きています。

国も、残土がどの工事現場から出て、どこに運ばれているのか、きちんと追跡する仕組みを導入することなどの検討を始めています。しかし、あくまで建設残土は埋め立てなどに使う「資源」という立場は崩しておらず、活用は促すものの、規制していく前提での議論は進んでいません。

熱海の土石流を受けて、8月10日に複数の省庁が集まり、盛り土による被害を防ぐための対策を話し合う会議が立ち上がりましたが、建設残土についての議論はまだこれからです。全国のいたるところで残土の不適切な持ち込みが行われ、崩落する被害も起きている中、自治体だけに任せるのではなく国が新たな対策をとることが求められています。

気になる盛り土や残土 近くにありませんか?

私たちは、引き続き盛り土や建設残土の取材を続けます。お住まいの地域などで、気になる現場がありましたら、下記から情報提供をお願いします。

情報提供はこちら

(静岡放送局 記者 三浦佑一 田村真菜実 高橋路 ディレクター 山根拓樹)
(社会部   記者 須田唯嗣)
(おはよう日本 ディレクター 矢内智大)

【2021年8月11日放送】

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