つながらない権利が欲しい! 休日の業務連絡を減らすためには…

NHK
2022年9月16日 午後4:06 公開

「土日でも仕事の電話は普通に来る」

「お客さんからの連絡は対応せざるをえない。スマホの電源を切るわけにいかないし・・・」

せっかくの休日なのに上司や取引先からの連絡が…そんな経験、ありませんか?いま注目を集めているのが「業務時間外には仕事の連絡に対応しなくてもよい」とする"つながらない権利”です。

フランスやイタリアではすでに法律で定められている権利、日本ではどう受け止められるでしょうか。

(おはよう日本ディレクター 磯貝健人、キャスター 伊藤海彦)

つながらない権利は必要?おはよう日本では…

8 月下旬に私が出社すると、番組のプロデューサーがなんだか機嫌が悪そうでした。

話を聞くと「せっかくの夏休みだったのに毎日のように業務の連絡が来て、ほんとに気が休まらなかった。"つながらない権利“が欲しい!」というのです。

ディレクターの私には休みの日にもチャットしてくるのに…と心の中で思いながら、いったい実情がどうなっているのか取材を始めることにしました。

まずは職場の身近な人から、首藤キャスターと三條キャスターです。

毎朝早くから出勤しているキャスター陣、首藤キャスターに聞くと「基本的には業務時間外の連絡には対応しない」とのこと。

三條キャスターは「後輩からの連絡には対応したいが、先輩には無理に対応をしなくてもよいかな…」と"強気"の対応です。

<伊東海彦キャスター(左)と磯貝ディレクター>

すると、「何の取材をしているの?」と近寄ってきたのが伊藤海彦キャスターです。

これまでニュースウオッチ9でリポーターをしていた時には、事件や災害などニュースがあればすぐに現場に駆けつけていました。

伊藤海彦キャスター

寝ている時でも休日でも、いつ連絡が入っても対応できるように肌身離さずスマホを持っていたし、すごく気にしていた。その仕事にすごくやりがいを感じていたし、それが当たり前と思っていた。でも今は電話やメールだけでなく、チャットとか色々なツールがあるからもっと常につながっている感覚はあるよね

休日の業務連絡 半数近くの人が「しかたなく」対応?

"つながらない権利“というテーマに興味を持ってくれた伊藤キャスターとともに次に向かったのは、働く人が行き交う新宿駅と新橋駅前です。

新入社員から管理職、社長まで 20 人がインタビューに答えてくれました。

まずは「休日や業務時間外に業務の連絡が来たことがあるか」と聞くと、全ての人が「ある」と回答しました。

ではみなさん、どのように対応しているかというと…。

30 代女性 IT関連企業に勤務

後輩から質問など連絡が来たときに、連絡してきた人の気持ちを考えると、つい対応したくなってしまいます。"つながらない権利"が権利として守られているとありがたいですが・・・

50 代男性 小売業管理職

若手の部下たちのためにも『つながらない権利』を守ることは大切だと思っています。でも正直に申し上げると、お客さんからの連絡を防ぐことは難しいです。携帯電話の電源を切るわけにはいきませんし・・・

目立ったのが、「休日や業務時間外の連絡」について、迷惑だと思ったり時には怒りを感じたりしていながらも、しかたなく対応をしているという意見でした。

こうした意見を裏付けるようなデータがあります。

NTT データ経営研究所による「働き方改革」についての調査によると、業務時間外にくる電話やメールに対して「対応したい」という人が 15.9%。

反対に「連絡に対応しない」「受信しない」という人があわせて 26.7%。

最も多かったのが「対応したくないが、対応するのはやむをえない」で、42.8%の人が“まあしかたない”と考えているようなのです。

"労働者にはつながらない権利がある” フランスの事例とは…

ただ、海外では「休日の連絡はしかたない」という意識が変わりつつあります。

つながらない権利について、フランスやイタリアではすでに法律で定められ、イギリスやメキシコでも議論が進んでいます。

フランスで「つながらない権利」の法律が施行されたのは 2017 年のことです。

労働者にはつながらない権利があることを確認する

経営側と労働者側が、実現のために協議することを義務づける」ということが明記されました。

一方、日本では法制化の議論は進んでいません。

専門家は、私たちの「まあしかたない」という意識が問題だと指摘します。

青山学院大学法学部 細川良教授

『業務時間外は労働から解放される』ということは本来当たり前です。しかしスマホなどの便利な情報ツールが発達したことで、その“当たり前”が忘れ去られつつあることが、そもそもの問題だと思います。本来あるべき状態になるよう“意識を変える”ことが大切です

「休日は個人の時間」動き出した日本企業も

こうしたなか、“つながらない権利”を実現しようと積極的に動き出した企業が見つかりました。

訪れたのは東京・港区に本社を構える大手日用品メーカーです。

オフィスに入ると、さっそく伊藤キャスターは「人が本当に少ないですね」とつぶやきました。水曜日の午後3 時ですが、広いオフィスのフロアに出社しているのは 30 人ほど。在宅勤務が進み、オフィスに出社するのは週に 1 度でよいことになっているそうです。

働き方の多様化を進めるなかで、この企業では4年前に「社内のコミュニケーションのルール」を定めました。

休日は個人の時間であり、次週に向け英気を養う時間とする

緊急時を除いて、休日や業務時間外の電話やメールを原則として禁止したのです。

しばらくオフィスのあちこちに張り紙をして社内に周知したそうです。

ユニ・チャーム 渡辺成幸人事部長

以前は、メールが時間外に来てもすぐに対応する社員が多い会社でした。人事部がルールを徹底することで徐々に社員の間にも広がっていきました。必要のないものは送らないようになった社員が増えました

さらに社外の取引先などに対しても、連絡はできるだけ業務時間中にしてもらうよう理解を求めました。

社外から業務時間外にメールが届いた場合には、自動で返信される機能を活用。

「本日不在にしております。返信は9月1日にさせていただきます」といったメールが返信されるのです。

“つながらない権利"は生産性の向上にもつながる

連絡を業務時間の中で済ませるためにも、より効率よく働く必要があると考えたこの企業。業務時間中も「社員間の長電話や、不必要な電話は禁止」というルールを定めました。

オフィスのレイアウトも刷新して集中できる環境を整えるなどした結果、業務時間外に社員間で送られるメールは7割ほど減ったと言います。

社員たちはプライベートを充実させたり、自己研さんしたりする時間が増えたそうです。

伊藤海彦キャスター

つながらない権利を大切にすることで、社員にこういうふうになってもらいたい、というビジョンはありますか?

ユニ・チャーム 渡辺成幸人事部長

相手がいまどんな状況なのか。相手の大切な時間を奪わないように、相手の立場に立って考える、しっかりと判断をする社員が増えることで自立につながっていきます。お互いに気持ちよく働けることは、結果として生産性の向上にもつながると思います

2016 年にディレクターになった私にとって、勤務時間外にスマートフォンに連絡がくることは当たり前になっていて、”つながらない権利”という考え方があること自体が新鮮でした。

一緒に取材をした伊藤キャスターは、6 年前に働き方改革についての取材をしていました。「当時の主なテーマは『労働時間をいかに削減するか』ということだったが、今は労働時間の削減に加えて『休日の質をどう高めるか』を考える段階に入っているんだというのが印象深かった。人によって考え方はさまざまだけれど、相手の立場に立って物事を考えたり思いやったりするという、“当たり前のことを当たり前にすること”が大切なんだと強く感じた」と話していました。

日本でも少しずつ広がりを見せる”つながらない権利”。

私も休日にプロデューサーから電話がかかってきても、「まあしかたない」と思わず、堂々と権利を主張しようと思います。

【2022年9月5日放送】