まさに圧巻の映像体験でした。
全盲のシンガーソングライターが高らかに歌い
ダウン症の書家が墨痕鮮やかに書道パフォーマンス
小島よしおさんが「そんなの関係ねえ!」
ダンプ松本さんが竹刀を持って乱入
義足のダンサーの妖艶なダンス
障害がある人ない人、性別、国籍を超えた大勢の乱舞…
もうちょっと要領よくまとめろと怒られるかもしれませんが、そういう作品なんです。
百聞は一見に如かず、「まぜこぜアイランドツアー」で検索して、
ぜひ実際にご覧ください。
東京パラリンピックの開幕に向けて作られた、およそ150人が出演するエンターテインメント作品です。
申し遅れましたが、私は取材したディレクターのニラサワです。
ふだんはスポーツの取材をしています。障害のある人や従来の性別区分に収まらないLGBTQの人が、逆境に負けず頑張っている姿をドキュメンタリーなどで見てはいましたが、正直、今自分の暮らしている世界とは違う世界のように、どこかで感じていました。
そんな私が、NHKパラリンピック放送リポーターで、
自身も聴覚に障害を持ち人工内耳を使用している後藤佑季さんとともに、この作品の舞台裏を取材しました。
【後藤佑季リポーターが取材】“音声を文字化する” テクノロジーが可能にした新しいコミュニケーション
考えさせられたのは、
多様性社会がいい、って言うけどそれを誰がどうやって実現するの?
あなたは関係ないの?
ということでした。
エンターテインメントが社会を変える!
この作品の企画立案から脚本・演出まで手がけたのが東ちづるさんです。
ドラマやバラエティーに幅広く活躍、
料理番組に出演していた印象が強いかもしれません。
なぜ、このテーマで映像作品を?と疑問に思われる人も多いと思います。
実は東さんは30年近くにわたり、
“誰もが生きやすい社会”を目指してボランティア活動などに取り組んできました。
白血病の少年に出会ったことをきっかけに、
まず取り組んだのが骨髄バンクの普及活動でした。
その後、戦争などで親を失った子どもや障害のある人に関わるようになり、
東さんのまわりに多様性のある人々がどんどん集まってきました。
活動の軸をエンターテインメントに移したのは10年前のことです。
これまでに知り合った人たちとイベントや舞台を企画するようになりました。
その集大成が今回の作品なのです。
後藤リポーター: 障害のあるパフォーマーたちを魅力的に見せたいというのが狙いですか?
東さん: それがもう私の中ではいちばんですね。 彼らが魅力的に映れば、かならず次の仕事につながると思っています。 この映像がきっかけになって日本の芸能界でもいろいろな特性の人が 出演できるようになったら、視聴者の意識もたぶん変わると思うんですよ。 企業も、学校も、社会全体が変化するきっかけになるといいなと思っています
“遠慮”がコミュニケーションを邪魔する?
東さんが信頼する仲間たちと作った今回の作品ですが、
それでも「心の壁」の存在を感じさせるできことがありました。
義足のダンサー、森田かずよさんのダンスシーンを撮影中の出来事です。
東さん: 義足を取った後の足をきれいだからしっかり撮って下さいって言うと、 『えっ?撮っていいんですか?』って。 障害者に対する意識は、すごいスビードで変わっていると それまで私は思っていました。 だから、現実は変わっていないな、これが社会、世間だなって思いました
障害のある人に対して私たちが持つ「遠慮」こそが
円滑なコミュニケーションを邪魔しているのではないか、
東さんはそう感じています。
ざっくばらんに話してみると…
取材している私自身も、実はドキッとすることがありました。
この作品には「こびとーず」「小人プロレス」など、
「こびと」という言葉が頻繁に登場します。
放送などでは「低身長」などと言い換えられることもあり、
私はとまどっていました。
そんな疑問を口にすると、東さんは撮影現場でマメ山田さんに、
単刀直入に聞いてくれました。
マメ山田さんは、自らを「日本で一番小さい手品師」称して、
映画や舞台でも活躍、長い芸歴をお持ちです。
東さん: マメさま、小人とか“こびとーず”とか言ってもいいんですよね?
マメ山田さん: いいです。そういう言い方って僕らべつに気にしないんで。 言い方ですよ。おいこびと!って言われたら「なにこの野郎」って思うけど、 小人さんっていえば「なあに?」って(笑)
逆に、マメ山田さんは「低身長」と言われることに違和感があるそうです。
もちろん「小人」と言われることに抵抗がある人もいるかもしれません。
ひとりひとりが違って当然なのかもしれません。
ためらいもなく本人に確認する東さんの姿を見て「すごい」と思いました。
独りよがりな「遠慮」に私は囚われていたかのかもしれません。
そんなことを考えていると、突然、マメ山田さんから私に質問が!
マメ山田さん: 身長、何センチあるの?
ニラサワ:188センチくらいです
マメ山田さん:遠慮というものがないね
横で聞いていた東さんは大笑い。
東さん:(笑い)成長のしかたに遠慮がない?
恐縮するしかありませんでした…
配慮と遠慮は違う!エンタメで自分ごとに
NHKの取材に対して、
東さんは「配慮は必要だけど遠慮はしないで」とずっと言ってくれていました。
東さん自身も、撮影現場で遠慮はしませんでした。
障害のある出演者に対しても、よりよい映像のために必要なときは撮りなおしを
お願いしていました。
多くの人の「心のありかた」を変えるために、
作品を面白くすることが大切だと確信していたからです。
後藤リポーター: エンターテインメントにこだわる理由は?
東さん:簡単ですよ。 ひと事だと思っている人たちを巻き込めるから。 ワクワクドキドキすることで一緒に考えていく、 アクションしていくことにつながるのでエンターテインメントはすばらしいツールです。私たちも楽しいし、見ている人たちも楽しい
“多様性社会” 作るのは誰?
作品のクライマックスでは障害のある人、ない人、
国籍、性別、いろいろな人が入り乱れて乱舞します。
それぞれが、それぞれらしく自由に振舞いながらみんなが楽しい社会。
東さんが思い描く理想の世の中です。どうすれば実現するのか質問すると、
逆に厳しい質問が返ってきました。
東さん: 多様性社会って、誰かが作ってくれるものだと思っていませんか?私、あなた、あなた、あなた、あなた、みんなのことなんです。 作品でそのメッセージが伝われば最高ですね
さらに東さんはそうした社会を作ることが、
自分自身にとっても大切なことだと語りました。
東さん: そういう社会になると私たちも年をとるのが怖くないですよね。 だって自分だって年をとれば衰えるし、どうなるかわからない。 その時になって「私がお荷物になっている、ごめんね」っていう風に、 なるべく言いたくないと思っているので
世界の人口のおよそ15%が障害者のはずなのに…
取材中、東さんがずっと口にしていたのは、
「遠慮するあまり、存在自体から目を背けるのが一番よくない」ということです。
配慮しているつもりで、実は人と人の対等な関係から逃げていないか、
そう問いかけられているような気がしました。
国際パラリンピック委員会によると、世界の人口のおよそ15%が
障害のある人だと言います。
しかし、そんなにいらっしゃるとこれまで思ったことはありませんでした。
2か月にわたって東さんを取材した今、街中で、電車の中で、NHK局内で、
障害のある人がいらっしゃることに気がつくようになったような気がします。
単に見ていなかっただけなのではないか、完成した作品を試写して感じました。
多様性社会って、誰かが作ってくれるものだと思っていませんか?
東さんの問いかけを忘れず、まず私自身が「心の壁」を乗り越えていこうと思います。
(スポーツ情報番組部 ディレクター 韮澤英嗣)
【2021年8月23日放送】