【ロングインタビュー】MIYAVIさん ウクライナ避難民を訪ねモルドバへ

NHK
2022年7月29日 午後9:04 公開

「サムライギタリスト」とも呼ばれるミュージシャン・MIYAVIさんは、音楽活動のかたわら5年前からUNHCR=国連難民高等弁務官事務所の親善大使として難民支援を続けています。そんなMIYAVIさんが今年6月に訪れたのが、ウクライナの隣国のモルドバでした。ロシアの侵攻を受けて以来ウクライナから避難した人は1000万人近くにのぼるといわれ、そのうち8万6千人以上がモルドバにやってきています。

"他の難民キャンプと比べても不安定だった"と語るMIYAVIさん。難民支援のために私たち1人ひとりができること、そして平和のために日本ができる役割は何なのか。井上二郎キャスターのインタビューに熱く語りました。

9割が女性と子ども ウクライナ避難民が抱える不安

―ウクライナ隣国のモルドバに行かれたということですけれども、なぜモルドバに行き、どんなことを見てきたのでしょうか。

MIYAVIさん

ウクライナ危機が今起こっている中で、ウクライナの人たちが自分たちの国を離れてどういうふうに暮らしているかというのは目で見て感じたかったし、日本を含めて世界に届けるというミッションをもとに行ってきました。UNHCRの親善大使として難民キャンプを訪問するときに、あんまり緊急フェーズでいくことはなくて。緊急フェーズでは一番大事な食糧、医療、水とかファンダメンタルなものが多いんですけれど。僕たちが行って音楽したところでっていうところもあるので、今回行ってやっぱり戸惑いというかまだ混沌としている状況をすごく感じましたね。

今回ほかの難民キャンプと違うのが、だいたい半分ぐらいが女性と子どもなんですね。ウクライナ危機における難民の方々の男女の比率、9割が女性と子ども、50%が子どもという。ウクライナから男性が出国できない、18歳から60歳の男性は国に残って国を守らないといけないという状況の中で。避難してきている方々は本当にお母さんと子ども、もしくはお年寄り。なのでお母さんの不安というか、一家を支える柱がいない状況で子供たちを育てて生活もしていかないといけないという不安をすごく感じましたね。子どもたちはすごく明るく勉強してふざけあったり、僕も一緒に追いかけっこしたりとか現地でしてきたんですけれど、やっぱり子どもたちの中にお父さんがいないという不安と、あとは戦争ということへの意識の強さっていうのはすごく感じましたね。

<モルドバを訪ねるMIYAVIさん>

―子どもたちにとって、戦争はもう嫌なんだというのはどんなところに見てとれましたでしょうか。

MIYAVIさん

どうだろな、僕は子どもたちとはあんまりそういうシリアスな会話よりは一緒に音楽をやって、本当にばかなというか意味のないことをうたって楽しませているんです。

モルドバの外務副大臣にお会いしたときに言われたのはやっぱり、つらい道のりを通ってきているから、音楽を使って彼らの明るい面、楽しい部分を引き出してほしいと。僕もそれが自分の役割だと思っているので、子どもたちはそういう話はあんまりしなかったです。

ただやっぱり教室を見ると節々にそういう戦争の絵が書いてあったり、STOP THE WARというメッセージがあったりというものを見たので、本当にいたるところでそういう子どもたちの傷というか痛みみたいなものを感じました。

日常に音楽もそんなにないですし、ましてや親もこれからどうなるかわからない不安の中にお父さんもいない中で、本当に心から笑える時間ってどれぐらいあるんだろうと。だから僕たちが行ってやれることは決して根本的な解決では全くないんですけど、ちょっとでも彼ら彼女たちの心が軽くなって外に世界があるんだってことを感じてもらえるのが、多分僕たちの存在意義なんじゃないかなと思いました。今回一緒にギター弾いてサッカーやって追いかけっこしても。 言葉もお互い通じないわけじゃないですか。それでも彼らにとって何かちょっとでも頑張ろうって思えるようなきっかけになればいいかなと思っています。

―実際に避難してきた人たちと話してみて、どんな言葉ややり取りが印象に残っていますか。

MIYAVIさん

片足をなくしたおじいさんがいました。今回のウクライナ危機じゃなくて、もともとソビエト時代違う戦争でソ連の人間としていって脚を失って。今回避難をしてきたっていう。彼にとってみたら何だろうな、 違う立場から戦争というものを見ていて。「戦争っていうものが自分たちにとって何も残さないことを、どちら側にいても同じことを強く思う」という言葉がすごく印象的でしたね。

―戦争は何ももたらさない。

そうです。どちら側にとっても。

モルドバの支援に感じた 隣国を支える"大きな心"

MIYAVIさん

実際暮らしている状況というのは、“難民キャンプ”というのがあまりなくて、例えば廃校だったり、もともとホテルだった施設だったり、コロナでワクチンを接種するために使っていたエキスポの会場とかを難民の方々を保護するために今使っていて、それは政府が強くサポートしているからできている現状なんです。それがすごくほかの国の難民キャンプの状況と比べてすごく印象的というか。モルドバという国は決して豊かな国ではなくてヨーロッパの中でも本当に小さな国で、だけどモルドバの人たちは”SMALL COUNTRY WITH A BIG HEART” 、小さな国だけど大きな心。これをすごく誇りに思っている。現地の有志の方々とかNPOの団体とか、UNHCRと連携して手の届かないところにリーチしてサポートしている、これは本当に国の心の豊かさというか、隣人を強くサポートしている姿というのがすごく印象的でしたし心強く感じました。

1つは文化が近いということ。僕なんか音楽やっているので文化の壁を越えて言葉の壁も越えて音楽でメッセージを届けようとしているんですけれど、やっぱり文化が近いっていうのがすごく大きくて。 モルドバの人たちにとってウクライナの人たちはすごく近い存在で、実際モルドバからウクライナ南部のオデーサという街とか、2月24日の爆撃も視認できたっていうぐらい近いところにいる人たちです。言葉も似ている近い言語しゃべる。同じ民族ということでほかの国の人というより本当に隣人というか兄弟みたいな感覚で受け入れて、そしてサポートしているのをすごく強く感じましたね。

―MIYAVIさんのモルドバからの活動報告の動画を見ていて、いつも以上に緊張しているように見えたのですが…

MIYAVIさん

もちろんどこの国でも難民問題はいつでも緊急というか。 いついかなる時も支援があって成り立っている難民の方々の生活なので、僕たちも気を抜けないんですけど、例えばタイの難民キャンプとか、バングラデシュの難民キャンプに比べて、継続していくフォーマットができていない状況で、難民の方々だけではなく支援をしているUNHCRも政府も含めてこれからどうしていこう、この先ウクライナでの状況がどうなるかっていう不安はモルドバにもすごく伝染している、そこもすごく強く感じたもので自分の中で大きかったのかなと思います。

実際刻一刻と状況が変わっていく、モルドバに大体10万人前後の方々が来て、とどまるのではなく次にドイツとか違う国を目指している人たちもいるし、ウクライナに戻ることを前提としている人たちはステイしますし。ウクライナに戻ろうと試みてきた人もいる。その状況の中で生活基盤がまだ全然整っていない状況、避難している側も支えている側もすごく不安定な状況っていうのは僕自身もすごく感じたからじゃないですかね。

モルドバにおいての支援の状況は決して恵まれているものではない、町自体が全部整備されていない中で難民の人たちを受け入れている。そこは衝撃的でしたし。やられてる現地の職員の人たちの連携の強さ、支援する思いの強さをすごく感じましたね。

見つめ直した平和の価値 日本に求められる発信とは

―ある日突然大きな国が攻めてきて避難民にさせられるという現状をMIYAVIさんはどういうふうに思われますか?

MIYAVIさん

いやもうあり得ないことだし、あってはならないことだと思います。でもそれが起こっているというのが現実で。非日常というか非現実の世界、テレビの向こうの世界ですけれど当たり前に世界で起こってしまっている。

僕は日本において難民問題が遠く感じる、自分ごとに感じられないというのは仕方のないことだと思っているんですね。 だってこんなに安全で豊かな国にいたら感じるわけがない。感じないことがいけないことかというと、僕はある意味世界においてそれがゴールの1つだと思っているんです。こうあるべきだと、世界でこれがスタンダードであれば、僕は何の問題もないと思うんです。

―感じないで済む国。

MIYAVIさん

そう、感じないで済む世界であれば僕は全く問題ないと思うんですけれど、決して世界はそうではない。世界でいろんなところで駆け引きがあって争いもあって全然日本のように安心じゃない。24時間何かしら食糧が手に入って自動販売機があるという状況でないこと。これは僕たちが世界に生きる人類として知るべき、把握しておくべきだし、自分たちもその世界の中に生きている。日本という国が平和で安全な状況を享受しているということは絶対忘れちゃいけないし、それを知ることによって初めてこの世界で起こっていることをもっと近く感じるんじゃないかなって。

難民支援のために 私たち1人ひとりができることは

―MIYAVIさんであれば難民の人たちと交流して、ギターであったりサッカーであったりたくさんのものを与えられると思います。でも私たちは何ができるのか、この日本にいながら何ができるのでしょうか。

MIYAVIさん

なんでもいいと思います。 僕も無力感を感じる瞬間のほうが多いですし。

この難民支援に関してはアンジェリーナ・ジョリー特使にいろいろ勉強させてもらって僕も始めさせてもらったんですけど、実際は彼女のように影響力を持ってやれているかそうでもないし、国連に行ってスピーチができるのかといえばそうじゃない、僕だって。難民キャンプに行って子どもたちにあめさえあげられない。あげると不公平になってしまうから。

自分がやっている行為が、戦争っていうものを解決することに、全くなっていない。音楽もスポーツも人の心を癒やすことができても、戦争を止めることはできていないんです。 無力感はすごく毎回感じています。どれだけ自分の活動が戦争を止めるぐらいのパワーがあればいいだろうって毎回思う。だけど自分にできることはあるかもしれないし、少なくとも自分がメッセージを発信すること、自分がやっていることがかっこいいって若い子たちが思ってまねしてくれれば、それも未来につながる1歩だと思っている。

パン屋さんだってニュースキャスターだって政治家も音楽家もそれぞれがやれることはめっちゃあるし、その中で影響力を高めればもっともっとやれることはできる。ニュースを見るだけかもしれないし自分から何かしら発信することかもしれないし募金かもしれない。何かそういった情報を発信している人をサポートすることかもしれない。だったらそれを磨いてほしいしそれを磨く以外にない。でもそれはやっぱり知らないとできないし、アンテナを立て続けないとできない。

だけど、 それでもやり続けること。 無力だと思ってもやり続けること。

その先に大きなアクションはあると思います。自分の部屋で言っているだけじゃたくさんの人に届かないかもしれないけど、こうやってインタビューしてくれる皆さんがいるからたくさんの人に届けることができる。このインタビューが届いた人たちが、もしかしたら僕たちにリーチできない人たちに届けることができて、その先にいる人たちがもしかしたら戦争を止めることができるかもしれないっていう連鎖を信じてやり続けること。決してぼくたちは無力じゃないし、無力じゃないと僕も自分に言い聞かせてやっている。そういうことの積み重ねなのかなと思います。

―でも・・・。「忘れない」とか、マスコミの僕らも伝えるんです。でもすごく"きれいごと"っぽいですよね。「とはいえできないじゃん…」という感じなんですよ。

いやでもだからそれ、しゃあないんですよ。1回しゃあないっていうの受け入れないと。

僕は「平和ぼけ」というのはあんまり言葉として好きじゃないというか、「平和でいいじゃん」って思うけれど、平和に慣れ過ぎずむしろもっと感謝したうえで平和ってものをどうやって世界と共有できるのか、世界の人たちにシェアできるかということを日本はもっと発信できる。核の問題にしても何か日本人だからこそ言えることはたくさんあると思います。僕たちは平和で安全な国を築いてきたことに感謝すべきで、それに誇りを持つべきだしそれを世界に対してもっと発信すべきだしすばらしさをもっと世界と共有すべき。僕たちだからこそ感じていることを発信できるかどうかが、すごく大きなことなんじゃないかなと思いますね。

―僕らはウクライナの様子を毎日見て、国を追われる人がいるんだっていうことを肌で感じたわけです。これからも知り続けることが大事かもしれません。

MIYAVIさん

自分ごとかどうかに尽きると思います。今回ウクライナ危機が起こったことによって戦争が起きるかもしれないと、自分たちにとって近かった国が大きく関与していることが非常に大きいファクターで、自分ごととして捉えていると思うんですね。僕たちがどういう意識を持ってアクションを起こしていけるのか、日ごろの活動に反映させていけるのかっていうのは非常に岐路にあると思っています。

自分たちの行動ひとつひとつ、選挙における1票と同じだと思うんですけど、僕たちの一挙手一投足が大きな流れにつながっていく。自分たちの小さな思い、戦争を起こしちゃいけないとか、難民と呼ばれる人たちをサポートする小さな思いが積もり積もって大きなうねりになっていくと思う。すごく今大切な状況にあると思っています。それこそ本当に子供たちにどういった未来を僕たちが残せるのか。きょう全部変えるってわけにいかないんだけど、危機感、責任感を持つということ。歴史の中で学んだこと。先人たちが感じたこと。それはやっぱり僕たちは経験しない世代だからこそもっとまっすぐ大きく受け止めるべきだし、次の世代につないでいかないといけないんじゃないかなと思います。

―今1500人を超えるウクライナの人が日本に逃げてきているんですけれども、その人たちが“ああやっぱ平和っていいな”って思ってくれるといいですよね。

MIYAVIさん

思っていると思いますよ絶対。やっぱり日本の良さを感じてほしいし、それぞれの人に出会いとか選択はあると思うんで、僕たちは精いっぱいに温かく迎えてあげるってことかなと思います。僕たちが世界に対してこんなに俺たち平和だぜ、こんなに安全にやってるぜって、もちろんいろんなやり方ありますけど僕はもっともっと誇っていいと思いますし。 それを世界に対し発信していくある種の責任はあると思うんです。

僕もシリア危機とかバングラデシュ、ミャンマーからのロヒンギャ難民のときもそうですしベネズエラからコロンビアにたくさんの人が避難してたんですけれど、これまでメディアで報道されることがなかなかなくて日本では全く知られていなかったりする。今回のウクライナ危機に関しては、これだけ日本の中でもクローズアップされていて、支援したいという人たちや日本に受け入れたいという人もたくさんいるってすごいことだと思いますし、支援の輪っていうのを絶対絶やしちゃしちゃいけない。

このウクライナ危機でたくさんきっかけとなる灯ができたと思いますね。 それを絶やさずにどうつなげていくかは僕たち一人一人が連携して輪になっていくことがやっぱり大切なんじゃないかなと思います。

インタビューを終えて

日本で難民の話が遠い世界の話に聞こえるのは、それだけ平和な社会を作り上げたからなのだ。でもそれは、世界の視点に立つと、珍しいケースなのだ…。世界を舞台に活動するMIYAVIさんだからこその指摘に、ハッとさせられました。

戦後、他国と比べて平和を維持してきた日本を誇りに思うこと。それだけに、平和の尊さや価値をより積極的に発信する責務があるということ。そのために、世界の危機についてより深く知ろうとすること。

「世界の中で生きている」ことをより意識していかねばならないと、強く感じさせられた取材でした(井上 二郎)。

【2022年7月30日放送】