民主化に向かっていたさなかのミャンマーで、軍によるクーデターが起きてから2年が経ちました。今、軍は自国への空爆を激しく行い、市民に大きな被害が出ています。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、クーデター後の国内避難民は120万人以上に及んでいます。
NHKはクーデター後、国際調査グループ「ミャンマー・ウィットネス」と、ミャンマー軍による市民への弾圧に関する調査を行ってきました。今回の調査では、ロシアなどから次々と軍用機が調達され、市民の被害が拡大していることが明らかになりました。
(おはよう日本 髙田里佳子/国際放送局 樋爪かおり)
各地で強まる空爆 子どもまで犠牲に
去年9月、ミャンマー北西部ザガイン管区で小学校が攻撃され、少なくとも子どもを含む12人が死亡しました。生き延びた教師や子どもたちは体と心の傷を負いました。
「泣いている女の子たちを守っていた時に爆撃が始まりました。その時に太ももを負傷しました」と助かった教師の一人は話します。9歳の女の子は首と手にけがを負い、指を完全に曲げることができなくなってしまったといいます。
手にけがを負った女の子(2022年11月2日ザガイン管区オンラインインタビュー)
去年10月には、北部カチン州でコンサートが開かれていた会場が空爆されました。62人が死亡したとされています。この空爆について軍は、自分たちに攻撃してくる武装勢力に向けて必要な作戦を行っただけだと主張しています。
空爆を受けた北部カチン州の衛星画像(Planet/Myanmar Witness)
しかし、クーデター後、カチン州で取材をしてきた男性は、空爆された場所について「商売をするバザールやマーケットのような、普通の市民が生活を送っているところです」と話します。
カチン州を取材してきた映画監督トーン・ナイ・ソーさん(2022年10月30日オンラインインタビュー)
空爆激化の背景…軍に抵抗する勢力の拡大
軍が空爆を強める大きな理由の1つに、軍に抵抗する勢力の拡大があります。
ミャンマーでは長年、国境地帯にいる少数民族武装勢力が自治権をめぐって軍と戦ってきました。
2年前クーデターを起こした軍に対して、市民たちは軍に抗議するデモを行ってきましたが、その後、多くの人々が軍の弾圧を逃れるために、国境地帯に身を寄せるようになっています。中には、そこで訓練を受けて、少数民族武装勢力とともに武器を取って軍と戦う人たちもいます。軍はこうした勢力を抑え込もうと空爆を強めているのです。
少数民族武装勢力のもとで訓練を受ける人たち(カレン州の少数民族武装勢力の提供)
空爆の映像から使用されている武器を分析
NHKはクーデター後、国際調査グループ「ミャンマー・ウィットネス」と協力して、市民たちが命がけで撮影した動画や写真などを集め、市民の被害や軍の活動について調べてきました。
クーデター直後から、人々は軍による弾圧をスマートフォンなどで録画し、SNSなどに投稿してきました。ミャンマー軍による市民への弾圧の証拠としようとしているのです。
「ミャンマー・ウィットネス」は、こうしたSNSなどネット上で公開された動画や写真による情報、いわゆるオープン・ソースから、現地で何が起きているのかを分析するデジタル調査の専門集団です。衛星画像分析や武器調査など、専門分野に長けたメンバーたちがSNSから動画や画像を収集・保存して、動画そのものの信ぴょう性やそこに映し出された物や人などさまざまな情報を分析しています。
今回、私たちが注目したのは、空爆で使用されている軍用機や武器の種類です。
「ミャンマー・ウィットネス」からは、武器の知識に長けたレオーネ・ハダヴィ氏が中心となって分析を行いました。ハダヴィ氏はこれまでにも、オープン・ソースでイエメンの内戦で使用された武器の流入ルートなどを調査したこともある軍事調査の専門家です。ミャンマー軍の武器については公開されたデータが限られていますが、過去の武器の見本市の映像や武器の輸出入データベースなど、あらゆる情報と照会しながら、映像に映っている武器を特定しています。
ミャンマー・ウィットネスの武器調査員 レオーネ・ハダヴィ氏
空爆に使われるロシア製軍用機「Yak-130」
空爆が激しくなった2022年4月ごろから頻繁に目撃されているのが、ロシア製の「Yak-130」です。ハダヴィ氏によるとYak-130は、それまで主に空爆に使われていた中国製の軍用機「K-8」よりも3倍武器などを搭載できるといいます。
2022年4月に南東部カレン州の空爆で目撃されたYak-130
ハダヴィ氏は、ミャンマー軍は主力機をYak-130にシフトさせたとみています。
「Yak-130は、空対空ミサイルや、さまざまなタイプ・大きさの空対地のロケットや投下爆弾などを搭載することができます。それがひとたび投下されると市民の命や財産に大きな犠牲をもたらすことになります」
実際にYak-130が攻撃している映像を分析すると、23ミリキャノン砲や無誘導ロケットなど、さまざまな武器で攻撃していることが分かりました。
とりわけ無誘導ロケットに関しては、映像から、国内避難民の為のキャンプがあるエリアに、36発も撃ち込まれたことが分かりました。無誘導ロケットは無差別で広範囲にわたって被害が出ます。
Yak-130から発射される無誘導ロケット(2022年4月カレン州)
南東部カレン州で軍と戦ってきた少数民族武装勢力のボ・サロン少佐は、Yak-130が空爆で見られるようになってから、被害が一層ひどくなったと証言します。
「1日50回くらい偵察の飛行機がやってきて、空爆するときには1度に4機来ました。空爆があると、被害が出るのはわれわれの部隊よりも、一般市民のいる村の方です」
カレン州の少数民族武装勢力 ボ・サロン少佐
止まらない外国からの武器流入
さらに空爆を強めるなか、軍は新たな軍用機を手に入れていることが分かりました。
去年12月15日に行われた空軍の創設記念式典では、ロシア製戦闘機「Su-30」が2機確認できました。ミャンマー・ウィットネスは、Su-30は、Yak-130よりも武器などをおよそ3倍積める戦闘機だと指摘しています。今後、空爆に投入されると、さらに被害が拡大するのではないかと懸念しています。
「新しいモデルの機体が導入されているのは明らかです。より多くの武器を搭載可能で、多くの作戦を実行できる新しいモデルの機体です」
2022年12月15日にミャンマー空軍創設記念日に公開されたロシア製戦闘機
ロシアの国営メディア、タス通信が報じたロシア国防次官の話によれば、ロシアとミャンマーの間で3年前にSu-30をミャンマーに6機送る契約を交わしていたことが分かっています。この事実と映像を照らし合わせると、そのうちの2機が就役したとみられます。
ミャンマー軍のトップはクーデター後たびたびロシアを訪れ、協力関係を深めています。軍事面に加え、農業や原発建設など経済面でもロシアからの支援が進められています。一方のミャンマー軍は、ロシアのウクライナ侵攻を支持するなど、互いに緊密な関係を築いています。
会談を行うミャンマー軍トップのミン・アウン・フライン司令官とロシアのプーチン大統領(2022年9月7日)
「武器流入を止めるには、さらなる国際社会の圧力が必要」
空軍の創設記念式典の映像からは、他にも、中国製の訓練機「FTC-2000G」や中国製戦闘機「J-7」、ロシア製のヘリコプター「Ka-27」などが新たに就役したことが分かりました。
レオーネ・ハダヴィ氏は「武器が外国製だということは、外国が支援しているということを示唆しています。武器の流入を止めるため、制裁や国際的な圧力をミャンマー軍だけでなく、支援している関係者にもかけることが重要です」と話しています。
ASEANなどの国際社会はミャンマー軍に暴力の即時停止などを求めています。また、アメリカやEUは軍幹部などに経済制裁を行っていますが、打開の糸口は見いだせていません。
国連の安全保障理事会は、去年12月、クーデター後初めて、あらゆる暴力の即時停止と、拘束されているすべての人の解放を求める決議を採択しました。ロシア、中国、インドは、決議はミャンマー国内の情勢を不安定化させるものだと主張し棄権。今回の決議には、加盟国に武器輸出を禁止するなどの強い措置は含まれておらず、事態の打開につながるかどうかは不透明です。
紛争における人権侵害についての専門家、サイモン・アダムス氏は「民主主義や人権、国際人道法を信じる国々は、民間人を空爆しているミャンマー軍や、彼らに武器を売り続けているロシアに、圧力をかけることで人権侵害は許さないというメッセージを送らなければならない。ミャンマーはASEANや日本のような国々との関係を気にしているはずだ」と話しています。
紛争下における人権の専門家 サイモン・アダムス氏
クーデターから2年が経ち、いまも市民の被害が広がっているなか、国際社会が一丸となって暴力を止められるかが問われています。
【2022年12月19日放送】