ニュース速報

賛否広がる 入管法改正案

NHK
2021年5月31日 午後0:51 公開

今国会で審議されている出入国管理法の改正案。反対するデモが大型連休中も各地で行われるなど、賛否が分かれています。議論の焦点を取材しました。

なぜ今入管法の改正?

政府が法改正を進める目的は、今、在留資格を持たない外国人が、施設に長期間収容されることが問題となっていて、その解決を目指しているからです。現在、出入国在留管理庁の審査で、在留が認められなかった外国人は、帰国を命じられます。9割の人はここで帰国しているのですが、応じない人は、原則的に入管施設に収容されます。

去年2月の時点で、半年以上収容されている人が207人にのぼるうえ、3年以上収容されている人もいて、収容の長期化が問題になっているのです。ことし3月には、スリランカ人の女性が収容中に亡くなるなど、2007年以降、収容中に17人が亡くなっており、事態は深刻です。

今回の改正案では、長期化の要因の一つとされる、「難民申請を繰り返して日本にとどまっている人」に対して、新たな規定が盛り込まれました。これまで、難民申請が認められなくても、繰り返し申請すれば、審査中は送還されないことになっていましたが、今回の改正案で新たに盛り込まれたのは、「3回目以降の申請からは手続き中でも、強制送還が可能になる」というものです。

「帰れば命の危険も・・・」追い詰められる難民申請者

これに対して、不安の声も広がっています。トルコで迫害のおそれがあり、日本に逃れてきたというクルド人のアリさん(45)が取材に応じてくれました。日本人女性と12年前に結婚。アリさんは就労が許可されておらず、妻が働いて、生活を支えています。難民申請は6回に及びますが、在留資格は得られていません。

アリさんは17歳で来日しています。アリさんによれば、当時、トルコ軍によりクルド人の住む村が焼かれたり、暗殺されたりすることが日常的に起こっていて、身の危険を感じていたと言います。さらに、アリさんが今もトルコに帰れない理由がもうひとつあります。トルコ政府の捜査資料に、容疑者として名前が載っていて、帰国すれば、全く関わっていない犯罪を理由に逮捕される可能性が高いと分かったからです。

クルド人のアリさん 「トルコに帰ったらテロリストのメンバーとして逮捕され、残念ながら拷問とか受けて、刑務所に入れられちゃうですね。怖いですね、正直言って帰されるのが」

この日アリさんは、改正案に対する不安を妻に初めて打ち明けました。

アリさん 「結局、法律ができたら私がすぐすぐ捕まるんじゃないかと心配」 妻 「…困ったね」 アリさん 「帰らなかったら無理矢理に強制送還すると」

食事が終わった後、2人は不安な心中を私たちに話してくれました。

妻 「願いたいことと現実があまりにも違いすぎるから。殺されるっていう話も聞く事あるので…そうならないことだけを祈ってます」 アリさん 「泣かないで。何とかなるから」

4月18日には、クルド人の家族、約80人が会見を開きました。参加者の半数以上が、すでに3回以上難民申請をしている人たちです。日本で育ってきた子どもたちは、このまま法改正されれば、家族がバラバラになったり、自分たちも送還されたりするおそれがあることを訴えました。

日本で育ってきたクルド人の子どもたち 「強制送還されたら父と母はトルコの空港でトルコ政府に捕まり、自分と弟たちはトルコ語を読み書きできないにも関わらず、子どもだけでいきなり送りこまれます。自分が迫害されている国に行くんです。これはあってはならないことだと思います」 「どうか私たちを助けてください」

国会審議続く改正案 保護すべき人を守れるのか

改正案はいま、衆議院法務委員会で審議が続いています。

立憲民主党 松平浩一議員 「2021年3月31日付けで国連人権理事会の特別報告者から、人権理事会特別手続きの書簡というものが政府に宛てて出された。即座の抗議反応ですから、大臣、対話をしていただきたいと思うのですけどいかがでしょうか」

上川法相 「改正法案のことにつきましてもご指摘の特別報告者等のことを含めまして、国際社会の理解を得ることが大変大事であると思っておりまして、丁寧に説明を尽くして参りたい」

改正案作成に携わった専門家は、改正案では入管が保護する必要があると認めた人は、難民としては認められなくても、「在留特別許可」や新しく作られる「補完的保護」といった制度によって、日本にとどまることができると主張しています。

筑波大学 明石純一 准教授 「本来難民として認定されるはずの人々を退去強制させることについての懸念というのは当然あると思いますし、私も理解できます。この法改正法には補完的保護対象者の認定というものが含まれていますので、現在そして今後の難民受け入れの展開には、そうした形で対応されていくんだろうと思います」

一方、難民問題に詳しい弁護士は、そもそも入管が難民と認定する人は極めて少ないことから、入管が改正案で保護すべき人を救済できるのか、疑問があるとしています。

長年難民問題に携わる 大橋毅弁護士 「我々もオーバーステイの人をすべて日本に居座らせようってわけではない。法律やガイドラインなどの基準に従えばこの人は保護されるべきだ、ということで活動しているわけです。しかし、残念ながら日本の難民認定率というのは1%にも満たない。ほかの国だったら認定されている、保護されている人たちまでもほとんど不認定にしている。本当に帰国したら危険があるような人たちを強制送還することになってしまいます」

改正案では、国外退去が決まっても、逃亡のおそれが低いなど、一定の条件を満たす外国人については、親族や支援者などの監理人のもとで社会生活を送ることを認める、「監理措置」という仕組みも新たに設けられています。

しかし、許可が出た一部の人以外は就労が禁止され健康保険にも加入できないため、生活を誰が支えるのか、また監理人を引き受ける人が見つかるのかどうか、など課題も指摘されています。

難民や保護対象者の認定、管理措置の決定についてはすべて入管が個別の事情に応じて、入管の裁量で行っていることもあり、改正案で設けられる新たな規定が、実際にどのように運用されるのか不透明なことを、不安に感じている人も少なくありません。専門家の中には、オーバーステイの国外退去処分と、難民認定をする機関を分けて、独立した機関で審査すべきだという指摘もあります。

不法滞在する人を取り締まることはもちろん大事ですが、帰るに帰れない事情を抱える人もいます。そうした人を救うために制度やその運用をどう見直していくのか。今後も注視していく必要があるのではないでしょうか。

※入管法改正案は、放送後、今国会での採決は見送られることになりました。

(おはよう日本 ディレクター 加藤 麗)
(国際部 記者 白井 綾乃)
【2021年5月10日放送】