全国の書店員が「いまいちばん売りたい本」を投票によって決める本屋大賞。ことしは、凪良ゆうさんの「汝、星のごとく」が選ばれました。凪良さんにとっては、2020年の「流浪の月」に続き2度目。しかし、今回の受賞には特別な思いがありました。「書店員さんたちへの恩返しになれば」と凪良さん。一体何が凪良さんにそういう思いを抱かせたのでしょうか。首藤アナウンサーが話を伺いました。
(おはよう日本 キャスター 首藤奈知子 ディレクター 德留駿 吉住匡史)
作家にとっても読者にとっても特別な賞
「汝、星のごとく」は、瀬戸内の島を舞台に、地元の女子高校生と島に引っ越してきた男子高校生の出会いから始まる物語で、父親の不倫や母親の恋愛など家族の問題に振り回されながらも、自分たちの人生を生きようともがく2人のすれ違いと挫折、そして成長をつぶさに描いています。
―本屋大賞の受賞が決まったときは、どんなお気持ちでしたか。
凪良ゆうさん
2度目になるので、全く予想をしていなかったので、連絡もらったときの第一声が「うそでしょ」っていう。すぐに言葉にならないぐらいうれしくて、電話口でちょっと泣いてしまいました。担当編集者さんも泣いていました。2人で無言になり、うっうっうって。
―いろんな文学賞がある中で、本屋大賞というのはちょっと違う感覚なんでしょうか。
日々、読者さんとリアルタイムで接しておられる書店員さんが選ぶ賞なので、一番本を読んでいる層に一番刺さる賞なんだろうなと思います。他の文学賞とはまたちょっと違う親しみのある賞なのかなと思います、作家にとっても読者さんにとっても。
物語の舞台 瀬戸内海を訪ねて
―瀬戸内海の海や島を舞台にしようと思ったのは、何かきっかけがあったんですか。私も、愛媛出身で瀬戸内海にものすごく思い入れがあるんですけれど。
担当編集者さんが愛媛県今治市の出身なんです。それでちょうど取材に行きたいなと思った時がコロナで、遠方にちょっと行けない時期だったんですよね。取材もなかなか受けてもらえない時期だったので。ただ、出身の方に頼むとちょっとご縁でお話を聞かせてもらえたりするので、やっぱり担当編集者さんが今治出身だったっていうのは、とてつもなく大きかったなと。現地に行ってもオンラインとかが多かったですけれども。
―そうですか。そういう中で実際訪ねてどうでしたか。瀬戸内海は?
すばらしかったです。瀬戸内海や愛媛県に行ったのが、その時が初めてで、こんなに穏やかで明るい海があるのかと思って。昼間に見た時は本当に穏やかで、透明感があって、明るい海だなと。夜にまた見に行くと一転してすっごい静かなんですよね。波音もあまりしないぐらいで、ちょっと底知れない感じがして、昼間と夜のギャップっていう、すごい幅のある魅力があり、大好きな海になりました。
―うれしいです。よく遊んでいた人間としては。
そうなんですか。身近な海ですよね。どこだっけな。すごく夕焼けがきれいな駅舎から見る、駅からもうそのまま海が…。
―海が見える、愛媛の下灘の方ですかね。
そうそう。あの駅から見える夕景とかもすごくきれいでしたね。
―いろいろ訪ねられたんですね。
はい、そうですね。海もきれいだし、夕焼けもきれいだったし、すごく心に残る取材でした。
“どう選択し、生きるか” 凪良さん「大事に向き合ってほしい」
―作品でどんなことを伝えたかったんですか。
なかなか言葉にしてこれを伝えたいっていうのを言うのは難しいんですけど、若い2人が15年ぐらいかけての物語になるのですが、その15年って人生の中でも一番変化の激しい時期だと思うんですね。学生から社会人になる20代まるまる10年間というと、結構劇的な変化がある。その時々で起こる問題に、それぞれ向かっていく物語でもあるので、自分の人生をどういうふうに選んで生きていくかっていうことは、強く思いを込めて書きました。
―作品を読んでいて、はたから見たら「(登場人物が)どうしてこの選択をするのかな、どうしてこっちに行くんだろうな」って思うんですけれど…
読者さんからの感想にも「すごくヤキモキしたとか、ジリジリしたとか、そっちに行っちゃだめって何度も思った」っていう、そういう感想をすごくたくさんいただきました。
―人生の中で、自分で選択したいんだけれども、いろんな状況があってできないこともあるじゃないですか。そういう人たちへは、どういう言葉をかけますか。
いや、ひとつひとつ本当に難しいと思います。今、時代が厳しいなって日々感じるので、そんな中で難しいことですよね、選んで生きていくって。ただ、物語の中の2人も必ずしも正解だけを選んで生きているわけじゃなく、多分逆ですよね。失敗ばっかりしている2人でしたよね。ただやっぱり、最後にはそれぞれ自分なりの生き方っていうのを見つけられていると思うので、間違ってもいいので、その場その場で真剣に真摯に問題に向き合っていくっていうことが大事なのかなと思います。
自分のことを振り返っても、なかなか失敗多い人生だったなと思う。でも、失敗も、あとになると糧になっていると思うので。筋肉を鍛える感じでね。
コロナ禍でも奮闘してくれた書店員さんたちへの感謝
―発表の際の映像を拝見したら、本当に書店員さんに囲まれて、皆さんポップを持ってらっしゃって、感激している姿が印象的だったんですけど、どんなお気持ちで囲まれていましたか。
あれね、私ちょっとあの場面にはすごく思い入れがあって、本屋大賞っていうと、やっぱり書店員さんに囲まれて写真をっていう、あれがもう本屋大賞といえばあの画っていう、そういうイメージが私の中にずっとあったんですけど、3年前に「流浪の月」で1度目いただいたときはコロナ初年度で、書店員さんたちが一堂に会する、あのシーンがなかったので、3年ぶりか。やっとっていう、なんか感無量でした。
―コロナ禍はいろんなお店も閉まって、書店も閉まったという状況がありましたよね。
ちょうど3年前の本屋大賞に選ばれたとき、初めての緊急事態宣言と発表の日が重なってしまったんですよ。それでもう翌日から休業に入られる書店さんがすごく多くて。受賞はいいが、本屋さんが開いてないぞっていう、どうするんだっていう。ただ本屋さんの方も初めてのことなので、一応売り場はずっと用意はしてくださっていて。編集者さんを通じてなんですけど、電気が消えている本屋さんの中で「流浪の月」の売り場をつくってくださっている写真とかを見せてもらって、ちょっともうあの時は泣いちゃいましたね。
悔しい気持ちと残念な気持ちと、一体これからどうなるんだろうっていうすごい恐怖みたいなものもあったんですけど、でも休業されている本屋さん、開いてからすっごく頑張って売ってくださったんですよね。返品がほとんどなくて、毎月毎月新しい本が出て、返品は当たり前の世界でもあるんですけど、本当に返品されなくて、ずっと開いて売るぞっていう気持ちで待っていてくださったらしいんですよ。
―うれしすぎますね。
本当うれしくて。本屋さんとやっぱり一緒に頑張りたいっていう気持ちが、あの時、私何もできなくて、本屋さんは、すごく、あんなしんどい時期でも頑張って下さったっていう。あの時の恩返しも含めて、いろんなことを一緒にやりたいなって思っているんです。今ちょっとしゃべりながらも、うるっときそうだったんですよ、思い出すと本当に。あの時のご恩をできるだけ返したいっていう。
―3年ぶりの、実際にみんながぎゅっと近くに集まっている受賞って違いますよね。
違いますね。直接、応援してくれた人たちにありがとうっていうのを伝えられるのと、向こうからもいろんな言葉をかけてもらえました。投票形式なので一緒に勝ち取ったとか、そういうチームみたいな一体感みたいなものがすごくあるんですよ。ちょっとそういうところが他の文学賞とはまたちょっと違う親しみのある賞なのかなと思います、作家にとっても読者さんにとっても。
―ポップは読まれましたか?かけてもらった声で覚えていらっしゃることがあれば。
はい。いっぱいいただいたので、ひとつだけっていうのはなかなか難しいんですけれど、「言葉にならない」って書いて下さる方が結構多くて、「ひと言で表したくない」っていう、そういう感想がすごくうれしかったですね。なかなか応援してくださる方のお気持ちっていうのは、はかりきれないものがあるんですけど、「自分の言葉で変に説明したくない」って言ってくださる方とかが中にはいらっしゃって。今回の話だと、感情移入する人物とかも読み手さんとかによって違ったりするので、感想が千差万別っていうか。
苦境に立たされる本屋さんに作家としてできることを
―書店員さんの話で言いますと、10年あまりで全国の書店というのは4割近く減っているというデータもあって、その点はどう思われますか。
なかなか厳しい時代ですよね。他に楽しいコンテンツがすごくたくさんある時代なので、その中でどう選んでもらうか。ただ本屋さんにだけ、どうにかしてほしいって思っているわけではなくて、それは書いているこっち側からしても、選んでもらえる、物語として面白いものを提供できていないんだなっていうちょっと自責の念もあります。本屋さんだけに責任をというのはちょっと違うと思っていて、作家はやっぱり作品をつくる、物語を書くことしかできないので、なるべく1人でも多くの読者さんが書店に足を運んでくれるような、そういう物語を書き続けていきたいし、書いたら書いたで、やっぱり書店さんと一緒に、読者さんに届けていきたいなと思います。なので書店さんだけに望むっていうのではなく、一緒に頑張らせてほしいっていう気持ちはありますね。
―イベントにも積極的に参加されているっていうのは、そういう思いからですか。
できることは、やらせてもらおうと思っています。新刊が出るたびに書店でのあいさつとかもさせてもらって、そこでイベントをすると、読者さんともまた直接話ができるというか、つなげてもらえる機会があるというのは、リアルの書店さんならではの魅力だと思っています。本屋さんの楽しみのひとつに数えてもらえればいいなと。
「本屋さんに育てられた」 凪良さんの幼少期
―凪良さんにとって、本屋さんはどういう存在ですか。小さい頃からの思い出があると思うんですけど。
私鍵っ子だったので、家に帰っても誰もいなくて、さみしいのもあったんですけど、すぐ近くの本屋さんに行っていましたね。もうお勤めしているのかなってくらい。すごくちっちゃな本屋さんなんですよ、今から思うと。ちっちゃい時なので、漫画しか読めなくて、漫画のちっちゃい縦長の棚が4つしかない書店だったんですよ。あとは雑誌が2列しかなくて、毎日通うもので、その4列の書店の本、全部読んじゃって。店長がいい人で、子どもは絶対に追い出さないんですよ。ずっと立ち読みすることに関しては何も怒られなくて。だからお小遣いが入るとすぐ漫画を買いにいっていました。
―ちゃんと貢献もして。小学生ながら。
していましたね。ほとんど小遣い、本につぎ込んでいたと思います。お年玉とか。
―温かい本屋さんが凪良ゆうさんをつくっていったわけですね。
そうですね。そういう本屋さんが、だんだん数が少なくなっているのはすごくさびしいので。ちっちゃい時のご恩返しも兼ねて、ちょっと書店さんと協力して、いろいろやってみたいなと思います。
今後の執筆 「バランスを大事にしていきたい」
―今後はどういうことにチャレンジしていきたいですか。
今ちょうど「汝、星のごとく」のスピンオフを書いている最中なんですよ。中に出てきた北原先生とか、主人公の担当編集者だった男性と女性、植木さんと二階堂さんの話とか、ひとりひとり脇を固めていた人たちをピックアップして、その後とかを書いているんです。それをちょっとまとめて1冊にするのが今の一番のお仕事かしら。
この本に限ったことではないんですけど、いつもいろんな観点からバランスよく書いていこうっていうのは気をつけていることのひとつです。
―バランスですか。
ひとつだけに偏らないっていうことをちょっと意識していて、単純な善悪を決めないとか、何かひとつの物事でも別の視点から光を当ててみるとか、そういうことを結構気をつけてやっているので、今度のスピンオフも「汝、星のごとく」で描いたものとはまた同じことを扱っていても、また別のアプローチをして、2冊合わせてバランスの取れた本にしたいなって。
―実は私もこの仕事するにあたってバランスすごく大事だって思っていて。やっぱり1人の人を取り上げるけれども、この人はどう見ているか、こっちの人はこの人をどう見ているか、多角的に見ることって大事だと、すごく今感じているところで、本からも彼の視点、彼女の視点、別の人の視点って大事にされていることも伝わってきました。
大事にしたほうがいい時代なんだと思います。多様性っていう言葉もよく使われますし、感覚が違う世代が確実に出てきているので、そこの感覚は年代関係なく遅れないように。はやりとかではなく、やっぱり感覚をアップデートしていかないと、頭がもう固くなっていく一方なので、固まっちゃうと入ってくる情報も限られるんですよね。それは危ないことだなと思うので、仕事柄もありますし、やっぱりいろんなところからバランスよく情報を吸収していくためにも感覚はアップデートしていくっていう、いろんな角度からものを見るっていう、普段からちょっと気をつけたいところではありますね。