佐賀・嬉野 老舗旅館が企業誘致で移住者も!地域と企業にメリットもたらす新戦略

NHK
2021年12月22日 午前11:00 公開

コロナ禍で苦しむ佐賀県嬉野市の老舗温泉旅館が新たなビジネスを始め、注目されています。使わなくなった客室や宴会場をオフィスに改装し、企業に貸し出したところ、1年で東京の企業5社の誘致に成功したのです。短期間で企業の呼び込みが順調に進んだのは、旅館が仕掛けたビジネスが、企業、働く人、地域、それぞれにメリットのある仕組みになっていたからでした。

旅館が企業誘致 経営を支える新事業

佐賀市から車で1時間。佐賀県の嬉野温泉にある創業70年あまりの老舗旅館です。約130もの客室がある大型の旅館で、多くの団体客を受け入れてきましたが、コロナ禍で売り上げは激減し、客足は今も回復していません。そこで、社長の小原嘉元さんは、空いた客室をオフィスに改装し、企業を呼び込むことで、安定した賃料収入を得ようと考えたのです。

旅館が始めた「オフィスの賃貸業」。最大の特徴は、東京のIT企業5社が佐賀県の旅館の中に「新たに支社を開設した」ことです。社員が一時的に旅館に滞在して、リモートワークを行うのではなく、どの企業も本社業務の一部を旅館に移転するなど、中長期的にオフィスが稼働する仕組みになっています。賃料は、50平方メートルのオフィスで月額70万円、素泊まり20泊分にあたる金額です。小原さんは自治体と交渉し、地元の人を積極的に採用するなどの条件を満たせば、企業に補助が出る仕組みを作りました。

旅館の社長 小原嘉元さん 「旅館は、食住環境が極めて充実している。働く方々にとっても国内においては最高峰のいわゆるインフラ環境を持っているだろう。確実に姿・形を変えた旅館業をしていかなければ続かない」

オフィスは温泉旅館 社員のモチベーションは

入居した企業の社員は、旅館の設備を最大限、利用できます。たとえば、ちょっとした打ち合わせは足湯で行うことも。ほかの入居企業との交流の場にもなっています。ほかにも、ランチは、栄養バランスの取れた旅館のまかないが300円で食べられ、単身者は旅館の従業員寮に格安で住むこともできます。さらに、名湯といわれる温泉にも入り放題です。

入居するIT企業で働く20代の社員は、以前は都内のオフィスに勤務していましたが、ことし10月、嬉野に移住してきました。旅館の従業員寮で暮らしていて、通勤時間は徒歩5分ほど。和の雰囲気漂うオフィスは、落ち着いて仕事ができるといい、「新しい働き方が経験できるのがいいなと思った。仕事もしやすく、住みやすいので本当に満足している」と話していました。

温泉旅館に支社 東京の企業が気づいた大きなメリット

男性が勤める東京のWEB制作会社が、佐賀県の温泉旅館に支社を作った理由。もともとは、「社員の働き方を充実させよう」というものでした。港区の本社に勤める社員の多くは関東の出身で、20~30代の若手です。都心を離れ、自然豊かな地方で働くことが心身のリフレッシュにつながるのではと考えました。また、東京に比べてオフィスの賃料が割安だったことも理由の1つです。都内だと約100万円はかかるため、インフラが整った地方の温泉旅館に70万円でオフィスを構えるのは、そう高いものではないと判断しました。実際に、月に一度ほど、本社の社員を嬉野の支社に短期出張させ、リモートワークを行ってもらったところ、社員の満足度は高く、「コストを払ってでも社員の働きがいを高める」という当初の目的はじゅうぶんに達成できました。

佐賀県に進出して2か月。さらにもうひとつ、大きな発見がありました。「自分たちのWEB制作の技術が、地域で需要がある」ことに気付いたというのです。

WEB制作会社 守本和宏さん 「私たちはWEB制作の複合的なノウハウを持っているので、そういう企業はたぶんそんなに佐賀県には多くないと思う。1つの希少な存在になれるっていうのは、仕事をする上でも大きい」

企業×地域のニーズ 旅館が橋渡し

「佐賀県で、自分たちのWEB制作技術が生かせるのではないか」。そう考える入居企業が、地域でスムーズに事業を展開する際、重要な存在となっているのが、旅館の社長・小原さんです。取材に訪れた日、小原さんは、WEB制作会社の社員とともに、近隣にある「有田焼」の窯元を訪ねました。コロナ禍で観光客の減少に苦しむ有田の企業と、オンライン販売のノウハウがある入居企業を引き合わせるためです。

入居企業の社員 「インターネットで販売する手法が、焼き物は確立されていない気がしている。そこをブランディングや見せ方の部分で、ご支援させていただきたい」

打合せに同席した小原さんも、嬉野にやってきた企業と組む良さを、窯元に説明しました。

旅館の社長 小原さん 「遠方(東京)からやりますよというのだと結構どこにでもあるが、みずからここに居を構えてやるというところが、ちょっと今までと違う」

説明を受けた有田焼の窯元は、「企業が持つオンライン販売のノウハウは自分たちにはないもので興味を持った」と、前向きな反応を示していました。また、入居企業の社員も、小原さんのような地元の人のサポートを心強く感じ、「旅館は非常に重要なパートナーであり、われわれの強みが有田の地でいかんなく発揮できるように窯元を全力でサポートしたい」と、話していました。

このように、旅館、企業、地域、それぞれにメリットのある仕組み作りが大切だと、小原さんは考えています。

旅館の社長 小原嘉元さん 「お家賃をいただくということだけでも、もうビジネスは成立しているし、それはそれでいいとは思うが、恐らくそれでは持続していかない。地域に人を呼び込む中で、商店街であったり飲食店であったり、様々な人とのつなぎ役みたいな、地域のハブであるべきだという風に私は考えている」

ほかの地域での再現性は

旅館の社長みずから、地域と企業の仲介をする姿には驚きましたが、旅館に限らず、たとえば自治体や商工会議所などが音頭を取れば、同じような仕組みは十分作れると感じました。さらに、取材をしていて興味深かったのは、入居企業が地元で新たに10人ほど採用し、その多くが20代だったことです。若者が地域にとどまることにもつながり、地域にとってのメリットは大きいと感じました。

(おはよう日本 アナウンサー 利根川真也)

(おはよう日本 ディレクター 馬渕茉衣)

【2021年12月1日放送】

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