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宮本信子さんロングインタビュー コロナ禍、映画、朝ドラへの思い

NHK
2021年8月5日 午後4:32 公開

“マルサの女”“タンポポ”“お葬式”、日本映画史に残る話題作に出演しつづけてきた宮本信子さん。
“あまちゃん”の夏ばっぱ、“ひよっこ”の鈴さんなど、朝ドラにも欠かすことができない存在です。
そんな宮本さんが、出演する映画が8月に公開されます。
山田洋次監督の“キネマの神様”。映画会社の百周年を記念して製作されたこの映画は、志村けんさんの初主演、山田監督自身の映画への思いが詰まった作品として、注目を集めてきました。
しかし、製作の途中でコロナ禍の影響を受けます。志村さんの急逝で、台本も大幅に修正の上、厳重な感染対策をとって撮影が続きました。映画が完成し公開を待つ6月、高瀬キャスターがインタビューしました。

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高瀬:完成してから少し時間がたちましたが、ようやくの公開を前にして、どのような心持ちですか。

宮本:撮影が終わってから公開も延びて延びて、いつ上映されるのかなって本当に心配しておりました。でもやっとね、8月6日に決まって本当にほっとしています。もう大変でしたから、去年。いろいろなことがあって…

高瀬:今まで数多くの映画に出演された中でも、特別な現場だったのでしょうか。

宮本:いえいえ、全然違います。何者かが分からない状態ですもん、コロナが。どんなものか分からない。ニュースを見れば世界中がもう大変なことになっていて。撮影所に行くときドラッグストアの前を通ると、人がずらーって並んでいるんですよ。マスクを買うために。それが、ちょっと異様な感じでした。あれも足りないこれも足りない。(戦争と比べれば)鉄砲が飛んでこないだけまだいいかしらと思ったぐらいです。

山田洋次監督の日本映画への愛が詰まった“キネマの神様”

“キネマの神様”のストーリーを簡単に紹介します。
主人公は、ギャンブル好きなゴウ。妻の淑子と娘の歩を振り回すダメ親父。そんなゴウが愛してやまないのが映画でした。若き日のゴウは、日本映画の黄金期、撮影所を駆け回る助監督だったのです。
撮影所近くの食堂の看板娘・淑子との愛を育みながら、自身の脚本“キネマの神様”で監督としてデビューを飾ろうとします。しかし、思いがけないトラブルから初監督作品は幻に終わります。ゴウは撮影所を辞めて田舎に帰り、淑子は周囲の反対を押し切って結婚。
そして、舞台は再び現代へ。孫も生まれた老年のゴウは、周囲に借金を重ねてギャンブル三昧の自堕落な暮らしをおくっていましたが、ふとしたきっかけで再び“キネマの神様”の脚本を手に忘れかけていた夢や青春を取り戻してゆく−− 。
宮本さんが演じるのはゴウの妻、淑子。ゴウは志村けんさんが演じることになり、志村けんさんの初主演映画として製作発表の段階から注目を集めていました。

突然の主役交代 志村けんさんから沢田研二さんに

しかし、日本中に猛威をふるった新型コロナウイルスが、この作品にも影を落とします。主演の志村けんさんが亡くなったのです。すでに撮影は始まっていましたが、脚本に大幅に手を入れることになりました。志村さんが演じるはずだった、宮本さんの夫役、ゴウは沢田研二さんが演じることになります。

高瀬:映画が受けた新型コロナの影響は計り知れないものだったと思いますが、影響が大きかったのは?

宮本:志村けんさんが亡くなられたことは本当にびっくりしました。監督はどうなさるのかなとか。脚本も、沢田研二さんがおやりになるからいろいろ変わりますでしょう。今のコロナの世の中において、映画でコロナを描いていただけたら本当にいいなと思っていたら、山田監督はそのように直されました。監督の直しがすばらしいなと本当に思いました。歴史、文化というか、今の時代というのがちゃんと背景になっているので。大変なことだったと思います。

高瀬:志村さんの訃報を耳にしたとき、この“キネマの神様”のことももちろん存じ上げていましたので、とんでもないことになったと思いました。

宮本:これは本当に残念だけれども、沢田さんがやっていただいて。もっとしゃべりたかったんですけど、(感染対策で)しゃべっちゃいけないって言われるので。「しゃべっちゃいけません」「そうですよね」なんて。ちゃんと夫婦になってるかしらなんて心配しながら。

高瀬:それが私、びっくりしました。映画を拝見している間、志村さんのことを思い出すことはなく、沢田さんがゴウちゃんを演じるべくして演じている映画だと、何の違和感なく納得していました。

宮本:そうね。沢田さん本当に素晴らしかったと思います。山田監督の映画に対する本当に情熱と、これを何としてでも撮り切るんだっていうことをみんなヒシヒシと感じて。いやもう、出演した皆様が本当に素晴らしくて、思いはひとつ。監督のOKを取りたい、取りたいっていうか、監督のイメージする人物像に近寄りたいって一生懸命でした。

50年ぶりの山田組 日本映画黄金期の熱気を描く

山田監督の映画に、宮本さんが出演するのはあの名作シリーズの第6作「男はつらいよ 純情編」(1970年)以来、なんと50年以上ぶりでした。山田監督と再会を喜びあったと言います。
“キネマの神様”は原田マハさんの原作に、山田監督自身が経験してきた日本映画の歴史が書き加えられています。作中、映画を愛する登場人物の口から語られる「映画の中には神様がいる」は、実は黒澤明監督の言葉だそうです。ゴウと淑子が出会う食堂も大船撮影所の近くにあった店がモデル。作品の中には宮本さん自身の映画人生と重なる場面も多かったと言います。

高瀬:今回の映画では1960年代、日本映画がとても元気だったころが描かれています。宮本さんがデビューされたのも1960年代ですが当時の現場の雰囲気は?

宮本:何かいいものを作ろうと、リーダーの下にみんなが集まって燃えてましたよ、すごく。もう喧嘩するぐらい、いろいろ言い合って。夜中まで撮影したって誰も文句言わなかったし。だから今で言えばパワハラとかね、そんなのもあったかもしれない。ともかくいいもの作ることにもう一生懸命でした。 俳優や監督だけではなくて、カメラさん音声さん照明さん、みんながそうでした。だから、いい芝居をするとカメラさんが撮ってくださって、スイッチャーがパーンと押してくれるんです。コンテとは別に。私はそういうのを若い頃いっぱいしていただいて。「あら、これがアップになっちゃったんですね」なんて、すっごく嬉しかったことを覚えています。 それぞれのプロ意識が混じり合って、マニュアル通りになんてならない。そういう時代でした。だからみんな切磋琢磨していいものを作ろうって。今思えば、すごく懐かしいです。 それは今回の“キネマの神様”の中に、しっかり描かれています。監督の演出、自由さ、葛藤、いい時代の映画界っていうのがすごく分かります。

高瀬:当時の俳優と監督、スタッフの関係は?

宮本:ぎゅうぎゅう。密です(笑)。ものすごかったですよ、距離が。その中に、情熱と「よし、いいもの作ろう」っていう気概、誇り、そういうものがいっぱいあったと思います。失敗したらっていうことはあまり考えないので。ともかくいいものを作ろうと。

高瀬:今回の作品では、登場人物のセリフの中に「映画の神様」という言葉が何度も出てきます。多くの作品に出演する中で、そういう神様のような存在を意識したことはありますか?

宮本:映画のセリフの中で、「フィルムには神様が宿っているんだ」と、私も言わせていただいたけど、本当にそう思っています。みんなの力がそこに集まって、エネルギーを出して、俳優の一つの言葉として出てくるんですけど、そういうとき、「あっ!」ていうことがありますね。不思議と。どこから撮られても大丈夫みたいに感じます。そんなにいつもあるわけではないんですけれど。そのようなことを感じられる役を演じることができたことは、とても幸せだなと監督に感謝しております。

撮影中の厳重な感染対策と沢田さんの意外な素顔

今回の現場も「よい映画を作ろう」という熱気にあふれていたといいます。しかし、コロナ禍の中での撮影は半世紀をこえる宮本さんも体験したことのないものでした。緊張感あふれる現場の様子と、そんな中で意外な沢田研二さんの姿を話してくれました。

宮本:山田組の新型コロナ対策ガイドラインには、ありとあらゆること、危機管理が細かく書かれていましたね。それくらいの緊張感を持って作ってくださったガイドラインです。当然いろんなことが禁止になって。会話もしてはいけない、必要以上にセットに、スタジオの中に入ってはいけないんです。それは当然のことだったと思いますけど。本当に感染者を誰も出さないように作られた“キネマの神様”でした。

高瀬:志村さんのことがありましたから、撮影現場から感染者を出すことはもう絶対に許されないという重圧、緊張。われわれの放送現場だってかなりの緊張感がありましたけど、相当だったろうなと思います。そばで見ていて、沢田さんの決意とか準備とかいろいろ感じてたんじゃないですか。

宮本:そういうことをあまりお出しにならないです。ただね、思ったことは…沢田さんは手の洗い方がお上手ですよ(笑)ゆったりとしていて鼻歌歌いながら。もうゆっくりなんです。みなさん、急ぐのですが、沢田さんだけはいつも鼻歌歌って、仕草がとっても綺麗なんです。素晴らしいなと思いました。後ろに列ができても関係ないんです。すばらしい手の洗い方をなさるなと思って、今日初めて言っちゃった(笑)

高瀬:それだけの緊張感の中でも、沢田さんはご自身の間合い、ペースのようなものをちゃんと持ってらっしゃったんですね。

宮本:そういう方だと思います。

高瀬:たくさんコミュニケーションをとってつくり上げたわけではないのに、ああいう夫婦像ができるんですね。

宮本:それは監督がすごいですから(笑)。もう本当に。ひしひしと現場では伝わって。

“役が前に出てほしい” 朝ドラにかける思い

今回のインタビューで、高瀬アナがどうしても聞きたかったのが朝ドラについて。「朝ドラ送り」をするほど朝ドラを愛する高瀬アナは、宮本さんにどうしても聞きたいことがありました。

高瀬:“ひよっこ”での鈴さんの「東京を嫌いにならないでくださいね」など、名言が数々ありましたけど、「大変でしたねお互いに」という、同じ戦争を生きたみんなをねぎらうようなあの言葉がすごく印象的で。今のコロナ禍のみんなに向かっても響くなと思いながら、思い出していたんですけど。本当にその節はありがとうございました。

宮本:ありがとうございます。その節はありがとうございました(笑)

高瀬:“あまちゃん”の夏ばっばのときも、“どんど晴れ”のときも“まんてん”のときも、それぞれで様々な役を演じてらっしゃいますけれど、イメージが全然、かぶっていないように感じます。

宮本:そんなことないと思うんですけど(笑)

高瀬:演じているは宮本さんなんですが、それぞれの役が独立しているっていうんでしょうか。すべて受ける印象が違います。

宮本:俳優さんには二つタイプがあって、「何が何でも私」という方と、いつも変化したいという方。いつも変化したい方は、このごろ随分少なくなってきたように思います。 でも私はやっぱりいろんな役を演じたいんです。朝ドラは、スパンが長いですよね。そうすると、1つの役をずっと持っていられるんです、1年ぐらい。そうしますとね、いろいろなことを考えるのが楽しいですね。シチュエーションが変わりますし、いろいろ変わるので、変化もあって成長もあって老いもあって、そういうことを考えて演じられるのが、本当に勉強になるんです。あんまり自分自身の個性は目立たず、出ない方がいい、役が前に出てほしいと思って、いつも作品の中で演じているつもりです。 今はこの体とこの声と、いろんなことを使って、今度はどんな役に巡り合えるかしらっていうのが楽しみです。そんなしょっちゅうではなくていいので。私、女優の仕事が好きなんですね。

高瀬:もうちょっとそろそろいいかなとか、情熱が湧かなくなってきたとか、そういうことはないですか。

宮本:そういうときもあるんですけど、でもすぐ「この仕事やりたい」という作品にぶつかると、「ああ、もうやりたい」と思って「この役の衣装は…」とか考えるんです。ずっとそんな感じです。

高瀬:あえて朝ドラのことで言うと、自分の中で今も何か思い出すような役やシーンなどはありますか。

宮本:いっぱいあります。夏ばっぱが旗を振るところも大好きですし、ハチマキを渡すところも大好きですし。“ひよっこ”ですと「東京を嫌いにならないでね」って言うところとか。それから戦争の話を、焼けたときの話を三宅裕司さんとするシーンも私好きです。そんなに笑うつもりはなかったんですが、三宅さんと芝居をしていたら、なんだかすごくおかしくて、楽しくて。「ねえ、そういう話あったわよね」なんて、笑っちゃった。三宅さんもつられて笑って、面白いシーンになったなと思っています。だから、思わぬことが起きることもあるんです。そういうときは楽しいですね。芝居は一人ではできないので。

コロナ禍のいま 映画は…

演技について熱く語ってくれた宮本さんに最後にうかがったのはコロナ禍で誰もが不安を感じている今、“映画の力”についてでした。

宮本:コロナは怖いです。皆さん本当に大変な思いをしていらっしゃると思うけれど、これがずっと続くわけではないと私は信じています。あんまり悲しいと、余裕がなくなって幸せを感じることができなくなっちゃうと思うんですよ。みんなそれくらい病んでいるのでね。だからせめてちょっとしたことで、日常のことでちょっとした幸せとか喜びを見つけ出すと、ちょっと我慢できるかもしれない…なんて、思っています。 その1つを提供するのが、映画だったり、演劇だったり、歌だったり。そういうことってやっぱり、絶対なくならないと思います。ほんの少しでも楽しいことを見つけ出して、ふっと余裕ができたらいいなって。自分にもそう言い聞かせています。 映画って楽しいことはもちろんですけど、映画によって慰められることもある、励まされることもある、希望が見えることもある。 しかもそれはフィルムで固定された、そして暗闇の中で皆さんと一緒に拝見するけれど、実は自分一人のものである。そういうところが、映画っていいなと思います。

高瀬:やっぱり映画館で観てほしいというのはありますか。

宮本:そう思いますけど、もしそれが叶わなければ、DVDでも何でもいいと思います。でも、映画館がやっぱりいいですよね。音といい、暗闇でね。いい映画ほど寝ちゃうときもあるんです、私。だってそういうときありません?あまりにも気持ちよくなって…

高瀬:えっ、いい映画の時に寝るんですか?

宮本:寝ちゃうときがありますよ、すう~って。面白くないからではなくて。気持ちがよくて。

高瀬:じゃあ映画館で寝ても?

宮本:いいですよね。

高瀬:今回この映画を観る人には、どんなことを感じてほしいというのはありますか。

宮本:ともかく、この状況の中でやっとできた、やっと生まれた映画なので、皆さんに応援していただきたいな。ただそれだけです。特別な映画になりました。こんなこと本当にないと思います。だからと言ってね、押しつけがましく言うのもあれですけど。どうぞよろしくお願いします。

高瀬:宮本さんが本当に想像したとおりの方ですごく感動しました。

【2021年7月21日放送】