令和の若者が見た“日本のファッション“

NHK
2023年7月19日 午後0:59 公開

あなたは今日、どんな服を着ていますか?

勝負のプレゼンの時は、赤いネクタイを。大切な人とのデートの時は、かわいいワンピースを。ファッションには、その時の思いや気持ちが表れます。

それは「時代」も同じ。当時のファッションを見れば、その時の社会がどんな雰囲気だったのかが見えてきます。

今回、未来のファッション業界を担う学生たちが、日本のファッションの歴史と向き合いました。令和を生きる若者たちが見た、昭和・平成のファッションのおもしろさ。

それらを自分たちの感性で捉えなおして表現する現場を取材しました。

(おはよう日本 伊藤亜寿佳)

“時代を切り取る“ファッションショー

6月、ファッション専門学校・文化服装学院の創立100周年を祝うファッションショーが開催されました。モデルが着用しているのは、これまで学校に保管されてきた過去の学生たちの作品ですが、当時のまま着ているのではありません。

今の学生たちがその衣装が作られた時の流行や時代背景などを調べ、スタイリングにアレンジを加えて仕上げました。

例えばエレガントなコートを羽織っているようなこちらの衣装、もともとは着物でした。1950年代に作られた作品です。

人々が映画に夢中だったこの時代に「アカデミー賞の女優が着るとしたら」というテーマで、クラシックなドレススタイルにアレンジしました。

1990年代に作られたこちらの衣装は、当時流行した「HIPHOP」をテーマに、キャップとバンダナを合わせました。極めつけは足元のルーズソックス。当時の流行を捉えつつも、学生たちの作り上げる独創的なスタイリングが並びました。

ショーを見学していた、デザイナーのコシノジュンコさんもこの学校の卒業生です。

コシノジュンコさん

時代の変化をうまく表現できているのが服装でありファッションだと思います。そして、服装の変化によって時代がわかると思いました。100周年はとてもすごいことだと思います

日本のファッションとともに歩んだ学校

1923年、婦人向けの洋装学校としてスタートしたこの学校。戦後はデザイナーなどを志す若者たちが集まり、コシノジュンコさんや高田賢三さん、山本耀司さんなど、日本のファッション界をけん引し世界で活躍する人材を多く輩出してきました。

学校では、1951年から文化祭で行われたファッションショーなどをはじめ、過去の作品、およそ3万5000点を保管しています。

今回のファッションショーは、過去の作品をそのまま出さず、学生たちが今の感覚で向き合うことで、新たな価値を生み出してほしいと企画されました。

“自分が生まれる前のファッション”って?

ショーに参加したいと集まったのは有志の学生たちおよそ350名。1950年から2020年まで10年ずつの年代のグループに分かれ、テーマを設定しコーディネートを組み立てていきます。

1980年代を担当することになった、3年生の渡邊こころさんです。100年に1度というチャンスにスタイリストとして関わりたいと参加しました。

渡邊こころさん

70年間のアイテムが勢ぞろいするのもすごいことだし、今の学生がそれらを再解釈するというテーマもおもしろいと思いました。なかでも80年代の衣装は、かっこいいスーツがあったり、なにこれという衣装もあったりと、個性がバラバラ。そんなところになんとなくひかれて、まとめあげるのは大変そうだけどやってみたいと思いました

渡邊さんが「なにこれ!?」と一番驚いたという衣装を見せてくれました。

素材はジャージなんですけど、へんてこりんな形で癖が強くて、これが3体もあったんです。どうしようって思いました

1980年代には生まれていなかった渡邊さんたちチーム。悩んだ末に決めたテーマは「80s ディスコ」でした。当時ブームとなっていたディスコの雰囲気をコーディネートで表現することにしたのです。

すべての衣装にキラキラとしたアイテムを合わせて、ディスコらしさを表現したいと提案。

しかし、監修役で参加している卒業生のスタイリストから痛烈な一言が。

時代の理解がまだできていない

渡邊こころさん

『いろんなファッションの人たちがいたはずだから、もっとその時代の映像や写真を見た方がいい』と言われました。なんとなく光物を入れればそれっぽくなるって頭で考えたんですけど、自分が生きていない年代を再解釈してショーにするっていうのを、どうつかんだらいいのかわからなかったです

自分の思いのままに楽しむ 経験者が語る80年代

実際に80年代に学生だった人には、その時代はどう見えていたのでしょうか。

1985年から3年間、この学校に通っていた篠原公恵さん。現在はフリーランスで型紙を作るパターンナーとして、ホテルのユニフォームなどを手掛けています。

学生時代の写真を見返しながら、「80年代は自分が着たいものを自由に着て、ファッションで個性を競い合っていた」と話してくれました。

篠原公恵さん

私はDCブランドが好きだったんですが、当時はお金がなくて買えないので自分で似た服を作って着ていました。それはそれで自分に合った着こなしができて優越感があったりもしましたね

<路上で踊る竹の子族はカラフルな衣装が特徴的だった>

<1980年代 長い髪をなびかせてディスコで踊る人たち>

この時代はさまざまなファッションが花開きました。

独特なセンスの竹の子族が出現。バブル真っただ中の豊かな時代でもあり、ワンレン・ボディコンでディスコに通う人もいれば、篠原さんのようないわゆるDCブランドに憧れる若者もいたのが80年代でした。ファストファッションが流行する以前、今よりも服というものの存在価値が大きい時代だったと篠原さんはいいます。

篠原さん

いろんな洋服屋さんがあって、いろんな人も歩いていたし、人といかにかぶらない洋服を買えるかっていうのが重要でした。ウインドウショッピングするときもすごく楽しくて、夜遅くまでキラキラしている感じの時代でした

令和の私が思う80年代

80年代の社会の雰囲気を改めて調べていた渡邊さん。当時の映像や写真を見れば見るほど、いまの自分たちには想像できないくらい「自分の思いのままに生きる」というマインドが強かったのだと感じたといいます。

自分たちの世代との間に感じた距離感のなかに、渡邊さんは新しい価値を見いだそうとしていました。

渡邊こころさん

今の時代はコロナなどいろんな問題を抱えているけど、80年代はもっとはっちゃけてて、忘れて踊るみたいな。どんなに派手な格好していてもそれがいいっていう時代で、ちょっとうらやましいなって。私からしたら80年代はファンタジーの世界。こんなキラキラした時代があったんだ、今はこんな人いないよなって。おとぎ話みたいにしたら面白いかなって思いました

ファンタジーという言葉にたどり着いた渡邊さん。自分が思う80年代をコーディネートに落とし込んでいきます。

この時代特有の肩パッド。通常は1枚入れて使うものですが、これでもかというほど大胆に詰め込み、あえて不自然な肩のシルエットに。架空世界のキャラクターのように見せるのがねらいです。

原宿の竹下通りにも毎週のように訪れ、より個性的なアイテムを探しました。

ひとつひとつのアイテムを吟味するまなざしの先には確かなイメージが見えているようでした。

見いだした“新しい80年代”

そして、ショー当日。渡邊さんが手がけた80年代のスタイリングです。

大きなロゴがポイントの衣装。ディスコの雰囲気をより派手に表現するために、メタリックなロングブーツと、グローブまで合わせました。

そして悩んだジャージの衣装。肩のシルエットを不自然なほど誇張して、まるでおとぎ話の登場人物のような雰囲気に。「自由すぎてもいい!」自分たちとは違う感覚への憧れが表れた1着になりました。

会場には80年代の卒業生、篠原さんが見に来ていました。

篠原さん

ポップな色使いで目立つ感じが懐かしかったです。でもそのまんまではなくて、昔の名残を残しつつ今っぽくなっている。よくできているなって、また流行ってほしいなって思いました

帰り際、観客を見送る渡邊さんと篠原さんが初めて対面しました。

渡邊さん:80年代のスタイリングを担当しました

篠原さん:私のころの元気なカラーリングがすごく懐かしくて、楽しかったです。頑張ってください。

渡邊さん:ありがとうございました。

渡邊さんは、自分の手を加えることで作品に新しい価値を生み出すやりがいを感じていました。

渡邊さん

100年の歴史を衣装を通じて学んで、深いものなんだなって感じましたし、いまから先のファッションを作っていけるような人になりたいと思いました

ファッションの過去の流行は繰り返すとよく言われています。でもいつも少しずつ“今っぽさ”が加わって見えるのは、現代の立場から過去に向き合い、いまだからこそ響く新たな価値があると見いだされているからなのだと改めて気づきました。

強くなりたい、優しくありたい、楽しく過ごしたい。さらには持続可能性やジェンダーフリーなど「こうありたい」というメッセージを表現できるのもファッション。

最近同じような服ばかり着ている…と悩む私のような皆さん、自分がいまどうありたいかをヒントに身に着けるものを考えてみてはいかがでしょうか?