着けて!自転車ヘルメット

NHK
2023年3月1日 午後0:13 公開

ことし4月から、利用者の着用が努力義務となる自転車のヘルメット。
事故のデータから見ても、着けた方が明らかに身を守ることができます。
あなたの周りにも「でもヘルメットなんて…」とためらう人、いませんか。
ぜひ、着用を!

【4月から努力義務化】

道路交通法では、13歳未満の子どもを自転車に乗せる場合、保護者がヘルメットをかぶらせるよう努めると規定されています。これに加えて、ことし4月以降は、自転車を運転する本人がヘルメットをかぶるよう努めなければなりません。

いわゆる「努力義務」というものです。罰則はありません。

ただ、警察は「自分の命を守るためには必要。ヘルメットをしていないと大けがするなど重大な結果につながるので、少しでも早く着用を」と呼びかけます。

【未着用は高い死亡率】

背景にあるのが、ヘルメットを着けない場合に死亡する割合の高さです。

警察によりますと、県内で去年までの10年間、自転車に乗っていて死亡やけがをしたのは1万3693人でした。

このうち、着けていた人は1572人。およそ1割にとどまります。

さらに分析したところ
▽「着用者」は死傷した1572人のうち死者は4人で0.25%でした。
一方、▽「未着用者」は死傷した1万2041人のうち死者が142人で1.18%でした。

重大な結果を招きかねないことを示す別のデータもあります。
こちらも警察のまとめです。

県内で去年1年間に自転車に乗っていた人のうち、事故で18人が死亡しています。
いずれも20歳以上で、全員がヘルメットを着用していませんでした。
そして、このうちの7人の主な死因は「頭部のけが」でした。

また、908人がけがをしています。
状況がわからなかった2人を除いて、▼「着用者」は▽重傷が12人、▽軽傷が116人だったのに対し、▼「未着用者」は▽重傷が141人で▽軽傷が637人でした。

自転車の事故は出会い頭や右左折時の衝突が多いそう。

警察は自転車で交差点に進入する場合、▼スピードを落として、▼一時停止をし、▼周りの安全をしっかり確かめてほしいと呼びかけています。

【シェアサイクル】

法律の改正を受け、新たな対応を検討しているひとつが「シェアサイクル」です。
岡山市内で442台が走るシェアサイクル「ももちゃり」の利用者に話を聞きました。

習い事に行くのに利用しているという女性は「ヘルメットを導入してほしい。道が狭くて、学生と一緒になる時間帯で交通量も多いので、怖い思いを何回かしている。自転車かごにヘルメットを置いてもらえるとありがたい」と話していました。

また、通学に利用する男性は「自転車と一緒に備えてあったらどうせ持って行くことになるので着けると思う」と話していました。

観光で利用したという女性は「私はあまり気にしないが、髪型を気にかけている方は形が変わってしまうのと、夏場で暑くなると嫌だと思う。いろんな人が使うことを考えると、汗臭さなどにおいが気になって絶対に使いたくない人もいると思う」と話していました。

岡山市交通政策課の担当者は、「関係機関と連携し、自転車利用者のヘルメット着用を定着させるよう普及啓発に努めていきたい」と話しています。

一方で、ヘルメットの共有については、▼頭のサイズが一致しないことによる安全面での課題や、▼利用への抵抗感の原因となる衛生面での課題、▼無人のポートで盗難を防がなければならない管理面での課題があるとしていて、基本的には自分の体にあうものを準備して自転車に乗ってほしいと説明します。その上で、「観光客や持参が難しい人のために、人がいる事務所でのヘルメット貸し出しを検討したい」としています。

【通学の学生たち】

努力義務の新たな対象となる13歳以上の人たち。
県教育委員会によりますと、県内では中学生の場合、校則でヘルメットの着用を決めている学校が多いとのこと。

自転車通学の学生たちはどう考えているのでしょうか。

岡山市北区の就実高校・中学校は、およそ2000人の生徒がいます。
その半数、およそ1000人が自転車で通学しています。

学校の生徒指導課によりますと、▽中学校では校則でヘルメットの着用を義務づけていますが、▽高校にはそのような校則がありません。

高校2年生の女子生徒は「ヘルメットを持っていない。強制だったら着けるが、努力義務だったら事故しないように気をつければいいと思う。頭が守られるのはいいが、髪がぐちゃぐちゃになったり汗臭くなったりするのが嫌だ」と話していました。

同じく高校3年生の男子生徒は「今まで着けずにきて何も起こらなかったので大丈夫かなと思う。邪魔にならないヘルメットだったらいいと思う」と話していました。

一方で、中学生からはこんな意見も。
2年生の男子生徒は「自分のヘルメットはシュッとしていてかっこよかったので、お父さんに買ってもらった。事故が全くないとは言い切れないので、努力義務だとしても着けたほうがいいと思う」と話していました。

3年生の女子生徒は「学校の校則で決まっているのでかぶっている。少しふらっとしたり、雨の日に点字ブロックで滑ったりしたときにあってよかったなと思った。春から高校生になるので校則上では着けなくてもよくなるが、努力義務や安全面を考えるとこれからも着け続けたい」と話していました。

学校では、法律が変わることもあり、生徒たちにしっかり着用するよう呼びかけていくことにしています。

【通勤や仕事中は】

通勤や仕事中に自転車を使う人の場合どのような影響が出るのでしょうか。

交通事故や労働災害に詳しい岡山市の佐藤弘一弁護士に話を聞きました。

まず、ヘルメットを着けずに事故を起こした場合、運転していた人の責任については「努力義務なので影響は少ないと思うが、過失の割合が重くなる可能性もある」と指摘します。

また、「社員が通勤中にヘルメットを着けずに事故した場合には原則、企業の責任は発生しないが、配達など業務中の非着用で事故を起こした場合は、理論上、責任が発生する」と話しました。

ヘルメットは頭を守るうえで重要なものでみんなにかぶってもらえるよう環境を整えていくことが大事だとして、「自転車事故は大きな事故につながりやすいことや、死亡しなくても重い後遺障害が残る場合があることなど、国や警察、行政がヘルメットをかぶる理由をどれだけ説明できるかにかかっている」と述べました。

【独自条例を制定する岡山市】

NHKは今回、県内のすべての市町村に自転車のヘルメットについて取材しました。
すると岡山市は3年前の4月に独自の条例を施行していることが分かりました。

岡山市の条例では、▽保護者は6歳未満の子どもに対して、自転車に乗せたり、1人で運転させたりする場合、ヘルメットをかぶらせることが義務になっています。また、▽事故時に備えて、18歳以上の人は保険への加入が義務づけられ、未成年者は保護者が加入しなければなりません。岡山県も「ヘルメット着用の普及啓発を進めていきたい」としています。

【取材を終えて】

「ヘルメットはかぶるのが当然」という空気を社会に浸透させるためには、幼少期からの教育が必要だと取材をする中で感じました。ただ、それはどうしても長い目で見た話になってしまいます。一刻も早く死者を減らす上で何より大切なのは、“大人”のわれわれが“今”ヘルメットをかぶり始める姿勢をとることだと思います。私はヘルメット、発注しました。
(岡山放送局記者 美濃田和紅)