「きょうぐらいは堂々とつけてもいいよね」と話して結婚指輪をはめた2人。
笠岡市内に住む女性2人は、ことし4月、市役所でパートナーシップを宣誓しました。
同性のカップルなどを結婚に相当する関係と自治体が認めるこの制度の導入が岡山県内でも広がっています。
(岡山放送局・冨士恵里佳)
【8年前に導入 広がる制度】
同性どうしなど、性的マイノリティーのカップルを結婚に相当する関係と認める「パートナーシップ宣誓制度」。
宣誓したカップルは、自治体から結婚に相当する関係と認められ、公営住宅への入居など、公的なサービスの一部を法的に結婚している場合と同じように受けられます。
この制度は8年前に東京の渋谷区と世田谷区で初めて導入されて以降、全国的に広がりを見せています。
現在、県内では岡山市や倉敷市など11の自治体が導入しています。
性的マイノリティーの当事者や支援のあり方について関心があり、県内の自治体を取材していたところ、笠岡市で第1号となるカップルがことし4月、宣誓したことを知りました。
【役所にも認められた喜び】
笠岡市の第1号のカップルに話を聞くことができました。
宣誓したのは市内で暮らす女性2人。実は、あまり期待しないようにしていたそうです。
2人は「近所の人に『あの人たちは同性愛者だ』と冷たい視線を向けられることを何よりも恐れていたので、宣誓をして万が一でも身元が特定されてしまったらと怯えていた。しかし、メールで役所の人と連絡を取り合っていくうちに、自分たちを本気で祝福してくれていると感じ、宣誓を行うのが楽しみになった」と振り返ります。
そして、宣誓を終えると喜びがこみ上げたきたといいます。
なぜなのか、詳しく聞くと、信頼できる友人や家族だけではなく、市役所に認められたことがとてもうれしかったそうです。そして、次のように話してくれました。
「これまで通り、自分たちの関係は公にせず隠して生きていくつもりだが、宣誓した日は一緒に好きなものを食べに行ったり、結婚指輪を左手の薬指にはめて『きょうぐらいは堂々とつけてもいいよね』と2人で笑ったりもした。パートナーシップ宣誓によって気持ちが救われた」。
【“早く同性婚を認めて”】
ただ、2人は不安も口にします。
「パートナーシップ宣誓制度」は、法的な効力がないことから、▼扶養手当の配偶者控除などが受けられず、相続をすることもできないほか、▼転入や転出すると自治体によっては宣誓自体が引き継がれないこともあり、運用面での改善を求める声が、自治体などからも上がっています。
2人は、「制度が整っているまちばかりではないため、引越し先も限られ、これから先の人生の選択肢が狭まり、不自由な思いをすることがあるかもしれない。もっと制度が広がったらと思う」とした上で、
「制度を導入するためにたくさんの方々が時間と情熱をかけてくださっていることを今回の宣誓を通して改めて知った。同性婚が特別なものではないことを、多くの人に知ってほしく、自分たちも伝えていきたい」と訴えています。
宣誓を見届けた、笠岡市人権推進課の重見圭一課長に話を聞きました。
重見課長は、「第1号のカップルは宣誓して帰るときに跳び上がって抱き合いながら帰っていった。制度を作って本当に良かった。抵抗なく自分のことを素直に話していける社会を作っていくことが私たちの使命なので、市民の理解が進むようさらに啓発活動をしていきたい」と話しています。
2人のように制度で救われたという人がいて、笠岡市の担当者ように、制度を作ってよかったという人がいる。
取材を通して、当事者の気持ちが尊重される社会になるため、性的マイノリティーへの理解がさらに深まることが、必要だと感じました。
【和気町では導入後すぐに認定】
「パートナーシップ宣誓制度」は、県内では4年前、総社市が初めて導入しました。
その後、▽岡山市、▽倉敷市、▽真庭市、▽笠岡市、▽瀬戸内市、▽浅口市、▽備前市、▽美作市に広がり、先月からは▽井原市と▽和気町で始まり、現在11の自治体で導入されています。
この制度で認められたカップルの数は、ことし4月の時点で▽岡山市で19組、▽倉敷市で14組、▽総社市で5組、▽真庭市と浅口市でそれぞれ2組、▽笠岡市、美作市、和気町で1組ずつの、あわせて45組いることが分かりました。
また、制度を導入したばかりの和気町では、さっそく、町内で第1号となるカップル1組が宣誓を済ませたということです。
【ファミリーシップ宣誓制度も】
「パートナーシップ宣誓制度」を導入する11自治体のうち、▽総社市、▽笠岡市、▽井原市、▽瀬戸内市、▽美作市、▽和気町の6つの市と町は、パートナーシップ制度のカップルが育てる子どもを家族として認める「ファミリーシップ宣誓制度」も導入しています。
宣誓すると▼子どもの手術に同意ができるほか、▼幼稚園や保育所への送り迎えが可能になります。なお、このファミリーシップについては、県内の自治体では現時点で宣誓した人はいません。
一方、2つの制度を導入していないほかの16市町村のうち、8市町が「導入を検討している」とか、「制度について研究を始めている」と答えています。今後、この制度がほかの自治体に広がることや、利用する人の増加が期待されています。
【まとめ】
取材した当事者の2人は、自分たちが住んでいる笠岡市に制度があることを知って、パートナーとしての道を選択できるということがとてもうれしかったと話していました。
選択できる自由がある。誰もが自分らしく生きられるように、そんな社会が広がってほしいと思います。