介護施設の防災対策と、迅速な避難に必要なこと

NHK
2023年8月27日 午後8:10 公開

出演:香川県防災士会(特別養護老人ホームエデンの丘 施設長)

古川 有希子さん

(2023年8月25日(金)放送)

災害弱者が集う高齢者施設で経験した台風災害

 今から19年前、香川県に大きな被害をもたらした台風23号を経験しました。
 私の勤める「特別養護老人ホーム」は、定員60人の、原則「要介護3」以上の方が入所する施設です。要介護3は、着替えが一人でできなかったり、トイレや入浴で介助が必要な方たちです。つまり全ての方が災害弱者で、命を守るための行動に支援が必要な方たちが集うところです。
 施設は高台の中腹にあるのですが、台風23号の際は折からの長雨も重なり、施設裏の斜面の盛土がお昼前から夜間にかけて徐々に崩落して、駐車場を埋め尽くしました。
避難が必要と判断し、市の職員さんや消防団の方の協力も得て重症者を姉妹施設に移送しましたが、12人の移動が精一杯でした。あとの方は垂直避難で対応して、ホールにベッドや布団を運び、休みました。
 翌日には電気も復旧して、避難をした12人も1週間後には大過なく元の生活に戻っていくことができました。しかし、この時の県内の被害は、死者が11人、軽傷者が28人、家屋の全・半壊が88棟、浸水家屋が1万7767棟と大きなもので、私たちの施設の崩落斜面と駐車場の復旧にも、半年を要しました。

台風の経験から備えや訓練を重視

 この時の経験が、私の「防災」を考える原動力となっています。
 支援が必要な利用者の命を守るため、まず支援をする職員の安全を確保するためにどうすべきか?
 施設の建物は堅牢であり、ハザードマップからみてもリスクは低い立地となってるため、災害時は施設内避難を基本とし、必要な「モノ」と「仕組み」を少しずつ準備していっています。
 電気・水・食糧、非常用電源の使用訓練、炊き出し訓練、地区防災会との連携訓練などを、試行錯誤しながら行うことで課題も見つかりました。こうした経験は心づもりにもなります。
 災害発生時には次々と「判断」を求められます。その時の拠り所が普段からの「備え」と「訓練」であり、それを視覚化したマニュアルやBCP、つまり事業継続計画だと思います。

介護施設のBCP・事業継続計画とヒトの大切さ

 おととし・令和3年(2021年)に、全ての介護事業者にBCPの策定が義務付けられました。
 介護サービスは、要介護者・家族等の生活を支える上で欠かせないサービスであるため、被災した場合でも生活を継続するために「出来ること」を、各事業所の立地や特性を理解して準備する必要があります。それが、介護事業者が作るべきBCPだと思います。
 また、生活を支えるサービスは「ヒト」が不可欠です。
 災害発生時に、単体の事業者で十分な「ヒト」を準備することは、とても難しいことです。だからこそ、事業者同士の繋がりや、地域住民との繋がりによる相互応援の仕組みも、業務継続のためには必要だと思います。そのような仕組みのBCPを作っていければなぁと思っています。

災害弱者をスムーズに避難させるために大切なこと

 現在の避難情報に関するガイドラインでは「警戒レベル3」で、危険区域に住む高齢者等の自主的な避難が求められています。
 過去の経験では、支援が必要な高齢者の施設の外への避難は、慣れている職員でも時間がかかりました。
 「警戒レベル3」は、実際の危険が迫る数時間から2時間くらい前を想定した情報となっていて、実際に災害が発生してからの移動の困難さを考えると、とても理にかなった設定だと思います。
特に外出や移動に手助けや見守りが必要な方は、このレベルでの避難開始が必要です。
ただ、避難情報が発令された時に、いつも家族や知人が手助けできるとは限りません。
 また、避難情報が発令された時に、いつも家族や知人が手助けできるとは限りません。「遠くの親戚より近くの他人」という言葉もありますが、普段からご近所との交流を持っておくことも、いざという時の助けになります。
 そして、どこに避難するかも決めておきましょう。福祉施設が行政の指定や協定で「福祉避難所」となっている場合がありますが、そこは基本、一般の避難所での生活が困難であると判断された方を受け入れる、二次避難所です。例えば、高齢者というだけでは福祉避難所へ直接は避難できませんので、注意が必要です。
 ラジオをお聴きのみなさんも、災害弱者である高齢者や体が不自由な方の避難について、ぜひ日頃から思いをめぐらせてみてください。