『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』原作者・天童荒太さん(その1)

NHK 写真・坂本真典
2023年9月20日 午後5:00 公開

『包帯クラブ ルック・アット・ミー!』

~戦わないで大切なものを守ることにした。これは僕らの途中報告書。~

【NHK FM】

2023年10月21日(土)・10月28日(土)午後10時~午後10時50分(全2回)

★「聴き逃し」配信あり(放送から1週間)

 天童荒太さんからのメッセージ(その1)

ラジオドラマという表現が、若い頃から好きでした。

幼い頃から毎日マンガを読んでいたし、テレビっ子だったし、映画にはまって年に二百三百という数の映画を映画館で観ていた時期もあります。

視覚から入る表現のとりこになっていました。

そんなとき、好きな作家の映像化不可能と思われる著作が、ラジオドラマになると耳にしたので、たぶん初めて意識してラジオドラマを聴き――以来、聴覚から入る表現の豊かさに魅入られました。

キーポイントは、想像力の刺激です。

俳優の姿も、町の情景も、自然豊かな風景も、敵と戦うアクションシーンも、怪獣の暴れっぷりも、アイドルスターの笑顔やキスシーンだって見られない。

すべては、耳に入ってくる登場人物のセリフやナレーションと、効果音と音楽……それだけで物語を想像するほかありません。

それはもうリスナー自身が、創造する、というのに等しいと思います。

登場人物の顔や服装も、にぎやかな町かさびれた村か、きれいな海かくすんだ空か、花の色も天気も風も、かっこいいアクシションシーンも、すごく恐ろしい怪獣や宇宙人やゾンビの姿も、そして恋人の笑顔や抱擁だって、リスナーが頭の中で、想像するしかない。だから、独自に創造もできるのです。

ラジオドラマは、実際に目にできないし、いろいろな絵的・映像的な技術も使えないので、不自由に思えます。

けれど、宇宙の果ての果てとか、誰も知らない海のずっと底や、実在しない国とか街で――物語が進むとしても、ロケに行かなくてもよく、すごいセットや、莫大なお金が必要なCGを使わなくても、リスナーが想像してくれれば問題ありません。ハリウッドですら製作不可能な、唯一無二の素晴らしい世界で、物語を展開できるのです。

でも、そんな大きな世界のことでなくても――

人と人とのささやかな感情の揺らぎや、絵にはできない心情の起伏は、目に見えない分、リスナーの心に鮮やかに響いてゆきます。

だから、ラジオドラマは、小説に似ているところがあります。

小説の読者も、頭の中でいろいろなことを想像しながら、物語を体験してゆくからです。

体験する人の、感性や経験やイマジネーションの微妙な違いによって、それぞれの物語が想像=創造されてゆきます。

ラジオドラマも、小説も、もっと多くの人に、その本当のよさを体験してもらいたいと願っています。

(その2 へ続く)

【出演者】      

高畑こと美 百瀬朔 久井正樹 八幡みゆき 

清田みくり 横山友香 米山千陽 木下政治

山縣美礼

【原作】

天童荒太

【脚色】

三國月々子

【音楽】

滝澤みのり

【あらすじ】

誰かが辛い思いをした場所に包帯を巻きつけ、人の心の痛みを共に感じようと活動を始めたワラ(高畑こと美)、ディノ(百瀬朔)、ギモ(久井正樹)ら、6人の高校生。彼らはそれぞれに傷ついた少年少女だ。苦しい時には「助けて」と声を上げてもいいじゃないか!戦わないで、傷つけないで自分自身の大切なものを守りたい、そんな思いで始めた「包帯クラブ」。あれからから16年。その活動は、「バンデイジ・クラブ」として世界中に広がっている。互いの痛みを認め合い、周囲を巻き込みながらも成長していく彼らの姿を描く。