© 篠山紀信
(演出からのひとこと)
収録前に、竹下景子さん主演の舞台「まるは食堂」を観ました。戦後間もないころ、愛知県の漁師町で魚屋を始め、食堂、旅館を一代で築いたうめさんの人生を描いたものでした。その情熱的な生き方に感動しました。今回のドラマのカケイさんは、うめさんとは一見対照的に見えます。でも、凄絶な人生の中の幸福とは何だろう?
その答えは、竹下さん演じるカケイさんの中にあると感じています。(小見山)
【竹下景子さん メッセージ】
安田カケイさんは壮絶な人生を送ってきた老女です。察するところ私の母と同世代らしい。母は昭和5年生まれだったので生きていれば92才か。その年代は誰しも生死に関わる体験を経て今に至っているわけだけれど、カケイさんの語り口にそんな影はミジンもない。エネルギッシュで朗らかですらある。
脚色の一色伸幸さんから「これは落語。救いだね」と言われた。カンナン辛苦を乗り越えた人の明るさはこれかと納得する。
オリジナルソング『うるさいのうた』も!小見山佳典さんならではの演出です。愉しい。一人語りのドラマの中で娘のみっちゃんとデュエットしましたw
これまでの知識と経験と想像力を総動員して臨んだ『ミシンと金魚』。スタッフの皆様に支えられて、役者として最高の二日間でした。有難うございました。
原作者の永井みみさんにもこの場を借りて御礼申し上げます。
『ミシンと金魚』
~あたしはいったい、いつまでいきればいいんだろう。~
【NHK FM】
2022年11月5日(土)午後10時~午後10時50分(全1回)
【出演者】
竹下景子
【原作】
永井みみ
【脚色】
一色伸幸
【音楽】
小六禮次郎
【スタッフ】
制作統括:藤井靖
技術:小林南帆香
音響効果:石川恭男
演出:小見山佳典
【あらすじ】
カケイさんは認知症を患っている。ひとり息子が二年前に亡くなったことも覚えていない。デイサービス「あすなろ」の日々は退屈だ。老人と見るなり赤ちゃん言葉で話しかけてくる人や「子どもだましのお遊び」には「馬鹿なふり」をして付き合ってやっている。年寄り扱いされてムキになるのは大抵男性で「爺さんに生まれなくて、しみじみよかった」と思う。
「カケイさんは、今までの人生を振り返って、しあわせでしたか?」
ヘルパーの“みっちゃん”からそう尋ねられ、カケイさんは己の人生を語り始める。彼女の記憶に刻まれた昭和の歌は、彼女の生きた証だ。踏みミシンのきしむ音、火鉢の中で跳ねる金魚の水音…、錯綜する音と言葉の中で、カケイさんの人生が明らかになってくる。若き日のカケイさんから、老齢のカケイさんまでを竹下景子が一人芝居として演じる。