(演出からのひとこと)
一色伸幸さんは、これまでほとんどの脚本をオリジナルで執筆してきた作家です。今回、是非脚色をしたいのだと提案を受けたとき、一色さんが脚色したい本はどんなお話しなのだろうかと思いました。そして、なるほどそうかと合点しました。
音声のみのドラマだからできることがある。その一色さんの狙いに演出としても応えるべく、様々な音にこだわった表現に挑みました。(小見山)
【一色伸幸さん メッセージ】
90歳の母が認知症になり、「老い」が知識から体験に変わった。
そんなときに読んだ永井みみさんの『ミシンと金魚』は、認知症患者が語る落語といったおもむきの軽妙な小説で、僕は記憶が揺らぐ母やそれに振り回される自分たちを、ちょっと優しい気持ちで眺められるようになった。
竹下景子さんが生き生きと演じる「カケイさん」に、笑い、泣き、共感していただければ。いま、多くの人が共有すべきぬくもりが、ここにはあると思う。
『ミシンと金魚』
~あたしはいったい、いつまでいきればいいんだろう。~
【NHK FM】
2022年11月5日(土)午後10時~午後10時50分(全1回)
【出演者】
竹下景子
【原作】
永井みみ
【脚色】
一色伸幸
【音楽】
小六禮次郎
【スタッフ】
制作統括:藤井靖
技術:小林南帆香
音響効果:石川恭男
演出:小見山佳典
【あらすじ】
カケイさんは認知症を患っている。ひとり息子が二年前に亡くなったことも覚えていない。デイサービス「あすなろ」の日々は退屈だ。老人と見るなり赤ちゃん言葉で話しかけてくる人や「子どもだましのお遊び」には「馬鹿なふり」をして付き合ってやっている。年寄り扱いされてムキになるのは大抵男性で「爺さんに生まれなくて、しみじみよかった」と思う。
「カケイさんは、今までの人生を振り返って、しあわせでしたか?」
ヘルパーの“みっちゃん”からそう尋ねられ、カケイさんは己の人生を語り始める。彼女の記憶に刻まれた昭和の歌は、彼女の生きた証だ。踏みミシンのきしむ音、火鉢の中で跳ねる金魚の水音…、錯綜する音と言葉の中で、カケイさんの人生が明らかになってくる。若き日のカケイさんから、老齢のカケイさんまでを竹下景子が一人芝居として演じる。