あたふたオペラ「からめん」は、ジョルジュ・ビゼー(1838-1875)作曲のオペラ「カルメン」をモチーフにしたコメディー。ドラマの中の音楽はすべて「カルメン」の曲です。ここでは、第2回で歌われた曲を中心に「カルメン」と「からめん」の相関関係を解説していきます。
M1「とりあえず進もう」/毛利杜夫(三遊亭究斗)
保瀬の脳内オペラが「カルメン」であることを知らされた毛利。保瀬の人生が「カルメン」のストーリー通りに進んでいることに気づき、またもや気持ちを高ぶらせます。このままいくと、保瀬が軽部を殺すことになってしまうからです。「スルっと逃げても恋しても
どちらも茨の道だから とりあえず進もう」。医者のアドバイスとしてはきわめて無責任に思えるこの言葉、例によって保瀬には歌として聴こえるのですが、今回のメロディーは「カルメン」で第2幕への間奏曲として奏でられる「アルカラの竜騎兵」。第2幕の途中、カルメンに会いに行く道すがらホセが歌うのもこの曲です。ホセがこの歌を歌い終えたところで、カルメンのいる酒場に到着するのです。「からめん」においても、毛利のこの歌が終わると場面は移り、保瀬が軽部のいる酒場に到着したところからドラマが始まります。
M2「ゴマの歌」/軽部真紀(金子美香)鋤田(守谷由香) 瀬出(小泉詠子)
オペラ「カルメン」においては、ホセが到着する前にカルメンが歌い、仲間たちと踊る「ロマの歌~にぎやかな楽の調べ~」。「からめん」では、保瀬に料理の説明をする軽部の言葉が「ゴマの歌」として保瀬の耳に聴こえてきます。歌の1番に当たる部分では、「黒いゴマも白いゴマも使わず、秘密のスパイスを入れてパスタを作る」と説明。2番に当たる箇所では「白い皿も黒い皿も使わず、丼にスープパスタを入れる」。そして3番では「黒い餡も白い餡も使わず、デザートはハニートーストを作る」と打ち明けるのです。ここで、前日パトカーの中で軽部が「あした作ってあげる」と約束した「パンとスープとパスタ」が、「ハニートースト&スープパスタ」であることが明かされます。「丼を使う」アイデアも、パトカーの中で話題となった「かつ丼」から連想したに違いありません。ただし、大盛り上がりで説明を済ませたものの、新たな訪問者の登場によって、ディナーはまたもやお預けとなります。
ちなみにオペラでは鋤田はフラスキータ、瀬出はメルセデスです。
M3「どれだろう?」/石神理央(上原理生)軽部真紀(金子美香) 鋤田(守谷由香) 瀬出(小泉詠子)
新たな訪問者はミュージカル俳優の石神理央。「カルメン」における闘牛士のエスカミーリョです。ただ、エスカミーリョが闘牛界のスーパースターで、皆からもてはやされながら「トレアドール(スペイン語で闘牛士の意)!」と歌い上げるのに対し、石神理央が語るのは、役名もない大部屋俳優のエピソード。「(俺のズボンは)どれだろう?」と嘆くのです。それが、保瀬の耳には自信たっぷりのスターの歌として聴こえてくるのだから不思議なものです。
実はオペラ「カルメン」においては、この「闘牛士の歌」もホセが到着する前の酒場で歌われる歌。第2幕ではホセとエスカミーリョは出会いません。2人が顔を合わせ、決闘を繰り広げるのは、第3幕での出来事となります。
『あたふたオペラ「からめん」』(全5回)
~一流歌手達が演じる 「なんとなくカルメン」!? な音楽喜劇~
【NHK FM】
2022年8月1日(月)~8月5日(金) 午後9時15分~午後9時30分(1-5回)
★「聴き逃し」配信あり(放送から1週間)
【出演者】
又吉秀樹 金子美香 鵜木絵里 上原理生
野間口徹 吉増裕士 三遊亭究斗
小泉詠子 守谷由香 街裏ぴんく 細井じゅん
NHK東京児童合唱団
【作】
萩田頌豊与
【スタッフ】
制作統括:湯木和則
技術:大神真樹
音響効果:新井未央
演出:藤﨑謙
【あらすじ】
巡査 保瀬(又吉秀樹)は、興奮状態の人の話が歌になって聞こえてくる奇妙な症状に悩んでいた。彼は幼馴染 美香(鵜木絵里)と遠距離恋愛中だったが、妖艶なラーメン店主 軽部(金子美香)と知り合う。軽部の言葉が美しい歌として心に響くのに対し、美香の話は歌に聞こえない。美香の愛を疑う保瀬。そんな中、ラーメン店で客のトラブルが頻発。保瀬の同僚 森(野間口徹)は、店の名物「辛麺(からめん)」に興奮作用を促す違法成分が混じっていると推測、保瀬に調査させる…。保瀬、軽部、美香、そこにミュージカル俳優 理央(上原理生)も加わった複雑な恋の行方は?辛麺の正体とは?「カルメン」の名曲が滑稽な日本語詞で歌われる異色のコメディー。