3/6(月)から二週にわたって放送の『昼も夜も彷徨え』、今日から出演者の皆さんのメッセージをお届けしてまいります。トップバッターは、主人公モーセ・ベン・マイモン役の成河さんです。
【成河さん】メッセージ
『コトバの持つ力』というもの、その希望と、そしてその怖さを、深く考えさせてくれる作品です。僕も普段えんげきなんてやるものですから、『コトバの力』を信じて信じて信じ抜くわけですけれども、残念ながら世間では、コトバの持つ「負の力」の方が俄然、猛威を振るっておるわけです。
コトバとは氷山の一角のようなもので、その下にある、想いや、思慮を読み取るためには、実はある程度の訓練が必要で、丁寧に作られた物語は、その楽しい訓練に満ちています。文学しかり、えんげきしかり、ラジオドラマしかり、丁寧に作られた物語は、想像する、ということに働きかけます。実は少しだけ面倒な作業だったりもするから、今の時代には敬遠されがちです。
でも、コトバはそれだけでは何の力もなくて、発する側の想いと、受け取る側の想像力、それが働いたとき、とてつもない力を発揮して僕たちをグンと前に進めてくれる、そのことを、もう一度、信じさせてくれる、そんな作品です。
「えんげき」を主戦場として、コトバによる表現を練り上げてきたツワモノである成河さん。これまでオーディオドラマでは、「白狐魔記」シリーズや『武揚伝』など日本史上の様々な場面に立ち会う役をお願いしてきました。今回は12世紀の地中海世界をさまよいながら知の格闘を繰り広げた実在のユダヤ人思想家の役です。
言葉が及ぶ範囲の限りを尽くし、ついに言語化し得ないかもしれないナニカを、しかし言語を以て表現しようと限界まで試みること。……そう書くと、なんだかわけがわからないムズかしい話のようですが、中村小夜さんが書かれた『昼も夜も彷徨え-マイモニデス物語-』は、そういう主人公の葛藤や苦悩を、胸が締めつけられるような感情の物語として色鮮やかに手渡してくれます。
しっかり試行錯誤や相互理解のための稽古期間が設けられる舞台と異なり、ほとんど1~2回の読み合わせを経てジャズ・セッションのようにお芝居を録っていくオーディオドラマに、実際のところ「えんげき」の申し子のような成河さんが、どんな心持ちで参加して下さっているのか、ゆっくり伺ったことはありません。でも、お互い集中力が高まった中で交わすやりとりは、しびれるような快い興奮をもたらしてくれます。つまるところ、主人公モーセの心の旅をともにするなら、成河さんしかいない、と思ったのです。どうぞ皆さまもご一緒に……。
『昼も夜も彷徨え』キャストボイス、次回は咲妃みゆさんからのメッセージをお届けいたします。
『昼も夜も彷徨え』(全10回)
~僕はいつも、兄さんを守れるのは僕だけだって思ってた。~
【NHK FM】
2023年3月6日(月)~3月10日(金) 午後9時15分~午後9時30分(1-5回)
2023年3月13日(月)~3月17日(金) 午後9時15分~午後9時30分(6-10回)
★「聴き逃し」配信あり(放送から1週間)
【出演者】
成河 咲妃みゆ 入野自由 渡辺大輔
川口覚 土井ケイト 塩田朋子 清水明彦
今泉舞 大滝寛 外山誠二 粟野史浩
福長里恩 野地祐翔
【原作】
中村小夜(『昼も夜も彷徨え マイモニデス物語』)
【脚色】
並木陽
【音楽】
関向弥生
【スタッフ】
技術:大塚茂夫
音響効果:太田岳二 横山健太
制作統括と演出:藤井靖
【あらすじ】
時は12世紀半ば、十字軍の時代。北アフリカ、マグリブ地方では異教徒にイスラーム教への改宗を強要するムワッヒド朝の下、ユダヤ教徒たちが息を詰めて暮らしていた。高名なラビの息子である若き学者モーセ(成河)は、医学や様々な学問に興味を持ち、父や妹たちを呆れさせているが、弟ダビデ(入野自由)は兄を深く理解し、彼が学問に専心できるよう心を砕いていた。心の拠りどころとなるはずの宗教が弱い立場の者を抑圧する矛盾に、強い意志と知の力で闘いを挑むモーセが放つ言葉は、やがて地中海を超え一人の傷ついた少女ライラ(咲妃みゆ)のもとに届き……。中世の精神史に大きな足跡を刻んだ学者の精神の彷徨を想像力豊かに描く。