やさしイノ『学校と外国人家庭をつなぐ “連絡帳”』

NHK
2022年2月1日 午後4:53 公開

〇教育現場で注目!『多言語の連絡帳』

「遠足の持ち物」に「授業参観の案内」。
学校と各家庭の間では、
日々、様々な連絡が行き交っています。
でももし、言葉が分からず、学校から届く
プリントやメールを読めなかったとしたら・・・
子どもたちの学校生活が
大きな困難を伴うものになることは、
想像に難くありません。

全国の小中学校で、
日本語の指導を必要とする
外国籍の子どもの数は約4万人。
この6年で1.5倍に急増しています。
学校と外国人家庭の
コミュニケーションが課題となる中で、
学校から家庭へのお知らせを
さまざまな言語に翻訳する連絡ツール
『多言語の連絡帳』が開発され、実証実験が
全国およそ60の学校で行われています。

使い方はとても簡単です。
例えば「インフルエンザによる学級閉鎖」の
連絡をする場合は、

まずプルダウンメニューで
①「緊急・変更」、②「休校」、
③「インフルエンザによる学級閉鎖」と
3段階で選択。
これで、あらかじめ登録されている
250種類以上のお知らせ文の中から
使用する連絡内容が決まります。
さらに『提出物の期限』
『注意事項』なども設定可能。
あとは先生がお知らせを送信すると、
各家庭が希望する言語へ自動的に翻訳され、
保護者にメールで届きます。

この連絡帳は、日本語、英語、
ポルトガル語、ベトナム語など
9つの言語に対応しており、
実際に使った先生からは
「自分が連絡を送ると
外国人の家庭からも反応があり、
『伝わった』という実感がある」と好評です。

〇開発秘話 ある少年との交流が出発点

この『連絡帳』を開発したのは、
宇都宮大学客員准教授の
若林秀樹(わかばやしひでき)さんです。
もともと中学校で英語を教えていましたが、
30年ほど前から学校で外国人の子どもが増え、
その後、自身も日本語指導を
担当することになりました。

初めて担当した子どもたちの中に、
忘れがたいブラジル出身の少年がいました。
最初は全く言うことを聞かず、
授業中も騒いでばかり。
頭を抱えた若林さんは、
意を決して辞書を片手に家庭訪問をしました。
片言のポルトガル語で話すと、
母親は学校で何が起きているのか
察してくれた様子でした。

次の日・・・効果はてきめんでした。
やんちゃだった少年の態度が一変したのです。

「僕が家に行って話をしようと努力したことで、
おそらく親の不安を安心に変えることができた。
それで子どもに
「明日から先生の言うことを絶対聞きなさい」と
言ってくれたと思うんです。」(若林さん)

学校と保護者がしっかり連携することの
大切さを実感したこの経験が、
20年以上の時を経て、
『家庭と学校をつなぐ連絡帳』に
つながっています。

若林さんはその後、
大学に身を置いて
外国人の子どもの教育について研究を続けました。
そして、学校と外国人家庭をつなぐ
「多言語連絡帳」を開発。
2019年に総務省が行ったコンテストで
最優秀賞を受賞しました。

〇外国人の子どもたちをめぐる新事情

日本で暮らす外国人は、
かつては工業地域などに
同じ国の出身者が集まって
「集住」するケースが多くみられましたが、
最近は、外国人家族の
居住する地域が広がり、
「散在化」が進んでいます。
また、その国籍も多様化しています。

このため新たに外国人の子どもを
受け入れる学校も増加しています。
「集住」地域で外国人の子どもが多ければ、
通訳を務める支援員を配置するなどの
対応を取っていることが多いですが、
「散在」地域で、在籍する子どもが
1~2人という学校で同様な対応をするのは
人材や予算の確保に困難を伴います。
担任の先生たちが個別に工夫しながら
対応しているケースも少なくありません。
外国人家族の「散在化」という変化の中で、
この連絡帳のようなツールのニーズは、
ますます大きくなりそうです。

〇多言語連絡帳が、 学校の業務効率化に役立つ!?

実証実験が始まってまもなく1年。
参加校の先生から
「外国語に限らず、
連絡文書を簡単に作成できて便利」
という声が寄せられています。
このツールでは新たに作文をする必要がなく
定型文を選ぶだけなので、
外国語のみならず日本語で連絡を行うときにも
業務をスピーディーに行えるというのです。

学校から家庭への文書は、
年間400通に上ることもあるといいます。
若林さんは、多言語連絡帳を、
外国人の家庭のためだけでなく、
教員の過重労働という課題の解決にも
役立てていきたいと考えています。

「外国人に役立つものは日本人にも役立ちます。
技術を用いて、
誰もが壁なくコミュニケーションをとる
環境を普段から創出できれば、
多言語の子どもが突然入学しても
安心して対応できる。
言語という特別が普通になるよう
広い意味で学校や家庭を
サポートするのが連絡帳の役割です。」
(若林さん)

若林さんは現在、
実証実験に参加する学校を回り、
使い心地や要望の聞き取り調査中。
改善点を反映させて、
2022年4月からの実用化を目指しています。

「少数派といわれている
多言語で困っている人たちに
『これを使えば解決するよ』
というものを誰かが作らなければいけない。
僕は小さい数字に目を向けるべきだと思う。
そこを改善していくことは、
やがて社会全体を
変えていくことにつながると思うのです。」
(若林さん)