南海トラフ巨大地震、聞いたことはあるけど実際のところよく分からない!
NHKに寄せられた疑問について、南海トラフ巨大地震の国の検討会委員で名古屋大学名誉教授の福和伸夫さんに答えていただきました。
厳しい現実を知ることが、命と暮らしを守る第一歩です。
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Q:地震と津波以外のリスクにはどういったものがある?
A:いっぱいありますね。土砂災害、火災、液状化など。
(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)
(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)
また、津波が来なくても、地震によって堤防が壊れてしまったら海抜ゼロメートル地帯は浸水します。また、水道管が壊れたら断水します。水がなくなると発電もできなくなりますから、停電することも考えられます。
病院に輸血用の血液や薬が届かなければ、手術や治療ができなくなってしまいます。このように、地震や津波によって直接的に命を落とすだけではなく、電気、ガス、水道、物流などが途絶することによって命を落とすことも想定して対策を進めていく必要があります。
Q:インフラやライフライン、物流はどうなる?
A:災害時に緊急車両が通る主要道路沿いにも、耐震化されていない建物が残っています。道路が塞がれる可能性は極めて高い。復旧させるには膨大な数の建設作業員と重機が必要です。すぐに物流が回復するとは思わないほうがいいです。
また、火力発電所は基本的に海辺の埋め立て地にあるので、相対的には災害危険度が高いところです。発電所の安全性を点検して発電を再開するためには、多くの苦難を伴います。さらに、役所や病院という防災拠点の通電を優先しないといけないので、一般家庭に電気が来るのには相当な時間がかかることは覚悟しておいてほしいです。
(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)
日本各地で、食料や薬などの物資不足が起きると思います。例えば、東名高速が止まってしまったら物資が各地に届かなくなる可能性は極めて高いですね。
Q:避難生活が不安です。
(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)
A:避難生活ははっきり言って過酷です。避難所はおそらく足りないと思いますし、避難物資も足りないと思います。国民の半分が被災しますから。
避難所に行かなくてもいいような備えを事前にしておいてほしいですが、プライバシーも確保しつつ避難をする方策としては、車中泊(ただしちゃんと足を伸ばしてください)やテント泊もいいかもしれません。
ただ、仮設住宅も足りないので、自分の家を守ることが本当に大事なんです。
Q:災害に関する正しい情報はどこで得られるでしょうか?
(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)
A:信頼できる人、あるいは信頼できる情報入手先を探すことが大事ですね。向こうから勝手にやってくるプッシュ型の情報に関しては、信頼度が高い組織が出してくるものを気にしていてください。ある程度信頼できる機関が出してくる情報や、マスメディアのようにチェック機能が働いている情報などですね。それから、自分で調べる、プル型の情報については自分で普段から大事な情報源はどこか知っておきましょう。災害時に見に行く情報源を普段から探しておいてください。
SNSによって非常に便利になりました。だから、情報が当たり前に流れるようになったと勘違いしていますが、実はSNSは通信インフラが被災したら終わりなんです。電気とアンテナさえあれば大丈夫なラジオは欠かせないですね。
Q:国や自治体の備えは進んでいるんですか?
A:防災に関係する部局は頑張っていて、津波避難タワーの建設や、津波避難ビルの指定などは進んでいます。だけど、抜本的にやらないといけないこと、例えば土地利用の見直しとか、あるいは建物の耐震化、災害医療の見直し等については進んでいません。
防災の日常化とか防災の主流化ができていないことも大きな問題です。小中学校の防災教育はスタートしましたが、でもじゃあお父さんお母さんはその気になっているでしょうか。国民全体の意識が上がっているでしょうか。防災意識を高めるためには、体で納得できるような教材づくりが必要だと思っています。私もたくさん作っていますよ!地域の歴史を学ぶことも大事なので、特に地域主体の官民連携が災害被害の軽減につながると思います。
(動画:福和先生考案の教材 映像提供:応用地震計測)
私たちはいろいろなインフラに頼って生きていて、個々で生きていく力が減退しています。小さな災害であれば公の力でなんとかできるようになりました。しかし南海トラフ巨大地震のような大きな災害では公の力が足りない、だからこそ自分たちで備えていかなければいけないのです。
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福和先生Q&A第2弾では、いざというときの行動について教えていただきます。今からできることもたくさんあります!(第2弾は近日公開)
[聞き手 静岡放送局ディレクター 中村みゆき]
▼南海トラフ巨大地震に関する詳しい記事はこちらにも↓