ロシアによるウクライナへの侵攻からまもなく1年。しかし戦争終結の道筋はいまだ見えていません。かつて2度の世界大戦を経験した人類は、その反省から「国際連合」を創設し、「安全保障理事会」が“平和の番人”となって、戦争や紛争を防止する役割を担うはずでした。
ところが、安保理の常任理事国であるロシア自らが国連憲章を破るという暴挙を前に、そのシステムが根底から崩れ「対話の場」は「分断の舞台」へと変貌しています。国連はなぜ機能不全に陥ってしまったのか。対話による事態打開の可能性はないのか。そしていま、国連にできることは何か。
国際秩序を「大国の興亡」の視点から読み解き、国連の過去と未来についても研究してきたイェール大学教授で歴史家のポール・ケネディ氏に河野解説委員長が聞きました。
〈国連はロシアをなぜ止められないのか〉
Q:いまウクライナで戦争が続いています。そんな中で国連は機能していると思いますか。
国連は予想通りネガティブな形でのみ機能しています。残念ながらそれは1945年に国連の創設者たちが予期していたことです。どういうことかと言いますと、安全保障理事会(安保理)の活動である「平和維持」や「戦争を終わらせること」といったことはすべて、国連の仕組みを通してのみ機能するということです。そしてその国連の仕組みとは、「大国の考えが一致している場合、そして拒否権の発動によって他の大国の意図を妨害しない時にのみ、そうした活動が機能する」ということなのです。国連憲章の草案を起草した1人であるイギリスのグラドウィン・ジェブは「残念ながら国連が発足する」と言ったとされています。
今、大国の1つであるプーチン大統領のロシアが他の国を侵略しています。この問題は安保理に持ち込まれ、国連の仕組みに従って、大国はこの問題を安保理の場で協議します。他の大国はロシアに軍事行動の停止を求めます。しかしロシアは安保理で拒否権を持っておりそれには合意しません。ひょっとしたらロシアで体制の変更があったり、プーチン大統領が反省したり悔いたりして、安保理を通してウクライナの状況を変えることに合意するかもしれませんが、今のところロシアにそんな気はありません。ロシアは5大国の1つです。拒否権を持っています。残念な話ですが、拒否権を持つ1つの大国が仲介を拒んでいるという意味で、皮肉にも国連憲章どおりに機能しているのです。
Q:こうなることは想定内だったということですね。
国連の創設者たちは1930年代の国際連盟の失敗から教訓を学ぼうとしました。 国際連盟からは多くの国が脱退しました。彼らが至った結論は、「国益に絡む問題に関しては大国に拒否権を付与しなければならない。積極的な役割を与えるということでなく拒否権を付与する」ということでした。
大国の1つが利己的なやり方で拒否権を発動した時、国連のシステムは機能しているということになります。国連の創設者たちにはそうなることが分かっていました。その当時引き合いに出されたアナロジーは「サーカスのテント」というシンプルな比喩でした。つまり1頭の動物がテントから出るよりすべての動物をテントの中に留めておいた方がマシだという考え方です。
アメリカだから拒否権を持つ、中国だから拒否権を持つ、プーチンのロシアだから拒否権を持つ、そういう考え方をせざるを得なかったのです。残念ですがそこはどうしようもなかったので、そういうシステムにしたのです。ですから今、ロシアは国連の枠外ではなく枠内にいます。
(拒否権を持つ常任理事国のひとつであるロシア)
Q:ロシアは今も国連の枠内にいますが国連憲章に違反しています。しかもロシアは安保理のメンバーです。安保理のメンバーが国連憲章に違反して隣国を侵略しているという現実をどう理解したらよいのでしょうか。
ご指摘のように、「他国の主権を尊重する」という国連憲章の定めを、拒否権を持つ大国が無視するなんてあり得ないですし間違っています。プーチンのロシアは憲章を無視してウクライナに侵攻しました。ロシアは平和を破壊して国際法に違反しています。
問題は、大国による違法な行為に歯止めをかける術は、戦争の威嚇をするか戦争をする以外に方法がないということです。ウクライナは拒否権を持つ大国による侵略を受けています。しかし拒否権があるので国連の仕組みを使って対応することができません。そこで欧米諸国はウクライナに対する武器援助を継続しているのです。航空機、戦車、機関銃、火砲などを供給することによって戦争の拡大を防ぎつつ、ウクライナがロシアを打ち破ることを願っているのです。
Q:そこが限界なのですか。
国連の仕組みを蹂躙した大国が、外交交渉に応じて妥協して撤退するという手順を踏むならばそれが解決策になるでしょうし、そうなるかもしれません。ロシアがこの状況から抜け出さねばならないと判断したなら、国連事務総長の仲介を要請する可能性があります。国連事務総長の仲介がこの苦境から抜け出るための1つの可能性です。そのためには無謀な(侵略行為を行った)大国(ロシア)が譲歩することが前提となります。
Q:常任理事国であるロシアが国連憲章に違反して国際秩序に挑戦したことは、国連の将来にどんな影響をもたらすと思いますか。
悪い影響を与えるという以外に言いようがありません。ロシアが方針を変更して安保理に協力的にならない限り悪い影響しか考えられません。拒否権を持つもう1つの国、例えば独自路線を行く中国ならば「これは自分の領土だと大国が決めたら誰も口をはさむことができない」という結論を引き出しかねません。
自己中心的な3つの大国が安保理で拒否権を持っています。残念ながらそれが現実です。アメリカ、ロシア、そして中国です。これらの国は自らの国益にかなうことであれば賛成します。例えば西アフリカの人権危機問題が安保理の議題になったとしましょう。シエラレオネのような例です。安保理にいる大国は「国連平和維持部隊の派遣に何の問題もない。我が国の国益に何ら影響がない。だから派遣に賛成する。拒否権を行使しない」と言うでしょう。それが悲しい現実です。大国に大きな悪影響がない場合のみ安保理が機能するということです。
〈「“ロシア排除論”では問題は解決しない」〉
Q:ウクライナのゼレンスキー大統領はロシアを国連安保理から締め出してさらに国連から追放することを求めています。このことについてどう考えますか。
それはあり得ません。ゼレンスキー大統領の言い分は「偽善的な国がこのような間違いを犯している。国際法に違反している。だから安保理から追放するべきだ」というものです。大統領の歯がゆい思いからその声明が出ていることは十分理解できます。私が「あり得ない」と言ったのは先ほどお話ししたように、国連への加盟や安保理構成国の仕組みも定義も、ロシアを安保理から締め出すようには作られていないのが理由です。
そもそもロシアの国連大使が拒否権を行使するでしょう。安保理からのロシア追放を提案したなら、そしてロシアが交渉を拒否する限り安保理への参加資格を停止するという提案をしたならば、イギリスはこれを支持するかもしれません。安保理の協議はその後どうなるかと言うと、国連事務総長が安保理を構成する15か国にこの提案を提示するという流れになります。次に15か国の大使による投票がありますが、その段になってロシアの大使は「ニエット!(ロシア語でノー)拒否権を発動する」と言うでしょう。つまりロシアの追放はあり得ないということです。
大国の特権という偽善の一例をお話します。国連の加盟国、つまり国連総会に席を持つ、ならず者国家が悪いことをしたとします。すると安保理の緊急会合が開かれて、5大国の賛成を得て多数を獲得することが出来れば、そこでならず者国家に対する決議が可能になります。しかしゼレンスキー大統領が主張していることは不可能です。国連の仕組みがそれを許さないのです。
Q:5大国の追放は不可能ということですね。
そうです。そういう仕組みになっていません。ロシアのような拒否権を持つ国が「拒否権を発動する」と言えばそれで終わりです。1945年に(国連創設に関わった)各国の大使は帰国の途の機上で次のように語ったことでしょう。「全力を尽くしたが、すべては5大国が前向きの姿勢を示して抑制を受け入れ規則に従うことにかかっている。そのうち1か国でも規則を尊重しなければそれを強制することはできない」と。
〈“大国同士の戦争回避を優先” 国際秩序の悲しい現実〉
Q:別の観点から見ると、考えが異なる国同士が常に対話をすることに意義を見いだすべきなのでしょうか。
それが(国連の)論理でした。中国がチベットでやっていることは反対ですが、だからと言って中国が国連を脱退したり安保理から離脱したら困ります。中国には安保理や国連に留まって欲しいのです。そして来年もしくは再来年にチベット問題で協議することが出来ることを願うのです。大国を「サーカスのテント」に留め置く必要があるからです。
なぜなら大国にテントを出ていってもらっては困るからです。一方的な行動に出て将来戦争になることを恐れるからです。釈然としないことは理解できます。しかし例えば国益を盾にアメリカが中米で愚かなことをしているとしましょう。その場合アメリカと戦争でもしなければできることは何もありません。ロシアが国境地帯で行動を起こして、「これはロシアの国益だ。いつでも拒否権を発動する構えだ」と言ったならば、残念ながら私たちに出来ることは何もありません。なぜなら核の時代にあって大国の平和を維持することの方が、大国に泣かされている小国の権利を守ることより重要だからです。
これが現実です。非常に悲しい現実です。「国際秩序を維持し核戦争や大国同士の戦争を回避する」という表現を私は使いましたが、このことは「大国に泣かされている」という小国の訴えよりも重要なのです。
〈国連の歴史的な意義 「拒否権」誕生の経緯〉
Q:国連の歴史についてうかがいます。あなたは大国の研究における世界的権威です。過去の超大国の興隆と衰退を踏まえた上で国連が誕生したことの歴史的意味についてどうお考えですか。
過去400年にわたる主権国家の歴史について私の考えをお話しします。最初に誕生したのはスペイン帝国、フランス、ハプスブルク帝国、大英帝国、オランダなど欧州の国家でした。この400年で戦争と平和の繰り返しがありました。その間、戦争を終わらせたり戦争を回避したり出来たのは、マドリッド、ウィーン、ベルリンなどを首都とする各国政府間の外交交渉によるものだけでした。19世紀には長い間平和を保ったこともありましたし、平和が瓦解したこともありました。
ウッドロー・ウィルソンら国際連盟の創設者たちの考えはこうでした。将来的に新しい世界秩序を作って時々会議を開くというのでなく、常時会議を開く仕組みを作るというものです。大国同士の考えが異なる時、その会議場で違いについて交渉できる仕組みを作るというものでした。
それぞれの国の大使がそこ(国際連盟)に常駐して協議をします。そういう理想を旗印として国際連盟という組織の創設に動いたのです。どの国も他の国を信用していなかったので、国際連盟の本部は中立国に置くことになりました。そうした経緯で国際連盟の本部は中立国スイスのジュネーブに置かれたのです。そこで戦争と平和について話し合って、将来の戦争の芽を摘むというのが国際連盟の趣旨でした。
(国際連盟の総会)
しかし、国際連盟の創設者たちは大国が加盟を拒んだらどうなるのかということを理解していませんでした。(国内事情によって)大国が加盟できない場合、また脱退したらどうなるのかといったことに関する理解が欠如していました。加盟しなかった国や脱退した国はいくつあったでしょう。世界最大の経済大国であるアメリカは加盟を見送りました。新たに共産主義国となったロシアは何年も加盟を認められませんでした。イタリアは加盟したもののしばらくして脱退しました。
アドルフ・ヒトラーのドイツも脱退しました。満州事変の後、日本も脱退しました。後に残ったのは大国としてフランスとイギリスの2か国、小さな国々、そして機能不全に陥った国際連盟でした。そこで第2次世界大戦の終結時、平和のための新たな国際組織を作る機運が高まった時に、大国を加盟させ脱退を防ぐ仕組みを作るということになったのです。そのためには国際連合に留まることで生まれる利益を組み込むことが必要でした。残念なことですが「国益がかかっている場合には拒否権を行使できる。こうすべきだとかこうすべきでないと主張する権利を付与する」というのが唯一大国に提示可能な利益だったのです。
〈“必要悪”としての「拒否権」〉
Q:それが拒否権誕生の経緯ですね。
その通りです。拒否権は大国を国連に留めておくための方策として生まれました。しばらくしたら(ロシアが)何が理にかなっているかを理解して、「わかった。ウクライナ戦争を終わらせるべきだ。しかし敗北したという印象を与えながら戦争を終わらせることはできない。国連事務総長に仲介の労を取ってもらいたい。我が国の利益を守ることが出来るなら戦争終結に合意する。それ以外のやり方は受け入れられない。力づくでロシアを追い出すことは許さない」とロシアが言い出すことに希望を託すというのが現在の状況です。
Q:拒否権は超大国を国連に留めための「必要悪」なのでしょうか。
それはピッタリの表現です。まさしく必要悪です。数か月後に中東で大規模な危機が勃発する可能性があるとします。その時には安保理の会合が必要になり、安保理構成国の合意が必要になります。その時にロシアがそこにいなかったらどうやって安保理を機能させることが出来るでしょうか。あなたのご指摘通り、拒否権は悪いもの2つを比べたときのまだましな方、つまり必要悪だということです。
〈戦争を終わらせるために「国連にできることはまだある」〉
Q:ロシアのウクライナ侵攻からほぼ1年が経ちました。戦争を終わらせるために国連は今以上のことができるのでしょうか。
まだいくつかあると思います。1つは人道的見地から、国連総会で大規模な中立的救急隊の創設を協議することです。事務総長が安保理の合意を得て2週間の停戦を提案することも1つの案です。この停戦によって、医師、看護師、医療専門家からなる大規模救急隊が戦場の両側に入ることが可能になるでしょう。そこで遺体を収容したりケガをした兵士や文民を搬出したりすることが出来るようになるでしょう。
最初は「2週間だけでいい。活動のチャンスを与えてくれ。兵を引いてくれ。ロケットと発砲をやめてくれ」と言うだけでいいのです。2週間の停戦の間に、両国の代表に「ウィーンかジュネーブで事務総長と会談する気はないか」と提案することができます。「お茶でも飲みながら話し合いをしないか」と水を向けたらどうでしょう。停戦合意は崩壊するかもしれません。ゼレンスキー大統領がノーと言うかもしれません。「2つの州を取り戻すまで戦闘をやめない」と言うかもしれません。しかし2週間の停戦期限の終わり頃になって、外交官が「ちょっと待ってください。戦場から負傷者を搬出するためにもっと時間が必要です。停戦を2週間延長できませんか。戦闘行為をさらに2週間停止することはできませんか」と言うかもしれません。
停戦が長く続けば続くほど、妥協を通じた和平の可能性が高まります。国連主導の停戦と各援助機関が協力して取り組むことです。援助機関は多くの知識と技術を持っています。コンゴを始め世界各地で内戦終結後の支援を実施してきました。まず医療チームを現場に入れてその後で状況改善の支援をします。外交官が動くのはそれからです。国連は様々な機能を持っています。国連が取り組むべき最初の活動は妥協の外交と人道的介入政策です。
安保理以外にも国連が持つツールは数多くあります。(ウクライナの戦争では)下から始めたらどうでしょう。まず戦場で停戦を実現するのです。現場から始めてその後で外交レベルに話を戻したらどうでしょうか。
Q:興味深い提案です。では安保理にできることはあるのでしょうか。
今、安保理を開催すればロシアが拒否権を発動することは決まっています。冷戦の1960年代に緊張が最高に達したことありました。アメリカもソビエトもニューヨークで安保理を開いて報道の嵐に巻き込まれることを嫌いました。そんな時にウィーンでアメリカの国連大使とソビエトの大使が会談するという提案がありました。そこで核兵器の管理に関する話し合いがありました。
静かに散歩しながらアメリカ大使とソビエト大使が話をしてはどうかという提案がありました。それぞれの首脳が前向きの1歩を踏み出せるかについて、大使同士で話し合ってはどうかという提案です。目立たないところで静かな交渉から始めるのが良いでしょう。衆人環視の中ではやってはいけません。そうすれば妥協を通じて合意を達成することが出来るかもしれません。それは不可能なことではないと思います。
〈『交渉は戦争よりマシ』というチャーチルの言葉〉
Q:戦争を終わらせるためにアメリカには何が出来ると思いますか。また何をするべきだと思いますか。
「今やっていることを維持する。そして今やっていること以上のことをしない」というのが私の答えです。「今やっていること維持する」というのは、現在の支援、特に火砲の弾薬の支援を減らしたり、アメリカが持つ大規模な情報ネットワークや衛星からの情報を減らしたりすれば、ウクライナは早晩戦争に負けるということです。アメリカはロシア軍の動向に関してウクライナ軍に大量の情報を提供しています。
アメリカがウクライナへの軍事支援を減らした場合、ウクライナは負けるでしょう。ロシアが勝つには勝つが、血みどろで混乱に満ちた勝利になるでしょう。偉大な勝利にはならないでしょう。一方、アメリカが軍事支援を増やせば、プーチン大統領を無謀な行動に駆り立てる可能性があります。アメリカがウクライナに防衛目的とは言えない兵器を供給してそれがロシアの脅威になった場合には、そういう事態が起こり得るということです。
今の時点ではアメリカは援助を維持すべしというアドバイスしかありません。仲介の外交を促進すること。そしてロシアが交渉に前向きになるのを待つことです。アメリカは当事者になるべきではありません。
圧力をかけるのは良いが危険なほどに状況をエスカレートさせるのは良くありません。アメリカの新聞や意見記事を読むと「アメリカはもっと積極的になるべきだ。ロシアを敗北に追い込みプーチンを追放するべきだ」などという主張に出会います。これはあまりにも無謀だと思います。日本政府だって強い圧力をかけてロシアをみじめな敗北に追い込むようなやり方は危険すぎると考えているはずです。ヘンリー・キッシンジャーならきっと、「誰かが窮状にある時には退路を用意してやらねばならない。屈辱的な思いをさせて無謀な行為に駆り立ててはならない」と言うでしょうね。「我々の側が妥協する必要がある」というのは決して愉快なことではありません。しかし、かつてイギリスの首相、チャーチルが言ったように「交渉は戦争よりマシだ(Jaw jaw is better than war war.)」ということです。
(イギリス・チャーチル元首相)
〈ケネディ教授が提案する国連改革案〉
Q:ご指摘のように国際連盟は主要国がいなくなったことで失敗に終りました。国連も安保理の5大国のコンセンサスがないために失敗しそうになっています。2つの国際機関の経験を踏まえると、そもそも国際機関で平和を維持することはできるのでしょうか。
現在そして将来に向けて2つのことが必要だと思います。まず第1に、拒否権を持つ5大国は国益が本当に脅かされない限り、拒否権行使を特定のケースに限定することを受け入れる必要があります。例えば次期国連事務総長の人選といったような問題に関して拒否権を発動しないといったことです。つまり拒否権行使に関して自粛してその回数を減らすということです。
第2に、第2次世界大戦が終わってから75年以上経つこのタイミングで、他の大国を安保理に迎え入れることです。例えばインドは(今の国連の体制に)強い不満を持っていて、安保理を偽善的だとして批判しています。「インドは独立した大国に成長した。将来はフランスやイギリスの経済規模を上回るだろう。30年後には日本のGDPを上回るかもしれない。我々も同等の位置づけを求める。同等の権利を要求する」というのが今のインドの考え方です。
(現在 国連には193か国が加盟している)
今は考え直す時が来ているのだと思います。「いくつかの常任理事国を追加するべき時に来ているのではないか」という問いかけが必要です。これは非常に難しいでしょう。なぜなら5大国すべてが合意する必要があるからです。しかし今、非常に重要な国をいくつか安保理に加えなければ、安保理に対する尊敬の気持ちもその存在意義もずっと薄れると思います。
常任理事国の数を増やすにあたっての私の提案は、アフリカの大国を1つ、ラテンアメリカから1つ、そして南アジアの大国を1つ増やすというものです。このとき、基本原則を導入することがポイントです。北半球の常任理事国はアメリカ、イギリス、フランス、ロシア、中国の5か国です。これに南半球の地域大国を3か国加えて均衡を取るという考え方は合理的だと思いませんか。
〈対話の可能性は残されているのか〉
Q:あなたは大国の興亡の専門家です。大国ロシアはどうなると思いますか。そして対話を通じて解決を見出すことは可能だと思いますか。
ロシアがなくなることはないでしょう。東はカムチャツカ、そして11の時間帯をまたぎ、フィンランド、バルト3国、ポーランド、ウクライナの国境まで広がる偉大な国、それがロシアです。
ですから何とかしてロシアを国際システムに引き戻す方法を見つけなければならないのです。ロシアは今、自分自身を傷つけています。プーチン大統領率いるロシアの行為は他のどの国よりもロシア自身を深く傷つけています。ロシアを国際社会に引き戻さねばなりません。ロシアを自滅の道から連れ戻す方法を見つける必要があります。
解決に向けて事態を進めるためにはロシアとプーチンにとって利益を示唆する文言が必要です。「とにかくロシアを非難しなければならない。ロシアは法の支配の埒外にいる」といった言い方ではロシアは無法者になってしまいます。それではロシアがテントに入って来て話し合いに応じることはないでしょう。それこそが安保理のそもそもの概念です。悪いことをした国をテントの中に留めておいて、徹底的に話し合って、「法の支配」に対する妥協につなげていくべきです。
Q:ありがとうございました。
ポール・ケネディ 1945年イギリス生まれ。英・オックスフォード大学で博士号を取得。専門は19世紀・20世紀の大国間関係、軍事・海軍史、安全保障問題、国連史など。多くの名誉学位を授与されており、2000年には歴史学への貢献により、大英帝国勲章(C.B.E)を授与され、2003年にはイギリス学士院のフェローに選出されている。1988年に出版された『大国の興亡』は20か国以上に翻訳され激しい論争を巻き起こした。2006年に出版された『人類の議会』では、国連の過去と未来について考察している。