「こんなとき、どうする?南海トラフ巨大地震」福和先生Q&A第2弾

NHK
2023年3月3日 午後0:00 公開

こんなとき災害が起きてしまったら、どうすればいい?

いくつかのシチュエーションを想定して、名古屋大学名誉教授の福和伸夫先生に取るべき行動を聞きました。

命を守るヒントが満載です。

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Q:海水浴をしていたら?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:陸にいる時は揺れを感じられますが、泳いでいる時は揺れを感じられません。海水浴場ではライフセイバーの方々が津波フラッグなどを使って地震が起きたことを教えてくれる可能性が高いですね。彼らからのいち早いアナウンスに従ってほしい。泳ぐのが大変な人は速やかに船に乗って、陸に上がってすぐに走って高台に逃げてください。できれば海水浴に行く前に、その海水浴場での予想されている津波の高さとか、それから津波到達時間とか、そういったものをあらかじめ調べてから行くのが理想ではあります。でもそんなことしていたら海水浴行きたくなくなっちゃいますかね…。まずは海水浴中に地震、津波が来るおそれがあるということを知っておいてください。

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Q:繁華街で買い物をしていたら?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:繁華街は危険がいっぱいであることを意識しておくことが大事です。土日とか夜の時間帯は繁華街のことをよく知らない外来者が多く、お酒を飲んでいる場合もあるので、群集心理の中に、変な形で巻き込まれないように気をつけていただきたいです。ふだん行く繁華街は、南海トラフ地震が起きた時にどんな被害が予測されているかをあらかじめ知っておく、それがまず基本です。たとえば大阪の中心部の梅田の地名は、田んぼを埋めた「埋田」が由来です。低地でリスクがある土地だったことが想像できます。

緊急地震速報が出た段階、それから揺れ始めた時は安全を確保する。どこに安全な場所があるか周辺を見て確認していただきたいと思います。車がたくさん走っていたら道路側に行けないし、歩道は人が多いし、それから上には落下しやすい看板がたくさんあります。まずは周辺の建物の中で、頑丈そうな建物を見つけて、その中に避難することが望ましいと思います。けがをしないようにしていただく。

そのうえで、その場所の火災危険度とか、あるいは津波危険度に応じて避難場所に退避をしていただきたいです。例えば津波が切迫していて時間がない場合には、頑丈でかつ高いビルの上階にいったんは避難をしていただく必要があると思います。一方で火災が起きると延焼の危険もあるので、より安全な場所に退避をすることが望まれます。液状化の可能性もあります。停電すれば真っ暗闇になる、信号が停止する。そうするとどう考えたって群衆心理的にはあまりよくないわけです。車のクラクションが鳴るし、緊急車両のサイレンの音がするし、真っ暗闇かもしれない。自家発電を備えているビルだけ電気がつくと、みんながそこへ逃げていく可能性もあるわけです。そういったようなことをあらかじめ想像しておくと、冷静な対応が可能になります。

Q:高層ビルで友達とディナーを楽しんでいた場合は?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:高層ビルというのは見晴らしはいいけれど、すごく揺れが強いんですね。窓の近くから逃げないとだめです。高層ビルって上層階は横に曲がるんですよ。ということはいつも見えない下が見えちゃう。床が楕円を描くように動くので遠心力もあるんです。ガラスの方に持っていかれちゃう。だから、怖いんですよ。机とかいすとかが走り回るので、エレベーターホールとか、危険なものがない場所に退避してほしいんです。揺れ始めてから強く揺れるまでに時間があるので、その間にちゃんと安全な場所に移動してください。

例えば、超高層ビルが増え続けている東京。実は東日本大震災のように東京の北で起きる地震に比べて南海トラフ巨大地震のように西で起きる地震の方が、関東の地盤の影響で揺れが伝わりやすいんです。また、南海トラフ地震では、震源地からの距離がより近くなるので、東日本大震災の揺れの倍以上揺れる可能性もあると思っていた方がいいんじゃないでしょうか。

Q:通勤中で満員電車に乗っていた場合はどうしたらいいですか?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:まずは緊急地震速報が鳴った時点で転ばないように必ず何かにつかまる。で、押し潰されないようにする。それで揺れをしのぎましょう。その後は勝手に行動すると極めて危険なので、運転手さん、車掌さんの指示に従う。勝手に扉開けちゃって反対側に電車が来たら終わりですよね。

自分だけでは解決が難しい世界なんですよ、都会って。電気もガスも上下水道も通信も。便利で快適な生活のために他人任せにしているところっていうのは自分でコントロールできないんです。そのことに気が付けば、いかにインフラの安全性を高めてもらうことが重要かってことに気が付きます。社会として解決するために、もっと本気になって安全のことを考えないとダメです。どこかで僕たちは安全って与えられて、保障されて当たり前だっていう社会に育ち過ぎていると思います。例えば、皆さんは運賃を高くしてでも安全性を高めてもらうことを願っていましたか?もっとお金を投資すれば鉄道構造物はより安全になるし、他のインフラにも同じことが言えると思います。

Q:高速道路を運転していた場合は?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:どこを走っているかで状況は違いますが、基本的に高速道路は、坂道を避けて谷を走っていることが多いんです。そうすると両側は斜面、土砂災害の危険度が高いんですよ。トンネルの入口と出口も同様の危険があります。それから橋梁。長大橋が最近多いですよね。めちゃくちゃ揺れるんです。そこで大事なのは緊急地震速報です。緊急地震速報が出たら、できるだけ急ブレーキはせずに、前後の車に注意をしながら減速をして、安全な場所、できれば路肩に停止するよう、みんながルールとしてやれるようにすることが重要です。強い揺れに襲われると体が飛ぶぐらい揺れると思うので、減速しないととてもハンドルをコントロールできないと思います。揺れ終わったあとは道路の状態にもよりますが普通に走行することは難しいと思います。車を放置して避難する時はロックをしないほうが望ましいです。そうじゃないと撤去できないから。

一方で、高速道路は津波からの避難場所になる場合も多いですね。人が高速道路に上がってくる可能性もあるので注意が必要です。避難するときは、高速道路にいるべきか降りるべきか、高速道路を運営する会社の指示に従ってください。おそらく道路の電光掲示板等に指示が出ると思いますが、通信が遮断したり停電したりして表示されない場合もあるかもしれない。そのときはカーナビやラジオを通した情報収集を心がけてください。

Q:学校に行って勉強していた場合は?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:これはもう先生の指示に従ってください。勝手な行動をしない。地震前の学習や訓練で地震が起きたときの行動のほとんどすべてが決まるので学習や訓練が大切です。

親御さんとしては、学校が避難場所や避難所になっている場合など、安全であることを確認したうえで迎えに行くことは良いと思います。でも、例えば学校の津波危険度が高いときは、学校にお子さんを託してまずは自分の命を守ってください。「津波てんでんこ」の考え方です。隣近所で助け合って身の安全を確保してください。そのうえで自分の家で火災を発生させないようにするなど家の安全を確保する。そして家族の安否を確認して、学校が安全な場所であれば子どもを迎えに行くってこともあるかもしれない。

教室の中には家具等の倒れやすいものもないし、比較的耐震性がある場所なので相対的には安全です。ただ、実は学校にいる時間は1年間の1割から2割しかありません。学校の安全性を考える前に、自宅の子ども部屋のこととか、通学路のこととか、寝ている時間のことを考える方が大事だと思います。特に寝ている時間は無防備です。家庭での防災対策を進めることを意識してほしいです。

Q:戸建て一軒家で寝ていた場合は?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:寝ている時は無防備だから、寝る前にすべて安全にしておくしかないです。寝ている部屋にはできる限り家具を置かない。いろいろなものが落ちてこないような場所にする。狭い部屋の中で寝ざるを得なくて家具がある場合には、家具が倒れないように確実に固定する。これが大事ですね。

家を失ってしまうと災害後本当に大変な思いをします。住み続けられる家を持つことが何よりも大事です。引っ越すときはまずは土地選び。可能であれば津波、土砂崩れ、液状化などのリスクが小さい安全な場所に住んでほしいです。そこに壊れない家を作る、あるいは建物を壊れにくくする。壊れにくい建物って一般に見栄えが悪くて、それから使い勝手がよくないこともあります。「強・用・美」つまり強さと使い勝手(用)と美しさ。そのバランスの中で何を優先するかを考えてほしいんですが、「強」のことは大事にしておいたほうがいいと思います。

南海トラフ地震は被災者の数があまりにも多く、公的な支援が行き届かない、何かあっても助けてもらえないかもしれない。物が落ちない、倒れない。それから家が壊れない。生活し続けられる。これに尽きる気がします。

Q:マンションで料理をしていた場合は?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:料理をしている時は油とか包丁とか熱湯とか、けがをする可能性が高いものが多いです。また、キッチンは逃げ場所がないかもしれない。出口の所に冷蔵庫を置いている人が多いので。冷蔵庫が倒れると、出口を塞がれちゃうんですよね。だから出口を確保するために、冷蔵庫をあらかじめ固定しておくことがとっても大事なんです。地震で食器戸棚などから一気にガラス食器が飛び出してくるので、まずは緊急地震速報の段階で、その危険なエリアから逃げて、安全な場所に退避してください。可能なら火を消す。倒れてくるものがない場所に退避するのが理想ですが、そういう場所がなければ、テーブルの下にもぐります。テーブルは揺れによって動き回るので、必ず足をつかんでください。

Q:近所を散歩していた場合は?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

A:ブロック塀とかありますよね。普段散歩している時にどこが危険かをちゃんと見といてください。この建物は倒れそうだなとか、このブロック塀は倒れそうかとか。この自動販売機も心配か、あの看板はどうかなって、きょろきょろしながら歩いてほしいんですよね。普段の散歩が街の安全点検につながるんです。さらに言えば、このブロック塀ちょっと直したほうがよくないですか?とかって。そういうことをみんなで言い合いっこできるような街だといいですね。嫌われちゃうかもしれないけど…。ブロック塀をやめた家にみんなで生け垣を植栽してあげるのもいいですね。

散歩をみんながするようになれば挨拶もできるし、どこが危険かもわかるし、危険な場所を指摘し合うことで、徐々に安全なまちづくりにもつながります。健康にもいいし、防犯上もいいし、みんなが散歩する街になるとすてきですね。

Q:出張中だったら?

(ドラマ「南海トラフ巨大地震」より)

土地勘のない場所に行くときはその場所のリスクを調べて行くのが理想です。もし調べていなかったらできる限り公的な情報に基づいて行動してください。地元の土地勘のある人にも頼りながら安全なところに一旦避難しましょう。

自分が行くところの地図は事前に1回ぐらい見たほうがいいですよね。最近はスマホに言われたとおりに歩いているだけで、周りを見ていない人が多くありませんか。それがまずい気がしていて。駅前の地図でもいいのでちゃんと見ておきましょう。特に海や川がどちらの方向にあるのかなど。あと、地下にいると外が分からないし、外へ出たって東西南北分からない。だから私は積極的に外を歩いて土地勘を養っています。

出張に行くときには、帰宅困難になっても大丈夫なように最低限のものは持っていった方がいいですよ。水、常備薬、携帯トイレ、防寒用のアルミのブランケットと使い捨てカイロ、マスクや、絆創膏、それからようかんを入れています。腐らないから。乾電池、モバイルバッテリー、あとはビニール袋がいっぱい入っている。血液型と連絡先の用紙が入ったホイッスルも役に立ちます。人工呼吸用マウスピースも持っています。最後は、たくさん持っているお守りが頼りです。カバンの中に生き残るための最低限のものを入れておくと安心です。

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「まずは、あらかじめ危険を知っておくこと。起きうることを想像しておくこと。そうすることで災害が起きたときにも焦らずに冷静な対応ができると思います。私たちの意識や行動で被害を減らすことができるんです。」

[聞き手 静岡放送局ディレクター 中村みゆき]

福和先生Q&A 第1弾「実際どうなの?南海トラフ巨大地震」はこちら↓

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