データで見る “安いニッポン”

NHK
2023年3月31日 午後6:45 公開

賃金や物価が長く上がらず、円安も重なって、海外から“安い”と見られるようになった日本。世界各地を取材してみると、その“安さ”が日本の課題になっていることも分かってきました。世界第3位の経済大国・日本の本当の姿とは?

様々なデータをもとに、“安いニッポン”の現実を探りました。

【① ビッグマックはアメリカの4割引き? “安い”日本円の価値】

円の実力、購買力を比較する際によく使われる「ビッグマック指数」(※)。ことし1月に発表された指数を元に現地価格を比較すると、ご覧の通り。日本の価格はアメリカの6割程度、タイより100円近くも“安い”という結果に。

同じ商品でも、多くの国では日本よりお金がかかる―。円の購買力が海外諸国に比べ、低くなっているとも言えるのです。

※ビッグマック指数: イギリスの経済誌「The Economist」がマクドナルドのビッグマックの価格を国別に毎年追跡。為替レートのいわば「妥当な水準」を割り出す測定法で、どの国でもビッグマックの“価値”は同じはずという発想のもと、その国の通貨がドルに対して割高か割安かを示している。

【② なぜ日本は“安い”? 衣料品の単価から見る“価格競争”】

なぜ、他国に比べて“安く”なっているのか?日本は安くないとモノが売れない国になっていることを示すデータもあります。

1年で衣料品にどれだけお金をかけているかを算出してみると、1991年の購入単価を100とすると、およそ30年で6割前後の水準に下落。バブル崩壊後、より“安い衣料品”を選ぶようになっていったことが分かります。消費者がモノにカネをかけなくなったことで、企業は価格競争を激化させていったのです。

【③ “安さ”の影響は賃金にも? 世界と比べて上がらない賃金】

価格競争によって、モノの価格が下がることはよいことなのでは? そう思う人もいるかもしれません。ただ、世界と比較するとそうとも言い切れないデータもあるんです。

アメリカの人口を家計所得ごとに5つの層に分けて、1世帯あたりの平均所得金額の変化をみたものです。これを見るとアメリカは全ての層で15%以上、増加しています。

一方、モノの“安さ”を追い求めていた日本はというと・・・。

全ての層で所得が10~20%以上、減少しているのです。

【④ 世界と比べて日本は“安い” 年収でも差が・・・】

経済支援をしてきた東南アジアと比較しても、日本は“安い”。そんなデータもあります。

日系企業の日本での年収と、タイにある全ての企業の年収の伸びを比較したグラフ。右に行くほど役職があがります。入社時は日本が高いもののの、課長レベルに達する前にタイが逆転。部長レベルでは600万円近く、タイにある企業のほうが年収が高いんです。

【⑤ “安さ”で国際的な地位も低下!? 日本の現在地は】

こうした中、国際的な日本の競争力は年々低下しています。

スイスのビジネススクールIMDが毎年発表する「世界競争力ランキング」。経済状況やビジネス、政府の効率性などをもとに順位が決められ、日本は1989年から1992年まで4年間にわたり1位を維持していました。しかし、その後、下落傾向が続き、去年は3つ順位を下げて2020年と並び過去最低の34位。東南アジアのマレーシアやタイにも抜かれているんです。

【⑥ 日本浮上の糸口は?】

長年、経済成長が鈍化し、アメリカなど先進国に差をつけられる日本に浮上の糸口はあるのか。IMF=国際通貨基金の元エコノミストで、東京都立大学の宮本弘曉教授があげるのは、“海外からの投資”です。

こちらはGDPに対する海外からの投資(ストック)の割合をOECD加盟国で比較したランキング。日本は海外からの投資が少なく、なんと最下位。しかし、裏を返せば、このことが投資を積極的に呼び込み、経済を活性化させる“伸びしろ”なのだといいます。

【⑦ 人材に投資を】

その上で、宮本教授が投資の使い道としてポイントにあげるのが、未来を担う人材の育成です。

企業が研修など社員の能力開発にどれだけ費用をかけているかを国別で比較したデータです。日本は他の先進諸国と比較すると、かなり低い水準。

宮本教授は、海外からの投資を呼び込むこと。人材にカネをかけ、生産性をあげていくこと。この2点が、日本経済を再び発展軌道に乗せる第一歩につながると指摘します。

東京都立大学 経済経営学部 宮本弘曉 教授

「人材にお金をかけないと、スキルが伸びない。これは企業、そして国の経済成長にとって全くプラスではありません。お金をしっかりと人にかけられるような環境を作ることが重要です。海外企業から投資を呼び込めれば、資本だけではなく、経営スタイルや戦略、あるいは技術、人材も入ってきます。こうしたヒト、モノ、カネを活用して、新しい科学反応を生み出され、それが日本の成長へとつながる可能性は十分にあると思います」

様々なデータから明らかなように、“安い30年”を経て、停滞してきた日本。再び上昇へと押し上げられるのか。いまがまさに、分岐点にたたされているといえるのかもしれません。