安倍元首相 銃撃事件の衝撃

NHK
2022年7月22日 午後7:48 公開

(2022年7月9日の放送内容を基にしています)

2022年7月8日。参議院選挙の2日前、41歳の男が日本の民主主義を揺るがす凶弾を放ちました。安倍元総理大臣が銃撃され死亡した事件。白昼、選挙演説中の凶行に衝撃が走りました。

凶行は、なぜ引き起こされたのか。そして防ぐことはできなかったのか。

戦後初めて総理大臣経験者が凶弾の犠牲になった銃撃事件。緊急報告です。

高瀬耕造アナウンサー「私たちは、今回の事件が歴史に刻まれる重大事件であること、そして民主主義を暴力によってゆるがす行為は、断じて許されないということを改めて確認する意味で、今回急きょ特集としてお伝えすることにしました。公衆の面前で、白昼、元総理大臣が銃撃された今回の事件。ある政治家は、『これは本当に日本で起きたことなのか』と、衝撃を語っていたといいます。逮捕された山上徹也容疑者は、『元総理の政治信条への恨みでは無い』と供述していますが、取材から明確な殺意をもって準備を進めていたこともわかっています。67歳で亡くなった安倍元総理大臣。今回の参議院選挙では、連日応援演説に駆けつけるなど、精力的に活動していました。民主主義の根幹である参議院選挙中に起きた凶行。あの時、あの場所で何があったのか検証します」

<現場で何が 多角的分析>

銃撃事件の現場となった奈良市・大和西大寺駅近くには、事件翌日も、多くの人が訪れていました。

7月8日。安倍元総理大臣が、応援演説を始めてから銃撃までおよそ2分20秒。この間に何があったのか。現場をとらえた複数の映像から、容疑者の動きが見えてきました。

当時、安倍元総理大臣が演説を行っていたのは、四方を道路に囲まれた場所です。

容疑者は、道路をはさんで反対側の歩道にいました。聴衆の後方から、現場を撮影するカメラ。午前11時29分、演説を始めた安倍元総理大臣の背後にいる容疑者を映し出していました。

1分後、この場から容疑者が移動します。向かった先はバスロータリーの入り口付近。40秒あまり、制止します。安倍元総理大臣との距離は7メートル以上。

そして演説開始からおよそ2分後、容疑者は落ち着いた様子で歩き出し、距離を縮めます。鞄から銃を取り出し、構えながら近づく容疑者。制止をする人は誰もいませんでした。

その後1発目の発砲。振り返る安倍元総理大臣。およそ3秒後に、2発目の銃弾が放たれました。

目撃者「すごい音だった。破片、プラスチックみたいなものが飛んできた。プラスチックの筒か何か」

殺人未遂の疑いでその場で逮捕されたのは、山上徹也容疑者、41歳。現場からは、手製の銃が押収されました。

<警備体制は>

元総理大臣への銃撃を、なぜ止められなかったのか。

以前、警視庁の特殊部隊に所属していた、要人警護に詳しい伊藤鋼一さんは、有権者との距離が近くなる選挙は、「警護」や「警備」とは異なるとしながらも、今回は死角があったと指摘します。まず挙げたのが、容疑者が見せた不審な動きを、なぜ見逃してしまったのかという点です。

元警視庁・伊藤鋼一さん「歩道から車道に行くのは不自然な行動なので、この時点で制圧と言うか、ある程度強制力をもってやるべきところ。行動的には一直線に来るわけですから、そういう人間は本当の危険人物です。一直線に来るのは、何かテロ行為を起こそうという、目的意識を持って動いているわけですね」

伊藤さんは、特に背後の警備態勢に不備があったとみています。

元警視庁・伊藤鋼一さん「背後ががら空きになっていますので、本来であればもう少し配置の体制を考えて、動いたとしても、もう少し複数人配置していれば・・・。配置が甘かったんじゃないでしょうか」

さらに伊藤さんが注目したのが、1発目の発砲から2発目までのおよそ3秒間でした。この間に、対処ができた可能性を指摘します。

元警視庁・伊藤鋼一さん「1発目の銃声が聞こえた時に、安倍元首相をここから離脱させる、避難させるというのが通常のセオリーです。必ずです。それをやっていないのは、私から見たら不思議だなって思います」

選挙期間のさなかに起きた銃撃事件。伊藤さんは、日本の安全が、根底から揺らいでいると危機感をあらわにしました。

元警視庁・伊藤鋼一さん「こういったテロ行為で亡くなるというのは、日本にとっても大きな損害だし、個人的には本当に悔しい思いです。もっとしっかりした警備をやってほしい。悔しいっていうか、もう憤りですね」

<広がる波紋 そして・・・>

銃撃からおよそ5分後、現場に救急隊が到着。安倍元総理大臣は、ヘリで奈良県立医科大学病院へと搬送されました。

予想もしなかった銃撃事件は、選挙活動にも大きな影響を及ぼしました。事件を受けて、与野党の中には、街頭演説を一時中止する動きも。民主主義の根幹である選挙そのものが脅かされました。そして、午後5時3分、安倍晋三元総理大臣が死去しました。67歳でした。

一国の元総理大臣を白昼に銃撃するという今回の事件。各国メディアは「暗殺」という言葉を使い、一斉に報じました。各国のリーダーも次々と反応。アメリカのトランプ前大統領は、事件発生後まもなくSNSにコメントを投稿しました。

これまで安全だとされてきた日本での銃撃事件。銃社会であるアメリカの市民にも、衝撃が走りました。

アメリカ市民「アメリカでは日常茶飯事だが、日本でこのような暴力が起きたことはショックだ」

<政治とテロの歴史>

政治家が標的になる銃撃事件は、過去にも繰り返されてきました。

昭和7年、犬養毅総理大臣が殺害された「五・一五事件」。昭和11年、元総理の高橋是清らが殺害された、青年将校による「二・二六事件」。こうした事件は、日本が戦争へと突き進む、昭和史の大きな転換点となったのです。

戦後も、政治家を狙った凶行は度々起きました。安倍元総理の祖父、岸信介総理大臣。1960年、首相官邸で刺され重傷を負いました。

同じ年。社会党、浅沼稲次郎委員長が演説中に襲われました。壇上に駆け上がってきた右翼の青年に刺され、死亡。言論の自由を暴力で奪う行為は、社会に衝撃を与えました。

山上容疑者は、今回の犯行の動機について、「元総理の政治信条への恨みではない」と供述しています。

しかし、政治学者の御厨貴(みくりや・たかし)さんは、今回の凶行が脅かしているのは、民主主義そのものだと指摘します。

政治学者・御厨貴さん「日本の戦後の議会制民主主義に対する、明らかに冒涜なんですよ。だから、これを相当強く我々は受けとめなくちゃいけない。戦後なぜ日本の政治はテロなしできたのか、ここまで平和でこれたのか、と言うことを国民全体が反すうして、それを守っていくという形で闘っていかなくちゃいけないと思いますね」

高瀬アナ「ここからは、政治部の徳橋達也・与党キャップ、社会部の森龍太郎デスクとお伝えしていきます。まず社会部・森さん、徐々に詳細が見えてきましたけれども、現在分かっている最新の状況はどうなっていますか」

社会部・森デスク「山上容疑者は警察の調べに対し、『爆発物を作って殺すつもりだったが、途中から銃を製造するようになった』という趣旨の供述をしていることが、捜査関係者への取材で新たに分かりました。この銃についてですが、『2本の鉄パイプを粘着テープで巻きつけて作った。鉄パイプを3本や5本、6本にした銃も製造した』という趣旨の供述をしているということです。実際に使われたのは、鉄パイプ2本で作られた銃で、『それぞれのパイプに弾丸を込めて発砲した。部品はネットで購入した』と供述しているということです。銃器に詳しい評論家は、事件で使われた銃について『口径がかなり大きいうえ、多くの火薬が使われていて、高い威力があったのではないか』と指摘しています。警察当局は、爆発物から銃の製造に切り替えた詳しいいきさつを調べるとともに、複数の種類の銃を製造したうえで、殺傷力が高いものを選んで襲撃した可能性があるとみて調べています。さらに奈良市での演説の前の日、つまりおととい7日の夜なんですけれども、『岡山市で行われた元総理の遊説会場にも行った。元総理を殺害しようと思い、ほかの遊説先にも行ったことがある』という趣旨の話をしていることも、新たに分かったんです。安倍元総理大臣が、きのう(8日)奈良市で演説することが決まったのは、おととい(7日)の夕方で、容疑者がいつ銃撃を決意したのかは、捜査の焦点の1つになっていたんですが、一連の供述からは山上容疑者が安倍元総理を襲撃する機会を、以前から執拗にうかがっていた可能性というのが浮上してきているんです」

高瀬アナ「そして演説中の警護に問題がなかったのか、という点ですけれども、奈良県警はきょう(9日)夕方記者会見を行いまして、『警護に問題があったことは否定できない』としました」

奈良県警警察本部・鬼塚友章本部長「県警本部長として、所要の体制を構築して、警護警備にあたっておりましたが、警護実施中の安倍元内閣総理大臣が、銃器のようなものを発砲されて、死亡される結果になったことを極めて重大、かつ深刻に受け止めております。痛恨の極みであります。今回の安倍元内閣総理大臣の警護警備に関する問題があったことは、否定できないと考えており、早急に、その問題点を把握し、適切な対策を講じてまいりたいと考えております」

高瀬アナ「問題があったことを、事実上認める形になりましたね」

社会部・森デスク「奈良県警の鬼塚本部長は、さまざまな問題について、検討見直しを行うとしていますが、一般的に選挙の遊説の警備は、候補者などが多くの有権者と握手をするなど、近い距離で触れ合いますので、警備が難しいと指摘されています。警備関係者によりますと、今回の現場には警視庁の専属のSPが1人配置されていたほか、奈良県警の私服の警察官なども含めると、合わせて数十人の警備体制だったということです。安倍元総理の後ろ側にも警察官が配置され、周囲を360度警戒する態勢を敷いたということです。こちらが沿道にいた人が当時撮影した動画です」

社会部・森デスク「容疑者が、元総理の斜めうしろの歩道から車道に侵入します。そして背後からゆっくりと歩いて近づいて銃を取り出し、構えるような姿が映っています。しかし、銃声がなるまで警察官が制止する様子は確認できていません」

高瀬アナ「背後からの侵入を許す格好になってますよね」

社会部・森デスク「そうなんです。複数の警備関係者は、背後の警備態勢が不十分だったのではないかと指摘しています。さらに容疑者が近づいたあと、1発目の銃声が聞こえた時点で、身をていして元総理を守ったり、容疑者を取り押さえたりすることができていなかった点についても、検証が必要だという声が上がっています。選挙期間中に元総理が銃撃され、命を落とすという前代未聞の事態をなぜ防げなかったのか。警察当局にはこうした点を踏まえ、当時の体制や対応をしっかりと検証することが求められます」

高瀬アナ「政治部・徳橋さん、きょう7月9日が選挙戦の最終日ということだったわけですが、影響というのは見られましたか」

政治部・徳橋キャップ「きのうは幹部による応援演説を取りやめるなどした党もありましたが、いずれの党も選挙は民主主義の根幹であって、暴力に屈してはならないとしまして、きょうは予定どおりの選挙活動を実施しました。しかし、きのうの事件を受けまして、きょう各地で厳重な警備態勢がしかれ、集まった有権者に対して金属探知器を使った身体検査や、手荷物の検査が行われたという会場もありました。また今回の選挙では、新型コロナ対策を強く行った去年の衆議院選挙に比べて、有権者とのふれあいを重視するという政党も多かったんですが、きょうはその有権者と拳を突き合わせるようなグータッチをやめたり、写真撮影などを見合わせたりする党もありました。今回のような事件が、選挙運動に影響を与えるというようなことは、本来あってはならないことですが、安全確保の観点から、苦肉の策を強いられる場面が見られました」

高瀬アナ「事件を起こしたのは、奈良市に住む山上徹也容疑者41歳です。なぜこのような犯行に及んだのか。どんな人物だったんでしょうか」

<山上容疑者 どんな人物なのか>

逮捕された、山上徹也容疑者、41歳。

防衛省関係者によりますと、2002年から2005年の3年間、海上自衛隊で勤務していたということです。中学生の時、部活動で一緒だった同級生が当時の印象を語りました。

中学校の同級生「おとなしい。勉強もできる、スポーツもできるけど、別に壁を作るようなタイプでもない。そういう印象ですね。本当に衝撃というか、最初は本当に信じられない、なんでそういうふうに至ったのかな」

奈良市内のマンションで暮らしていた山上容疑者。容疑者の自宅マンションからは、事件に使われたものと似た手製の銃とみられるものが、数丁押収されたということです。警察当局は、複数の種類の銃を製造した上で、殺傷能力の高いものを選んで襲撃したとみて、調べています。

<銃器の専門家が犯行映像を分析>

犯行に使われた銃は、どのようなものだったのか。銃器の専門家と分析すると、さまざまな事実が見えてきました。散弾銃などに詳しい、大日本猟友会の佐々木会長です。

大日本猟友会 会長・佐々木洋平さん「本当に手作りの、素人の銃の作り方だと思いますね。相当雑な感じがしますね。こんな銃でよく撃ったものだと思いますよ」

銃撃時に上がった白煙。散弾銃などに使われる火薬では無いと言います。

大日本猟友会会長・佐々木洋平さん「火薬の種類があって、我々が使う散弾銃は煙が出ません。もっと安い火薬を使ったんじゃないか」

捜査関係者への取材から、容疑者は、鉄パイプを粘着テープで巻き付けた、複数の種類の銃を製造したという趣旨の供述をしていることが分かりました。

大日本猟友会会長・佐々木洋平さん「日本では考えられないですよ。銃規制をきっちりやっている国で、ましてや街頭で撃つなんて本当に考えられないですよ、日本でね。世界の人はそう思っているんじゃないですか。日本のような銃規制が厳しいところで、なんでこんなことが起きたんだろうかと」

長年、銃器について取材している評論家の津田さんは、映像から、使用した銃の威力の強さがうかがえると分析します。

銃器評論家・津田哲也さん「犯行現場の煙の上がりようを見ても、相当火薬の量が多い。そうすると、パイプそのものが破裂する恐れ、つまり撃った本人がケガをする可能性もあったわけです。それを防ぐためにビニールテープを巻いて補強する、その目的もあったのではないかと思います。そういうことも計算しての行動かなという気がしますね」

警察当局によると、実際に銃撃に使われた銃は鉄パイプ2本で構成されるものとみられるということです。津田さんは、その形状からも容疑者の「意図」が読み取れるといいます。

銃器評論家・津田哲也さん「猟銃だったら、二連並べたものはよくありますが、パイプ式のこういう単純なもので二連は、初めて見ましたね。そうすると、すぐに失敗したときに次の弾が撃てるように2つ並べているということだと思いますね。周到な準備をしたというのが、この二連式には見てとれます」

今回のような、自作の銃器は表に現れにくく、取り締まりは難しいと、津田さんは指摘します。

銃器評論家・津田哲也さん「材料そのものはすべて合法品で、どこでも入手できるもの。ガンマニアなどがよく摘発されるのは、インターネットが発端であることが多いんです。インターネットで自作の銃を見せびらかすとか、転売しようと思って語りかける、そういうのが発端になって摘発されるケースがありますが、秘密裏にやられたのでは、なかなか警察も対応のしようがなかったのではないか」

<山上容疑者 動機は?最新状況は?>

山上容疑者は犯行の動機について、「特定の宗教団体に恨みがあり、安倍元総理がその団体と近しい関係にあると思い狙った」「元総理の政治信条への恨みではない」などと供述していることが分かっています。

高瀬アナ「森さん、動機について、そのほか分かっていることというのはありますか」

社会部・森デスク「警察当局によりますと、山上容疑者は動機について、安倍元総理の政治信条への恨みではないとしたうえで、『特定の宗教団体に恨みがあり、元総理がこの団体と近しい関係にあると思い狙った』などと供述しています。また『母親がこの団体にのめり込み、多額の寄付をするなどして、家庭生活がメチャクチャになった』という趣旨の話をしていることもわかっています。さらに『もともとは、この宗教団体の幹部を殺害しようとしたができなかったので、安倍元総理を銃で撃つことにした』という供述をしていることも捜査関係者の取材で新たに分かりました。警察は宗教団体への恨みが襲撃事件のきっかけになった可能性があるとみて、捜査を進めているものと見られます」

高瀬アナ「今後の捜査の焦点は、どういったところになりますか」

社会部・森デスク「容疑者がどのような経緯で銃撃に至ったのか、その動機や背景の解明です。山上容疑者は『もともと爆発物を作って殺すつもりだったが、途中から銃を製造するようになった。銃はたくさん製造して数か月前に出来上がっていた』という趣旨の供述をしているほか、『元総理を殺害しようとほかの遊説先にも行ったことがある』という趣旨の供述もしていて、かなり前から計画的に襲撃のタイミングをうかがっていた可能性があります。動機については、宗教団体の恨みがきっかけになったという趣旨の供述をしていますが、信用性を裏付けるための、本格的な捜査はこれからです。山上容疑者はどのように銃を調達・製造したのか、ほかに共犯者はいないのか。警察は今後関係者から幅広く事情を聴くとともに、押収したパソコンやスマートフォンの通信記録や検索履歴なども詳しく分析し、実態解明を進めるものと見られます」

高瀬アナ「銃が厳しく規制されているこの日本で、今回簡単に手に入れられるものを使った手製の銃による犯行が行われました。逮捕された山上徹也容疑者。政治信条への恨みではない、としているんですが、暴力に訴えることで強硬に目的を遂げようとした今回の事件、日本社会に何を投げかけているんでしょうか。改めて政治学者の御厨貴さんに聞きました」

<政治家とテロ・言論や選挙への挑戦>

長年、日本政治を見てきた御厨貴さん。今回の事件を受けて、まず語ったのは、日本や世界を取り巻く現実についてでした。

政治学者・御厨貴さん「自然災害、感染症、いよいよ戦争まで来ちゃったと。やっぱり人心が相当惑ったと思う。どうやって生き抜いていったら良いのか。これまでは国家的な保障も、会社の保障もあるところでみんな生きていたから、それなりに不平はあっても、なんとかやっていけた。今は自暴自棄になる人が結構いて、その人たちがいろんな問題を起こしたりする、その果てに結局テロというのが起きたんだなと。ありとあらゆる国家を傷つけることが順番にやってきて、ついにテロが発生した」

次に御厨さんが語ったのは、言葉を尽くして、合意形成をしていく民主主義の意義を改めて認識してほしいということでした。

政治学者・御厨貴さん「みんなが何でも言えるようになったから、分断が非常にはっきりしてくる。みんな賛成か反対かでしか、ものを言わない。その中間領域がない。Aを選ぶかBを選ぶか。だんだん二値(にち)論理的に単純になっていく。だけどよく考えたら我々の生活、政治はそんな単純なものじゃない。AかもしれないBかもしれない、だけど一番良いのは、どううまくマリアージュして、ある程度不満を残しながらも、全体としてこれなら許せる、というところまでもっていく。これは議論しなければできない。何でも言える社会になったが、だからといって自分の要求がそのまま通るわけではない。要求が通らないとき、あるいは気に入らないときに、暴力的なものを使うのではなく、発言することの責任を引き受けなければいけない。言論とはそういうものです。言論による政治を復活させていくためには、そういうところで気を配らなければいけない」

そして最後に、これからの日本政治に強く求めることについて語りました。

政治学者・御厨貴さん「政党政治家はここで右顧左眄(うこさべん)してはいけない。暴力的な問題がきたから目を背けようとか、すぐに力で抑えようという話ではなく、自分たちの政治に何が足りなかったのかを考え、有権者と言葉で結びついていく。その契機をもう一度、重要視して、議会制民主主義を守るという行動をとるということだと思います。有権者が本当に思っていること、してほしいことをストレートに受けとめ、次の選挙に勝つためとかではなく、本当に国民のためのことをやれば選挙には勝てますから。もう一度、国民本位に戻って考える。これが政治家にとって喫緊(きっきん)の課題ではないでしょうか。それを有権者が監視する。『議会制民主主義を守らなければならない』、これをスローガンのように言っても守られないので。実際に内容のある議論をしていくことで、その実を取っていく」

高瀬アナ「徳橋さん、政治が重要な局面を迎えていると言えますが、わたしたち改めてどうやって政治に向かえばよいと考えますか」

政治部・徳橋キャップ「どんなに主義や主張が違っても、言論に対抗できるのは言論だけであって、議論を戦わせたうえで選挙によって有権者が審判を受けるというのが、長い年月を経て築き上げられてきた社会の根本的なルールです。今回の事件の容疑者は、政治信条への恨みでは無いと供述しているということですが、その動機の如何にかかわらず、今回のような暴挙によって、言論が萎縮するというようなことだけは、あってはならないと思います。今回の事件が選挙運動に影響を与えてはならないということと同じく、有権者の投票行動にも、影響を与えてはならないと思います。事件と関係なく国や社会のあり方、そして政策の是非などを考えて、有権者としての意思を示すという貴重な機会であるというだけにはとどまらず、戦後一貫して守られてきた民主主義を維持するということが、いかに大切かということを、改めて認識する重要な機会だと思います」

高瀬アナ「御厨さんは、暴力を放任すれば、いずれ私たちの暮らしにしっぺ返しが来ると警鐘を鳴らしています。いかなる個人的な理由があろうと一方的な暴力に訴える凶行は、民主主義の破壊にほかなりません。私たちは当たり前のことを、今問い直していかなければなりません」