安倍元首相銃撃事件と旧統一教会 〜深層と波紋を追う〜【前編】

NHK
2022年11月4日 午後1:20 公開

(2022年10月2日の放送内容を基にしています)

安倍元総理大臣を殺害した山上徹也容疑者。

信者やその家族が困窮するほど、多額の献金を迫ってきた「旧統一教会」。

なぜ、度々指摘を受けながら問題が続いてきたのか。

さらに、事件をきっかけに明らかになったのが、これまで公にされてこなかった「旧統一教会」と政治家との接点。自らの教義を実現させたいとする教会側。政治家とどう繋がろうとしてきたのか。一方、政治の側は、なぜ、献金をめぐるトラブルが後を絶たない教会側と関係を持ってしまうのか。

事件から3か月。凶行はなぜ引き起こされたのか。そして、私たちに何を問いかけているのか。

高瀬耕造キャスター「安倍元総理大臣が銃撃された事件をきっかけに、明るみに出た世界平和統一家庭連合、旧統一教会の問題。3か月にわたる取材によって深層が浮かび上がってきました。①統一教会に強い恨みを募らせていたという山上容疑者。決して許されない凶行へと向かわせた25年には、信者の家族が抱える救いのない苦しみと孤独がありました」

高瀬キャスター「②巨額の献金は、何のためにどう使われているのか、韓国の教会関係者を独自取材すると、日本が極めて重要な資金源になっている実態が見えてきました。③そして、次々に明らかになる教会側と政治家の接点。思惑はどこにあるのか。

まずは山上容疑者。事件までの25年、人知れず心の闇を深めていった実態です」

<山上徹也容疑者 空白の25年>

山上徹也容疑者を、長年にわたって支えてきた伯父が取材に応じました。

山上容疑者の伯父「統一教会によって、人生がむちゃくちゃににされた。(容疑者の兄から)私のところへ電話があったんです。SOSのね。食べ物も尽きたと。電気代も払ってないと。おすしとか缶詰持って、10万とか持ってとんでいったら、確かに冷蔵庫も空っぽやし、台所は洗い物が積んであるし」

山上容疑者にとって、旧統一教会とは何だったのか。

伯父や関係者の証言、そして、容疑者が事件の3年ほど前から書き込んだとみられるSNSから、事件に至る背景を探りました。

「全ての原因は25年前だと言わせてもらう。なぁ、統一教会よ」(容疑者のものとみられる書き込み・2021年4月24日)

1996年。奈良県内の進学校に通っていた山上容疑者。

教会への信仰を深めていた母親は、亡くなった夫の死亡保険金など、あわせて1億円以上を教会に献金しました。容疑者のものとみられる投稿には、献金を続ける母親について、書き込まれていました。

「怒れば黙る、一時は家事もする、そしてまた金を持ち出す。地獄」(容疑者のものとみられる書き込み・2021年6月8日)

なぜ母親は、教会にのめり込んでいったのか。

20年以上にわたって、山上容疑者や家族と深い関わりを持ってきた人物が韓国にいました。容疑者の母が通っていた教会の元幹部の男性です。

私たちは、撮影や音声の記録は行わないことを条件に、事件の1か月後から、取材を続けてきました。家族の幸福を願う母親が、教会の教義にすがる思いで献金を続けていたと、男性は明かしました。

「大病を患っていた容疑者の兄が手術をした。『この子(兄)に二度と、こんな手術をさせたくない』と考え、献金を始めた。献金することが、家族の平穏につながると信じていた」(容疑者と関わりがあった教会の元幹部への取材メモ)

そして元幹部の男性は、母親と容疑者の関係について、こう語りました。

「母親は兄に関心が向いていた。10のうち兄貴が8、徹也は1くらい。母親の意識の中から外れていたと思う。徹也は常にさみしかったのかもしれない」(容疑者と関わりがあった教会の元幹部への取材メモ)

献金を続けた母親は2002年、容疑者が21歳の時、自己破産しました。この頃、大学進学を諦め、海上自衛隊に入隊していた山上容疑者。家族の困窮が続く中、2005年自殺を図ります。

伯父は、容疑者が病気の兄の将来を考え抜いた末の決断だったと、振り返ります。

山上容疑者の伯父「兄貴も生活できてないんで、自分の生命保険金によって助けてやりたいと。こういうことですよね。わざわざ生命保険の受取人を兄貴に変えてね」

この時、韓国の教会施設で活動に参加していた母親。息子の元に駆けつけることは、ありませんでした。

山上容疑者の伯父「統一教会へファックスを送って、『(母親は)どこにいるんや』と。その回答に『韓国におります。帰ってきしだい病院に行かせます』と。実際には“40日修練”が終わるまで帰って来なかった」

一方、旧統一教会側は、2010年前後から、政治との関係を深めようとしていきます。関連団体の幹部は、安倍元総理大臣への接触もはかっていました。

そして、2015年。山上容疑者をさらに追い詰める出来事が起きました。

母親が教会に入信した理由になったとみられる、兄が亡くなったのです。経済的に苦境が続き、望んだ治療を受けられないことに絶望した末の自殺でした。

山上容疑者の伯父「(兄の)病状がかなり悪化したんですよ。(病院に行けず)もうどうしようもなくて、(平成)27年に飛び降りたんですよ。徹也が葬式のときに、遺体を触りながら大泣きしたでしょ。今回の事件の一番の大もとは、ここなんですよ。私はここやと思ってる。そっから徹也は変わってしまったんやな」

山上容疑者のものとみられるSNSには、無関係の被災者さえ、羨むような投稿が書き込まれていました。

「肉親を失い、生活基盤を失い病むのは同じでも、これだけ報道され共有され、多くを語らずとも理解され、支援される可能性がある。何て恵まれているのだろう」(容疑者のものとみられる書き込み・2021年2月28日)

その後、仕事を転々とするようになった山上容疑者。勤めていた会社で、深い人間関係を築いた人はいませんでした。

元同僚「雑談系っていうのは、家の話とかは一切してないので。『どこに住んでるの?』とか、それぐらいの会話でしたね」

元同僚「物静かっていうところは、一番印象に残っている」

捜査関係者によると山上容疑者は、「教会の総裁をずっと狙っていたが、上手くいかなかった」と供述しています。

一方、SNSには、事件を起こす2年以上前から、教会と安倍氏との関係に批判的な投稿が繰り返されるようになっていきました。

そして山上容疑者は、教会の関連団体のイベントに安倍氏がビデオメッセージを寄せたことを知ります。

「山上徹也という人間は、統一教会が社会悪だということを心底信じて、自分の人生をかけて、それを成敗するために悩んでいた。どこかで決心、確信したのだろう」(容疑者と関わりがあった教会の元幹部への取材メモ)

「オレが憎むのは統一教会だけだ。結果として安倍政権に何があっても、オレの知った事ではない」(容疑者のものとみられる書き込み・2019年10月14日)

高瀬キャスター「山上容疑者の厳しい境遇が見えてきた一方で、絶対に許されない犯罪まで踏み込んでしまったのはなぜなのか、更なる解明が待たれます」

高瀬キャスター「事件の背景にある旧統一教会を巡る問題。80年代から信者に対する高額な献金の強要や、霊感商法が社会問題となってきました。信者らの相談を受けている全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、1987年から2009年までに2万件以上の相談が寄せられ、金額はおよそ1000億円に上りました。刑事事件に発展するケースも相次いだことから、2009年に教会側はコンプライアンス宣言を行い、高額の献金などを巡る民事訴訟の件数は減ったとしています。しかし、献金を巡るトラブルは、その後も続きます。弁護士連絡会によると、2009年以降も献金を強要されるケースなどは60件以上あり、係争中のものも含め、総額は少なくとも7億9000万円に上っているということです。NHKの取材でも『先祖の恨みを解くために必要だ』として、半ば強制的に高額献金を迫る実態も明らかになっていますが、こうしたトラブルはなぜなくならないでしょうか」

<「日韓トンネル」 献金の構図>

玄界灘をのぞむ山中に、旧統一教会の幹部が会長を務めてきた、国際ハイウェイ財団の施設があります。教会側は、ここで進めるインフラの構想を名目に資金を集めてきました。

国際ハイウェイ財団 現地所長「韓国と日本の間の玄界灘をトンネルで結ぼうと・・・」(2014年・日韓トンネル視察ツアーより)

一部のメディアを招いてPRしていたのは「日韓トンネル」。建設費は10兆円とうたっています。

国際ハイウェイ財団 現地所長「過去の因縁をきれいに整理して、第一歩として『日韓トンネル』と」

「日韓トンネル」は、戦前の鉄道省や、戦後も大手建設会社によって度々計画され、調査が進みましたが、結局、実現しませんでした。1981年。旧統一教会の創始者、文鮮明(ムン・ソンミョン)氏が、世界を結ぶ国際ハイウェイを掲げ、その一環として日韓トンネルを提唱しました。

国際ハイウェイ財団会長(当時)旧統一教会元会長・徳野英治氏「私たち統一運動が中心となって、多くの資金を投入し、多くの会員たちの精誠とエネルギーを投入しながら、今日に至って参りました」(2014年 対馬・調査斜坑 阿連坑口オープン式)

しかし提唱から40年以上、資金を集め続けてきましたが、本格的な工事は始まっていません。集めた資金をめぐり、元信者が損害賠償を求めるなど、金銭トラブルが相次いで発生。

2007年に、1200万円もの献金をさせられた元信者です。入信以来、先祖の呪いから解放されるとして、宝石や祈願書などを次々と購入させられました。さらに迫られたのが、「日韓トンネル」への献金でした。資金は、保険を解約し捻出するよう強いられたと言います。

元信者の家族「生命保険に勤めている人がいるんです。教会に。その人が解約を手伝ってくれる。それで日韓トンネル300万。今度は6月、解約900万。こんなんです。やり口はすごくずるい。巧妙ですね」

元信者(90代)「本当に悔しいですね」

コンプライアンス宣言の翌年に配られた資料では、「1ミリ5万円」「1口5万円運動」などとして、献金を呼びかけていました。

投資家 ジム・ロジャーズ氏「私が知るこれからの世紀で、最もわくわくするものは、『日韓トンネルプロジェクト』だ」(国際ハイウェイ財団YouTubeより)

さらに、専門家による経済効果や資金調達の試算などを配信し、実現性をアピール。

依頼を受けて、試算をした野田順康教授です。教会側に利用されたのではないかと考えています。国土計画が専門の野田さんに対して、教会側は「実現可能な方法はないか」と求めてきたといいます。

西南学院大学・野田順康教授「『公共事業でやることは不可能だ』と申し上げて、『もしやれるとすれば、プロジェクトファイナンスでやる以外に手はありません』と伝えると『それじゃあ、どうやってできるか証明してほしい』と」

今も教会側は、日韓トンネルの資金集めを続けています。

西南学院大学・野田順康教授「もちろん怒りはありますよ。日韓トンネルの有効性や構想と、全く違う方向に利用されている。悪用されているということですね」

さまざまな名目や手口で集めた献金の総額は、多い時で年間400億円近くに達したとみられています。

全国霊感商法対策弁護士連絡会・山口広弁護士「献金を韓国本部に持って行くと、これが日本の組織の最大の使命。組織目標ですから、それはもう揺るがない。日韓トンネルは完全に工事はとまっています。この動きを材料にして資金を集めるとしたら、非常に詐欺的なものだと」

<多額の献金はどこへ…韓国で追跡取材>

日本で集められた献金は、どのように使われているのか。

旧統一教会の世界本部がある韓国で探りました。韓国の本部に長く籍を置いていた男性が取材に応じました。宣教活動のほとんどの資金は、日本からの献金に依存してきたと証言します。

韓国本部に所属していた関係者「(求められる)献金額は韓国人が13万円なら、日本人は130万円。日本から入ってくる金が統一教会において、とてつもなく大きな部分を占めています」

日本に多額の献金が求められる背景の一つに、創始者が語った「日本の役割」があると言います。

「日本は帝国主義時代に、国から占領したものをすべて返して罪を償うべきだ」(「文鮮明先生御言葉選集」より)

韓国本部に所属していた関係者「献金額が多ければ多いほど、先祖の罪は早く清算してもらえます。子孫は祝福を受け、自分の問題が解決されるのです」

現在の教会のあり方を疑問視する、ある現役信者は、90年代から2000年代初頭にかけての教会全体の金の流れを目にしてきました。男性は当時、統一教会の資産を管理する財団で経理を担当していました。献金の多くは、関連する営利企業の活動などにも、恒常的に充てられていたと指摘します。

当時の仕組みです。献金は日本の教会を通じて、韓国の教会に納められ、その後男性が所属していた財団などに集められます。財団の金は、食品や新聞、建設など、教会が関係する様々な企業に回されていったといいます。

財団の元職員「お金が必要になったら、系列会社の理事が財団事務所に来て、『お金を下さい』とねだってくるんです。彼らは『文鮮明(ムン・ソンミョン)お父さんが作った会社が、不渡りを出すわけにはいかないじゃないか』と言いました」

日本の教会本部は、20年ほど前から、この財団に日本の献金は渡っていないとしています。

いまこの財団は、韓国の中でも最大の規模にまで拡大。財団の財務諸表などによると、去年の資産の合計はおよそ3兆ウォン。日本円で3000億円にまでなっています。

一方、いま日本からの献金は、別の財団に渡っています。詳細は公表されていませんが、総工費400億円とも言われる関連施設の建設にも、日本の献金が使われています。

男性は、教会の資産はすでに膨大なため、日本の信者にこれ以上、負担をかけ続けることに疑問を感じています。

財団の元職員「本来は、日本人たちに献金させるのではなく、会社が上げた収益を回せばいいだけなのです。でもそれはやりたがりません。言えば献金が手に入るからです。日本の信者たちがどうなろうが関係なく」

<韓国の本部が変わらなければ問題は解決しない>

しかし、韓国の本部に長年関わってきた男性は、こうした構造を変えるのは、容易ではないと指摘します。日本の会長のさらにその上には、韓国人の日本大陸会長や、世界本部長が存在しているからです。

韓国本部に所属していた関係者「日本の指導者に対する人事も財産管理も、韓国の本部が行っています。日本の教会が変わるには、韓国の本部の上層部の考えが変わらなければならないのです」

高瀬キャスター「一連の問題を受けて、日本の教会本部は、教会改革推進本部を新たに設置。9月22日(2022年)改革の方針を発表しました。この中で、信者やその家族の社会生活を困難にしたり、献金のために借金するような、過度な献金にならないよう指導するなど、2009年にコンプライアンスを強化した際の対策を改めて徹底するとしました」

高瀬キャスター「しかし、過度な献金となる基準についての具体的な数字が示されないなど、批判が相次ぎました。改革の実行性について責任者に直接問いました」

<改革はできるのか 教会幹部に問う>

改革推進本部の勅使河原秀行(てしがわら・ひでゆき)本部長です。

高瀬キャスター「改革の骨子の中で、『信者の経済状態に比して、過度な献金とならないよう十分に配慮しなければならない』と明記していますが、やはり、その過度であるかどうか、という判断というのは、誰がどのように行うのでしょうか」

勅使河原本部長「信徒さんが献金を捧げて、その後、通常の社会生活を送れないとか、あるいは借りたお金で献金するとか、そういったことが、過度な献金という意味なんだと」

ディレクター「具体的に収入のこのくらいを超えたら過度だ、というような、何らかの数字的な目安みたいなことは考えていますか」

勅使河原本部長「一応ですね、今回、いろいろ本部でも議論したんですけど、結論としては、収入の『10分の3』を超えると、過度とは言いませんけど、これを超えれば相手の内容を確認して、そして記録に残していくと」

月収の10分の3を超える献金があった場合、リストを作成し、教会の上部組織や改革推進本部がチェックするとしています。

高瀬キャスター「それらを進めていけば、山上家のケースだったりとか、そういったトラブルだったり、苦しみみたいなものは、なくなるとお考えですか」

勅使河原本部長「徹底されれば、ほぼなくなると思います」

高瀬キャスター「できますか?実行性をお聞きしますが」

勅使河原本部長「今回、まあ、相当今まで、その、うーん。何て言うんでしょう。監督機関の文化庁に、年に一度予算計画を出すんですけど、その予算計画も基本的にはもう『規模を半分以下』に一応抑える方向で大体調整がつきました」

高瀬キャスター「規模を半分に?」

勅使河原本部長「半分以下」

献金からなる予算について、初めて具体的な減額規模を示しました。

高瀬キャスター「本当に改革を実行することができるのか、韓国の本部が変わらなければ、問題は解決しないんじゃないか、という指摘もありますが、そのあたりは?」

勅使河原本部長「私どもとしても、今はまず、この国内の諸問題に対処すべきだと。もしやらないとしたら、責任とれるのかといったときに、彼ら(韓国の幹部)もとれないですよね。それは何を言ってこようが、できないものはできないということですね」

ディレクター「韓鶴子(ハン・ハクチャ)総裁、世界宣教本部長、日本総会長、幹部の方たちは、この方針についてどのように話していますか」

勅使河原本部長「基本的に了解の中で進んでいるということですね」

今回、教会は初めて信者の子ども「2世」を対象に、調査を実施したことを明らかにしました。

主に教会に通っている2000人あまりが回答したという結果を、教会自ら作成したボードで説明しました。「一般家庭と比べ、自分の家庭が貧しいと感じたことがある」と答えたのはおよそ6割に上ることなどが分かったとしています。

今回の調査には、信仰から離れている2世の声はほとんど反映されていません。実際には、さらに深刻な数字になる可能性があります。

地区教会長「貧しいと感じるというコメントには本当に胸が痛く。そういう内容も含まれておりました」

勅使河原本部長「その深刻さに対する認識が、甘かったというのはあります。いま教会改革の推進本部長ですから、その与えられた職責に見合った改革を成し遂げていきたい」

勅使河原本部長のインタビューの詳細はこちらからもご覧いただけます

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