キラキラムチュー ~発達障害と生きる~

NHK
2022年12月16日 午後3:11 公開

(2022年12月3日の放送内容を基にしています)

みなさんのまわりに、こんなキラキラした子どもたちいませんか?

「鉄道」が大好きな子。「数字」が大好きな子。好きなことに夢中になっている子どもたち。

みんな好きなものは違うけど、共通していることが一つある。それは「発達障害」があること。小中学生の15人に1人はいると言われる「発達障害」。その特性は「コミュニケーションが苦手」「興味がないと集中できない」「動き回って落ち着きがない」などがある。でも、きょう紹介する子どもたちの日常は、豊かな時間が流れている。それは“好きなもの”があるから。

今年4月、ある最新の研究が発表された。発達障害と診断された子どもを20年にわたって追跡したデータで、その信頼性の高さは国際的にも類を見ない。“好きなもの”が支えとなって、子どもたちの社会参加や自立生活に、よい影響を与えている可能性があると分かってきた。

信州大学医学部 教授 本田秀夫さん「好きなことだと何も言われなくても自分からやろうとしますし、多少の困難があっても自分で克服しようと工夫をしてみたりするわけですよね。楽しみとか遊べることを持っているかどうかというのは、これはすべての人に通じることだと思います」

きょうの主役は、4人の子どもたち。彼らの日常は、キラキラと輝いている。夢中なその姿から、成長に必要なものや、生きづらさをラクにしてくれるヒントが見えてくる。

福沢睦弥君(11)「信濃町立信濃小中学校6年生、福沢睦弥です。僕が好きなことは『乗り鉄』と『撮り鉄』です」

睦弥君と最初に出会ったのは、1年半前(2021年5月)。休みの日は、いつもお父さんとお出かけだ。

睦弥君「たぶん『軽井沢リゾート1号』の送り込みの回送列車だわ。あれ」

とにかく「鉄道」が大好きな睦弥君。走る電車を、次々とビデオやカメラに収めていく。

睦弥君の父 一樹さん「本人が物心ついたときには、こんな感じだったんで。鉄道のことになると、猪突猛進(ちょとつもうしん)というか、ガッと全神経を集中させて全力でやる」

睦弥君、電車のことには夢中になるけど、それ以外のことにはあまり関心がなく友達と一緒に遊ぶことも少なかった。

睦弥君の母 明恵さん「子どもたちが集まるような所に連れて行ってもダメなんですよね。1人でいたいし、廊下に飛び出しちゃうし、かんしゃくが起きてワーってなる。どうしてうちの子は、遊べる所に連れてきてあげているのに遊ばないんだろう。ずっと、そう思っていて」

睦弥君が3歳のとき、保育園のすすめで小児科に連れて行くと、「発達障害」があると分かった。

「発達障害」とは、先天的な脳機能の偏りによって発達にアンバランスさが生じ、日常生活に支障をきたしている状態のこと。大きく3つに分類される。じっとしていられない、忘れ物が多いなどの特性がある「注意欠如・多動症(ADHD)」。書く・読む・計算するなどに著しい困難がある「学習障害(LD)」。そして、こだわりが強く集団行動が苦手などの特性がある「自閉スペクトラム症(ASD)」。

人によっては複数の特性をあわせ持つことがあるけれど、睦弥君の場合は「自閉スペクトラム症(ASD)」の特性だけが見られる。睦弥君が強いこだわりを示したのが「鉄道」だった。

睦弥君「これね、115系のしなの鉄道色のS6とS16の横須賀色と、S7の旧長野色とS15の新長野色と、トワイライト・エクスプレスと、115系S11編成」

「鉄道」があることで、生き生きと成長してきた。

睦弥君の父「やっぱり彼の生きがいなんで、できるかぎり意向に沿った形で、サポートというかやってあげられればいいなと思っています」

睦弥君には夢がある。

睦弥君「電車の運転手さんになる!なれると思う」

睦弥君に負けないくらいキラキラした子がいる。

石黒豪輝君(11)「小学5年生の石黒豪輝です。11歳です。好きなことは天気予報と道路です。おでかけが大好きです。いろいろ興味が変わっていきました。よろしくお願いします」

「道路」好きの豪輝君は、お父さんとのドライブが大好き。

豪輝君「三ツ沢ICに入ります。そこで金港JCTから湾岸線の横浜ベイブリッジ方面です」

これから、千葉へドライブだ。

豪輝君の父尚彦さん「豪輝、カーナビをセットして」

豪輝君「いや分かる」

豪輝君の父「分かる?さすがだね」

豪輝君「現在首都高、千葉に入りました」

豪輝君「いま湾岸線ですね。実は、湾岸線は湾岸線ですが、いろんな湾岸線がありますよね。首都高湾岸線と大阪の湾岸線、伊勢湾岸自動車道。昔、伊勢湾岸自動車道は、飛島ICから名港中央ICまでできた。さらに四日市JCTまでつながって、豊田東JCTまでつながったというわけです」

「道路」がどうやってつながっていったのか。そこまで知っているんだ!

豪輝君「千鳥町。ここで湾岸線終点です」

豪輝君の父「この先、あれかな?」

豪輝君「別料金。東関東自動車道」

「道路」のことが大好きな豪輝君が、「自閉スペクトラム症(ASD)」と診断されたのは3歳のときだった。

豪輝君の母 仁女さん「デパートとかスーパーマーケットとか行くと、通路のド真ん中で、ワーって寝転がって、ワーって泣き叫ぶ。そんな感じを繰り返していました」

そんなときお母さんは、豪輝君の気持ちが落ち着くものがあることに気がついた。それはエレベーター。

豪輝君の母「エレベーターの階数。1、2、3って、のぼっていくうちに数字が変わるじゃないですか。液晶の。数字をずっと見てるんですね。たぶん液晶を見るのが楽しくって。かんしゃくを起こしたときに落ち着くし」

そこで、いつでもエレベーターを楽しめるよう、こんな工夫をした。

豪輝君の母「エレベーターの階数。いちばん気になる階数で、ベースメントの地下と通常階。『豪ちゃん、ママちょっと地下に行きたいな』って言って、『何階ですか?』『ピンポーン。ベースメント3階です』みたいな感じで、遊んでいました」

それ以来、豪輝君は、かんしゃくが減って笑顔が増えた。

豪輝君は今、週に1回塾に通い、勉強を頑張っている。ここは主に発達障害のある子どもを対象にした民間の学習塾だ。生徒一人一人の特性を理解した講師が、その子のペースに合わせて教えてくれる。

豪輝君「あれ?鉛筆が、鉛筆がない。消えてる鉛筆が!鉛筆がない。どうしよう。どうしよう、ヤバイ!どうしよう。ない、なーい、ない!」

講師「落ち着いて豪輝君。あるよ。どんな鉛筆だった?」

豪輝君「え…三角鉛筆」

講師「三角鉛筆か。じゃあいったんテキストを閉じて、探してみよう」

豪輝君「わあ。どうしよう。ヤバイ。ヤバイ!ヤ、ヤバイ!」

講師「豪輝くん、落ち着いて。筆箱の中は見た?」

豪輝君「見た!」

講師「もう1回見てごらん」

豪輝君「ない、だから。これしかないんだよ」

講師「筆箱の裏は?」

豪輝君「あった…」

講師「あったねえ。落ち着いて探せば、あったねえ。落ち着ける?」

豪輝君「慌てちゃったからね」

感情のコントロールが難しいのは、豪輝君の「自閉スペクトラム症(ASD)」の特性からくるもの。

講師「切り替えできる?」

豪輝君「うん」

そうだね。自分で切り替え、できてるよ。

豪輝君「すごく慌てちゃう。『ヤバイヤバイ。わぁー』って、こんなに暴れちゃうよ。『どうしようどうしよう、わぁ』ってなっちゃう。でも今はね、自分の気持ちもよく分かるようになってね、どうすればいいか、どうすればいいかも考えられるようになった。成長したから。成長の速度が速くなったから・・・だよ。たぶん」

でも、お母さんには心配もあるみたい。

豪輝君の母「できないところを、親がケアしたり、周りがケアしたりしていますよね。この先、中学生や高校生になったとき、いつまでも親がケアできないので」

「コミュニケーションが苦手」「感情のコントロールが難しい」など発達障害の特性があると、「将来、子どもは社会に出て生活できるのか」。そんな悩みを抱える保護者は、多いみたい。

でも、大丈夫。

今年4月、保護者の不安解消につながるような「発達障害に関するデータ」が発表されました。中心メンバーは、発達障害のある子どもと親に30年以上向き合ってきた精神科医の本田さん、そして岩佐さんです。対象は、横浜市港北区で同じ時期(1988年~1996年)に生まれた子どもたち。その中から発達障害(自閉スペクトラム症)のある子どもたちに調査を依頼。170人の了解を得て、20年間追跡しました。その信頼性の高さは、国際的に高く評価されています。

結果は、大人になって「社会参加」や「自立生活」が良好と思われる人が、全体のおよそ7割を占めていたのです。

岩佐医師「『こういうふうに生活している人もいるよ』と形にできたことで、ご本人さんとか、ご家族とか、支援されている方たちに、勇気づけられるような形として伝わればいいなと思っています」

そして「社会参加」や「自立生活」を促した要因として注目されるのが、“好きなもの”との関わりでした。

本田教授「何らかの『医療』や『福祉』や『教育』の支援を受けてきている方々という要因があるのかなとは思っていますけど、それもこれから分析することになります。あとは『余暇活動』(好きな趣味をやること)を、かなり注目して見ているんですけれども、多くの方が余暇活動をそれなりに持っていらっしゃるという実態を見ますと、そのあたりは要因になりうるんじゃないかなとは考えています」

例えば現在、仕事を持つ32歳の男性の場合。子どものころから継続して“好きなもの”がありました。

岩佐医師「この方ですと『電車は形を変えてずっと好き』というふうに書いてあります。小さいときは電車とかプラレールですね。そういうのが好きということで小学生時代を過ごして…」

この男性、中学生になっても「鉄道」への興味は続きました。その後「鉄道模型」や「車両の撮影」など、興味の幅を広げ、それに合わせて交流の輪も広がっていきました。

岩佐医師「自分の好きな電車というものがずっと息づいていて、好きなものを通して社会関係が広がる。そういう一例かなとは思っています」

鉄道好きの男性以外にも「ピアノやスイミング」「アイドル」「折り紙」など、興味のあるものに支えられてきた多くの事例があります。

本田教授「余暇活動(好きな趣味をやること)を楽しむということと、社会参加をある程度果たせているということは、関連があるのかなと思っております。苦手なことを克服することよりも、好きなことを思う存分楽しむこと。余暇活動に力を入れることこそが、発達障害の人たちの最も重要な要素になりうるんじゃないかなと思っています」

好きになるものは、あくまで本人が興味を持つもの。周りの人の価値観は関係ないと言います。

本田教授「総じて言えばそうですね。ただ他人に迷惑なことはいけないですね。でも、とにかく自分の心が満たされるように楽しめていれば、何でもありなんですよね」

近野 樹君(11)「小学6年生、近野樹です。11歳です。いちばん好きなものは『数字』です。数字は、計算や社会問題、単純な日常生活にも使えます。数字はとても面白いものです。よろしくお願いします」

樹君にとって「数字」は、なくてはならないもの。

樹君「はい、数字発見!」

樹君「車のナンバープレートとかで、+なり×なり-なり÷なりして、『10』を作るみたいな遊びをいつもしてます」

樹君「篠原3、2、1」

「3と2と1」を何とかして、「10」にするんだよね?…ん?

樹君「3²+1=9+1=10 ♪てってりーん♪完成!」

樹君「やってれば時間も無限に過ぎるし、いいことしかない。大好き!数字はね、やっぱいいよ(笑)。自分の心にともる炎みたい。遊ぶんだけれど、お金はかかんないみたいな。最新のスタイル」

でも親にとっては、“好きなこと”だけを優先していいのかという心配もある。樹君のお母さんも、その一人だった。樹君が3歳のとき「自閉スペクトラム症(ASD)」と「注意欠如・多動症(ADHD)」と診断される。

樹君の母菜穂子さん「衝撃でしたね。頭をハンマーでガーンと殴られたとよく言いますけど、そのときはショックで、帰りとかに数字を見て喜んで無邪気に「20!」「30!」って言ってるのを聞いても、もう喜べなくなってしまって」

保育園の運動会では、集団行動が難しい「自閉スペクトラム症(ASD)」の特性を、目の当たりにした。さらに「注意欠如・多動症(ADHD)」の特性から、動き回る樹君を先生がだっこした。そんなとき、隣で見ていた人がつぶやいた。

樹君の母「『あの子はああやって言うことを聞かなかったら、先生がだっこしてくれるって知ってるから、やらないでいる子なんだよ。甘やかされてるんだよ』というのを、私の子だと知らないので…それを聞いたときにすごくつらくて」

これからどうやって育てていけばいいのか。菜穂子さんは、ずっと悩み続けていた。

樹君の母「朝、保育園に送ってから、1人でボーッと眺めたりしていましたね。高いマンションを見つつ、ああいう所から飛び降りたら死ねるかなとか、楽になるかなとまで思って。たぶん3歳の時期がいちばんつらかったのかもしれないですね」

どん底だった菜穂子さんを、救ってくれた場所がある。全国の市町村にある療育施設「児童発達支援事業所」だ。小学校の入学前に、主に障害のある子どもが利用できる場所。病院の紹介で、当時、保育園児だった樹君と1年間通った。

樹君の母「『苦手なことが少しでもできるようになればいいな』という方向で最初は考えていたし、ちょっとでも凹(ぼこ)が減るようにみたいなイメージは、最初はあったと思うんですよ」

園長 地内亜紀子さん「『数字とか好きなものをドンドンやらせよう』と言ったときに、『なんでですか?』って言ったときもありましたよね。『みんなと同じでいいです』とかね」

「普通の子」になってもらいたいと願っていた菜穂子さん。でも何度チャレンジさせても、苦手なことはできず、樹君は泣くばかり。その姿に、菜穂子さんは大事なことに気づかされた。

樹君の母「最初は本当に被害者意識みたいな感じで『私こんなに頑張ってるのに』というのが先だったと思うんですよ。そうじゃなくて『困っているのは子どもなんだよ』と言ったときに、『あっそうなんだ!』と思えると、ただ困っているだけではなくて『頑張んなきゃ』という方向になると、『泣いてる場合じゃないな』みたいな」

園長「数字やってたほうが、すごい生き生きとしていましたしね」

樹君の母「ですねえ。だからいいかなと思えるようになった」

園長「そしたら伸ばしていく方向に、変わりましたよね。お母さんもね」

樹君の母「『大丈夫』という安心感。すごい楽になりましたよ」

そして今では、菜穂子さんは、樹君の“好き”を目いっぱい応援している。朝は、大好きな「数字」を楽しむ時間。誰にも邪魔されず、思う存分「数字」と遊ぶ。

その代わり、朝食は自分で作る。そして朝のゴミ出しは、樹君の担当だ。

樹君「やっぱり楽しいから。面倒くさいとか嫌だなとかに気持ちが勝つから、やってても嫌な感じはしないかな」

好きなことを自由にやって、やるべきこともやる。菜穂子さんは毎朝、寝室のある2階で耳をそばだてて見守っている。

樹君の母「いちばん平和ですよね。そばにいたら『顔の洗い方が悪い』『歯の磨き方が悪い』『パン1枚でいいの?』とか、なんか言いたくなっちゃうんですよね。向こうは言われたくないじゃないですか。お互いの心の平和のために。関係も良好みたいな感じですね」

樹君、今の自分をどう思っているのかな?

樹君「僕としては、発達障害は僕のアイデンティティーじゃないのかな。そんな感じの考え方です。たぶんこの後、まだまだ成長は止まらないと思います」

樹君のケースのように、発達障害のある子どもには苦手なことを無理に押しつけないほうがよいといいます。

本田教授「メンタルヘルスが不調になっている人とか、生活がつらいと感じている方というのが、実は楽しみにできることが少なくなっている方が多いですよね」

本田さんが懸念するのは「二次障害」。発達障害の特性を周囲が理解せず、子どもに過剰な負荷がかかって起こるものです。主に「不登校」や「ひきこもり」「うつ病」などがあり、それを防ぐには“苦手なもの”より“好きなもの”を優先することを、本田さんはすすめます。

本田教授「親が嫌なことでも頑張らせたいとか、逆に好きなことだけど、役に立たなさそうなことはやめさせたいとか、変な外圧がかかることによってゆがむので、やっぱり好きなことに熱中する機会を持つということが、かなり鍵になる。そういった意味で二次障害の予防に、かなり寄与するんじゃないかと思います」

さらに、“好きなもの”に夢中になることで、コミュニケーションの力がアップすることもある。

上間友輝君(11)「小学5年生、上間友輝です。好きなことはゲーム作り。ゲームを作っていると時間を忘れてしまいます。みなさんも、やってみてはどうでしょうか」

自作のテレビゲームやカードゲームなど、創作意欲にあふれている。

友輝君「ゲーム作りとか、生き物と同じで魂を与えて完成するみたいな。作ってるときがいちばん楽しいかな」

友輝君の学校に、お邪魔してみた。授業中、友輝君は特殊なクッションに座っている。発達障害の一つ「注意欠如・多動症(ADHD)」の診断を受けたのは、1年半前。じっと座っていられず、落ち着きがないという特性がある。そこで、バランスを取りながら座るクッションを使って、その特性をカバーしている。

コミュニケーションが苦手という「自閉スペクトラム症(ASD)」の特性もある友輝君。でも、人と話すのが苦手なようには見えない。そのワケは、友輝君が通うお気に入りの場所にあった。

それは、街中にあるカフェ。ゲームが好きな子どもや大人が集まる。2年前に参加した地元のゲームのイベントで、このカフェの店長と知り合った。月に数回、常連さんなど大人たちに混じってアナログゲームで遊ぶ。

店長「黄色を出します」

友輝君「実は僕、緑を出しきったんだよねー」

店長「あ、そう!ああ、つらいつらい」

友輝君「実はウソだったんだよねー(笑)」

店長「やめてくれ~」

友輝君「いろんな人と話しながらやるというのが、おもしろいなって」

店長「なかなかふだん会わない人と、しゃべりながら遊べるからね」

みんなと一緒に、同じもので夢中になれる場所。ここでコミュニケーションの力をつけていった。友輝君の変化に両親は・・・。

友輝君の母 春江さん「すごいなこれはと思って、ビックリしましたね。もともとはお母さんの陰に隠れてモジモジ。貝のようになって何もしゃべれなくなる。でもそういう場面がなくなりましたね」

友輝君の父 匠さん「いろんな場面で、普通にしゃべったりとかが広がったり、人見知りのように見える回数はほとんどなくなったというか、少なくなったかなっていうのはありますね」

友輝君のケースのように、同じ価値観を共有できる場所が重要だという研究があります。コミュニケーションと子どもの発達を研究している藤野博さんは、ポイントとなるのは第3の場所「サードプレイス」だと言います。

藤野教授「『家庭』が第1の場所、それから『学校』が第2の場所、それに次ぐ第3の場所とされています。力を抜いてリラックスして、自分のありのままで過ごせる場所が重要かと思うんですね。特に発達障害のお子さんたちの場合に『共感性が乏しい』なんて言い方をされることもあったんだけれども、特に最近の研究で、似たようなタイプの子供に対して「共感が生じる」という研究があるんですね。とてもじょう舌になるんですよね。まったく見違えるほど変わってくるんです。やっぱり好きなことに取り組める。それを周りの人も受け入れてくれる。それを評価してくれる。そういう環境の中に入ることによって、コミュニケーションの様子は全然変わってくると思います」

夢は「電車の運転手」という、鉄道好きの睦弥君。今年4月、中学生になった。思春期を迎え、なにかと不安定になるこの時期。睦弥君に会いに行った(今年10月)。

学生服、決まってるね。もう慣れたかな?

睦弥君「あともうちょいで慣れるって感じ。学生服はちょっとブカブカだけど」

睦弥君の学校にお邪魔してみた。睦弥君は今、さまざまな障害のある子どもたちが利用できる「特別支援学級」に通っている。

中学生になって、勉強が難しくなっているみたい。

「自閉スペクトラム症(ASD)」の特性から、興味のないことには集中することが難しい。

睦弥君「ちょっと休憩したい。頭痛い」

教師「じゃあ15分までね」

睦弥君「はいよ」

自分でクールダウンする。

中学校の勉強、大変そうだね。

睦弥君「うーん。難しい。けっこう難しい。ほとんどもう、ほとんどというか、もうすべて入りきらなくなっちゃって」

思春期の睦弥君。この時期、特に発達障害のある子は、周りとのズレに敏感になることが多いみたい。

睦弥君の母「年齢に応じた成長なのか、今までは自己認知も低かったしまったくなかったのが、『相手がどう僕のことを見てるんだろう』『周りの子と僕は、勉強のスピードも違う』『みんなと一緒にはできないことがある』と分かったところで。自信がなくなりそうな、崖すれすれに立っているような」

中学生になって、生きづらさを感じ始めた睦弥君。

睦弥君にはどんな進路が合っているのか。家族みんなで検討し始めている。

睦弥君の母「選択肢がたくさん出てくるので、それを整理していって、じゃあ睦弥はどうしようか」

睦弥君の父「できないことに対して、いくらやれと言ってもできないので。無理にやらせようとすると、大人でもダメになっちゃう人がいますし、つぶれちゃ終わりだと思うので、いかにつぶれないようにやっていくか。なるべく本人の意思を尊重してあげられるようにしたいなとは思っています」

睦弥君は実際に高校に足を運んで、自分に合った学校を探し始めている。自分の目で確かめながら、自分の将来を決めていく。

休みの日は、また「鉄道」に触れて、気持ちを上げていく。落ち込んでも、「鉄道」があれば頑張れる。

睦弥君「鉄道は飽きないよ。全然飽きない。もう100%楽しい。ぶっちゃけ言っちゃえば、もう100%楽しい!」

睦弥君が大切なものを見せてくれた。

睦弥君「ダメもとで書いてね、応募したらね、僕出ることになった」

地元の町の広報誌に掲載された睦弥君の作文だ。

「僕の夢は、鉄道関係で働くことです。いつも見ていて、かっこいいな、すごいなと思いました」

睦弥君「駅員やら清掃員やら車掌とか…いろいろあるよ。保線とか。いっぱいあって、何に入ろうか迷ってるのよ。運転手のほかにも、いろいろと」

そうだ。そうだよ。

数字が大好きな樹君「普通の人が当たり前にできないことができる分、それが少しあると思うので、ありがたいといえば、ありがたい気はしますね」

道路が大好きな豪輝君「ゆっくりゆっくり、経験の積み重ねでいく」

ゲーム作りが大好きな友輝君「発達障害は自分の個性だから、体の一部みたいな。大切にしていかなきゃいけないものかなと思っています」

夢中になれる宝物があれば、誰だって輝ける。

睦弥君「中学1年生、福沢睦弥です。僕が好きなことは『撮り鉄』『乗り鉄』です。とにかく鉄道が大好きです!」