サグラダ・ファミリア2023~ガウディ100年の謎に迫る~

NHK
2023年9月11日 午後5:30 公開

番組のエッセンスを5分の動画でお届けします

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(2023年8月19日の放送内容を基にしています)

140年以上も建設が続いている摩訶(まか)不思議な建物、スペイン・バルセロナの世界遺産「サグラダ・ファミリア」。

壁面には数千もの彫刻が刻まれていて、“石の聖書”とも呼ばれています。NHKは特別な許可を得て、少しずつ進む建設の様子を、長年にわたり記録し続けてきました。

そして2021年12月、45年ぶりとなる新しい塔「マリアの塔」が完成。さらに去年、イエスの言葉を伝える「福音史家の塔」が完成しました。そして今、教会の中心に立つ巨大な塔「イエスの塔」の建設が始まっています。完成すれば、サグラダ・ファミリアは世界一高い教会になります。

設計したのは、97年前に亡くなったアントニ・ガウディ。建築家人生の大半をこの教会の建設に懸けましたが、生前につくり終えたのは全体構想のほんの一部でした。ガウディはたくさんの模型や資料を残し、完成を後世に託したのです。しかし、戦争(スペイン内戦/1936年~1939年)によって、残された資料のほとんどが失われます。残りの建物をどう設計するのか、内部の装飾をどうするのか、多くが謎に包まれました。あとを継いだ弟子たちは、ガウディの言葉や壊れた模型の破片など、わずかな手がかりを頼りに少しずつ建設を続け、ついに世界一高い「イエスの塔」の着工を迎えたのです。

時を超えて、私たちに語りかけてくるガウディのメッセージとは何か。未完の世界遺産「サグラダ・ファミリア」。その魅力に迫ります。

地中海を臨むスペイン第二の都市、バルセロナ。

この町のシンボルが、1882年に着工した「サグラダ・ファミリア」です。観光客の入場料収入と寄付金だけで建設が続けられてきました。

少しずつ完成に向かう様子を、NHKでは40年以上にわたって記録。そして2018年に建設が始まったのが、最も重要な意味をもつ「イエスの塔」です。ガウディの時代からこれまでに、8つの塔が完成。さらに10の塔が、ガウディの構想をもとに、これから建てられる予定です。その真ん中に、どの塔よりも高くそびえるのが「イエスの塔」です。

地上80メートルの建設現場で、「イエスの塔」の土台作りが始まりました。

副主任建築家 ダビ・プーチ「イエスの塔の建設に貢献できることに、私たちは無上の喜びを感じています」

プロジェクトには、世界中から建築理論や建築デザイン、建築構造など、それぞれの分野の専門家が集まりました。塔の内部をデザインするのは日本人。彫刻家の外尾悦郎さんです。

彫刻家 外尾悦郎さん「(塔の内部を)もっと柔らかいデザインにしたい。色のコントラストをおさえたいんだ」

ガウディは、どんな空間を生み出したかったのか。外尾さんは、ずっと考え続けてきました。

外尾悦郎さん「イエスの塔は、世界で唯一の建造物であるのは間違いない。中に何を込めたらいいのか。答えがガウディの中にあっても、我々にはない。それを探さなくてはならない。それを僕がいまやりたい」

外尾さんの工房は、サグラダ・ファミリアの一角にあります。ここで、二人の助手とイエスの塔の構想を練っています。

外尾さんは京都の芸術大学で彫刻を学び、26歳の時、腕試しの旅でサグラダ・ファミリアに出会い働き始めました。「俺にもひとつ、石を彫らせてほしい」と頼み込んだのが始まりでした。以来、サグラダ・ファミリアの彫刻を制作して45年。その数は300を超えます。

当時、まだ存命だったガウディの弟子たちに学んだ外尾さんは、「ガウディは、何を作ろうとしていたのか」「ガウディは、どう作ろうとしていのたのか」、サグラダ・ファミリアのさまざまな場所にそのヒントを追い求めてきました。         

聖堂の西側に、外尾さんが彫った彫刻があります(上画像)。6種類の「植物の芽」の彫刻です。当初、何の植物を彫るべきか、ヒントは全くありませんでした。そこで外尾さんが注目したのは、反対側の東側にあった彫刻。ガウディの時代に作られた「植物の芽」の彫刻でした(下画像)。

外尾悦郎さん「全部ガウディ。これからサグラダ・ファミリアが伸びていくんだという象徴」

ガウディが作ったこの彫刻は、いったい何の植物なのか。外尾さんは、ガウディが生まれ育ったカタルーニャ地方の植物を徹底的に調べ上げ、「春の草花の芽」だと突き止めました。

東側が「春」なら、西側は「秋」を意味するのではないか。ガウディの意図を推測し、外尾さんは、アスパラガスやサラダネグロザ、西洋タンポポなど「秋の草花の芽」を彫ることにしたのです。

東西の屋根を飾る色鮮やかな彫刻(上画像)は、「カゴに盛られた果実」という、ガウディの残した言葉がヒントでした。

外尾悦郎さん「これは果実です。こちらは日が落ちるので、『秋の果物』ですね」

ベネチアングラスを使い、西側を飾る彫刻には、クリや柿など秋の果物(上画像)を、東側には、モモやサクランボなど春の果物(下画像)を作りました。

外尾悦郎さん「どこにだってガウディの秘密を探そうと思えばわかるわけだから。石を通して、僕に教えてくれる」

“神の建築家”とたたえられるガウディが夢見た、世界一の教会。その途方もない計画は、どのようにして生まれたのでしょうか。生前のガウディが自らの手で完成させたのは全体のほんの一部、東側の「生誕(降誕)のファサード」と呼ばれる正面です(上画像)。イエス・キリストが生まれ、成長していく物語が描かれています。

イエスの誕生を祝福する楽器を奏でる「15体の天使像」は、外尾さんの作品です。10年をかけて彫り上げました(下画像)。

聖母マリアの上に作られた雪とつららの彫刻も、すべて石でできています(下画像)。

ガウディは、こんな言葉を残しています。

「私がこの聖堂を完成できないことは、悲しむべきことではない。必ず、あとを引き継ぐ者たちが現れ、より壮麗に命を吹き込んでくれる」

97年前にこの世を去ったガウディは、どんな思いを後世に託したのでしょうか。地中海の優しい光が降り注ぐ地下礼拝堂の奥に、ガウディは眠っています。

サグラダ・ファミリアの建設計画が持ち上がった19世紀後半。

ヨーロッパでは産業革命が進み、貧富の差が拡大していました。さらに、疫病も流行。労働者の不満が募り、バルセロナでも爆弾テロが勃発します。社会不安が高まり、少しずつ戦争の足音が忍び寄っていた時代でした。そうした中で人々は救いを求め、わずかなお金を持ち寄って、「自分たちの教会を建てよう」と立ち上がったのです。そこに、当時、新進気鋭の建築家として注目されていた31歳のガウディが招かれます。

しかし、思うように資金は集まらず、建設工事は何度も中断しました。ガウディは自らも先頭に立って寄付を募り、それでも足りなくなると、自分の給料を建設資金に充てさせました。そして他の仕事を一切断り、サグラダ・ファミリアの建設だけに心血を注ぐ決意をするのです。

そんな中でガウディが、実に10年もの歳月をかけて行った「逆さづり実験」と呼ばれる研究があります(下画像)。重力を味方につける建築構造です。ひもに“おもり”をつるして重力をかけ、そのひもが最も安定する形を見つけます。その上下を反転した曲線こそ、重力に逆らわない自然の造形だと、ガウディは考えました。ひもの長さやおもりの重さを変えながら、理想の構造にたどりつくまで、膨大なパターンを試しました。サグラダ・ファミリアの実験のためと言われる、ガウディが手がけたコロニア・グエルという小さな教会の建設で行われました。

あとを継いだ建築家は、ガウディが追究した画期的な構造から、サグラダ・ファミリアの大聖堂を作り出しました。救いを求める人々を包み込む、森の樹木を思わせるような空間です(下画像)。

主任建築家 ジョルディ・ファウリ「ガウディの構想に基づき、神様に近い場所を目指しました。聖堂に入ってきたときに、心地よい気持ちになる。そして、心安らかに祈りが捧げられる場所です」

ガウディは、さらにこの大聖堂の真上に、世界一高い教会となる「イエスの塔」を建てようと計画したのです。

イエスの塔の装飾を任されている外尾さんは、ガウディがこの塔にどんな願いを込めたのか、考え続けていました。

外尾悦郎さん「ここからイエスの塔が建つ。40年前にここまで工事が進むなんて誰も思っていなかった」

この場所に建つ地上172メートルのイエスの塔。その内部の巨大な空間を、外尾さんがデザインします。唯一みつかった手がかりが、この聖堂の断面図です(下画像)。でも、塔の内部は描かれていません。外尾さんは、ガウディが「イエスの塔」と名付けたことこそヒントだと考えました。普通、教会の中には十字架やイエスの像が飾られています。そこで人々は、神の子であるイエスの存在を感じ、祈りを捧げます。しかし、ガウディが「イエスの塔」と名付けた特別な場所は、塔全体でイエスの存在を感じる空間にしたかったのではないか。

外尾悦郎さん「世界で唯一、イエスのハートの中に入れる。ここから入っていく。『イエスそのものがここにいる』と思える空間がもしできたら、ガウディも喜んでくれるんじゃないかな」

「イエスそのものがいる空間」とは、どんな世界なのか。外尾さんは試行錯誤を続けてきました。イエスが出会った人や風景の記憶を形にしたもの。

神とイエスと精霊を象徴するオブジェ。

聖母マリアとイエスの血を表現したタイル。どれも途中で取りやめました。

外尾悦郎さん「いっぱいイエスの宝石のような輝きを表すパーツを作ってみたけれど、どれもしっくりいかない」

最新作は、ガラスで作った「種」のオブジェです(下画像)。神から人間への贈り物を「種」に見立て、塔の内部を色鮮やかに飾るのです。

外尾悦郎さん「世界が生まれてくるときに、神様は種をまいて、この世界には空気があり光があり土がありいろんなものがある。そのすべてを含んだ種を、神様はまいてくれた。それを今、“神からの贈り物”としてちりばめていきたい」

2018年4月。

外尾さんは「種」のオブジェを実際に試してみようと、サグラダ・ファミリア建設のための広大な実験場に向かいました。イエスの塔の内側の一部を実物大で試作した壁に「種」を取り付けたとき、“神の贈り物”と感じられるのか(下画像)。

しかし・・・

外尾悦郎さん「これは破棄する。やらない。もっとシンプルにすべき。ゼロから始めなければダメだ」

もっと壁全体で“神の贈り物”を感じられなければならない。外尾さんは「種」のオブジェも断念しました。

外尾悦郎さん「ゼロからやり直しというのはいつもそうですよ。ガウディはどうやって作ろうと思ったのか、何を考えていたのだろうと。本当に苦悩しかないです。先へ進んで何かを得るためには」

サグラダ・ファミリアが世界一高い教会となる「イエスの塔」の建設のため、建築家たちによって、特殊な工法の開発が進んでいました。ガウディの時代に建てられた塔は、固い地面の上に築かれていました。しかし今回は、巨大な空間の上に塔を建てる挑戦です。

問題は、石の重量です。これまでの工法では重すぎて、下の聖堂が崩れてしまいます。軽くしようと壁を薄く作れば、地震や強い風に耐えられなくなります。建築家たちは常識を越えた、薄くて頑丈な石壁を開発する必要がありました。

副主任建築家 ダビ・プーチ「私たちはガウディに見習ってあらゆる技術を試し、実現させなければなりません」

まずは世界中から石を集め、一つ一つ強度を調べました。

さらに、古今東西の石の建築技術を研究し、ある工法に注目しました。それは、ステンレスの棒でたくさんの石を密着させる斬新な技術。これを使えば、薄くて頑丈な石の壁を作ることが可能です。職人たちは、選び抜いた石にステンレスの棒を通して、強い壁作りを開始しました。あらかじめ薄い石壁を大量に作り、高さ80メートルまでクレーンでつり上げ、現場で組み立てる計画です。精度が1ミリでもずれると、組み立てが不可能になります。

一方、「イエスの塔」内部の装飾を任されている外尾さんは、新たな構想を描いていました。そのイメージは、イエスの塔の壁に、神からの贈り物である水や空気や光や土、森羅万象を表現しようというものです。しかし、本当にそれがガウディの望みなのか。外尾さんは考え続けます。

外尾悦郎さん「ヒントは必ずある。そのヒントをどれだけ大事にして、どれだけ読み取るか」

そんな外尾さんの元に、「重要な手がかりが見つかった」と連絡が入りました。それは、これまでに発見されたガウディの資料の中に眠っていたといいます。上の画像は、ガウディがサグラダ・ファミリアと同じ時期に建設した小さな教会(コロニア・グエル教会)です。資料は、この教会の地下に隠されていました。

ガウディ研究の第一人者、考古学者のマヌエル・メダルデ博士は、ガウディの弟子たちが、戦火をまぬがれるためここをがれきでふさぎ、資料を隠していたことを突き止めました。

マヌエル・メダルデ博士「がれきを取り除くと、壁が現れました。私は壁を壊し、ガウディの資料を見つけたのです」

発見から、取り出して全貌を把握するのに20年以上を要したという膨大な資料は、およそ6000点にのぼりました。

ガウディが試作したタイル(下画像)に、

逆さづり実験で使ったおもり(下画像)、

当時発明されたばかりの3Dメガネ(下画像)も発見されました。

そして最近の分析で、ガウディが「イエスの塔」を構想していた時期のものがあることが判明したのです。博士からの連絡を受け、外尾さんがかけつけました。

マヌエル・メダルデ博士「すごい技術だぞ」

外尾悦郎さん「きれいな色だね。すごい透明感だ」

外尾さんが注目したのは、ガウディが「色の研究」に没頭していたことでした。石の断面に現れた、天然の色彩(上画像)。100種類もの自然の顔料が入った試験管(下画像)。

そしてついに、外尾さんは探し求めていた手がかりを見つけました。それは、色が境目なく混じり合うグラデーションの実験でした。

マヌエル・メダルデ博士「よく見て。色が少しずつ移り変わっていく」

外尾悦郎さん「見事だ」

マヌエル・メダルデ博士「すばらしいよね」

外尾悦郎さん「ガウディが新しく生み出そうとしたのは、色のグラデーションなんだね」

マヌエル・メダルデ博士「もともと自然界は天然のグラデーションで彩られている」

外尾悦郎さん「ガウディがサグラダ・ファミリアで何を表現しようとしたのか。40 年間探し続けてきたけど、それをついに見つけたよ」

外尾悦郎さん「自然には境目がないんですよね。いろんな色はあるけど、境目はないんです。空の色も海の色も。色が無限にグラデーションかかって変わっていく。ところが、人間が作るものはすべて境目がある。それをガウディは悲しく思ったんじゃないかなと思うんですね」

貧富の差や社会の分断が広がり、苦しみが続く人間の世界。人間が作るその境目を、自然のグラデーションのように乗り越える。それが、ガウディが「イエスの塔」に託した願いではないか。外尾さんの結論です。

3か月後(2018年7月)、外尾さんはイエスの塔の新たな構想を形にしていました。当初試した彫刻やオブジェではなく、「色のグラデーション」で“神から人への贈り物”を表そうと決めたのです。水や空気、さらには時間や重力など、この世のすべてを、色に託して表現することにしました。

外尾悦郎さん「イエスの塔というのは、宇宙の始まりから終わり、人間には見えないメッセージとか、すべての大元がそこにあっていいと思う」

たどりついた、外尾さんの構想です(2018年時点での構想/上画像)。イエスの塔に入ると、そこには色だけの世界が広がります。塔の一番上は、白い壁。聖書の記述に基づき“神の世界”をあらわしています。「光あれ」という神の言葉で、この世のすべてが生まれ始めたという記述です。その白が、まず薄い紫に変わり、人間の世界に降りるにつれてさまざまな色のグラデーションとなります。空や海を感じさせる青。森や光を感じさせる緑や黄色。森羅万象をタイルで表現します。

タイル職人に試作を依頼した外尾さんは、サンプルができたと聞き、確認にやってきました。青や赤、さまざまな色のタイルがイメージ通りにできていました。しかし、「ひとつだけ、出ない色がある」と知らされます。

タイル職人「20種類もテストしたけど、紫が出ないんだ」

外尾悦郎さん「これは全部紫を出そうとした結果?」

タイル職人「全部そうだ」

外尾悦郎さん「紫とは全く違う。難しいね。紫のグラデーションが出せないと、構想が全部崩れてしまう。何とか試してみてくれないか」

タイル職人「わかりました」

外尾さんが求めたのは、この夜明けの空の紫でした。1日の始まりにこの紫を見ると、希望に満ちた気持ちになるといいます。

外尾悦郎さん「ピンクと青が混ざり合った、目に見えない紫。太古の昔からこれを見て人間はきたわけですけれど、何か“希望”と言うのかな・・・この朝焼けのイメージを『イエスの塔』に」

2018年10月。

完成した石の壁が、サグラダ・ファミリアに運ばれてきました。ついに、イエスの塔の組み立てが始まります。さらに、イエスの塔を囲む5つの塔が、この工法で建てられる予定です。大きな一歩を踏み出したサグラダ・ファミリア。ガウディ没後100年となる2026年までに、すべての塔を完成させると発表しました。

ところが2020年、新型コロナウイルスの感染爆発が世界を襲います。

サグラダ・ファミリアは、14か月間にわたって閉鎖。寄付と入場料収入だけでまかなってきた建築資金も途絶え、工事を継続できなくなります。

主任建築家 ジョルディ・ファウリ「作業の縮小、工事の中止は本当につらいことでした。建築家たちを減らさなければならないのもつらかったことです」

そしてさらに、世界は分断を深め、苦しみや憎しみが広がっています。着工からおよそ140年。戦争や疫病など幾度となく苦難が訪れても、建設が続けられてきたサグラダ・ファミリア。ひとつの決断がくだされます。

残された資金を使って、“ある塔”を完成させる。

主任建築家 ジョルディ・ファウリ「塔を完成させることで多くの皆さんに、“前に進む希望”を伝えられるのではないかと考えました。誰もが困難な今、すべての人の“希望の源”となってほしい」

“希望の源”となる塔。それは、イエスを見守るように立つ「聖母マリアの塔」です。ガウディの直筆のスケッチには、塔の頂点に、星形のモニュメントが描かれています(下画像)。

主任建築家 ジョルディ・ファウリ「ガウディは塔の頂点の星について、『光るべき』と言及しています。すべての人への聖母の愛と街への愛。星は希望の表現として、夜の街をほんのり照らすでしょう」

2021年夏。

マリアの塔の工事が再開。コロナ禍で休職していた腕利きの職人たちが駆けつけました。

職人「コロナ禍ではストレスと苦しみがありましたが、今は緊張感と完成への期待感が入り交じっています」

2021年12月。

クリスマスを前に大勢の市民が見守る中、マリアの塔の点灯式が行なわれました。頂上の12面体の星が、夜空に神秘的な光を放ちます。

市民「バルセロナに住む私たちが、長い間待っていたこの瞬間が来たんです。これは希望の光。前に進んで行ける気がします」

外尾悦郎さん「今、うつむいてばかりの人間たちが少し見上げて、母親が落ち込んだ子どもの元気をしっかり出してくれる、その役目が果たせているんじゃないかな。作っている仲間はみんなほっとしていると思います」

実に45年ぶりとなる新たな塔が、世界中の人々へ“希望の光”を届けます。

そして、去年(2022年)12月。

さらに2つの塔が完成しました。イエスの教えを伝えた二人の福音史家、ルカとマルコを象徴する塔です。胸に抱く福音書に記された「幸せに生きるための教え」。世界中の人々へ、翼を羽ばたかせ届けます。

主任建築家 ジョルディ・ファウリ「ガウディはサグラダ・ファミリアの美を通じて『他者と平和に暮らす』というイエスのメッセージを伝えています。今こそ必要な永遠のメッセージです」

サグラダ・ファミリアでは、今日も建設が続いています。そしてガウディ没後100年の2026年、いよいよ、中心に立つ「イエスの塔」が完成する予定です。

格差や分断のない世界を願い、サグラダ・ファミリアの建設に生涯を捧げたアントニ・ガウディ。晩年は、サグラダ・ファミリアに住み込んで、仕事に没頭しました。そしてある日、路面電車にひかれ命を落とします。貧しい身なりで誰もガウディと気づかず、手当てが遅れたのです。葬儀には、貧しい人も、裕福な人も、町中の人が参列し悲しみに暮れました。

1日の終わり、ガウディがともに働く仲間たちに、毎日のように語りかけていた言葉があります。

「神は完成を急がない。諸君、あすはもっといい仕事をしよう」