(2023年2月25日の放送内容を基にしています)
<ロシア軍の内実に迫る>
ウクライナ侵攻のために動員された兵士たちの訓練を視察したプーチン大統領。自らも射撃を行う姿を見せることで、兵士たちの士気を高めようとしていた。
プーチン大統領「ロシアはすべてをあきらめるか、戦うかのどちらかに追い込まれた」
兵士「勝利は我々のものです」
プーチン大統領「それは間違いない」
軍事侵攻を始めて1年。ロシア軍は圧倒的な軍事力で、ウクライナに多大な犠牲をもたらしてきた。破壊を繰り返し、東部や南部の広大な地域を掌握。少なくとも市民8000人以上が死亡している。
一方で、欧米の軍事支援を受けたウクライナの反転攻勢を前に、戦闘は長期化。ロシア軍の死傷者は、20万人に上ったともいわれている。
なぜ強大なロシア軍に、これほどの損失が出たのか。
私たちは、SNS上の動画や衛星画像など、膨大な公開情報を分析することで、その背景に迫った。
さらに、元兵士や捕虜の証言からは、戦争の目的すら分からず、部隊の結束が乱れ、混乱が広がっていた実態も見えてきた。
多大な犠牲を払ってでも、“祖国のための戦争”に突き進むプーチン大統領。
欧米各国が主力戦車の供与を決めるなど、ウクライナへの軍事支援を強化する中、ロシアは全面対決の姿勢を強めている。
今もなお、暴走を続ける“プーチンの軍隊”。
一体、何が起きているのか、独自取材で迫る。
<ロシア軍 ウクライナ侵攻の1年>
軍事侵攻が始まって1年。今、ロシア国防省は、戦果を強調する映像を頻繁に公開している。
短距離弾道ミサイル「イスカンデル」や、極超音速ミサイルとされる「キンジャール」など、最新の兵器も使って、容赦ない攻撃を続けている。
世界第2位の軍事力を有するロシア軍。その規模は、現役およそ90万、予備役およそ200万に上る強大な軍隊だ。
最高総司令官のプーチン大統領のもと、ショイグ国防相、軍事侵攻の総司令官も務めるゲラシモフ参謀総長。その下に各軍の指揮系統が連なっている。
現役90万の兵士には、軍学校を卒業して軍務につく「職業軍人」。最短で3年間、給与を得ながら任務にあたる「契約軍人」。そして徴兵制度で集められる「徴集兵」がいる。
このロシア軍がウクライナへの侵攻に踏み切った1年前。プーチン大統領は、ロシア系の住民を救うことを大義に掲げた。
プーチン大統領「特別な軍事作戦を実施することにした。8年間、ウクライナ政府によって、ジェノサイドの危機にさらされてきた人々を保護するためです」(2022年2月24日)
精鋭の空てい部隊が空港を一時占拠するなど、首都キーウの掌握を目指す奇襲作戦を展開。総勢19万人を全土に投入した。
しかし、欧米各国の軍事支援を受けたウクライナ軍の徹底抗戦を前に、キーウの掌握に失敗。その後、ロシア軍は戦力を東部や南部に集中。南部の要衝ヘルソンを掌握したのち、5月には東部マリウポリの掌握も宣言した。圧倒的な火力で破壊を繰り返し、広大な地域を支配した。
さらに兵力が不足するとプーチン大統領は、30万人規模の予備役を動員。ロシアの当局やメディアは、戦地に向かう兵士や家族の愛国心を強調する映像を繰り返し流してきた。
専門家は、この軍事侵攻に、総力を挙げて臨むロシアの姿勢が表れていると分析している。
戦略国際問題研究所(CSIS)研究員/ミック・ライアン退役少将「ロシア軍は資金の調達力や、指揮系統などの体制を変える能力を持っています。戦争が進むにつれて戦う場所、戦い方、(欧米が供与した)高機動ロケット砲システムに対抗する、後方支援の方法を変化させてきました」
<“死傷者20万人”の分析も なぜ損失広がったのか?>
ところが、2022年9月以降、ロシア軍はウクライナ軍の反転攻勢を前に、東部戦線で相次いで撤退した。
オレンジで示したロシア軍の掌握した地域が、10日余りで6000平方キロメートル以上も奪還され、その後、戦況はこう着した。
戦闘は長期化し、この1年でロシア軍の死傷者は、20万人に上ったとも見られている。
なぜ強大なロシア軍に、これほどの損失が広がったのか。
私たちが注目したのは、東部戦線の中でも、ロシア軍の部隊が致命的な敗北を喫したドネツク州のリマンでの戦い。5000人ともいわれる部隊が包囲され、ロシアが公式に撤退を認める異例の事態となった。
専門家の小泉悠氏は、ロシア軍の無謀な戦い方が、多大な犠牲を生んだと見ている。
東京大学先端科学技術センター/小泉悠専任講師「これだけの規模の部隊が、完全に包囲せん滅されたのは、初めてのケースではないかと。その他の現代の戦争でみても、あまりみたことがない」
私たちは、ロシア軍がリマンから撤退するまでの1か月に及ぶ80余りの映像を分析。部隊がどのように追い込まれていったのかを検証した。
9月12日、ウクライナ軍はリマンの奪還に向け、進軍を始める様子を公開した。この頃、リマンの中心部ではロシアメディアが、「ロシア軍の守備は盤石だ」と伝えていた。
「リマンはきょうも防衛を維持しています。今は空き家を一軒ずつ回って、敵の工作員たちを探しています」(リマンで報道するロシアメディア/2022年9月14日公開)
しかし、ウクライナ軍はリマン郊外で攻勢をかけ、ロシア軍を追い詰めていく。ウクライナ軍の動きを地図で示すと、2週間で北と南からロシア軍が包囲されていく様子が見えてきた。
このとき、リマン北部の最前線にいたロシア軍部隊の映像が見つかった。将校がロシアメディアに対し、すでに反撃するすべがないと訴えていた。
ロシア軍将校「状況は深刻、大変深刻です」
記者「現在、何が足りないですか?」
ロシア軍将校「備蓄、装備、人、大砲」(2022年9月27日公開)
部隊は徐々に孤立していった。
ロシア側の兵士「どこから味方の援護がやってくるかも分からない。ここにはライフルが1つ。俺はうそをついていない。本当に空っぽだ」(SNS動画より)
そして、9月30日。5000人ともいわれる部隊が撤退もせずに、ウクライナ軍に包囲されたのだ。
ウクライナ側が傍受したとする音声がある。ロシア兵とされる男性が妻に最期の別れを告げていた。
妻「あなた、どうしてそんなに息を切らしているの?」
ロシア軍兵士「俺たちは包囲されているんだ。もうじきおしまいだ」
妻「持ちこたえているって言っていたのに、死ねっていう命令がでているのね?」
ロシア軍兵士「さよならを言おうと電話したんだ」
妻「いやよ、いやよ、そんな」
なぜロシア軍はリマンを死守しようとしたのか。
この直前、ドネツク州を含む4州では、ロシアへの一方的な併合を進めるため“住民投票”が行われた。そして、9月30日は、プーチン大統領がその4州の併合を宣言した日だった。
リマンの部隊に撤退が許されなかった背景には、4州併合の宣言に水を差されたくないという、プーチン大統領の思惑があったと小泉氏は見ている。
東京大学先端科学技術センター/小泉悠専任講師「ウクライナ4州併合に関する声明を出すまでは、『ロシア軍がリマンから撤退』というニュースを流したくなかった政治的思惑があったのかと。完全にプーチン大統領のメンツのために、死守を命じられたのではないかと思います」
翌日になって撤退を発表したロシア軍。ウクライナ側が公開した映像には、道路上に放置された兵士たちの無残な姿が映し出されていた。
さらに動画や写真を調べると、撤退したあとには多くの兵器が、ほぼ無傷で放棄されていたこともわかった。これは何を意味するのか。
2022年8月からの3か月間、ロシア軍は、敗北が相次いだ東部戦線で、戦車と歩兵戦闘車、あわせて813両を失う甚大な損害を受けたという。そのうち半数以上(445両)は、ウクライナ軍がそのまま使用できる状態で「鹵獲(ろかく)」されていた。
通常、戦車などは、敵に利用させないよう退却する前に破壊するはずが、その余力さえないまま撤退したとみられる。
ロシア軍の兵器の損失を調べている国際的な調査チームのヤノフスキー氏。
調査チーム オリックス/ヤクープ・ヤノフスキー氏「鹵獲した装備は、敵が使えるようになるため、ロシアにとっては破壊されるよりも痛い損失です。軍の最高司令部が無計画な作戦を進めた証拠といえるでしょう」
<兵士の証言から浮かび上がる前線での実態>
ロシア軍に多大な損失が出る中、兵士が離反しようとする動きが広がっていた。
フランスに拠点を置き、ロシア兵を支援する人権団体のもとには、軍から脱出したいという兵士からの連絡が相次いでいた。代表を務めるオセチキン氏は、500人以上から相談を受けたが、そのうち脱出に成功したのは、わずか10人だという。
人権団体グラーグネット/ウラジミール・オセチキン代表「兵士たちは最前線にいて、『死ぬのが怖い』『戦争に加担したくない』『どう抜け出せばいいか分からない』と訴えます。プーチンは兵士たちを、みずからの狂気のままに動く、突撃部隊としてしか見ていません」
彼らの訴えからは、軍の内部で兵士の士気が保てず、部隊の結束が乱れている実態も見えてきた。
ロシア軍の兵士を構成する職業軍人、契約軍人、徴集兵。このうち、今回の軍事侵攻でも主力となっているのが、最低3年間、給与を受けて雇われる「契約軍人」だとされている。
ウクライナで戦い、その後、部隊から脱出した契約軍人が、居場所を明かさないことを条件に取材に応じた。この兵士は、ロシアが軍事侵攻に踏み切る5か月前、安定した収入を得るため契約軍人になったが、当時、「戦場に行くことはない」と説明を受けていたという。しかし、隣国ベラルーシで訓練にあたっていた2022年2月23日、突然ウクライナへの進軍命令が下ったという。
ロシア軍 元通信兵/ニキータ・チブリン氏「前日の夜、上官から『君たちはウクライナに行く』と言われました。私は無理やり歩兵戦闘車に押し込まれました。取っ手が壊れていて、内側からドアを開けられませんでした」
ベラルーシから進軍した兵士の部隊は、首都キーウの攻略を狙う主力部隊のひとつとして、その機会をうかがっていた。
兵士は前線で戦うことを拒否したが、上官から脅迫されたという。
ロシア軍 元通信兵/ニキータ・チブリン氏「戦うことを拒否すると、上官からは『それは無理だ。従わない者は銃殺もありえるぞ』と脅されました」
兵士は、監視の目を逃れて部隊から脱出。同じように多くの兵士たちが逃亡したという。
2022年9月以降、撤退が相次いだ東部戦線で、ウクライナ軍の捕虜となった兵士の中にも、多くの契約軍人が含まれていた。彼らの証言からは、部隊の指揮系統の乱れが混乱を招き、損失を広げた実態が見えてきた。
機関銃手(27)「銃弾がいつも足りていませんでした。『何とかしろ、ナイフでもスコップでも持っていけ』というありさまでした。それでは戦えません」
この兵士が投入されたのは、東部の要衝のひとつ、「イジューム」。地表の熱を検知したデータを可視化すると、イジューム周辺でも、いかに激しい戦闘が続いていたかがわかる。
兵士の部隊は、ウクライナ軍の猛攻撃のさなかに、何も指示されないまま送り込まれたという。
機関銃手(27)「陣地や配置計画は、一切説明されませんでした。私たちは“盲目の子猫”のように送り込まれたのです。私の部隊は48人中4人しか生き残りませんでした」
別の捕虜は、部隊の指揮官でさえ、戦況を把握していなかったと証言した。
機関銃手(19)「私の大隊長は、前進せよと命じましたが、(他の部隊は)すでに後退を始めていました。私たちを置いて全員が退却したことは、犬やゴミ同然に扱われたようで嫌でした」
私たちはさらに、ウクライナのジャーナリストが、当局の管理下で取材した28人の捕虜の証言を入手。詳しく分析した。その結果、指揮官を信頼している、と答えたのは4人にとどまり、24人が「信頼していない」と発言していた。
砲手(29)「私たちは“大砲の餌食”みたいなものです」
偵察兵(44)「私たちには何の任務もなく、指揮官が誰かさえ知りませんでした」
多くの兵士が抱いていた軍への不信。さらに将校として部隊を指揮する「職業軍人」の中にも、不信感を強め、軍を脱出した人がいることが分かった。
ロシア国外に逃れた元将校が私たちの取材に応じた。
上級中尉だったエフレーモフ氏。10年前に入隊して以来、国家に忠誠を誓ってきたという。しかしウクライナの最前線で指揮をとるうちに、無謀な軍事侵攻に疑問を抱き、これ以上加担できないと考えるようになった。
ロシア軍 元上級中尉/コンスタンチン・エフレーモフ氏「軍人も国防省の役人も皆、この侵攻が“非現実的な物語”だと理解しています。国家元首が引き起こした非人道的なゲームの中で、自分が“小さなねじ”として利用されている感覚でした」
エフレーモフ氏は戦うことを拒否し、部下たちを引き連れ、軍を離反した。
ロシア軍 元上級中尉/コンスタンチン・エフレーモフ氏「何のためにウクライナで戦うのか、その理由は誰にも分かりませんでした。私にはウクライナ国民に対する、強い羞恥心と罪悪感があります。この戦争をすぐにやめるべきです」
戦略国際問題研究所(CSIS)研究員/ミック・ライアン退役少将「兵士たちの不信感は、ロシア軍の結束に影響を与えました。撤退によって結束が揺らいだ部隊の再建には、数か月を要したでしょう」
<プーチン大統領の“戦争観”とは>
多くの兵士が命を落とし、離反の動きが広がる中でも、兵士を投入し続けるプーチン大統領。戦死した兵士の母親たちと面会した際には、祖国のために命を捧げることは、尊いと語りかけた。
プーチン大統領「問題はどう生きたかです。ウオッカのせいで死ぬ人もいて、生きた意味が不透明です。しかし、あなたがたの息子は生きた意味がありました。目標を達成したからです」
旧ソビエト時代から、戦争で勝利するために甚大な犠牲を払ってきたロシア。およそ80年前、第2次世界大戦でのナチス・ドイツとの戦いでは、4年に及ぶ持久戦の末、2600万人以上の死者を出しながらも勝利をおさめた。
プーチン大統領は、そうした歴史上の戦争に、今回の軍事侵攻を重ね合わせようとしている。
私たちは、プーチン大統領が、この1年間の演説で使用した数十万の言葉について、言語解析を行った。
侵攻当初、「ウクライナ」や「NATO」などを名指しする言葉を多用していた。
しかし、撤退が相次いだ9月頃を境に、「核兵器」という言葉を使って威嚇し、「歴史」という言葉を盛んに持ち出し、愛国心に訴えるようになった。
アメリカ国務省で、対ロシア政策の立案に関わってきたステント氏。プーチン大統領は、ロシアで受け継がれてきた、犠牲をいとわない戦争観を持っていると指摘する。
ジョージタウン大学/アンジェラ・ステント名誉教授「ソビエトが第2次世界大戦を(犠牲の上に)勝ち抜いたことは、彼らの人命に対する姿勢に強い影響を与えました。プーチン大統領は、この戦争を偉大で愛国的な戦争だと国民に信じ込ませたいはずです。さもなければ、これほどの犠牲を正当化できないからです」
<台頭する民間軍事会社「ワグネル」>
東部戦線での敗北が相次ぎ、兵力不足に直面していたプーチン大統領。正規軍を補う戦力として台頭してきたのが、民間軍事会社「ワグネル」だ。残虐な姿勢で知られ、これまで中東やアフリカの紛争地で、軍事支援を行ってきたとされている。
代表のプリゴジン氏が、当初、戦闘員として目をつけたのは、ロシアの刑務所で服役する受刑者たちだった。これまでワグネルがウクライナに送り込んだ戦闘員は、5万人に上ると言う。その数は、ロシア軍が当初投入した兵士の4分の1に匹敵する。
プリゴジン氏は、戦地での部隊の貢献をSNSで積極的にアピールしてきた。
プリゴジン氏「『誰がバフムトを奪うか』と聞かれたら、ワグネルこそがその部隊ではないか?」(SNS動画より)
東部ドネツク州のバフムトは交通の要衝で、州全域の掌握を狙うロシアにとって、不可欠な場所だ。ここに集中的に投入されたワグネルは、どのような戦闘を行っているのか。最前線のウクライナ側から探ることにした。
ウクライナ軍の無人機偵察部隊が捉えた、ワグネルの戦闘員の姿。その異常ともいえる戦い方について、複数の兵士が証言した。
ウクライナ軍/無人機操縦士「彼らは波のように、終わりがなく次々にやってきます。ワグネルの戦闘員は、ここだけで1日50~70人死んでいます」
証言によると、まず、15人ほどの戦闘員が一斉にウクライナ軍の陣地に突撃する。その戦闘員が倒されると、第2陣の戦闘員が武器も持たずに突撃。倒された戦闘員の武器を拾って、攻撃を続けるというのだ。第2陣が倒されても、さらに第3、第4の部隊が続く。こうした捨て身の攻撃が、10時間近くも繰り返されるという。
ウクライナ軍/無人機操縦士「ワグネルの戦闘員には、退却する権利がありません。彼らは“肉”で前線を押し上げる囚人たちです」
ウクライナ軍に捕らえられたワグネルの戦闘員は、その実態を証言した。
捕虜/ワグネル戦闘員「ワグネルの戦闘員は、毎日出撃し命を捨てています。敵陣に到達にするのは困難で半数は死にます。誰もがそれを覚悟しています」
さらに、部隊の中で戦闘員への「処刑」も頻繁に行われていることもわかってきた。バフムトで戦っていたワグネルの元指揮官は、規律違反という名目で処刑が行われていると証言した。
ワグネル元指揮官/アンドレイ・メドベージェフ氏「私が知るだけでも、10回の銃殺がありました。1人は逃亡したため、もう1人は泥酔したためです。新しく人が来るたびに『見ろ、ヘマをすれば、こうなるんだ』というイメージを植え付けています」
SNSで公開された映像には、ワグネルを裏切ったとして、処刑を待つとされる戦闘員が映し出されている。
「意識を失って、この地下室で目が覚めた。ここで裁きにかけられると言われた」(SNS動画より)
この後、映像では、背後に立つ男が大きなハンマーを振り下ろした。
常軌を逸したワグネルを利用してきたプーチン大統領。小泉氏はその背景に、正規軍を立て直す時間を稼ぐ必要があったと分析している。
東京大学先端科学技術センター/小泉悠専任講師「ワグネルはロシア軍の本格的な大攻勢が始まるまでのつなぎの存在であったわけです。その間にバフムト周辺でウクライナ軍を拘束して、突破口を作る。これができたらロシア(正規)軍がまたなだれ込んでいく想定です。ワグネルが囚人を募って、死んでもかまわないから毎日突撃させ続けて、ウクライナ軍に損害を強要することをやった。きわめて、非人道的ではあるが、一定の軍事的合理性がないかと言えば、ある」
プーチン大統領は先月(2023年1月)、制服組トップのゲラシモフ参謀総長に、軍事侵攻の総司令官も兼任させる異例の人事を断行。再び正規軍を中心に攻勢を強めている。
ロシア軍は、ウクライナ軍が奪還したリマンなどを取り戻そうと、精鋭部隊を投入。大規模な攻撃に乗り出している。
<多くの戦死者が出ている少数民族の訴え>
こうした軍の動きに対し、ロシア社会では市民の間で支援が広がっている。防寒着や食料などを持ち寄り、前線の兵士に送るという。
寄付した男性「がんばれ。がんばれ。勝利は我々のものだ」
その一方で、一部の地方では、軍事侵攻に反対する声も上がっている。多くの戦死者が出ている少数民族が住む地域だ。
ロシア連邦を構成する21の共和国などに暮らす少数民族。モンゴルの北に位置する、人口およそ100万のブリヤート共和国では、分かっているだけでも422人が戦死。人口あたりの戦死者の数は、首都モスクワの60倍に上り、最も多いとされている。
ロシアの中でも、特に経済発展が遅れているブリヤート共和国。生活費を稼ぐために、契約軍人になる人があとを絶たない。
この女性の息子も契約軍人となり、ウクライナで戦死した。
戦士した兵士の母「息子の上官から『みんな無事だ』と聞いていたのに、その後、息子が死んだと連絡がありました。とても耐えられません」
体育教師だった息子は、2万円ほどの月給で5人の子どもを養えなくなり、6倍の収入が見込める軍に身を投じた。
戦士した兵士の母「家族を養わなければなりませんでした。教師の給料さえ高ければ。息子はもういません」
兵士とその家族の支援を行うブリヤート出身のジャーナリスト、ガルマジャポワ氏は、2022年4月、チェコを拠点に軍事侵攻に反対する団体を設立。ロシア当局に指名手配された。今、ほかの少数民族と連携して、活動を広げようとしている。
帝政ロシアの時代から虐げられてきた少数民族と、いまロシアの侵攻を受けるウクライナの人々とを重ね合わせている。
フリーブリヤート/アレクサンドラ・ガルマジャポワ代表「長年、私たちは“二級民族”だと思い込まされてきました。ウクライナと私たち少数民族が置かれた状況がつながっていると理解しました。この侵攻は帝国主義戦争であり、ロシアはウクライナを植民地にしたがっているのだと」
<終わりの見えない戦争 その先に何が・・・>
軍事侵攻の開始から1年。欧米各国は、ウクライナへの軍事支援をさらに強化している。アメリカやイギリスとともに、ドイツも主力戦車の供与を決定。これまでの慎重な姿勢を一転させた。
それに対して、対決姿勢を鮮明にするプーチン大統領。2023年2月、訪れたのは、かつての独ソ戦で旧ソビエト軍がナチス・ドイツ軍を破った激戦地。2600万人以上の犠牲者を出しながら、勝利した戦いの象徴的な場所だ。
プーチン大統領は、欧米各国の軍事支援の強化は、ナチスによるソビエト侵攻の再現だとして、ロシアは決して屈しないと強調した。
プーチン大統領「我々は再び十字架を掲げたドイツの戦車に脅かされています。ヒトラーの後継者であるネオナチを使って、ウクライナの地でロシアと戦う企てが再び行われているのです。私たちは再び、西側諸国の侵略に対抗しなければならないのです」
戦争の終わりが見えないなか、ロシア人の中からも、ウクライナ側に加勢したいという人が増えている。
ポーランドに拠点を置くこの団体では、各国に住むロシア人を対象に、ウクライナ軍の外国人部隊に加わる志願兵を募っている。
志願兵に名乗り出たITエンジニアのロシア人の若者。軍での経験はないが、プーチン大統領の暴挙に、これ以上耐えられなくなり決断したという。同じロシア人として、この戦争を止める責任があると語った。
志願したロシア人の若者「“プーチンの戦争”が今日終わるか、あす終わるかと待ち続けてきましたが、今も終わっていません。私は現政権を支持するロシア人を、血のつながった兄弟だとは思えません。彼らは戦争犯罪を行う体制の共犯者です。彼らを止める方法が他にないなら、武器を取るしかないのです」
訓練を受けた志願兵の第1陣が、すでに戦地へと向かった。その数は、2023年3月までには1000人に達し、その後も毎週、出陣するという。
「祖国のため」という大義のもと、ウクライナへの侵攻を続ける“プーチンの軍隊”。
敵にも味方にもおびただしい犠牲を出しながら、今なお突き進んでいる。
2年目に突入した、この理不尽な戦争の先に何が待ち受けているのか。