(2021年11月21日の放送内容を基にしています)
中国の推し進める国家戦略が、いま世界に大きな軋轢を生んでいる。
中国にとっての新世紀が始まろうとしている。創立から100年を迎えた中国共産党。平等社会の実現を掲げて革命を成し遂げ、建国。様々な矛盾を抱えながら、中国は類を見ない大国となった。
「21世紀半ばにあらゆる分野で世界の先頭に立つ」
その夢が中国を突き動かしている。
習近平(しゅうきんぺい)国家主席、肝いりの国家戦略「一帯一路」。世界140か国にヒト、モノ、カネを送りこむ巨大な経済圏構想だ。
習近平国家主席「一帯一路は平和への道だ。協力とウィンウィンの新たなモデルを、ともに作り出そう」
一帯一路の重要国・カンボジア。中国の投資は5年間で1兆円を超す。国じゅうにあふれる、中国の支援で建設されたインフラ。
いま、国全体で、“中国化”とも言える現象が加速している。
東京都より広い土地を借り上げ、中国企業が作り上げた広大な農場では、中国の食糧需要を満たそうとしている。
中国のシステム、そして経済力が人々を飲み込んでいく。
一方で、“中国化”による社会の変質に、反発する声。
これまでのイメージを転換させようと、新たな手も打ち始めた。中国の支援をアピールする映像をネットで拡散させていく。
一帯一路がもたらす発展の一方で、国内外に広がっていく軋轢。
カンボジアで急速に進む中国化の光と影を追った。
<中国とカンボジアの蜜月>
中国の国際空港。防護服姿の人々が飛行機に乗り込む。皆、カンボジアへと向かう中国人だ。パンデミックの中でも、中国からカンボジアへの人の流れは止まっていない。
カンボジアの首都プノンペン。2021年9月中旬。空港の周辺で、道路や建物の洗浄作業が行われていた。3時間後、中国の特別機で王毅(おうき)外相が到着した。中国の援助で完成した、巨大施設の寄贈式に出席するという。総工費170億円、6万人を収容する国立競技場。中国の無償援助で建設された。
王毅外相「なぜ中国がカンボジアにこんな素晴らしい競技場を建設したか。それは、カンボジア国民が中国にもっとも友好的な国民だからです」
フン・セン首相「我々の友情は、習近平国家主席に『鋼の友情』と命名していただきました。中国に支援を求めず、誰に支援を求めるのか?」
街の至るところで目にするのは、中国製ワクチンの接種会場。カンボジアのワクチンは、ほとんどが中国製。すでに人口の8割が2度の接種を終え、東南アジアでは異例の摂取率を誇る。
ワクチンを打った女性「ワクチンが打ててうれしい。中国には感謝しかありません」
中国とカンボジアの「鋼の友情」を象徴するのが、沿岸部の都市シアヌークビルだ。以前は寂れた漁村だったこの街は、この10年、中国による投資で大きな変貌を遂げた。
中国企業進出の受け皿となっている経済特区。コロナ以前は年間7%に上ったカンボジアの経済成長を牽引。2万7千人の雇用も生み出した。
経済特区は近年、中国にとってのメリットも増してきている。
いま中国は、アメリカに関税を引き上げられ、多くの企業が経済的な打撃を受けている。たとえば床材。中国から輸出するより、カンボジアから輸出したほうが、関税が25%低い。つまり、経済制裁の影響を受けないのだ。
企業誘致担当者「ここは発展途上国です。だからアメリカの関税の優遇措置も使えるんです」
<最大の開発 海岸線の“中国化”>
深まる両国の蜜月関係。その中で進んできたのが、“中国化”ともいえる現象だ。
カンボジア南部のダラサコー。いま、世界の一帯一路の中でも最大の都市リゾート開発が進んでいる。
リゾート開発の広報ビデオ「欲望が情熱を抱く贅沢。新興国の伝説の宴です」
「ダラサコー・ロングベイ・プロジェクト」。カンボジアに観光客を呼び込む新たな拠点をつくろうというのだ。開発を取り仕切るのは中国企業。
中国企業 優聯発展集団・劉江氏「プロジェクト全体で90キロの海岸線を持っています。これはカンボジアの海岸全体の20%にあたります」
2000億円を投じてきたという中国企業。カンボジア政府と契約し、広大な土地を99年にわたって借り上げた。カンボジアの海岸の20%をも占めるという。国家の生命線ともいえる海岸の一部を中国企業に貸し出す。極めて異例の開発だ。
いま、ホテルやカジノの工事が急ピッチで進められていた。中国の富裕層をターゲットに、年内のオープンを目指している。カンボジア人1200人を雇用。年間100万人の観光客を見込んでいる。
このプロジェクトの要となる施設は3200メートルの滑走路を持つ巨大な空港だ。中国からも直接来られるようになり、観光やビジネスに便利になるという。
劉江氏「中国には『金持ちになるには、まず道を作れ』という、ことわざがあります。陸・海だけでなく空の道、つまり空港も重要なのです」
地図には、中国から伸びる黄色の矢印がカンボジアを取り囲んでいる。中国の国家戦略「一帯一路」。陸と海で中国とヨーロッパを結び、その沿線の国々にヒト、モノ、カネを送り込む巨大な経済圏構想だ。海上航路=シーレーンを重視する中国にとって、カンボジアは極めて重要な位置にある。対岸のマレー半島では、インド洋につながる運河を建設する計画も進む。カンボジアの戦略的意義は高まっている。
<カンボジアの歴史>
中国は歴史的に、この国に影響力を行使しようとしてきた。1970年代、中国は共産主義を掲げるポルポト政権の樹立を支援。しかしその後、政権は150万人以上の大虐殺を行った。国土は荒廃、長期に及ぶ混乱が続いた。
和平や復興にむけた道筋を主導したのは、日本を中心とする西側の諸国。92年の内戦終結以降、橋や道路などの建設を支援した日本が最大の援助国となり、中国の存在は薄れていった。変化をもたらしたのは、30年以上政権を握るフン・セン首相の強権化だ。
フン・セン首相「国家転覆を企てる者は許さない」
日本をはじめとする西側の支援国は、長く汚職や人権問題に対処するようカンボジアに求めてきた。この間に急速に関係を深めていったのが中国だった。
ダムや道路など、大型のインフラ整備への融資を加速。支援の規模は、2010年に日本を抜いて、最大の援助国となった。一方で、カンボジアの中国に対する債務はおよそ6000億円。GDPの25%にも上り、その額はいまも増え続けている。
<進められる農村の“中国化”>
中国への傾斜を強めるカンボジア。この地を中国の食料庫とするプロジェクトも進んでいた。
中国企業が経営する300ヘクタールのバナナ農園。ここも99年にわたり借り上げる契約が、カンボジア政府と結ばれている。5年前からバナナを生産し、いま年間2万トンを中国に輸出している。
農園開発の背景にあるのが、中国の食糧事情だ。急速な経済成長に伴い、食糧輸入国となった中国。一帯一路を通じた食糧安全保障の確立が急務となっている。
カンボジア・バナナ・アグリカルチャー 高冠華社長「中国がバナナを必要としているから、カンボジアに来ました。熱帯フルーツを求める国内需要と巨大な市場があるのです」
この農園では、近隣地区に暮らす貧困層のカンボジア人500人を雇用し、中国本土で広く普及している指紋認証システムで、勤務管理が行われていた。
この日は、バナナに傷があるという理由で、収穫班のリーダーが呼び出された。
カンボジア人通訳「けさ収穫のときに道が滑ったと言っています」
中国人社員「言い訳は聞きたくありません。バナナの収穫は気を抜いたらだめですよ」
いま、中国人幹部の間では、カンボジア人の働き方が話題となっていた。
中国人社員「中国人は仕事を自分のこととして考える責任感がある。しかしカンボジア人には責任感がない」
中国人社員「彼らは40年に及ぶ改革開放のプロセスを経験していない。だからスピードも理念も意識も我々についてこられない」
呉さん「外国に来ると祖国の強さを身にしみて感じます」
呉誠(ご・せい)。会社の最高幹部の1人だ。呉は、率先してカンボジア人従業員の指導役を担っている。
呉さん「私はよく叱るが、私の気持ちをわかってくれよ。チームみんなの力を結集できれば成功できる。発展できるはずだ。我々はバナナ業界のファーウェイになるんだ」
呉は中国共産党の党員だ。毎日見ているスマートフォンのアプリがあるという。貧しい農村の解放を理念とした共産党。習近平国家主席の思想を学べる「学習強国」だ。
アプリの声「習近平は、上昇志向を保つためのポジティブなエネルギーを刺激する必要性を論じています。社会主義の核心的価値、優れた中国の伝統文化が、人々の心をまとめ、力を結集する強大な力であることを、事実が十分に証明しています」
呉は、従業員の意識改革に欠かせないものがあるという。
呉さん「共産党の思想教育は役に立ちます。しかし思想教育には、物質的基盤も伴わなくてはなりません。ここで働いて稼げば、バイクを買ったり、家を建てることができます。名誉こそが心に響く。そこから始めるのです」
農園では、カンボジアの平均月収を上回る賃金を支給している。この日は、月に2回の給料日だ。これまで自給自足に近い暮らしをしていた従業員に、現金を手渡す。
カンボジア人作業員「62万リエル(約1万7千円)もらった。米とお惣菜を買うよ」
給料をもらった途端に借金を取り立てられる従業員もいる。現金収入は人々の消費欲をかき立てていた。若者たちが求めるのは、中国製のスマートフォン。月々の利用料を払うためにも、働かなければならない。
呉さん「仕事で努力すれば金を稼げると思わせる。そうすれば我々も彼らを管理しやすくなる」
農園の一角に、従業員やその家族の居住エリアがあった。中国企業が用意した急ごしらえの住宅に暮らしている。
住民「ここに一番欲しいものはトイレです。もっと便利に暮らせるようにしてほしい」
従業員は、住宅環境の改善を求めているが、会社側の対応は遅れているという。この農園では、今後3年で作付面積を2倍に拡大し、雇用も1000人に増やそうと計画している。
<国際社会で影響力を増す中国>
世界140か国で、中国が推し進める一帯一路。現地の国々に暗い影も落とし始めています。
アメリカのシンクタンクで、発展途上国の財務状況を研究しているスコット・モリス上級研究員が、一帯一路の沿線に位置する68か国を分析したところ、カンボジアをはじめ23か国が、中国からの債務を返済できなくなる可能性がありました。中でも赤で示された8か国は、その可能性が極めて高いことがわかりました。
世界開発センター スコット・モリス上級研究員「いくつかの国は、返済期限を延ばしても、返済することは難しいでしょう」
これらの国では、港の運営権などを中国に譲渡したり、中国軍の補給基地が設置されたりする事態になっています。いずれも、一帯一路のシーレーンにとって重要な位置にありました。
さらにモリス氏が注目したのは、各国が中国側と交わした契約書の、ある条項。何らかの違反があったと認定された場合、ただちに契約が打ち切られ、一括返済を迫られることになっていたのです。
モリス上級研究員「借り手国が中国政府を怒らせることをすれば、それがプロジェクトとは無関係でも、融資取り消しの根拠になります。例えば台湾の承認に関する事項や、特定の国や地域、とりわけ中国にとって大切な問題です。つまり契約書には、政治的意図が含まれる部分があるのです」
中国は去年、香港で反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」を施行。西側諸国を中心に懸念が広がります。ところが、国連の人権理事会では、懸念を示す国よりも、中国を支持する国の数が上回りました。その大半が、中国から融資を受けている一帯一路の国々でした。
中国の外交戦略に詳しい国営メディア・環球時報の胡錫進(こ・しゃくしん)編集長。中国の経済支援に疑念を持つのは筋違いだと主張します。
胡錫進編集長「一帯一路はウィンウィンになる関係です。よく考えてください。中国が強制的に推し進めたものではありません。中国の海外進出は、高度な融合を促進することを目指しています。絶えず協力関係を結び、絶えずビジネスを行い、ますます大きくなるのです」
<軍事利用か 疑惑の空港>
中国化の加速は、安全保障をめぐっても国際社会と軋轢を生み始めている。中国企業が土地を借り上げ、リゾート開発が進むカンボジア・ダラサコー。建設中の新空港に、軍事利用の疑いがかけられているのだ。プノンペンの国際空港よりも長い3200メートルに及ぶ滑走路。軍用機も利用できる規模だ。
中国は5年前からカンボジアとともに合同軍事演習を行い、安全保障面でも関係強化を進めている。以前カンボジアと軍事演習を行っていたアメリカは、強い懸念を示している。
駐カンボジア・アメリカ大使のパトリック・マーフィーは、プロジェクトの不透明さを指摘する。
マーフィー大使「これは中国の国有企業が、秘密裏に行ったプロジェクトです」
疑惑の根拠となっているのが、中国の「国防動員法」。有事の際は、民間資源でも軍による接収を可能にする。
「軍民融合」の思想。これを国外でも適用するのではないかと懸念しているのだ。
マーフィー大使「何のための計画なのか。軍民融合や軍事活動に、疑念を持つのは当然です。透明性の欠如と情報開示の制限が、こうした疑念を生むのです」
一方、ここでリゾート開発を行う企業のトップが取材に応じ、そうした指摘は、杞憂に過ぎないと語った。
正恒集団・鄧丕兵会長「カンボジア政府は独立した主権国家であると繰り返し主張しています。国内に第三国が軍事目的の基地を持つことを認めていません。空港の建設は、今後の発展を考えると不可欠なのです」
軍事利用の疑念は晴れないと考えるアメリカは、中国企業に対し、資産凍結などの制裁を科した。
一帯一路、最大の都市リゾート開発。そこは、激しさを増す米中対立の最前線となっていた。
<一帯一路への風向きが変わるヨーロッパ>
中国が推し進める一帯一路。いまヨーロッパを中心に、行き詰まりも見えています。
バルカン半島のモンテネグロ。問題となっているのが、建設中の高速道路です。人口わずか60万のこの国に中国が1000億円に上る融資を行いました。
アバゾビッチ副首相が私たちの取材に応じました。この契約は前政権とのあいだで、極めて不透明な形で結ばれたといいます。
アバゾビッチ副首相「当時10億ユーロの融資は国のGDPの3割に相当する巨費でした。日本がGDPの3割を借りたと想像してください。中国側が当時の閣僚に個人的に働きかけたかどうかは、時が教えてくれるでしょう」
工事は、中国の国有企業が請け負っています。道路は2年前に完成予定でしたが、工事は難航し、まだ完成していません。一方で、ことし7月から中国への債務の返済は始まっています。アバゾビッチ副首相は、中国は重要なパートナーだとしながらも、こう証言しました。
アバゾビッチ副首相「我が国が中国側と結んだ契約は本当にダメです。国土を担保にしたのですから信じられません。何が担保なのか(契約内容が)不明瞭ですが、外交施設以外が担保だということです。あえて善意の助言をさせてもらうなら、中国は自国のイメージに少し気をつけるとよいと思います」
加盟国の半数以上が一帯一路に参加するEU。これまで中国との経済的な結びつきを重視してきましたが、立ち位置を変え始めています。
新疆ウイグル自治区での人権問題に厳しい姿勢を示し、ことし、中国の当局者に対する制裁に踏み切りました。中国に制裁を科すのは、天安門事件以来32年ぶりのことです。
EUボレル上級代表「人権を守り、深刻な人権侵害に対応するEUの決意は変わらない」
中国の経済成長の減速や新型コロナの影響で、一帯一路への投資額も減少し始めています。風向きが変わる中、習近平国家主席はことし、ある指示を出しました。
習近平国家主席「自信を示すだけではなく、謙虚で、信頼され、愛され、尊敬される中国のイメージを作るよう、努力しなければならない」
<中国共産党 広報戦略の強化>
岐路に立つ一帯一路。いま、中国共産党は広報戦略に力を入れ始めている。
中国の援助によって、カンボジアで建設中の病院。そこに取材にやってきたのは、カンボジアで活動する中国系のメディアだ。カンボジアの人々に中国の援助をアピールしたいと考えている。300床の病床を持つ総合病院。新型コロナの治療も行えることを強調して紹介しようとしていた。
中国人記者「新型コロナが広がっていますが、ここは今後カンボジアの感染症対策に使われますか」
建設担当者「はい。カンボジアの保健相も視察に訪れ、期待していました」
中国人記者「多くの方が治療できますね」
このメディアはことし、中国企業の資金で設立された、APタイムズ。インターネットで中国の援助をアピールする記事や、動画の配信を行うネットメディアだ。中国政府からは、外国で宣伝活動を行う組織として認定を受けた。
APタイムズ・李社長「私たちの主席に感謝します。帆を上げ出航しよう。ここで夢を実現しよう。光り輝く未来に手を携えともに歩もう」
社長の李濤(り・とう)。かつて国営メディア・中国中央テレビの番組制作にも携わり、一帯一路に貢献したいとカンボジアにやってきた。
李社長「カンボジア国民の中国への感謝と両国の友情を伝える。それが私たちの役割です。我々はプラットフォームとなって両国の懸け橋となるのです」
いま、李はカンボジア政府の中枢に人脈を広げることに心を砕いている。この日、会社に招いたのは、フン・セン首相に30年近く仕えているカンボジアのカニャリット情報相。李は、福袋を用意していた。実はこの日は大臣の誕生日で、花束とともに、さりげなく手渡された。
情報相は、メディアの発信する内容を監視するなど、情報統制に強い影響力を持っている。
李社長「これは大臣から私たちへの祝賀状で、APタイムズの設立を祝い、これからも努力を続けてほしいというものです。我々の課題は東南アジアや諸外国で中国メディアの価値を高め、価値の発見や昇華、そして転換を実現することです」
<新たな宣伝映像の制作>
♪ああ 親愛なる中国よ♪
APタイムズでは、新たな宣伝映像の制作にとりかかっていた。この歌の名は、「ノスタルジア・フォ-・チャイナ」。
50年以上前にカンボジアで作られた歌だ。独立の父、シアヌーク前国王。独立まもないころから、毛沢東と親密な関係を築き、お礼にとこの歌を作った。細々と歌い継がれていた歌を、この時代によみがえらせる。
李社長「この曲には前国王だけではなく、多くのカンボジア人の思いもこめられています。中国へのノスタルジーに満ちた新しい時代が始まるのです」
この歌を歌う様子を撮影し、中国の建国記念日・国慶節に配信しようと考えていた。
<世界で広がる市民の反発>
いま、世界各地で中国に反発する市民の声が広がっています。経済力を背景に、影響力を強める手法に、不満が高まっているのです。
中国と親密な関係を築いてきたカンボジアも、例外ではありません。カンボジア軍の基地を中国軍が利用できる密約が交わされたと伝えられ、去年(2020年)、市民が抗議の声をあげました。警察は取り締まりを強化しています。
ASEANの国々の対中感情を調べたあるシンクタンクの調査。中国の圧倒的な影響力を懸念する声は、カンボジアで9割近くに上り、ASEAN全体の平均を30ポイント上回っていました。
国慶節を控えたこの日。プノンペンの独立記念広場に、ノスタルジア・フォー・チャイナを歌う様子を撮影するために、APタイムズのスタッフが集まっていた。広場には、歌を作ったシアヌーク前国王の銅像があった。そこに突然、治安当局が現れ、撮影を中止しろという。
社員「止めろと言っています」
李社長「書類を見せてもダメなのか?」
カンボジア人社員「カンボジアと中国の友好を宣伝するんです。中国人はわざわざ時間を割いて来ているんです」
当局は、コロナ禍での集会は禁止されていると主張した。
治安当局「これは妨害ではなく業務だ」
情報省幹部「撮影させるんだ。さもないと彼らは上に訴える。それだけは警告しておく。後は知らないからな」
当局に詰め寄ったのは、情報省の幹部。誕生日を祝ったあの大臣の腹心の部下だ。鶴の一声で、当局は引き下がった。
情報省幹部「彼らが両国の友好強化のためにシアヌーク前国王の歌を演奏してくれてうれしい。敵を作るより、味方を作る方が賢明だ」
政府高官の協力をとりつけ、撮影にこぎつけることができた。
♪ああ 親愛なる中国よ 私の心は変わっていない 片時たりともあなたを忘れはしない ああ 親愛なる友よ あなた方の援助は私たちの悲しみを追い払う ああ カンボジア人は永遠の友だ♪
アピールされる両国の友情。中国建国72周年を祝う横断幕が掲げられた。歌とともにネット上で拡散していく。
<夢へと突き進む異形の大国>
中国の世界戦略は、カンボジアの隣国タイでも加速している。中国国有企業も出資して、マレー半島で運河を建設するための調査が始まっていた。
全長130キロ、パナマ運河を超える巨大運河。マラッカ海峡を経由しない、新たな海の道を切り開き、一帯一路に革命を起こす。
タイ運河協会パンヤット・パッタム相談役「タイ人は西洋人を信じてきましたが、中国に舵を切ります。中国はテクノロジーも資金も経験もすべてがあります」
このプロジェクトを支えるのが、タイの社会に精通する現地の華僑。政府や住民との交渉、資金繰りに奔走している。
タイ華僑 ジャルーン・ゲーオワジータラップ氏「中国には僕のルーツがあります。経済を飛躍させるためには輸送ルートの高速化が不可欠なのです」
一帯一路最大のリゾート開発が進むカンボジア・ダラサコー。ホテルのプレオープンに自ら立ち会う幹部の姿。アメリカによる制裁を受けながらも、この日を迎えた。
鄧会長「私たちは経済状況がどう変わっても成長していきます。中国の国力は変化を遂げ、ますます豊かになっていくのです」
空港の建設現場では、ぬかるみにはまったトラックをカンボジア人が押しだそうとしていた。
経済協力をてこに、その国の中で影響力を増していく中国。もたらされる成長の陰で、各地に戸惑いと反発が広がっていた。
中国新世紀。
異形の大国は、それでも自らの夢に向かって突き進もうとしている。