中国新世紀 第5回 “多民族国家”の葛藤(前編)

NHK
2021年12月28日 午後4:56 公開

(2021年12月19日の放送内容を基にしています)

2021年7月、北京で中国共産党創立100年を祝う式典が行われていたのと同じ頃、東京では、日本で暮らす中国出身のウイグル族などが、中国共産党に抗議の声を上げていた。それに対し、共産党の功績を称える集団が強く反発。一触即発の事態となっていた。

ウイグル族の男性「私たちが反対しているのは、少数民族を弾圧している中国共産党です」

中国人男性「あなたたち、間違ってるよ」

いま、中国の民族問題が、日本をはじめ世界各地に軋轢をもたらしている。

中国にとっての新世紀が始まろうとしている。創立から100年を迎えた中国共産党。

建国にあたって掲げた民族平等の理念。それを追い求めながらも、民族問題は、共産党のアキレス腱と言われてきた。軋轢や矛盾を抱えながら、類をみない大国となった中国は、次の100年、世界を巻き込みながらどこへ向かうのか。

人口の9割以上を占める漢族と、55の少数民族からなる多民族国家、中国。中でも新疆ウイグル自治区に住む、イスラム教徒のウイグル族などに対しては、テロ対策の名のもと締め付けを強めてきた。

世界各地で「自治区で暮らす家族と連絡が取れない」、「強制的に収容所に入れられているのではないか」という怒りの声があがっている。

実態はどうなっているのか。私たちは現地での自由な取材が困難な中、公開情報や、流出した文書などを収集し分析。見えてきたのは、住民の生活の細部にまで監視を行き渡らせてきた疑惑。そして収容施設の中で、洗脳ともいえる教育が行われてきた疑い。

いま、ウイグル族をめぐる人権問題は外交問題にまで発展。アメリカなどは、来年2月の北京オリンピックに政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を表明している。

アメリカ・サキ報道官「バイデン政権は外交団や公式の代表を派遣しない。新疆ウイグル自治区で中国が行っている“ジェノサイド”と人道に対する罪を考慮したためだ」

中国はこれに強く反発。外務省の報道官は会見で「中国はアメリカに対し、強烈な不満と断固たる反対を表明する」と発言した。

なぜ、中国は民族問題をめぐり、かたくなな姿勢を貫くのか。世界はどう向き合っていけばいいのか。

シリーズ中国新世紀。最終回は、中国の長年の課題、「民族問題」の実相に迫る。

<家族と連絡がつかない…世界各地で訴える人たち>

2021年8月。私たちのもとに、ある人物から「急に家族との連絡が途絶えた」という情報が入った。

10年以上日本に暮らし、日本国籍を取得しているウイグル族の男性は、この夏、新疆ウイグル自治区に暮らす兄と突然、連絡が途絶えたという。日本で暮らす妹とともに消息をたどると、現地の知人から、「行方がわからなくなった」という情報が入ってきた。

ウイグル族の男性の妹「『どこに連れて行かれたかわかったんですか』と聞いたら、『何もわからない』と言って。1分ちょっとしか話せなかったんだけど、『もう怖いから、この話やめましょう』『しばらく連絡取らないようにしましょう』と、すぐ切って」

兄の身に何が起きたのか。今も、詳細は不明のままだ。

ウイグル族の男性「今、連絡が取れなくて、家族の安否確認できないって言ったら、ほとんどの日本人は信じないと思うんですよ。『こういう時代にあり得るの?』みたいな。それが今、正直あるんですよ。自分たち何もできない、もちろんウイグルに行って探すこともできない」

いま世界各地で、自治区に暮らす家族と連絡がつかないと訴える人たちが相次いでいる。

多くの人は、家族が強制的に収容施設に入れられていると疑っている。

<“職業訓練施設”だと主張する中国政府>

ウイグル族が強制収容されているという疑惑。2018年に流出した、施設の内部だとみられる映像では、手錠をかけられた人たちが、共産党を称える歌を歌っている。

「中国共産党がなければ 新しい中国もない」

国連で行われた報告でも「100万人以上が収容されている」として、中国側の説明を求めた。しかし中国は強く否定。施設は「過激化防止のための職業訓練施設」だと主張してきた。

中国外務省の華春瑩報道官は「新疆ウイグル自治区政府が、法に従って設置した職業訓練施設は、テロ組織の影響を受けた人や、組織に加わった人、軽犯罪を犯した人を更正させ、極端な思想を捨てることを助ける場所だ」と説明している。

共産党はメディアツアーを企画し、施設を案内。入所者が中国語を学んだり、職業訓練を受けたりする様子を公開した。

職業訓練施設の入所者の1人は「“過激化”についての教育を受けて、宗教や極端な思想を真に理解しました。いまは考え方も変わり、健全な思想になりました」と話した。

また、別の職業訓練施設の入所者は「ここで訓練を受けなかったら、極端な思想が深まり、テロ分子になっていたに違いありません」と話した。

中国は、2019年10月にすべての人が訓練を終えたと発表。しかし、自治区の中にはいまでも、施設が存在しているという指摘が後を絶たない。

<過酷な体験を強いられたというウイグル族の証言>

なぜ、国際社会は、ここまで疑惑の目を向けているのか。それは、施設に収容され、過酷な体験を強いられたと証言する人が多くいるからだ。

自治区からアメリカに逃れてきたズムラット・ダウトさん。3人の子どもを持つイスラム教徒だ。3年前に施設に収容されたというズムラットさん。その理由は、夫の仕事相手である外国人と連絡を取ったりしたことだと考えている。

ズムラットさん「あそこ(職業訓練施設)は、自らの意思で専門技術を学ぶような所ではなく、罰せられる場所です。人を苦しめるような場所に、自分から望んで行く人は誰ひとりいません」

施設でズムラットさんが目にしたのは、想像もしなかった劣悪な環境だった。

ズムラットさん「ドアを開けた瞬間、30人の女性が中にいるのが見えました。そこにはシャワーはなく、部屋の隅には、トイレとしてバケツが置かれ、悪臭を放っていました。若い人から高齢の人、病気の人までいて、胸を締め付けられました」

2か月に及んだ収容。宗教を否定する言葉も、繰り返し浴びせられたという。

ズムラットさん「中国語の授業と言っても、洗脳教育です。『イスラム教は中華民族の宗教でない』『おまえたちはイスラムに毒されている』と言われました。中国国歌を歌わないと、食事すらもらえません。習近平を称える作文も書かされました」

<共産党の“アキレス腱”と言われるウイグル問題 その歴史は>

多民族国家である中国にとって、55ある少数民族をどう治めるかは、長年、国の根幹に関わる問題となってきました。少数民族に一定の権利を与えるために設置した自治区は、国土の半分近くに及び、国境地帯のほとんどを占めています。

そのひとつ新疆ウイグル自治区は、1955年に設置されました。共産党は、民族平等の理念のもと、教育現場などでのウイグル語の使用などを認めてきました。その中でウイグル族をはじめ、多くのイスラム教徒が、宗教や独自の文化を守り暮らしてきました。

一方で共産党は、漢族の大規模な移住を進め、その数は50年でおよそ25倍に増えました。2000年代に入ると、自治区で石油や天然ガスが相次いで見つかり、共産党はインフラ投資を加速。経済を急速に発展させていきます。しかし、漢族の増加や、広がる格差などをめぐり、ウイグル族の一部で不満が高まっていったのです。

ウイグル族の住民「たしかに多くの町は、投資によって発展し、きれいになりました。しかし、企業の求人では漢族ばかりが優先されます」

そして2009年には、漢族との間で激しい衝突に発展。政府側の発表で、およそ200人が死亡したとされています。その後、テロが相次ぎ、2014年には習近平国家主席が、自治区を訪問している際にウルムチで爆発事件も起きました。

共産党はウイグル族の不満が独立運動や、テロにつながることを警戒し、徹底した取り締まりを開始。2017年には「脱過激化条例」を制定し、髭を伸ばすことを制限したり、ベールで頭を覆うことを禁じたりしました。

共産党の統治に影を落としてきた少数民族との軋轢。習主席が、演説などで繰り返してきた言葉があります。

「中華民族」という言葉を使い、民族の団結を強く打ち出すようになっているのです。

中国の民族政策の歴史に詳しい東京大学の平野聡教授は、民族の団結を目指す共産党は「宗教や独自の文化を固く守ろうとするウイグル族が、国の統治を揺るがしかねないと見ている」といいます。

東京大学・平野教授「中国の主流な文化に背を向けたような、独自の社会・文化・歴史の強調といったものは、すべて中国の団結を乱し、中国の社会の安定を阻害するものである。ですから、単にテロリストを弾圧するだけでなく、そもそもテロリストが生じかねないような社会的、文化的な土壌そのものを一変する必要があると、習近平政権は考えた」

<流出した資料から浮かび上がる監視の疑惑>

ウイグル族への警戒を強めていった共産党。住民の日常生活の細部にまで、監視を行き渡らせていた疑惑が浮かび上がってきた。

いまはオランダに亡命している自治区の元公務員のアシエ・アブドゥルアハドさんは、2年前、政府内部から流出したとみられる資料を入手した。全部で150ページ以上にのぼる複数の文書。アシエさんは、政府の公式なものだと考え、世界に公開した。

そのひとつが、「カラカシュリスト」と呼ばれる資料。世界中のメディアや人権団体が、このリストに注目し、追跡調査を行ってきた。リストには自治区のカラカシュという地域に住み、施設に収容されたと見られる300人以上について詳細な情報が記されている。

その中には家族構成や交友関係、信仰心のあつさなどの個人情報が書き込まれている。さらに、収容施設で訓練が必要だと判断された理由も記載されていた。パスポートを申請したことや、子どもの数を制限する政策に違反したこと。そして、イスラム教徒の習慣であるベールを着用したり、髭を伸ばしたりしたことなどが挙げられていた。中でも目立ったのが、「安心できない人物」という理由だった。

アシエさん「こんな理由だけで、強制収容施設に送り込まれているのです。ウイグルの人々の状況は、想像以上に悪いということが分かりました」

海外メディアが、このリストの存在を報じたことを受け、自治区政府はその信憑性を強く否定。2020年2月に記者会見を開き「慎重な調査の結果、(リストに載る)人々は通常の生活を送り、職業訓練施設には入っていなかった。独立勢力が偽物のリストを宣伝しようとしているが、誰も本気にしていない」と発言した。

こうした中、取材を進めると、このリストに親族の名前が載っているという人にたどりついた。トルコ、イスタンブールに暮らす、アブドゥルメジット・エルキンさん。リストが作られたとみられるカラカシュで生まれ、6年前まで暮らしていた。リストには20人以上知っている名前があり、いまも連絡が取れないままだという。

アブドゥルメジットさん「マヒレ・マフムット、兄の妻です。私の兄の名前がここ(親族欄)に載っています。それから子どもたちの名前もあります」

さらに男性は、家族や知人でしか知り得ない、宗教的な習慣まで正確に書かれていると語った。

アブドゥルメジットさん「家にいた時、時々一緒にお祈りしました。 こんなにも詳細な情報が記されているのに、作りものだなんてありえません」

しかし、自分が知る限り、リストにのっている人の中で、過激な思想をもっていた人はいないという。

アブドゥルメジットさん「中国は今、宗教的な思想をもつ人をすべてテロリストとみなしているのでしょう。そうでなければ、この人たちがリストに載るはずがありません。あちらにいたら私も『安心できない人物』に入れられていたかもしれません」

<”親戚制度”とスマートフォンのアプリ>

住民たちの詳細な情報を集めていたと見られる中国。当局はどのような手段をとってきたのか。施設に2か月間収容されたというズムラット・ダウトさんは、自治区政府のある取り組みを疑っている。

「民族団結の強化」を目的に作られた、いわゆる“親戚制度”だ。共産党の幹部などが、ウイグル族と親戚のような関係になり、個別に家庭を訪問する。

ズムラットさん「これが娘の親戚。10歳の娘に対しては、19歳の中国人が割り当てられました。彼ら(漢族の親戚)と一緒に食事をしなければなりません」

共産党が制作した映像には、「親戚」の訪問を心待ちにする子どもが描かれている。

「勉強はちゃんとしていますか?一番になるよう頑張って下さい」(共産党制作の映像より)

ズムラットさんの家にも「親戚」が度々訪れ、家庭内のことを事細かに聞いてきたという。

ズムラットさん「漢族の親戚が『先祖や親戚に政治活動をした人や、刑務所に入れられた人はいないか』などと質問をしてきます。大人は対応できますが、5歳の子どもにも『両親は礼拝をするか、過去にしたことはあるか』『コーランや礼拝マットが家にあるか』などと聞くので、子どもが余計なことを言ってしまわないか、いつも不安になりました」

さらに、ズムラットさんは、当局からスマートフォンにインストールするよう指示されたアプリにも疑いを持っている。

ズムラットさん「スマートフォンにこのアプリを入れなさいと言われました。「浄網衛士」というアプリです」

「ネット空間をきれいにする守り人」と名付けられたこのアプリ。私たちは、このアプリのデータを入手し、専門家にプログラムの解析を依頼。その結果を、サイバーセキュリティ会社のエンジニアに読み解いてもらうと、このアプリは、住民がスマートフォンに保存した動画や画像、音声などの情報を、あるサーバーに自動的に送信する機能を持っていたことがわかった。

サイバーセキュリティ会社 エンジニア「端末に含まれているデータを送信しているのは、ここのサーバーになります」

iTAPと呼ばれるサーバーだ。自治区の現地調査を行い、iTAPについて、詳しく調べてきたカナダ・サイモンフレイザー大学のダレン・バイラー博士。

バイラー博士「iTAPは自治区のウルムチ市の警察官や公務員が個人の情報を集め、監視に使ってきたシステムです」

バイラー博士によると、宗教やテロに関する動画や写真の情報がiTAPに送られると、その所有者の個人情報を照会。危険人物として、監視カメラや検問所で追跡することができるという。

バイラー博士「生活のすべてが細かく、高度なレベルで監視されています。監視はある意味で常態化しており、人々はそれに適応し、受け入れざるをえません。それはひどく恐ろしいことです」

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