番組のエッセンスを5分の動画でお届けします
(2022年4月24日の放送内容を基にしています)
およそ6万年前、私たちホモ・サピエンスの祖先は、誕生の地・アフリカから地球全体へと広がる大冒険に乗り出しました。「出・アフリカ」と呼ばれる人類史上の大転換点です。その後、急速な進歩を遂げ、高度な科学技術を生み出すまでになった「人間」は、2022年3月、また新たな挑戦に乗り出しました。地球から6000万キロ以上も離れた「火星への移住」を目指そうというのです。まさに「出・地球」です。
しかし同じころ、同じ地球の上で・・・人間の高度な技術が、戦争に使われて人間自身の命を奪い、あるいは環境を破壊し、地球の気候まで急速に変えつつあります。「人間」という生き物が、自分自身はおろか地球全体の未来をも左右する力を手にした現代。それは、「ヒューマン・エイジ(人間の時代)」とも呼ばれ始めています。行く先にあるのは、さらなる繁栄か、それとも破滅か。その答えを、壮大なスケールで探ります。
<とめどない人類の進歩 その未来は「繁栄」か「破滅」か>
鈴木亮平さん「ウクライナでかなり厳しい状況の中で、同時に火星に行こうとしている『人間』っていうのは、何なんでしょうね」
久保田祐佳アナウンサー「NHKスペシャル『ヒューマン・エイジ』は、そんな壮大なテーマに、これから放送百年を迎える2025年にかけて、さまざまな視点から迫っていく大型シリーズです。いま人間は、また新たな挑戦を始めようとしています。『出・アフリカ』ならぬ、『出・地球』です」
鈴木さん「火星へ。この夢みたいな話を、人間はどうやって成し遂げようとしているのでしょうか」
<人間はついに火星進出! SFを実現する驚異の技術>
2022年3月17日、アメリカ・フロリダ州。NASAの巨大な新型ロケットが発射台に姿を現しました。この夏にも予定される初の打ち上げに向け、最後の調整に入ります。その目的は、地球から6000万キロ以上も離れた、火星への挑戦。これはNASAが公開している火星進出計画のスケジュールです。
まず今年、巨大ロケットを火星への中継拠点となる月に向けて打ち上げ、2025年には月面に降り、基地の建設準備に着手。その後、火星での長期滞在を想定したさまざまな実験や検証を行います。そして2040年までに、人類を初めて火星に立たせる計画です。
火星への移住を目指して、民間企業のスペースX社は、なんと100人も乗れる巨大宇宙船まで開発しています。
近い将来、あなたやあなたの子ども世代が体験するかもしれない火星生活。今回、科学者たちの予測に基づいて映像化しました。
宇宙からの強い放射線で赤く変色した大地。重力は地球の3分の1。気温は、夏には30度、冬にはマイナス130度にもなる、地球とは全く違う世界です。そんな火星の表面に都市を建設。野菜なども栽培し、食糧を自給自足する計画です。
しかし、この計画を実現するためには、突破しなければならないいくつもの「高い壁」がありました。
まず必要なのが、火星まで大量の食糧や建設資材を運べる強力なロケットエンジンです。しかし、従来の方法でエンジンをパワーアップしようとすると、部品の数が大幅に増加。それらを組み合わせて補強するうちにエンジンが大きく、重くなってしまうという宿命がありました。
この問題を突破したのが、ものづくりに革命を起こした画期的な新技術、「3Dプリンター」です。
どんな複雑な形のものでも、設計図どおり一気に作り上げることができる、夢の技術。これを使って、従来いくつもの部品を組み合わせていた複雑なロケットエンジンを、ひとつながりの構造にまとめることが可能になりました。
これは、スペースX社のロケットエンジン。従来の製造法(下左図)では、とても複雑でかさばっていたものが、3Dプリンターを導入したところ(下右図)、大幅にシンプルに。そのおかげで燃焼効率も向上し、24%のパワーアップに成功したのです。
3Dプリンター製造会社 CEO ベニー・ブラーさん「最も大切なのは、技術革新の素早い連鎖です。私たちは100年かけて火星に行きたいのではありません。生きているうちに実現したいのですから」
立ちはだかる難題はまだあります。火星への着陸方法です。火星の大気は、地球のわずか1%。そのため、パラシュートによる空気抵抗だけでは十分減速することができず、地面に激突してしまいます。そこで、スペースX社の100人乗りの宇宙船が挑んだのが、「ロケットを逆噴射して着陸させる」という大胆な方法です。
ところが、最大1300トンもある巨大な宇宙船を、逆噴射の勢いで減速しながら軟着陸させるのは、至難の業です。何度も失敗を繰り返しながら自動制御システムを改善し、ついに去年5月。
逆噴射による軟着陸に成功したのです。
スペースX社 CEO イーロン・マスクさん「人生とは、あなたの心を揺さぶるようなものであるべきです。人類が火星に行って文明を築き、SFのような世界を現実にすることは、その一つです。45億年の地球の歴史で、それが初めて可能になったのです」
不可能を可能にするさまざまなアイデアと、それを実現する技術の革新。人間特有の力によって、私たちは今、「出・地球」時代という、新たな歴史の幕を開こうとしているのです。
鈴木さん「何かをしたいと思ったら、技術を革新して、次々と夢をかなえていく、人類という生き物の実現力に感動しました!」
<驚くべき人間のパワー 技術革新が止まらない!>
久保田アナウンサー「そもそも人間は、どんな時代にどんな技術革新を成し遂げてきたのか。現代に近いほうから見ていきますと、白熱電球、蒸気機関、火薬は中国・唐の時代。古代エジプト文明のころに外科手術、そしてシュメール文明の車輪や文字、などなど」
久保田アナウンサー「さらに技術革新の歴史をとことんさかのぼると・・・アフリカで誕生した私たちホモ・サピエンスの祖先にまで行き着きます。このころから人間はさまざまな技術を持ち、道具も使いこなしていました」
鈴木さん「ここから始まって、なぜホモ・サピエンスだけが急速に進歩できたのか」
久保田アナウンサー「その謎を解く鍵を握っているのが、こちらの方です」
<最新研究が解き明かす 「人間のパワー」の秘密>
ネアンデルタール人は、私たちホモ・サピエンスと同じ祖先(ホモ・エレクトス)から進化しながら、およそ4万年前に姿を消した「別の人類」です。なぜ私たちだけが生き残り、進歩を遂げることができたのか?
ホモ・サピエンスとネアンデルタール人の頭蓋骨を比べると、脳の大きさはほぼ同じ。知能のレベルも同程度だったと考えられます。言葉を使う能力や、火を起こす能力にも大きな違いはないとみられます。
両者を分けたものは何だったのか?
研究者たちが目をつけたのが、「道具の違い」です。ネアンデルタール人の石器はどれもよく似た形で、狩りにも料理にも同じような道具を使っていました。
一方、ホモ・サピエンスの道具は、用途に合わせて大きさも形も多種多様に進歩していたのです。
デューク大学 進化人類学 スティーブン・チャーチル 教授「ネアンデルタール人は25万年もの間、ほとんど変化のない石器を使い続けました。一方、私たちの祖先は驚くほど次々と新しい道具を生み出し、さらに、こうした道具を使い始めたころから20万年で現代に至ります。とてつもない技術革新の速さです」
なぜ私たちだけが、技術革新を成し遂げられたのか?
人類進化学者 ジョセフ・ヘンリックさんの説が、いま注目されています。
ハーバード大学 人類進化生物学 ジョセフ・ヘンリック 教授「ホモ・サピエンスと同じくらい大きな脳を持ちながら、ネアンデルタール人が技術革新を起こせなかったのは興味深いことです。その理由は『集団の大きさ』にあったと考えられます」
世界中の狩猟採集民族を研究してきた、ヘンリックさんは、「集団の大きさ」と「技術革新」の間に、「ある法則」が存在することを発見しました。
その法則を示す、典型的な一例です。1900年代初頭の調査から、太平洋の島々で暮らす民族の「人口の規模」と、漁に使っていた「道具の種類」を比較したところ、「集団が大きくなるにつれて、生み出す道具の種類が増えていた」のです(下のグラフ)。
「同じ法則が、ネアンデルタール人とホモ・サピエンスにも当てはまる」とヘンリックさんは言います。
石器が変化しなかったネアンデルタール人は、家族単位の小集団で暮らしていたと考えられるのに対し、数々の道具を生み出したホモ・サピエンスは、血縁を越えて150人規模の大集団を築いていたとみられるのです。
ジョセフ・ヘンリック 教授「集団が大きければ大きいほど、技術革新が加速しやすくなる。これこそが、私が『集団脳』と呼ぶ、人間の進歩の力です」
ヘンリックさんの考えはこうです。
集団内で、ある技術について情報をやりとりするうちに、一定の確率で新たなアイデアを思いつく人が出現。新しい道具が、世代を超えて受け継がれていきます。しかし小さな集団では、技術に詳しい人がいなくなると、やがて古い道具に逆戻りしてしまいます。それが大きな集団になると、情報のやりとりが盛んになることで、新たなアイデアを思いつく人が増加。そう簡単には技術が逆戻りせず、確実に受け継がれ、高度になっていく。これが「集団脳」です。
ジョセフ・ヘンリック 教授「私たち人間が次々と技術革新を生み出せるのは、個々人が賢いわけでも、一握りの偉大な天才のおかげでもありません。高度な技術革新には『大きな集団』が必要不可欠なのです」
さらに人間は、集団脳をますます拡大していくために重要な「コミュニケーション技術」を発明します。およそ5500年前、シュメール文明で生み出された人類最初の「文字」。知識や知恵を多くの人が共有し、時を超えて伝承できるようになりました。
15世紀の神聖ローマ帝国では「活版印刷技術」が情報の拡散を急加速させ、宗教改革やルネサンスを後押しして、近代文明を花開かせていきます。
そして現代。私たちは“究極のコミュニケーション技術”を手に入れました。インターネットです。世界中44億人(2022年現在)の利用者が自在につながる巨大な集団脳によって、さまざまな技術革新のスピードが一気に加速しました。そしてついに、「出・地球」時代への扉を開く高度な技術を生み出したのです。
<宇宙開発 × 古代文明 共通する「人間のパワー」>
鈴木さん「ネアンデルタール人とホモ・サピエンスの違いから、火星への移住まで、全部『集団脳』というワードでつながるというのはすごいですね」
久保田アナウンサー「ゲストをお招きしています。2010年に国際宇宙ステーションに滞在した、宇宙飛行士の山崎直子さん。そして、ピラミッドに関する謎を次々と解明している、エジプト考古学者の河江肖剰(ゆきのり)さんです」
鈴木さん「山崎さん、宇宙開発といえばまさに技術革新の最前線ですけれども、次々と難題をクリアしていく人間のすごさ、どう思われますか」
宇宙飛行士 山崎直子さん「人間のすごさは、まだその技術が生まれる前から、空を飛びたいだとか、宇宙に行きたいだとか、想像力をリアルに働かせてきた点ではないかと思います。例えば19世紀の後半には、すでにジュール・ヴェルヌがSF小説『月世界旅行』を発表しています。そうした想像やアイデアが多くの人をひきつけ、集団脳のような形でたくさんの人が試行錯誤を繰り返し、実現に結びつけていった」
鈴木さん「河江さん、古代エジプトというとピラミッドが思い浮かびますけれども、この時代のエジプトの『集団脳』というのは、どういうものだったとお考えですか」
エジプト考古学者 河江肖剰さん「ピラミッドというと、王がいて、奴隷によって無理やりマンパワーで造らせたというイメージがあったり、一人の天才によってピラミッドが設計されたイメージがあったりするかもしれないですが、私たちの研究から、たくさんの人たちの『集団のネットワーク』がうまく機能してピラミッドを造り上げたことが分かってきています」
鈴木さん「とはいえ、この大きさですよ。技術革新が生まれやすかった秘けつは、何かあるんでしょうか」
河江さん「例えば大ピラミッドの中の王が埋葬された玄室の天井がひび割れていたりするんです。当時、石を運ぶときに失敗しているんですよ。古代エジプト人は失敗を気にしないというか、失敗してもどんどん次々と新たな挑戦をしていくという」
鈴木さん「まさにスペースXのロケットと同じですね」
山崎さん「宇宙開発でも、当初は、人が乗るロケットの技術の開発を民間に任せて大丈夫なのかという議論もあったんですね。でも、民間のマインドというんでしょうか、とにかく挑戦をして、失敗を繰り返しながらよりよいものを作っていく」
鈴木さん「民間にもなるべくたくさんの人に投げて、みんなで技術を高め合っていく。まさしく集団脳ですよね」
<人類最大のミステリー!? 文明はなぜ必ず滅ぶのか>
久保田アナウンサー「次々と文明を発展させる人間の集団のパワーを見てきました。でも歴史を振り返ると、あることに気付きます。どんな文明も、ある程度続いたところで必ず終わっているんです」
鈴木さん「ずっと今まで続いている文明はないですもんね。集団脳を活用して繁栄してきた中で、なぜ人類は滅亡を繰り返すのか」
久保田アナウンサー「じつは近年、繁栄を極めながら、突然消え去ってしまった『幻の古代都市』が発見されました。そこから、人間が背負う“滅亡の宿命”が見えてきたんです」
<突如消えた幻の古代都市 意外な「滅亡の理由」とは>
古代エジプト文明で、「まだ発見されていない、カノープスと呼ばれる“幻の古代都市”がある」と長い間、言われてきました。半世紀以上にわたり見つけることができなかったその古代都市を、ついに発見したのが、フランスの考古学者フランク・ゴディオさんのチームです。
考古学者 フランク・ゴディオさん「私たちが注目したのは『海の中』です。あらゆる最新の機材を使って、海底を発掘することにしたのです」
古文書を手がかりに、幻の都市があると見定めたのは、地中海の沿岸の海底です。
堆積した泥を少しずつ取り除き、調査を続けること、およそ2年。ついに、古代エジプト文明の象徴・スフィンクスの像や、金貨・宝飾品の数々が発掘され始めたのです。
分厚い石の壁が100メートル以上も続く巨大な建造物も、姿をとどめていました。
中でも注目を集めたのが、「王妃の像」です。人の体のリアルな造形や繊細な衣服の表現に、エジプトから離れたギリシャ文明の影響が強く表れていました。
アレクサンドリア大学 考古学 モナ・ハッガーグ 教授「カノープスには、地中海世界の文化の粋が集まっていました。この像は、まさにエジプトとギリシャの二大文明が融合していたことを示しているのです」
最新の調査結果をもとに、古代都市カノープスの姿をCGで再現しました。
縦横2キロにわたって家屋が立ち並び、その間を縫うように運河が張り巡らされていました。
街の中心に立つ大神殿は、エジプトとギリシャ、二つの文明の高度な建築技術が結集されていたと考えられます。最盛期の人口は推定10万。まさに「集団脳の結晶」ともいえる都市だったのです。
それが、今ではすべて海の底。なぜカノープスは滅んだのでしょうか?
じつはこれまで、8世紀ごろの大地震によって都市が崩壊し海に沈んだと考えられてきました。
しかし今回の調査によって、地震以外にも「滅亡の原因」が浮かび上がってきました。
フランク・ゴディオさん「カノープスの都市の地盤は、長年にわたって地盤沈下が起き続けていた、危険な場所だったことが分かってきたのです」
注目すべきは、当時の文献の記述です。カノープスの人々は、地盤の危険性に気付いていたというのです。
「地盤が弱く、高くもない海岸の縁に立つ建物」
「砂と波のはざまで、両者から攻撃を受けている」(神学者 ソフロニオス/6~7世紀)
モナ・ハッガーグ 教授「人々はとても危うい状況であることを理解していたはずです。それでもこの場所で暮らし続けていました。おそらく自分たちが築き上げたものに自信を持つあまり、危険に目が向かなくなっていたのでしょう」
高度な技術を生んだ人間の集団が、自らの力への過信にとらわれてしまう。人間が背負う“滅亡の宿命”が、カノープスに忍び寄っていました。
そこへ襲った大地震。ぜい弱な地盤に築かれた都市は、海の底へと消えていったのです。
<繰り返される「滅亡の宿命」 人間の未来は繁栄か破滅か?>
人間の集団が大きくなり技術が進歩すればするほど、崩壊の規模もまた大きさを増すのではないか。
いま世界の研究者によって、過去250以上の文明社会を網羅的に解析するプロジェクトが始められています。
例えば、100万都市となった「古代ローマ」。集団の力で軍事技術を高め、次々と領土を拡大しましたが、相次ぐ戦いに多くの市民が駆り出され、経済が混乱。貧富の差が広がるなどして、崩壊への道を歩んでいきました。
人口1000万とも言われる巨大国家となった、中米の「マヤ文明」。農業技術に急速な進歩が起こりましたが、より多くの農地を求めた過剰な森林伐採で環境が悪化。食糧危機を招き、都市の崩壊につながりました。
ジョージ・ブラウン大学 歴史学 ダニエル・ホイヤー 准教授「人口が増えれば技術が進歩し、繁栄がもたらされます。しかしそれは同時に、社会に大きなプレッシャーを与え、文明社会の崩壊につながった例は数多くあります。それでも、人間は拡大するのです」
世界の人口は、2050年には100億人に迫ると予測されています。増え続ける人間の集団が、際限なく豊かさを求める営みの影響は、地球の気候を激変させるほど大きくなっています。そして、一つにつながった地球の上で、いまだ繰り返される争い。「集団脳」を拡大し、技術を高めてきた人間は、今も自分たちの力をますます過信し、とらわれ続けているのか。
アイスランド大学 人類学 ギスリ・パルソン 教授「まさに『力の矛盾』です。私たち人間は、地球上に現れてから何十万年もの間、あらゆる困難を乗り越え、どんな環境にも適応して生きられる力や、高度な技術を生み出してきました。しかし同時に、地球上のあらゆる社会や生命を破壊する力も手にしてきたのです」
私たちの先にあるのは、さらなる繁栄でしょうか?それとも、破滅でしょうか?
<宇宙開発×古代文明×哲学 人間の未来は繁栄か破滅か?>
鈴木さん「人間が発展していくためには集団を大きくする必要があるけれども、集団が大きくなるほど滅亡のリスクも規模も大きくなる。この宿命から逃れる方法はないんですかね」
久保田アナウンサー「ここで三人目のゲストをご紹介します。経済思想家の斎藤幸平さんです。人間の経済活動が地球を破壊する時代の生き方を思索し続けています」
鈴木さん「地球上では人類がもう拡大しきったような状況を、どうみられていますか」
経済思想家 斎藤幸平さん「多くの科学者たちも、いま気候変動に対して大胆な対策を取らなければ、人類は破局的な状況に直面するだろうと警鐘を鳴らしている。ところが私たちが生活を変えているかというと、変えていないし、エネルギーや資源をいわば浪費しているわけです」
鈴木さん「それも集団の弱みといいますか、集団が大きくなればなるほど、自分たちが起こしていることの自分の責任というのが小さくなっていく気がして」
斎藤さん「一人一人の行動は小さなインパクトしかないから大丈夫だろうと思ってしまって、その累積が今ものすごい力になっているわけです。ただそうした中で、私たち自身が、このままの生活を続けていっていいのか、このままの経済成長や技術革新を目指すだけでいいのかという疑問を持つようにもなってきている。それは、一つの希望なのではないかなと考えています」
山崎さん「技術の進歩に、私たちの社会や倫理観がまだ追いついていない点はもちろんあります。ただ、人類は宇宙にまで行くすべを得て、宇宙から地球をふかん的に眺める技術を培ってきたわけですよね。地球環境に関しても、そのデータの半分以上は人工衛星などいろいろなセンサーの目や耳によるものなんです。人間は、技術を自分たちのためだけではなく、地球をよりよくしていくことにも使っていく使命を帯びているようにも感じます」
河江さん「ドイツの政治家ビスマルクが『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』という言葉を残しています。でも、じつは歴史から誰も学んでいないんじゃないかと思ったりもします。ピラミッドも、ここに建てたら地盤沈下で崩れますよと分かっているところに、500年後にもう一度ピラミッドを建てて地盤沈下しちゃうとかですね。本当の意味で『歴史から学ぶ』ことができれば、解答や道筋みたいなものが見えてくるんじゃないかと思っています」
斎藤さん「大きくなりすぎてしまったヒューマン・エイジの暮らし方の中にある、さまざまな無駄や破壊的なものを自発的に手放して、地球の限界の中で暮らしていける生活スタイルやシステムへの転換が必要だと思うんですね。そんなことができるのかと思うかもしれませんが、例えばコロナ禍で、私たちは緊急事態宣言などのもとで自分たちの生活様式をがらっと変えて、隣人や家族、生活を守るために感染症対策を協力してやったわけですよね。同じようなことが気候変動対策にもできるんじゃないか。私はそう楽観的に考えています」
鈴木さん「これだけ集団を大きくして、でもそれが故にこの惑星に対してあまりにも大きな影響を持つようになってしまって、自分たちの首を絞める愚かさもある。けれども、すごい実現力がある生き物だったじゃないですか。夢に見たことは必ずかなえてきた。だからこそ、このままじゃまずいと思った初めての生き物でもあると思うし、それを実現できる初めての生き物でもあると思うんですね。僕はこの実現力に希望を託したいなと思いました」
<人間の未来はどうなる!? 新・大型シリーズが始動>
大型シリーズ「ヒューマン・エイジ」は、これから放送百年の2025年にかけて「人間とは何か?これからどこへ向かうのか?」というテーマに、生命の進化や科学技術、文化、歴史など多様な視点から迫っていきます。
その一つが「全文明解読プロジェクト」。古今東西250以上の文明社会を網羅的に解析し、私たちが破局を回避するための英知を探ります。さらに、人間が再び月に降り立つ瞬間の生中継や、火星に大接近して撮影する超高精細8K映像など、「出・地球」時代の最前線もお伝えします。
「人間の時代」を「希望の時代」にしていく鍵を、一緒に探していきましょう。