いのちを守る学校に 調査報告“学校事故”

NHK
2023年5月17日 午後4:30 公開

(2023年5月7日の放送内容を基にしています)

栗岡梨沙さん。高校生のとき、学校の部活動中に熱中症になり、重い障害を負いました。

両親は、寝たきりの梨沙さんを、つきっきりで介護しています。

あの日から16年。娘の事故はどうすれば防ぐことができたのか。

父・栗岡正則さん「どこに問題があったのか、(事故を)発生させないために何が必要か。学校単位だけではなくて、もっと大きな視点からみてもらいたい」

学校での事故はどれほど起きているのか。そのデータは、ある独立行政法人が持っていました。

公開されている2005年度以降のデータ。記されていたのは、亡くなった子どもが1614人、何らかの障害が残った子どもが7115人。合わせて8729人に上っていたのです。

私たちはその1件1件を分析。見えてきたのは、同じような事故が、何度も繰り返されている実態でした。

ある地域では数年に1度でも、全国でみれば、毎年のように事故が発生。教訓が十分に生かされていないのです。

これ以上同じような事故を起こさないために、何ができるのか。

8729人の記録から、学校の安全を守る手がかりを探ります。

<データから再発防止策を探る>

今回、私たちが手がかりとするのは、日本スポーツ振興センターの学校事故データです。データベースには、子どもの学年や性別などの属性、そして、学校から報告された当時の状況が記されています。

この団体では、学校内や通学中などで子どもが事故にあった際に、医療費や見舞金を給付する制度を運営しています。その申請件数は、年間100万件以上にのぼります。

学校事故のほとんどを網羅しているとされるこの仕組み。そのうちデータベースとして公開されているのは、2005年度以降の死亡や障害など8729件です。私たちはまず、事故の全体像をつかむため、いつどんなときに起きているのか。8729件のデータを大きく5つに分類しました。『登下校』や、『授業と休憩時間』、『部活動』、『学校行事』などです。まずはこのうち最も多い4割を占める、『授業と休憩時間』を見ていきます」

<同じような事故を繰り返している実態>

「授業や休憩中」にどのような事故が起きているのか。

私たちは、AIを用いて類似点を抽出するクラスタリングという手法で、死亡事故1件1件を分析しました。すると、原因や状況などが似た組み合わせが、いくつも浮かび上がってきました。

その1つ「給食中・窒息死・突然死」という特徴をもったグループ。

「教室での給食中『鶏肉と野菜のうま煮』の中に入っていたうずら卵を食べ、喉に詰まらせた」(小学1年生女子・死亡)

「ミニトマト」や「白玉団子」など、丸くてつるつるした物を詰まらせる事故では、小学校低学年以下の子どもたちが7人亡くなっていました(幼保含む)。

「ゴールポスト」に、「ぶら下がり」や「風」など条件が重なると、重大な事故が起きていたことも見えてきました。

「体育の授業中、サッカーをしていた。生徒がゴールポストにぶら下がったところ、倒れこんできて、下敷きになった」(高校3年生男子・死亡)

ゴールポストが地面に固定されずに転倒する事故。データベースには2人が死亡、10人が障害を負ったと記録されていました。

学校の安全について研究してきた名古屋大学の内田良教授は、最大の問題は同じような事故が繰り返されていることだといいます。

名古屋大学教育学部/内田良 教授「学校で起きている事故は、“コピペ事故”のようなもの。共通点に手を打っていけばいいけれど、結局はちゃんとそれを調べないから、同じことがずっと起き続ける」

見えてきた事故のグループの中に、特に大きなかたまりがありました。中学・高校での「体育」の時間の「心臓系突然死」です。状況を説明した文章をAIで分析すると、浮かび上がってきたのは「走ること」に関する言葉。

日本スポーツ振興センターのデータの中に、こうした条件が重なっていた中学生がいました。

柚野凜太郎さん。当時中学3年生でした。体育の授業で行われた体力テストの最中に倒れました。

バスケットボール部に所属していた凜太郎さん。健康診断でも特に異常はありませんでした。

事故が起きたのは、体力テストのシャトルラン。20メートルを制限時間内に何回行き来できるか、持久力を測るテストです。凜太郎さんは53回、およそ1キロ走ったあたりで倒れました。

父・柚野真也さん「あの子は体育のときに、最後たぶん苦しくて意識がないときに、両手をあげたんですよ。それって助けてサインだったと思って。助けることができなかったのは、今でも申し訳ない。ずっとその思いは残っています」

母・柚野こずえさん「あの子のことを、いつか帰ってくるんじゃないかと今でも思っていて。思ってるけど、思ってないというか」

私たちは、さらに分析を進めるため、これまで非公表だった「発生日時」と「都道府県」のデータを入手。すると、突然死の新たな特徴がみえてきました。

全体で506件に上る「突然死」。それを月別に見ると「5月」が最も多く、リスクが高い可能性が見えてきました。

実は凜太郎さんが亡くなったのも「5月」でした。「持久走」、「5月」。決して特殊なケースではないことが分かったのです。こうした特徴をどう見ればいいのか。長年子どもの突然死を研究してきた医師に検証してもらいました。

日本大学医学部附属板橋病院 小児科/鮎澤衛 医師「5月になると気温が上がるので、熱中症的な要素も加わって、体全体に負担がかかることはある。年齢的に中3・高1あたりは成長期で変化が著しいときなので、特に自律神経、心拍数とか血圧の調整が難しいことが、関係している可能性もある」

データからは、持久走で亡くなった子どもの3割近くが、走っている最中ではなく、「走り終わった後」や「休憩中」に倒れていたことも分かりました。

日本大学医学部附属板橋病院 小児科/鮎澤衛 医師「運動をやめた直後は、急激な脈拍・血圧の変化が起こる可能性があります。終わったあとの児童・生徒の様子も、よく注意して見る時間が必要になる。なぜ亡くなったのか原因が分かれば、対策を講じられるようになる」

同じような事故が繰り返されている実態。

その中でも、毎年のように起きているのが、窓からの転落事故です。30人が亡くなり、44人が障害を負っていました。

「図書館で遊びをしていた。本児童は窓の下部にあった本棚に上がり、開いていた窓の窓枠に、室外を背に座るなどしていた直後に転落した」(小学1年生女子・死亡)

74件のデータにたびたび見られたのは、足場になるものの存在でした。

こうした危険性への認識が、現場に十分浸透していないと専門家は指摘します。

学校の安全を研究してきた森山哲さんは、子どもの特性を踏まえた対策が、徹底できていないことがデータから分かると言います。

子どもの安全研究グループ(技術士)/森山哲さん「子どもは身が軽い、危険ということを考えない。大人の考えているものとはまったく違う。すなわち子どもは、大人を小さくしたものじゃないんですよ。子どもの事故は新しい事故はありません。どこかで起きたものの繰り返しなんです」

<繰り返す事故 対策の徹底が難しい理由>

対策を徹底することは、なぜ難しいのか。

課題のひとつが、学校の安全管理が教職員に委ねられていることです。

横浜市の中学校で行われていたのは、学校設備の点検。通常、教職員だけで行っていますが、この日は安全管理の専門家にアドバイスを求めました。

専門家「塀の高さは十分あります。1点気になるのは、そこに明かり取りの窓がありますね。足をかけるとすぐに登れてしまうので、一番良いのは、内側を透明なもの、パネルでふさぐ」

教職員「基本的にベランダに出る授業もない。生徒が基本出ることは想定してないし、『出るな』と指導しているので」

専門家「『出るな』と言っても、出ちゃうんです」

安全点検は、学期ごとに各学校で行うと定められています。その中では、専門的な知識も求められています。長時間労働が問題となる中、教職員だけで対応することに限界を感じています。

横浜市立東山田中学校/小林祐樹 校長「命を守ることは、教員はすごくプレッシャーがかかっていて、当たり前にやらないといけないけれど、結局、時間外とかを利用して、個々の先生に分担してやっていただくというところがある」

もう1つの課題が「情報共有の難しさ」です。

2011年、小学校で転落事故が起きた大阪・堺市。4年生の男の子が、用具入れにのぼって窓を開けたとき転落、命を落としました。

今も市のホームページで公開している、事故の報告書では、市内の公立校を緊急点検し、窓際にあった「用具入れ」や「傘立て」など、足場になるものをすべて撤去したことを教訓として記しています。さらに、市が校舎を建てる場合は、設計段階から転落防止の対策を施してきました。

堺市教育委員会 学校施設課/飯田繁夫 課長「楽器とか収納する場所がいるので、棚を据え付けていますが、足がかりになるので、設計当時から落下防止用の柵を設置しています」

しかし、こうした対策を、自治体を越えて浸透させるのは難しいといいます。

堺市教育委員会 学校施設課/飯田繁夫 課長「(対策を)共有できる場があれば共有したい。うちの市から隅々まで発信というのは、なかなか難しい」

窓からの転落事故は、ある地域では数年に1度でも、全国だと毎年のように起き続けています。教訓が広がらず、別の地域での事故防止につながっていないのです。

専門家は、学校を巡る「国と自治体の関係性」が対策を難しくしていると指摘します。

安全対策を含む学校の運営は、設置者である自治体などが責任を持つと、法律で定められています。国は、通知などを出して、自治体に対応を依頼することはできますが、学校に直接指示することは出来ない仕組みになっています。

名古屋大学 教育学部/内田良 教授「学校教育は、それぞれの学校が独自に教育する、自治体が独自に教育するという、独自性を大事にしている領域でもあるんです。教育内容に関しては、できるだけ国の介入は避けるべきと思います。でも、子どもの安全や命は、国が責任を持つべきと考えた方がいい」

<安全の基準がないまま事故が相次ぐ>

対策を施せば防げるはずの事故が繰り返されている現実。学校での事故は、日ごろの授業中や部活動だけではなく、多くの子どもたちが楽しみにしている『学校行事』でも起きています。

年に1度の『運動会』などの行事で、84人が死亡、351人が障害を負っていたことが分かりました。取材からは、安全についての共通の基準がないまま事故が相次いでいる実態が見えてきました。

車いすラグビー選手の月村珠実さんは、中学3年生のとき、運動会の練習中に事故に遭い、その後遺症で体に麻痺が残っています。

車いすラグビー選手/月村珠美さん「指は開くけど握れない。手首を使って、腕の力でって感じ。靴も、足は動かせないから、手で足に履かせる感じ」

事故は、「むかで競走」の練習中に起きました。大勢が1列に並び、足をヒモなどで結んで走る「むかで競走」。月村さんの学校では、横2列に並び、前後の人だけでなく、隣の人とも足を結ぶ独自の隊列を組んでいました。動きが複雑で、たびたび転倒していましたが、誰も気にとめる様子はなかったといいます。

月村珠実さん「転倒自体はよく起きてましたね。絶対転ぶ上でやっている競技で、転ぶのも、ちょっと楽しいところがあった」

月村さんは先頭で、後ろ向きに走りながら、タオルで隊列を引っ張る役を担当。そのときバランスを崩して転倒してしまいました。

走ってきた複数の生徒が月村さんの上に倒れ込み、首を強く圧迫されたのです。

月村珠実さん「体全体にジャーンって、衝撃が走った。稲妻が走ったみたいな感じ。触っているのか分からないし、体も動かせないから、感覚がないことに気付いて」

診断は、頸椎(けいつい)脱臼骨折。神経が損傷し、手と足の機能が失われるというものでした。

運動会は国の学習指導要領で「特別活動」にあたります。“集団行動を身につける”などの目的は書かれていますが、どのような競技を実施するかまでは記載されていません。そのため運動会では、むかで競走や組み体操、棒倒し、騎馬戦など、学校や地域ごとに独自のやり方で行われてきました。

むかで競走に定まったルールがあるのか調べたところ、体育の指導教本などには掲載はありませんでした。

むかで競走は、月村さんの学校では現在行われていません。ただ、そのあとも全国で年間300件以上の骨折が報告されています。

月村珠実さん「むかで競走は楽しいだけではなく、競技として危険もある。今後けがは減っていくほうがいいし、自分みたいにわざわざ後遺症を負う必要はない」

<調査が十分ではない実態も>

学校事故8729件のデータ。「授業・休憩中」に次いで大きな割合を占めるのが、「部活動など」です。取材を進めると、再発防止に欠かせないはずの調査が、十分に行われていない実態が見えてきました。

栗岡梨沙さん、32歳です。高校2年生の部活動中の事故で重い障害を負いました。両親とともにリハビリを続けていますが、今も意思疎通が難しい状態です。

梨沙さんが倒れたのは2007年5月。テニス部のキャプテンになって間もない日の練習でした。

事故から2か月後入手したのが、学校が作成した一枚の報告書でした。「部活動中の意識喪失」とされていましたが、なぜ倒れたのか、詳しい原因は記されていませんでした。

母・栗岡弘美さん「学校に問い合わせても曖昧な返事ばかりで、なかなか私たちが思っている答えが返ってこない。ただただ真実が知りたかっただけなのに。こんなに難しいとは、本当思いもしなかった」

娘はなぜ倒れたのか。両親は、みずから検証をするしかありませんでした。手がかりは、搬送先の医師から伝えられた「熱中症の疑いもある」ということば。

父親の正則さんは、仕事の合間を縫ってテニスコートに通い、気温を測り続けました。

父・栗岡正則さん「調べると30度を超えるような気温で(練習を)やるには、危険を伴うと感じる」

事故は5月でしたが、テニスコート内は夏の暑さだった可能性が高いとわかりました。

梨沙さんが倒れたのは、中間テストが終わった日。部活動を行うのは10日ぶりでした。正則さんが、顧問や部員から直接聞き取ったところ、その日指示されていた練習は、ふだんよりも長い3時間。顧問は最初の30分立ち会ったあと、出張で現場を離れていました。梨沙さんが倒れたのは最後のランニング中でした。

当時の部員や専門家に協力してもらうなどして、当日の練習を検証。その結果、高い気温の中、休み明けに負荷の大きな練習を行ったことが、熱中症につながった可能性が見えてきたのです。

真実を明らかにしたいと、県に対し、損害賠償を求める裁判を起こした両親。裁判所は熱中症を防止する義務を怠ったとして、学校側の責任を認めました。事故から8年が過ぎていました。

母・栗岡弘美さん「仕事も恋愛もし、結婚もし、将来子育てもし、本当にいろんな楽しい時間が過ごせるはずでした。しかし、それもはかない夢となってしまいました。熱中症による学校事故を繰り返さないでいただきたい」

データベースでは、部活動中の死亡事故のうち、「突然死」、「頭部外傷」、そして「熱中症」で8割近くを占めていました。

梨沙さんが倒れたあとも、部活動中の熱中症の事故はつづいています。おととしまでに全国で21人の子どもが命を落としたと記録されています。

<事故の再発防止 国はどう考える>

痛ましい事故に直面した家族の願い。それは、子どもの事故がきちんと調査され、再発防止に生かされてほしいということです。

国は2016年、学校で起きた重大な事故の対応について指針を出しました。事故が起きたとき、学校が『基本調査』を実施。ケースに応じて調査委員会を立ち上げ、その結果を文部科学省に報告するよう求めています。

しかし、法的な強制力はなく、国のホームページで公開されている詳細調査は、7年間で13件にとどまっています。

こうした状況を国はどのように捉えているのか。文部科学省に問いました。

文部科学省 総合教育政策局/藤江陽子 局長「詳細調査に移るかどうかは、(学校の)設置者の判断になっています。そこがどう判断したらいいかは、それぞれ自治体に委ねられている。ある程度、基準を明確にしたほうがいいのではないかという指摘もあり、そこは課題だと思っています。国の大きな役割として、情報の収集・分析・発信は、極めて重要な役割だと思っています。自治体、設置者に報告を促し、本当に必要であれば、能動的に詳細な把握に努めたい」

<データの活用 ヒントがアメリカに>

事故の情報をどうすれば対策につなげることができるのか。参考になるのが、スポーツ事故についてデータの活用を進めているアメリカの取り組みです。

2023年3月、データに基づく最新の対策を紹介する講習会が開かれました。話されていたのは、熱中症についてです。

コーリー・ストリンガー研究所/ダグラス・カサ 所長「追跡した2800件から分かるのは、熱中症は倒れてから10分以内に冷却し始めれば100%救命できるということです。データが方針を決めるのです」

取り組みの中心を担うのは、国立の研究センターです。全米の高校や大学などで起きた重大なスポーツ事故のデータを集めています。きっかけは、1960年代、アメリカンフットボールで死亡事故が相次いだことでした。

事故の情報を集めるため、コーチや家族にヒアリング。解剖の記録など医療情報も収集します。

それを大学や競技団体など、全米15の機関と連携して分析。ルールやガイドラインを改善する仕組みを作ったのです。

国立スポーツ重大事故研究センター/クリステン・クーチェラ センター長「ここには迅速に質の高いデータが集まります。データがあれば、どんな点に注意すべきか、どこに事故のリスクがあるのかを導きだせるのです」

例えばデータから分かったことの1つが、長期の休み明けに行う練習の危険性です。

2000年以降の12年間に亡くなったアメフト選手21人のうち、半数以上が、練習再開の「初日と2日目」に命を落としていたのです。

こうした結果を受けて、練習のガイドラインが改訂されました。初日と2日目の練習時間は2時間まで。タックルを禁止するなど、練習メニューも細かく定められました。

データに基づいた対策は、各学校に配置されたアスレティックトレーナーが実践しています。

例えば、日本で事故が絶えない熱中症。体内の温度を正確に測るため、直腸温度計を常備。体を冷やすのに最も効果的とされる氷水の風呂、アイスバスも、すぐに準備できるようにしています。

アスレティックトレーナー「体温が40度を超えると、30分で臓器へのダメージが出始めます。それより前に38度台まで下げなければなりません」

データを活用することで、ルールや対策の改善を重ねています。

日本でも、データ活用の議論が始まっています。2022年、文部科学省は、学校の安全対策を進めるための有識者会議を立ち上げました。委員の1人は、学校事故のデータを国が積極的に分析し、共有することが重要だと指摘します。

緑園こどもクリニック/山中龍宏 院長「日本スポーツ振興センターの災害共済給付のデータは貴重なデータです。十分に活用して分析を行えば、必ず子どもたちのケガを減らすことができる。きちんとしたシステムをやはり作らないと、なかなか予防につながらない」

<学校内データを活用 現場で始まった模索>

大阪教育大学附属池田中学校では、子どもたちの気づきをデータにしていかそうとしています。生徒たちは、2週に1度、学校の中で危険だと感じた場所を校内マップに入力。

生徒「激突、下足室で。狭いので結構あります」

危険を感じた理由や改善策も書き込んでいきます。

1年半で3000件近く集まりました。このデータをもとに、生徒たちは注意喚起のピクトグラムを作り校内に貼っていきます。例えば、危ないという情報が複数寄せられた靴箱のスペース。

生徒「夕方になると、結構暗くなって、周りがあんまり見えない。靴箱が下の方で、友達に手を踏まれたりと」

この取り組みについて生徒や教職員にアンケートをとったところ、「学校の安全に対する意識が高まる」と答えた人は、9割以上にのぼりました。

生徒「身近に危険があるという意識が上がって、注意しながら歩けるようになった」

生徒「『自分もけがをしたくない』という思いはあると思うし、自分の行動で人にけがさせてしまうのも、きっと後々後悔するし、そういう思いがピクトグラム作成に表れている」

生徒がケガをすると、すぐに検証を行い、大きな事故を防ごうという学校もあります。東京・上野にある岩倉高校です。

その中心を担うのが、養護教諭の金澤良さん。すべての教室にAEDの場所や、事故が起きた時の対処法を掲示するなど、安全のための情報共有に力を入れてきました。

2023年2月、ラクロス部の練習中生徒同士が交錯し、1人が後ろ向きに転倒。頭を打ったため、脳しんとうの恐れがありました。生徒は大事には至りませんでしたが、金澤さんはすぐに、脳しんとうの危険性について勉強会を実施。どんな事故でも教訓を得ていくことが、子どもを守ることにつながると考えています。

岩倉高校 養護教諭/金澤良さん「起こってしまった事故、それが防げたものか、防げなかったものか。対応して終わるのではなく、再度振り返ってもらう。一番大事なのは起こったことに、すぐ次の対策を練って、それを周りの方に教育すること」

<一つ一つの事故に向き合う社会を>

8729件の学校事故。一つ一つのデータの向こうで、多くの子どもたちの未来が失われていました。

テニス部の練習中、熱中症になった栗岡梨沙さん。事故後しばらくの間、表情がありませんでした。

母・栗岡弘美さん「みんなキラキラして楽しい時間を過ごしているのに、突然、学校事故は起きてしまう。将来ある子どもたちの夢を、学校現場で閉ざさないでほしい」

家族や当事者は、もう2度と事故が起きないよう、教訓を生かしてほしいと願っています。

体力テストのシャトルランで倒れ命を落とした柚野凜太郎さん。将来、ライフセーバーとして、海の事故から子どもを守ることが夢でした。

父・柚野真也さん「それぞれの声に耳を傾けてほしい。他人事と考えず、というのはすごく思う」

むかで競走で事故に遭った月村珠実さん。1歳となる息子には、学校で安全に過ごしてほしいと願っています。

月村珠実さん「自分と同じような目に遭ってほしくない。安全が確保された中で、伸び伸び過ごしてほしい。安全な場所をつくってもらいたい」

いのちを守る学校に。

データと向き合うこと。当事者の声に耳を傾けること。

私たちが今すぐできることは、たくさんあるはずです。