グレート・リセット ~脱炭素社会 最前線を追う~

NHK
2021年11月8日 午前11:50 公開

番組のエッセンスを5分の動画でお届けします

(2021年11月7日の放送内容を基にしています)

世界各地で頻発する「気象災害」。その原因とされる地球温暖化は、どこまで危機的な状況なのか。最新の科学予測をまとめた国連の報告書が、ことし8月に発表されました。そこに示された、人類の未来を左右する数字が「5000億トン」。今後この量を超えて二酸化炭素を排出すれば、地球の平均気温の上昇が加速。後戻りできない「危険な領域」に突入する恐れがあるというのです。世界全体で排出される二酸化炭素は、年間およそ400億トン。このままだと、あと12年ほどで「危険な領域」に達してしまう計算になります。いま私たちに何ができるのか。注目を集めているキーワードが、「グレート・リセット」。持続可能な社会の実現のために、私たちの経済や社会を根本から変えようという考え方です。大きな岐路に立つ世界の最前線を見つめます。

<世界は「脱炭素社会」へ! 各国に求められる大転換>

イギリス、グラスゴー。10月末から、気候変動対策を話し合う国連の会議COP26が開かれています。世界から若者たちが集まり、脱炭素社会の一刻も早い実現を訴えていました。環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんの姿もありました。

環境活動家 グレタ・トゥーンベリさん「これ以上、人類 自然 地球から搾取するのは許せない。リーダーシップはこうあるべきだ」

会議場では、各国のリーダーが温室効果ガスの排出量削減に向けた決意を表明しました。議論の先頭に立ったのが、排出量世界2位のアメリカです。

アメリカ バイデン大統領「アメリカは交渉の場に戻ってきただけでなく、模範を示すことで交渉をリードしていく。わが国は野心的な目標を達成する」

バイデン大統領は、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を2030年までに半減させる方針を打ち出しました。

「石油の都」テキサス州では大きな変化がおきています。国の優遇措置などを受けて、続々と建設される風力発電施設。太陽光パネルも次々と設置。再生可能エネルギーは、現在、アメリカの全発電量の2割を占めています。これをどこまで増やせるかが、排出量削減の目標を達成する鍵です。

太陽光発電に土地を提供した地主「再生可能エネルギーは私たちの助けになります。時代の流れについていかなければ、置いてけぼりになってしまうでしょう」

温室効果ガスの排出量が世界第1位の中国は、今回かつてない目標を掲げています。これまで増え続けてきた排出量を2030年までに減少に転じさせ、2060年までには実質ゼロにする方針です。

中国内陸部の内モンゴル自治区では、山手線の内側ほどの広大な土地を使って、太陽光発電所の建設が進んでいます。再生可能エネルギーの分野で世界をリードしようとしているのです。

現在はエネルギー消費の8割以上を石炭など化石燃料に依存していますが、2060年までには脱炭素エネルギーを8割以上にするとしています。

緑能碳匯集団公司 周占庄 氏「国の通達に従って発展させていきます。将来的には、砂漠のすべてを太陽光発電にするかもしれません」

そして、日本は。

岸田首相「気候変動という人類共通の課題に日本は総力をあげて取り組んで参ります。目標の達成に向け、この10年が勝負です」

掲げた目標は、2030年度の温室効果ガスの排出量を46%削減するというもの。

そのために発電量の多くを占める火力を大幅に減らす一方、再生可能エネルギーを増やし、原発と合わせて脱炭素の電力を6割に高める計画です。

しかし、太陽光パネルを大規模に設置できる土地が少ないなど、再生可能エネルギーの導入は容易ではありません。原発を巡っても課題が山積しています。今後どこまで産業構造を転換し、技術開発などを進められるかが問われています。

各国がクリーンなエネルギーへの転換を急ぐ中、特に先進的な取り組みを行っているのが、EU。中でもフランスは、二酸化炭素を少しでも減らそうと社会インフラの改革にも乗り出しています。

目をつけたのは、二酸化炭素の排出量が多い旅客機です。近距離の国内航空路線の一部廃止を決めました。ある試算では、5つの路線が廃止されれば、年間およそ11万トンの二酸化炭素を削減できるといいます。空路の代わりに導入したのが、時代の流れで消えつつあった「夜行列車」です。鉄道会社は、廃棄されるばかりだった客車の改装作業に追われています。脱炭素社会に向けて、一昔前の移動スタイルに戻ろうというのです。切符の購入画面には、列車移動で排出される乗客1人当たりの二酸化炭素の量が示されています。同じ区間の飛行機移動と比べると、およそ15分の1です。

夜行列車の乗客「早く着くことが快適だとは限りません。子どもたちには、この先も長く良い環境で暮らして欲しいですからね」

<最新科学からの警告 温暖化は“危険領域”に!?>

いま世界で頻発している「気象災害」。各国が脱炭素社会へ転換を急ぐ背景にあるのが、科学者たちが示した厳しい未来予測です。ことし8月、気候変動に関する国連の専門家会議、IPCCが発表した報告書です。

そこに、世界の最新研究をもとにはじき出された地球の平均気温の変化を示すグラフが掲載されました。18世紀後半の産業革命。人類は、石炭を燃やして大量のエネルギーを得られるようになりました。その頃から、地球の平均気温は次第に上昇し始めます。そして現在、産業革命の頃より1.1℃上昇していることが明らかにされました。このまま2℃前後まで上がると、深刻な事態が起きることが、最新の研究で分かってきたのです。

アマゾンでは、高温や乾燥で、熱帯雨林の大半が消失。それまで森が蓄えていた二酸化炭素が一気に大気中に放出されてしまいます。さらに北極圏では、永久凍土が大規模に溶け出し、地下に閉じ込められていたメタンガスが大量に放出され始めます。メタンは二酸化炭素の20倍以上も温室効果があるため、地球温暖化はますます加速します。こうした現象の連鎖に歯止めがかからず、地球の平均気温は、+4℃前後まで上がったまま、人類がどんなに努力しても元には戻せなくなるというのです。

さらに、ことし9月。医学の世界からも衝撃的な報告が出されました。地球の平均気温が+1.5℃に上昇するだけでも、私たちの健康に甚大な悪影響が現れるという警告です。温暖化によって、脱水症状、腎機能の低下、皮膚がん、心臓や肺の病気などの健康被害が深刻化する恐れがあるといいます。

でも、現在すでに1.1℃上がってしまっています。+1.5℃という危険な領域に突入するまで、あと0.4℃。ことしIPCCが公表した試算によると、あと5000億トン二酸化炭素を排出すれば、50%の確率で、その「危険な領域」に達するといいます。全世界で1年間に排出される二酸化炭素は、およそ400億トン。このままのペースだと、12年ほどで達してしまうのです。

IPCCの中心的な気候学者の一人、国立環境研究所の江守正多さんは、経済や社会の仕組みを今すぐ見直さなければ、取り返しがつかなくなると言います。

国立環境研究所 地球システム領域 江守正多 副領域長「今すでに+1.1℃温暖化している状態で危険が始まっている。新興国や発展途上国が、これから工業化して経済発展してエネルギー需要が増えていくと、そういった国を含めて本格的に化石燃料から脱しながら成長していくモードに入らなければ、+1.5℃(以内)を目指していることには全然なっていない。二酸化炭素を出さないのが当たり前な新しい世界のシステムに、抜本的に変えていかなければいけない。これがまさに“グレート・リセット”。これを目指していかなければいけない」

<「脱炭素社会」へ! 企業の挑戦 石炭・石油依存からの脱却>

今、「グレート・リセット」を求める声は、国だけでなく、企業に対しても向けられています。世界各地で、二酸化炭素を多く排出する企業などを訴える「気候変動訴訟」が増加。去年だけで1,550件に上っています。中でも最も注目されたのが、スーパーメジャーと呼ばれる巨大石油企業「ロイヤル・ダッチ・シェル」が訴えられた裁判です。環境団体と市民が、「シェルの二酸化炭素削減の取り組みが不十分」だとして、対策の強化を求めたのです。賛同する市民は1万7,000人に上りました。

原告団に加わった市民 マルティンヌ・ドッペンさん「シェルには事態を大きく変える力があるのに、その責任を果たしてきませんでした。だから私はこの裁判に加わりたいと思ったんです」

オランダ・ハーグ地方裁判所は、市民の健康や命を守るという観点から、シェルに対し、二酸化炭素の削減を強化するよう命じる判決を言い渡しました。

「裁判所は、シェルグループに対し、消費者などが排出する分も含めて、2030年までに二酸化炭素を(2019年比で)45%削減することを命じる」

巨大な石油メジャーに突きつけられたこの判決は、世界の石油業界に大きな衝撃を与えました。シェルは控訴する一方で、「2030年までに温室効果ガスの排出を半減させる」という新たな目標を、先月発表しました。

脱炭素に向けた取り組みが、企業の今後を左右しかねないと、戦略を大きく転換する石油メジャーが現れています。

フランスに本社を置くトタル・エナジーズ。売上高は16兆円に上ります。創業はおよそ100年前。トルコで石油の権益を獲得したことがきっかけでした。その後、開発地域をアフリカや北極にまで広げ、今や50か国で石油や天然ガスの採掘と生産を進めています。そのスーパーメジャーが、「石油依存からの脱却」を表明したのです。

トタル・エナジーズ パトリック・プヤンヌCEO「私たちはエネルギー転換の主役となり、マルチエネルギー企業への変革に取り組むことを決定しました」

打ち出したのは、売り上げの99%を占めていた石油などの化石燃料を減らす一方、風力や太陽光などの再生可能エネルギー、さらには、水素やバイオマスといった新しい燃料の導入に力を入れるという方針です。一部の製油所の廃止を決めたため、労働者の反発も招きました。それでもトタルは、社員に理解を求め、脱炭素への転換を推し進めようとしています。

トタル・エナジーズ マーケティング&サービス部門 アレクシイ・ヴォヴゥク部門長「気候変動の現実は、社会全体が変わらなければならないことを突きつけています。石油で成り立ってきた私たちトタルも、大きく生まれ変わらなければならないのです」

トタルがまず力を入れたのが、二酸化炭素の排出量が多いとして批判が高まっている航空機や自動車の「脱石油化」です。この日、独自に開発した新しい燃料をアピールしました。

トタル・エナジーズ 担当者「見て、水みたいでしょう?これは食用油から作られた100%オーガニックな燃料です。私たちは航空分野の完全な脱炭素化に取り組んでいます」

使うのは、レストランで使用された食用油を集めて作ったバイオ燃料です。石油に比べコストはかかりますが、二酸化炭素の排出量を実質8割ほど減らすことができるといいます。さらにトタルは、かつてない試みにも取り組もうとしています。世界各地で排出された二酸化炭素を海の底に埋めようというのです。

発電所や工場で排出したガスから二酸化炭素だけを分離し、回収します。集めた二酸化炭素はパイプラインを通じて海底の掘削施設に運び、その下およそ2,600mにある分厚い岩盤の下に閉じ込めます。その量は、2030年には、年間最大500万トンを目指しています。この一大プロジェクトには、ノルウェー政府が巨額の資金を投入。環境への影響や安全性を確認しながら、巨大貯蔵施設の建設を始めています。トタルは、成長が見込まれる脱炭素のビジネス市場でいち早く主導権を握ろうとしているのです。

トタル・エナジーズ パトリック・プヤンヌCEO「私たちがこのチャンスをつかむためには、今後、投資を増やしていかなければなりません。脱炭素のエネルギーを増やしながら、事業を拡大していく考えです」

<石炭・石油依存からの脱却 経済・社会はどうなる?>

脱炭素社会へ向けて急転換し始めた、国や企業。しかしこれまで世界は、石炭や石油など化石燃料に依存することで、便利で豊かな暮らしを手に入れてきました。これは世界のエネルギー消費量の変化を示したグラフです。

産業革命以降、石炭によるエネルギーの消費を増やし続けてきた人類。20世紀に入ると、より多くのエネルギーを生み出せる石油の利用が急増していきます。石油は交通機関の爆発的な進歩をもたらし、エネルギーの需要は加速度的に高まっていきました。その一方で、私たちは膨大な量の二酸化炭素を排出し続けてきたのです。私たちに突きつけられているのは、「二酸化炭素を出さずに経済や社会をどう成り立たせていくか」という命題です。その実現が容易ではないことが見えてきています。脱炭素を急ぐ中で、私たちの暮らしにも関わる重大な問題が噴出しているのです。

<原油高騰&電力不足も!? 「脱炭素」への厳しい道>

いま世界で深刻化している原油価格の高騰。7年ぶりの高値をつけ、世界に大きな影響を与えています。

日本でもガソリンの値上げが消費者を直撃しています。この高騰は、新型コロナで停滞した経済活動が徐々に回復し、石油の需要が高まっていることが主な原因だと見られています。しかし、今後、脱炭素の動きが進めば、さらに深刻な価格の高騰を招きかねないと言われています。

世界最大の産油国アメリカ。脱炭素に大きくかじを切ったバイデン政権は、国有地で新たな油田の掘削を禁止。さらに大型パイプラインの建設を中止するなど、石油産業への規制を強めています。

アメリカの原油の生産量は、去年、新型コロナの感染拡大を境に大きく減少。その後、経済が回復してきた今も、脱炭素の動きもあり生産量は戻っていません。油田の水圧掘削で全米第2位の企業を経営するクリス・ライト氏は、政府による強い規制がこのまま続けば、石油の供給が減り、需要を満たせなくなると危機感を強めています。

いまライト氏は、全米各地を回って「急すぎる脱炭素への転換は弊害を招く」と訴えています。

油田掘削企業リバティ クリス・ライトCEO「すべての脱炭素対策を実行すれば、エネルギー価格はとてつもなく膨れ上がる。気候変動対策には賛成だが、バランスをとるべきなのです」

価格の高騰が起きているのは、原油だけではありません。二酸化炭素の排出量が比較的少ない「LNG(液化天然ガス)」もまた、価格が跳ね上がっています。

実は今、各国が脱炭素へと急速にかじを切る中、LNGの世界的な争奪戦が起きているのです。中でも、輸入量を大幅に増やしているのが中国です。背景には、中国が直面するエネルギー事情があります。

いま政府は、脱炭素を進めるために、電力供給の6割を占める石炭火力の発電量を急ピッチで削減しようとしています。その裏側で、何が起きているか。

東北部の団地を訪ねると、電力の供給が制限される中、停電が通知されていました。

停電は1日10時間。市民は手作業で洗濯するなど、不自由な生活を強いられていました。経済活動にも影響が出ています。石材加工を行う会社では、電動の研磨機が欠かせません。私たちが訪ねた日は、7時間にわたり作業が中断しました。

こうした中、政府は再び石炭による発電量を増加。その一方で頼りにしているのがLNGです。LNGによる火力発電は、二酸化炭素の排出量が石炭のおよそ半分で済むからです。中国はこうした「つなぎのエネルギー」を使いながら、脱炭素を実現していくしかないと専門家は言います。

北京大学 楊富強 特任研究員「再生可能エネルギーに今後切り替えていくが、今はまだLNGなどが必要です。中国政府は国民を動員するなど総力を結集し、必ずや国が掲げた削減目標を達成できるでしょう」

この中国の動きに、大きな影響を受けると見られているのが、日本です。火力発電の割合が高い日本は、これまでLNGの輸入量は世界1位でした。それが、ことし初めて中国に追い抜かれる見通しです。

世界からエネルギーを調達する大手商社の三井物産は、日本でもLNGが不可欠だとして、北極圏での大規模採掘に加わるなど、供給量の確保を目指しています。しかし、中国が大幅に需要を増やす中、今後LNGが十分に確保できなくなれば、電力不足が起きかねないと懸念しています。

三井物産 堀健一 社長「中国は、エネルギーに対する実需は、ますます増えています。わが国もしっかりとした取り組みでエネルギーを確保する必要があるわけです」

いま三井物産では、LNG以外にも二酸化炭素の排出量を減らせる「ある燃料」に注目しています。肥料としても使われている「アンモニア」です。

三井物産 社員「アンモニアは燃やしても二酸化炭素が発生しない。ゼロエミッション燃料として注目が高まっています」

アンモニアは、クリーンエネルギーとして期待される水素と同じく、燃やしても二酸化炭素を出しません。しかも、マイナス250度以下で保管しなければならない水素に比べ、常温で輸送や貯蔵ができるため、発電コストは4分の1に抑えられるといいます。これを石炭に混ぜて燃やすことで、その分、二酸化炭素の排出量を減らそうと考えています。課題は、国内の生産量では賄いきれない分を、どこから手に入れるのか。三井物産では、アンモニアの生産が盛んなオーストラリアから調達しようと動き出しています。

オーストラリア 担当者「オーストラリアは、アンモニアの生産コストは高いが、政府の補助もあり、日本に近く、すでに輸出ルートがある」

脱炭素と電力確保という二つの課題を、どう両立させるのか。さまざまな模索を続けていくしかないといいます。

三井物産 堀健一 社長「液化天然ガス(LNG)もひとつの方法ですし、水素・アンモニア・次世代エネルギーも大事です。技術革新の動向を見ながら、さまざまな実証実験を重ねて進めていきたいと思います。そのような総合的な対策で、気候変動問題を捉えていきたいと思っています」

<地球温暖化を食い止めろ! 見えてきた「意外な対策」>

私たちは今まさに、脱炭素社会を巡る「理想と現実のはざま」に立たされています。そんな中、気候変動対策の国際会議・COP26で各国が議論している、排出量の削減目標。

しかし国連は、その目標が達成されたとしても、今世紀末、地球の平均気温は+2.7℃に達すると警告しています。目指すべきは+1.5℃以内。このギャップを埋めるために、私たちにできることは何なのか?

手がかりを与えてくれる一冊の本が、いま世界的に注目されています。

22か国70人の研究者が結集。80種類もの地球温暖化対策について、どれくらい二酸化炭素の排出量を減らせるか徹底検証しました。その結果、興味深い事実が見えてきたといいます。

対策検証プロジェクト ポール・ホーケン 代表「これまでは太陽光や風力などへのエネルギー転換が強調されてきました。しかし、ほかにもいろいろな脱炭素の対策がありえることが分かったのです」

それぞれの対策によって今後30年間で削減できる二酸化炭素の量を計算し、ランキングをつけました。

第1位は「冷媒(れいばい)」。エアコンや冷蔵庫で空気を冷やすために使う物質を、温暖化を引き起こさないものに変えること。そのほか上位には、第2位の「風力発電」、第8位の「大規模太陽光発電」とエネルギー対策が並びます。

一方、私たちの生活に身近な対策も見えてきました。26位には「電気自動車の普及」、31位には「住宅などの断熱化」があげられています。注目すべきは、上位にランクインした「食生活に関わる対策」です。第3位は「食料廃棄の削減」。消費されない無駄な食料の生産などで世界が排出する温室効果ガスは、地球全体の年間排出量の8%に上ります。

そして第4位は、「植物性食品を中心にした食生活」。つまり、あまり肉を食べないようにするという対策。実は牛や豚など家畜の飼育では、二酸化炭素だけでなく、その20倍以上も温室効果が高いメタンガスが大量に排出されています。世界全体で食肉の量を減らせば、今後30年間で二酸化炭素661億トン分もの削減につながると試算されたのです。

この「食肉を減らす試み」に取り組み始めたのが、美食の街、フランス・リヨンです。幼稚園から高校まで、給食で週に1度「肉を食べない日」を設けました。この日のメニューはカリフラワーのグラタンにハーブのオムレツ。どちらも肉は一切使っていません。

慣れ親しんだ食生活まで見直すこの取り組み。提案したのは、子どもたちの保護者でした。

保護者会組織 リヨン支部 ボリス・シャルチエ副会長「温暖化対策には小さな積み重ねが重要です。食生活の見直しはその一環。未来を担う子どもたちの教育から変えていくことに、大きな意味があるのです」

こうした「生活に関わるリセット」を実現するために求められているのが、「市民の力」です。国や企業だけでは成し遂げられない脱炭素社会へのグレート・リセットの鍵を、私たちが握っているのです。

<「脱炭素社会」への挑戦 カギは“市民”にあり>

今、フランスで行われた新しい試みが世界的に注目されています。市民自らが脱炭素に向けた対策を議論し、政府に直接提言する仕組み、その名も「気候市民会議」です。参加者は、全国から集まった16~80歳の一般市民で、25万人以上の中から無作為に150人が選ばれました。脱炭素社会の実現に向けて、何をリセットしていくべきか、市民が月に1回ほど集まって議論を重ねてきました。

9か月にわたる議論の末、まとめられたのが、149ものリセット案が盛り込まれた提言書です。実は、そこから実現したひとつが、近距離の航空路線の廃止。夜行列車を復活させる、あの取り組みにつながっていたのです。そのほかにも、排気ガスの多い車が市の中心部に入るのを禁止する提言など、社会全体で取り組むべきさまざまなリセット案が示され、国によって検討されたのです。

フランス マクロン大統領「気候市民会議の提言を受けて、行動すべきときが来ている。今こそ抽象的な議論ではなく、新しい対策に乗り出すときだ」

気候市民会議に参加したメラニー・コスニエさんは、3人の子どもの母親です。会議での議論をきっかけに、自分自身の生活も大きくリセットし始めたといいます。長年乗っていたディーゼル車を電気自動車に買い替え、徹底した節電を心がけるなど、生活レベルでの努力を重ねています。

気候市民会議の参加者 メラニー・コスニエさん「無理なんて言っていられない。やらなくてはいけないんです。いちばん大事なのは、私たちの子どもや孫たちに安心して暮らせる地球環境を残してあげることなんですから」

<「脱炭素社会」への大転換 日本は実現できるのか?>

脱炭素に向けてさまざまな課題を抱える日本。若者たちが動き始めています。気候変動対策を訴えようという環境活動家・グレタさんの呼びかけに応えて、毎週金曜日、集会を開いています。この日集まったのは、首都圏に暮らす10~20代の10人あまり。

日本では、脱炭素をどう進めていくのか、国民的な議論が足りないと危機感を抱いています。

山本大貴さん「ひとりひとりが考えていければ、行動になっていくし、力になっていくし、変わっていくと思います。これまでの過去は、まだ今ならリセットできる」

国、企業、そして市民が挑む、脱炭素社会への「グレート・リセット」。地球温暖化を巡って、科学は次々と厳しい未来予測を突きつけています。私たちはリセットを成し遂げ、この美しい地球を未来に引き継ぐことができるのか。残された時間は、もう長くはありません。