メジャーリーガー大谷翔平 2022 アメリカの新たな伝説へ

NHK
2022年11月22日 午後7:30 公開

(2022年11月12日の放送内容を基にしています)

<闘いの舞台裏を語る>

あの男が語り尽くす。エンジェルス、大谷翔平。

シーズン終了直後の2022年10月、単独インタビューに応じた。

見せてくれたのは、歴史的なシーズンを闘い抜いた唯一無二の勲章。

大谷選手「これは最後にできたまめですね。血まめになったっていう感じ」

さらに、手のひらには、大きな傷跡が。

大谷選手「これはそうですね。(バットの)グリップでできている」

今シーズン、ベーブ・ルースも達成したことのない、規定投球回・規定打席、ダブルでの到達を成し遂げた。新たな領域を切り開いた“二刀流”。

しかし、心身ともに、万全の状態でプレーし続けたわけではなかった。度重なるアクシデントに見舞われ、体は悲鳴を上げていた。それでも、新たな挑戦をやめることはなかった。

アメリカンリーグ史上最多、62本のホームランを放ったアーロン・ジャッジと争うMVP。二刀流・大谷は、アメリカ社会の伝統と変革をめぐり、新たな価値観を突きつけている。

ベースボールを生んだアメリカに衝撃を与える二刀流。大谷翔平の新たな伝説に迫る。

<“史上最高”で迎えたシーズン>

2022年1月、ニューヨーク中心部のタイムズスクエアに映し出された大谷の姿。昨シーズン、ホームラン46本、9勝をあげ、MVPを獲得した二刀流は、“メジャーリーグの顔”となった。

メジャーに挑戦して5年目となる今シーズン。キャンプ中の2022年3月、大谷への単独インタビューが許された。

大谷選手「こういう結果を残したい、みたいなものは、あんまり考えてないです。逆にどういう成長できるかな、という楽しみのほうが大きい。バッターも去年結果が出たからといって、全部が全部同じようにやるかといったら、そうではないので。もっとよくなるためにいろいろ試すし、どういう発見があるのかなと思って、毎日球場に行くのを楽しみに、そういうメンタルで球場に行きたい」

取材班「大谷さんの中で今が全盛期ですか?」

大谷選手「どうなんでしょうね、さしかかっては来ていると思うし、フィジカルに関しても、今までと比べて、今が一番いいと思う。自分がしっかり結果を残すことで、チームとしてより機能してくると思う。いいところで打たせてもらっているし、投げさせてもらっているので、自分が機能するかどうかが一番大事だと思います」

<まさかの投打不調 容赦なきオオタニ潰し>

しかし、シーズンが開幕すると、大谷は苦闘を強いられた。4月14日、2回目の登板。

去年の活躍を目の当たりにしたメジャーリーガーたちが、黙っているわけはなかった。武器とするボールが、次々と攻略された。ストレート。スライダー。決め球のスプリットを見極められる。この日、メジャーにきて初めて満塁ホームランを浴びた。

メジャーリーグを代表する強打者、ヤンキースのジャッジとの対決。

実況:レフトに大きい当たり!入りました!

変化球を捉えられた。大谷を攻略した秘密があるという。

アーロン・ジャッジ選手「マシンにピッチャーの情報を入力すれば、それを再現してくれる」

ジャッジが使っているものと同じピッチングマシンは、球速や回転数など、様々なデータを入力すると、あらゆるピッチャーの球を再現できるという。変化球も再現でき、実際に試合で対戦しているかのように練習できる。

「たとえばストレートを3球続けて、次にスライダーを2球。そしてストレート、スライダーと投げることもできる。バッターにいろいろ見せて、何が来るかわからないようにできる」

元ツインズ投手コーチ ウェス・ジョンソン氏「メジャーで大谷対策として、あのマシンを使っているチームは数多くあります。テクノロジーによって、ベテランでも成長できる」

大谷選手「相手の打線も工夫して攻めてくるし、その中で点数を取られるケースが多かった。メジャー1年目からやってきて、毎年攻めも変わるし、残る数字が高ければ高いほど、やっぱり攻めも厳しくはなるので、そこにまた対応していかなければいけない」

「投」だけではなく、「打」も対策を講じられていた。

直面したのが、相手チームの極端な守備。データ上、大谷の打球が行きやすい方向に、守備を集中された。打球は、ことごとくその網にかかる。極端な守備を敷かれる割合は、去年の75%から91%に上昇。大谷を封じ込める守りを徹底され、今シーズン最悪の17打席連続ノーヒットを記録した。

大谷選手「間を抜けるような打球もなかったし、ライナーアウトも多かった。打席ではそういう感じだったかな。僕自身も打席に立っていて、毎打席、打てる雰囲気がある時期もあれば、全く打てないなと思う時期ももちろんあるので」

<歴史的連敗 奮起と進化>

投打の柱、大谷を封じられたエンジェルス。チームも絶不調に陥り、球団史上最悪の14連敗を記録。6月、二刀流の最大の理解者、マッドン監督が解任された。

大谷選手「なかなか連敗が止まらないという感じですかね。止めきれないという、もどかしさはある。申し訳ないなという気持ちのほうが、選手自体は。監督だけのせいではない、選手個人個人にも責任がある。マッドン監督は責任をとる形で、解任にはなってしまったけど、できれば長くやりたかった」

マッドン監督の解任から2日後。泥沼の連敗を止められるか。すべては大谷の肩にかかっていた。

大谷の姿を特別な思いで見ていた男がいる。マッドン前監督だ。

エンジェルス前監督 ジョー・マッドン氏「大谷はシーズン序盤、少し力んでいたかもしれない。タイミングが狂っていた。しかし、上手くやるだろうと分かっていた」

2回、ランナー3塁のピンチの場面。

実況:バットが折れた、危ない!バックホーム、アウトだ!

160キロに迫るストレートでバットをへし折り、力でねじ伏せる。1点を追い、ランナー1塁で迎えた大谷の打席。

実況:強く打った!いい当たり!ショーヘイ・オオタニやりました!支配的なオオタニが戻ってきた!

連敗を止める、逆転ツーランホームラン。しかし、笑顔はない。

今シーズン、大谷は、ある覚悟を持って臨んでいた。

大谷選手「チームの中でも年数を重ねていって、チームがこれぐらいはやってくれるんじゃないか、という期待から、やらなきゃいけないことが多くなってくるので、そういう意味では、責任が多くなってくるとは思います」

エンジェルス前監督 ジョー・マッドン氏「うまくなりたい、いい選手になりたい、そして勝利したい、自らがプレーする目的を自覚し、エンジェルスを勝利に導くためにプレーしている。それは彼の愛すべきところであり、彼の信念だ」

ここからだった。大谷はこれまでのうっぷんを晴らすかのように躍動する。

実況:とらえた、とらえた、文句なし!

実況:ショーヘイ・オオタニ!やりました!ワオ!

ホームラン2本を放ち、自己最多となる1試合8打点を記録。

実況:スゴイ、ショーヘイ!ザ・パワー!アンビリーバブル!ザ・ユニコーン!

その翌日。投手として、圧倒的な進化を見せる。1試合13個の奪三振、メジャーでの自己最多を更新した。

進化の秘密は、スライダーにある。大谷のスライダーは、変化量が大きく、ホームベース上の端から端までを掃くように曲がるため、“スイープ”と呼ばれる。

MLBのデータアナリスト、デビッド・アドラー氏は、大谷は“スイープ”に加えて、別のスライダーを投げることで、打者を翻弄していたと指摘する。

デビッド・アドラー氏「今年はスライダーがより速く、鋭くなった。様々な種類のスライダーを投げていて、小さく曲げることも、大きく曲げることもできる」

これは、大谷が投げていたスライダーの軌道。

スイープだけでなく、異なる動きのスライダーを投げていたことが分かる。球速を上げ、鋭く曲がるスライダー。そして、横ではなく、縦に変化するスライダー。

大谷のスライダーの被打率は1割台。昨シーズンより、さらに打たれなくなった。

配球も変えていた。シーズン序盤はストレートが主体。それをスライダーを軸にしたピッチングに修正した。

デビッド・アドラー氏「いまスライダーは、ストライクが必要なときに取れる球であり、必要なときに三振を取れる球でもある」

大谷選手「序盤はまっすぐ系統が多かった。まっすぐをケアしてくるバッターが多かったし、その中でスライダーが通る、スプリットが通るというパターンが多かった。スライダーがファウルになる、空振りを取れる球種を多く投げていたのが一番。ことしに関しては」

前半戦だけで自己最多に並ぶ9勝。ホームラン19本の活躍を見せた大谷。

初のプレーオフ進出を目指し、チームを鼓舞し続けた。

<混迷の時代のヒーロー 大谷が体現する“多様性”>

アメリカの国民的娯楽、ベースボール。大谷の二刀流は、野球の本場のファンの心を掴んだ。

「オオタニ!ショーヘイ!大好きだよ!フォー!」

その存在は、アメリカ社会のいまを体現していると指摘する人がいる。

作家で、老舗メディアのコラムニスト、グレン・カール氏。大谷は、ベースボールの長い歴史の中で生まれた、数々のヒーローと肩を並べる存在だという。

グレン・カール氏「野球は社会の広い層に、機会や希望を示すもので、すばらしいエンターテインメントでありスポーツだ。大谷は間違いなくアメリカンヒーローだ。このことは、アメリカが変わったことを示している。彼はアメリカ人に希望と機会を与えるという、野球の伝統と役割を受け継いでいる」

第1次世界大戦後の好景気の最中に活躍したのが、“野球の神様”ベーブ・ルース。移民や労働者などあらゆる人々が、明日はもっと良くなると、生きる希望を託していた。第2次世界大戦直後、メジャー初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンが登場。その活躍は人種差別の壁を打ち破った。

そして、社会の分断が深刻化する現代。カール氏は、大谷の活躍が多様性を尊重すべきという、アメリカ社会の理想を象徴していると指摘する。

グレン・カール氏「大谷はアメリカ人ではないが、アメリカの枠組みの中で活躍している。大谷は私の一部、私の国の一部だ。国民的娯楽である野球で、大谷は最高の選手。大きく変わるアメリカを体現する存在だ。『アメリカに受け入れられて、最高の存在になることができる、社会現象を巻き起こすことができる』ことを大谷は示している」

<二刀流の過酷な宿命に挑む>

シーズン後半戦、大谷は度重なるアクシデントに見舞われる。

7月末、右太ももを自打球が直撃。そのおよそ2週間後、カメラが捉えたのは、太ももに大きなアザが残る大谷の姿。この間、休むことなく出場を続けていた。

昨シーズンの大谷の登板間隔は、肘の手術後のリハビリ期間だったこともあり、「中6日以上」がほとんどだった。今シーズンの後半は、それを「中5日」に変更。登板の合間は打者として出場する。7月下旬から8月末までの41日間で、休みはわずか4日だった。

8月に入ると、大谷の体が悲鳴を上げ始めた。6回途中、3失点で降板したこの日。試合後、右腕の異変を明かした。

大谷選手「単純に腕がつりそうな感じ。足がつるような感じと一緒ですね」

報道陣「疲れもあってつったと思うが、休もうという考えはない?」

大谷選手「出られる試合は出たいと思っているし、休める余裕もないですし」

最悪の状態で臨んだマウンドもあった。通訳の水原一平さんは、これまで見たことのない大谷の姿を記憶している。

水原一平さん「朝起きて調子よくなくて、アップの段階ですごく悪化して、おう吐するとか、かなり苦しそうだったけど、直前すぎて代わるわけにもいかなかった。あれだけ体調が悪い中でプレーしたのは見たことがなかった」

このとき大谷は、ウイルス性胃腸炎にかかっていた。満身創いの中、先発の役割を果たそうとした大谷。水原さんはその姿に「覚悟」をみた。

水原一平さん「キャンプの時点でチームからリーダー各は『トラウト、レンドーン、大谷』と名指しされ、本人もそういう自覚はあったと思います。今年は前よりリーダーシップを発揮して、チームを引っ張ってくれているし、それ以外ではプレーで連敗を何回もストップしていたし、もうプレーで示すしかなかったんじゃないか」

エンジェルスは、選手がケガで次々に離脱。プレーオフ進出が絶望的となり、複数の主力がトレードで放出された。大谷自身にもトレードの噂が持ち上がり、闘う目標を失いかけていた。

大谷選手「8月9月は、とにかく長かった。個人的にも、チームも。もちろんまだポストシーズンの可能性はあったけど、トレードの売り手に回るということは、そういうこと。チームとしての士気も、そういうかじ取りなんだという理解のもとでプレーするとなると、モチベーションが高い状態でみんながプレーできるかといったら、そうではないと思うので。厳しい8月9月だった」

この頃、大谷のもとを訪ね、面会していた人がいる。プロ野球時代の恩師で、日本代表の栗山英樹監督。苦境の中にいる大谷の表情から、進化を予感していた。

日本代表・栗山英樹監督「最悪な状況になってきたというのは、見ていてもわかる状況で。僕の中では、表情を見たら感じられることもあったんで、大丈夫だなと。ああやって苦しんでる時に、『いやぁ、この苦しさ最高なんすよ』と、どこか思っている彼の表情というのが、僕にとっては一番嬉しい表情なので。どうやったらしんどいながらでも結果出せるか、『ちょっと俺のやり方見てて』みたいな、そんな感じの選手なんで。いい意味で楽しみながら、苦しみを超えていくのが、彼の一番の楽しみなんじゃないですか。すごく苦しくて、できないことを超えた時の一番の喜びを持っている選手だから、あそこに行けたのかなと」

<逆境が生み出す超進化 魔球・ツーシーム>

「楽しみながら、苦しみをこえていく」。栗山監督の言葉通り、大谷は進化を遂げる。

8月15日、これまでにない球種を投げた。

実況:落としてきましたか?ツーシームですね・・・

シーズン中に新たな球種を取り入れるのは、異例のことだ。ツーシームは、右打者に対して、食い込むように曲がりながら、沈む速球。

大谷のツーシームは、最速162キロ。平均的なツーシームより、沈む幅も大きい。まさに“魔球”だ。

シーズン途中から投球の軸となった、多彩なスライダー。それとは、逆方向に動く、ツーシーム。メジャー屈指の2つの球種によって、バッターは、より狙いを絞ることができなくなった。

チャズ・マコーミック選手「スライダーを待つと、162キロのツーシームがきてバットを折られる。振り遅れたくないと思うと、スライダーがくる。打つのは難しい」

いつの間に、大谷はツーシームを身につけたのか。

実は、そのカギは、練習ではなく7月のある試合だったと明かした。

大谷選手「練習では、あまり変化しないタイプだったので、なので実戦で投げてみないと分からないなと。投げてみようかなと思ったのは、あの試合のちょっと前ぐらい」

7月6日。4点リードの7回、1アウト、ランナーなし。その初球だった。

160キロの1球。当時、誰もツーシームだと気づかず、「フォーシーム、ストレート」と記録された。

大谷選手「ゲームの様子を見ながら、ここはリスクないなと思えば、投げてもいいかなという場面の1球だった。ギリギリのゲームメイクの中で投げられる場面が、あの1球だった。投げたら変化した」

取材班「試合の強度で投げたら変化?これは使えるぞと?」

大谷選手「そうですね。変な話、ポストシーズン争っていたら、なかなかできることではないので、プラスに捉えて。もちろんゲームを軽視するわけではないけど、そのゲームをまずは勝つことを前提に。そのあとのゲーム、または次の年のゲームを、より勝てる試合にするための、実戦の中での練習というか。実戦でやらないと分からないことのほうがほとんど。そこは実戦のほうが吸収するものは多い」

水原一平さん「テレビゲーム感覚で取得していたので、やっぱすごいなと思った。ゲームみたいに『じゃあ新しい球種ゲットしよう』みたいな感じで。だから周りもすごく驚いていた。チームメイトとかも『いきなり投げ出してアレかよ、フェアじゃない』みたいな」

進化を続ける二刀流・大谷翔平。この5年、インタビューで繰り返し語っていた信念がある。

「野球がうまくなりたい」というシンプルな思いだ。

「一日一日重ねるたびに、足りないところが見えてきますし、『まだまだうまくなれる』ということを感じさせてくれるので、『やることがまだまだたくさんある』というのが、すごく幸せなこと」(2018年・メジャー1年目)

「もともと仕事で野球をやっていたわけではないので、仕事と、もともとやってる野球の本質的な楽しい部分、どちらが大きいのかっていったら、もともとやっているところがメインなので」(2019年・メジャー2年目)

「1日の出来ることを、なるべく野球に割いて、なるべく獲得できるものを、野球の中で獲得できるモノを多くしたいなとは思っているので。6歳ぐらいから、そういうふうな考えで、もちろんできたら、もっといい選手になれたと思いますし。もっと早い段階で、そういうふうなことを考えながらできたらよかったのかなと」(2022年・メジャー5年目)

<伝統的価値・ホームラン VS.新たな価値・二刀流>

二刀流の活躍で、2年連続のMVPが期待されていた大谷。立ちはだかったのが、大谷に強烈な一発を浴びせた、あのジャッジ。驚異的なペースでホームランを放ち、リーグ記録の更新が確実視されていた。

8月末。直接対決の3連戦を迎えた。詰めかけた4万人の観衆は、史上稀に見る競り合いを目の当たりにする。

初戦、ジャッジに豪快な一発が飛び出す。5回、同点で迎えた大谷の打席。決勝のツーランホームラン。ジャッジの闘争心に火をつけた。

報道陣「大谷がホームランを打って触発された?」

アーロン・ジャッジ選手「あ・・・・そうでもないよ。あの2ランホームランで相手にリードされて、イラッとしたけどね」

翌日、ジャッジがやり返す。勝利を呼び込む2試合連続のホームラン。

最終戦。ホームランが出れば逆転の場面。相手は去年の最多勝、コール。

実況:やった!これは行った!

逆転スリーランホームラン。大谷が「今シーズン最も印象に残った」というホームランだった。

大谷ファン「歴史上、大谷のような選手はいなかった。エンジェルスは10年5億ドルで彼と再契約しないと」

ジャッジファン「MVPはジャッジだ!残りのシーズン何もしなくてもジャッジだ」

ふたりの異次元の直接対決で、MVPをめぐる報道は過熱した。

ふたりのMVP争いに注目しているコラムニストのグレン・カール氏は、過熱する議論はアメリカの伝統的な価値観と、新たな価値観をめぐる見解の違いだとみる。

ベースボールの歴史を彩るホームランバッターのヒーローたち。それは、“強いアメリカ”の象徴だという。

アメリカンリーグのホームラン記録を61年ぶりに塗り替えたジャッジ。伝統的な価値観を体現するヒーローだという。一方、二刀流の大谷。これまでの常識を打ち破り、独自の個性を貫く姿は、アメリカが進むべき道を示していると、カール氏は見る。

グレン・カール氏「大谷は“新しいアメリカ”だ。二刀流のほうが、ひとつのことで圧倒的な能力を持つ選手よりも見事だ。才能があるだけでなく、その個性も立派だ。大谷に昔ながらのアメリカのイメージはない。人びとは、大谷の二刀流での成功を見て、それに続こうとするだろう。“自分にもできるはずだ”と考えるのだ」

<大谷が示した道>

シーズン最終盤まで、大谷は進化を続けた。1本のヒットも許さず、アウトを重ねる。この日の投球の8割以上が変化球。実は、ストレートを多く投げられない理由があった。右手中指のマメがつぶれかけていたのだ。

私たちに見せた、あの血まめ。160キロを超えるストレートを投げると、まめがつぶれるリスクが高まる。

大谷選手「まめが1回できると、いい感じになるまで時間かかったりする。最後の5登板くらいは、まめの管理と、相手の傾向を見ながら配球を決めていた」

指先への負担が少ない変化球主体のピッチング。新たなスタイルで8回2アウトまで、ノーヒットの快投を見せた。

最終戦で、規定投球回・規定打席、ダブルでの到達を成し遂げた大谷。この快挙を自身は、どう評価しているのか。返ってきたのは、意外な答えだった。

大谷選手「投打を同時にやる上では、あんまり目指さなくていいと思う。規定というのは、バッターならバッター、ピッチャーならピッチャーの規定なので、どんな形の二刀流のスタイルがあってもいい。これとこれをやらなきゃいけないという形である必要はないと、個人的には思います。もっとカジュアルな感じのプレースタイルがあっても不思議ではない。野手で出ていて、抑えで出るタイプと、か、ファーストを守っていて、リリーフで1回出て、ファーストにまた戻るパターンもあるかも分からない。どちらの規定も目指さなければいけない、ということはないかな」

栗山監督「全ての人には、本当にやらなければいけない使命がある。人はそれぞれ『俺なんかできないよな』と思っているところも、やっぱりどこかあって。でも、できないことを超えましょうよって。もし超えられなくても、その過程において、何かすごく大きなものが生まれますよ、と翔平が言っている。あの姿が示していると思います」

いま、大谷のあとを追って、二刀流を目指そうという選手たちが現れている。

ルイジアナ州立大学のポール・スキーンズ選手。投げては、160キロをこえる速球で、大学リーグ、2桁勝利。打っては、2桁ホームランを記録した。

メジャーリーグのドラフトでは、ことしから二刀流枠を新設。1巡目でいきなり二刀流の選手が指名された。スキーンズは、来年のドラフト1巡目の有力候補になっている。

ポール・スキーンズ選手「大谷選手が、7回を無失点に抑えた試合を見ました。3日後の試合では、僕の頭上を越えるホームランを打ちました。特別な時間でした。高校や大学の二刀流選手たちに希望を与えてくれていますし、いつかメジャーで僕たちにもできるかもしれないと思わせてくれる」

メジャーの歴史を塗り替えたいま、どんな景色を見ているのだろうか。

大谷選手「いまはやっぱ不安しかない。毎年、去年もそうだったけど、必ず結果が残るという保証もないし、同じことをやっていると、なかなか同じような結果は出てこないので、毎年進歩していくのが大事。そこをオフシーズンにどれだけできるかが、来シーズンの上では大事かなと」

取材班「この先の人生をどう歩んでいきたい?」

大谷選手「人生ですか。なんでしょうね。本当に野球しかやってこなかった人間なので。どういう形で終われるのかなというのが、一番、自分自身で興味深いところかな。願わくは、やりきったと思って終われれば。まずそこで1回僕の人生が終わって、そこから先で、まずはやりきったと思えるような野球人生、送れれば幸せかなと思います」

誰も歩んだことのない道を切り開く、二刀流・大谷翔平。

その道は、ベースボールの母国、アメリカに新たな価値観をもたらした。

伝説は、果てしなく、続く。