「超・進化論」 第1集 植物からのメッセージ~地球を彩る驚異の世界~

NHK
2022年11月10日 午後5:51 公開

番組のエッセンスを5分の動画でお届けします

https://movie-a.nhk.or.jp/movie/?v=jzb0dpnw&type=video&dir=XAw&sns=true&autoplay=false&mute=false

(2022年11月6日の放送内容を基にしています)

自然界のおきてについて、かのチャールズ・ダーウィンが唱えた「進化論」。それから160年あまりを経た今、当時の常識を超えて、最先端の科学は、より深くより広く、生き物たちの進化のしくみを明らかにしようとしています。その姿を圧倒的なスケールで描く、シリーズ「超・進化論」。第1集の主役は、鮮やかにみずみずしく地球を覆い尽くす「植物」です。重さでみると、陸上の生物の総重量は470ギガトン。そのうち、人間・すべての動物・微生物の重さを合わせても、たった4.5%に過ぎません。残るはすべて植物。圧倒的なボリュームを誇る「陸の王者」です。最新の科学は今、植物が進化させた驚異的な能力を明らかにし始めています。堺雅人さんが“人間代表”役を演じる、不思議なドラマを交えながら、私たち人間に見えている世界とは異なる「もうひとつの世界」に迫っていきましょう。

<植物たちは周りのことを「すべてお見通し」!?>

堺 雅人さん「とある撮影の帰り道…隣のスタジオで、『生き物たちが主役』というなんとも不思議なドラマの収録をやっていた。僕はここで、思いも寄らない新たな世界を知ることになる」

植物役 角田晃広さん「堺さん、もしかして…植物のこと、おとなしくて動かない鈍感な生き物。そんなふうに思っていません?」

堺さん「え?」

植物役 角田さん「やっぱり…。それは違いますよ。植物は、周りのことを全部お見通しなんです」

<最先端科学で解明!植物がもつ「鋭敏な感覚」>

植物には、私たちの知らない不思議な力がある。埼玉大学の豊田正嗣さんは驚きの研究成果を発表し、世界から注目を集めました。

植物生理学者 豊田正嗣さん「植物というのは触っても何も反応しないですし、何も感じていない鈍感な生き物だと感じられるかもしれないんですけれども、実はまったくそうではなくて、植物は動物と変わらないぐらい、すごく鋭敏かつ感度よくさまざまなことを感じているということが明らかになってきました」

植物が、動物と同じように感じている?

例えば、1匹の虫に葉っぱをかじられたとき、植物に何が起きるのか。豊田さんは、それを世界で初めて映像でとらえることに成功しました。可能にしたのは、最新鋭の機能を搭載した高感度実体蛍光顕微鏡。特殊な光を照射することで、今まで見ることのできなかった植物の反応を、リアルタイムに映し出すことができます。

アオムシが葉を食べ始めたそのとき、不思議な反応が起きます。葉っぱが光り始めました(上写真)。

そして、別の葉も…。

豊田正嗣さん「かじられた瞬間にちゃんとそれを感じて、しかもそれを感じるだけではなくて、全身にその信号を送っている。その反応をとらえた瞬間です」

さらに、その信号が送られた先で、興味深いことが起き始めます。

これは、別の技術を使ってとらえた映像です。紫色の光がポツポツと現れ始めました。「毒物質」を作り出す様子です。虫が食べたらおなかを壊すような毒を作り出して、反撃しているのです。植物は、虫に食べられると、傷ついた細胞から「グルタミン酸」という物質を放出します。これを葉の細胞が受け取ることで、信号を伝える「カルシウムイオン」が発生。その信号が、細胞から細胞へ伝わっていきます。そして信号を受け取った葉で、毒物質が作られるのです。

実は、私たち人間の体の中でも、「グルタミン酸」は神経を通じて情報を伝達する働きをしています。驚くことに植物には、人間の体内にもよく似た、情報伝達のしくみが存在していたのです。

豊田正嗣さん「植物は、生えている場所から自由に動くことができないわけです。ですから、自分の身をいかに守るかといったときに、次に攻撃をされるかもしれない別の場所も守らなくてはいけない。そのためには情報をいち早く伝えなくてはならない。そういった防御のしくみを進化させてきたと考えられます」

さらに植物は、敵の存在を、驚くべき方法でとらえていることも分かってきました。なんと、葉をかじる音あるいは虫の唾液に含まれる化学成分で、敵を認識。相手に応じて、攻撃に使う毒物質の種類や量を変えていることが、明らかになってきたのです。

植物が周りの状況に反応し、自らを守り抜くワザは他にもあります。

例えば雨の日に、葉に落ちる雨粒。植物は、その一粒一粒の圧力を鋭敏に感じています。実は雨粒には、カビや細菌などの病原体が含まれる場合があります。そのため、雨に気づいた葉は、感染から身を守るため、いち早く抗菌物質を作り出す準備を始めているのです。

植物は、すべて分かっている。

「音」「温度」「重力」「化学物質」など、植物が周りの変化を感じ取るためのセンサーは、20を超えるとも言われています。ただ静かにたたずんでいるだけだと思っていた植物は、私たちが想像もできないほど、アクティブに生き抜いているのです。

植物役 角田さん「堺さん、今まで植物を育てたことはございますか?どのような育て方をされましたか?」

堺さん「愛情を込めて。1日3回くらい、優しくそっとなでたりして…」

植物役 角田さん「そのような育て方が、植物にどのような影響を及ぼすのか、確かめた実験があるんです。1日3回、そっとなでられた植物…どうなると思いますか?」

植物役 角田さん「正解はなんと、成長しなかった。生物学の有名な雑誌で発表されています」

植物役 角田さん「植物は、ちょっと触れられるだけでも、すごく感じているんです。『何かいるな』と邪魔者の存在を察知して、『いなくなるまで待とう』と成長をセーブしているんです」

植物役 角田さん「では、『ネナシカズラ』って知っていますか?ヒルガオの仲間で自分では光合成せず、ある特定の植物に寄生しないと生きていけないんです(下写真・中央)。発芽後、数日以内に寄生相手を見つけないと死んでしまう」

植物役 角田さん「でも、寄生相手は誰でもいいわけではないんです。例えば、同じ距離に大好きな植物・ヨモギとそうではない植物・コムギがあるとします。同じ距離ですから、どっちに行ってもおかしくないですよね?でも何回やっても、最終的には好きな植物に巻きつくんです(下写真)」

堺さん「どうやって好きな相手が分かるんですか」

植物役 角田さん「それはずばり、匂いです。ごくわずかな匂いを嗅ぎ分けることで、相手が何者か分かっていると考えられているんです。分かっていただけました?動けない植物が進化させた、鋭敏な感覚を。そしてね、植物は、おしゃべりもするんですよ。人間のように言葉はないですけれども、植物は話しています」

<植物がおしゃべりしている!?>

植物が話をしている。その研究の舞台は、北欧・フィンランドの美しいシラカバの森です。一気に葉を茂らせる春、しばしば虫が大量に発生します。東フィンランド大学の生態学者、ジェームス・ブランドさんが注目したのは、ある不思議な現象です。

化学生態学者 ジェームス・ブランドさん「一部の木が虫や動物に食べられたときに、なぜかその周辺の木々はあまり食べられないのです」

森の中で一部の木だけが虫によく食べられて、なぜか周りの木は食べられない。どうして、そんな現象が起こるのでしょうか。

その理由が、最新の研究で明らかになりました。アオムシのいる植物と、いない植物を並べて、特殊な顕微鏡で観察します。

左側のアオムシのいる方では、葉をかじられると、それを察知して先ほどと同じように毒物質を作り出す防御反応を始めました。驚くのは、虫のいない右側の植物です。左の植物が食べられた直後、右側まで光り始めました。虫に触れられてもいない植物が、なぜか防御反応を起こしたのです。

なぜでしょうか?

ジェームス・ブランドさん「おそらく植物たちは、何かしらの方法でコミュニケーションをとっているのではないかと考えました。危険を知らせようとしているのです」

どうやって危険を伝えているのか?ブランドさんは、決定的な事実を突き止めました。

食べられた木からは、10種類以上もの物質が発せられていたのです。実はこの特有の物質の組み合わせこそが、植物が発する“メッセージ”。虫に食べられていない葉がその物質を受け取ると、防御反応を起こす遺伝子が働き出すことが確認されました。

ジェームス・ブランドさん「虫に食べられた葉から出ていたのは、『食べられた』というメッセージを周りに伝えるための物質です。そうすると、周りの植物は、敵が来る前に防御することができる。つまり彼らは、敵が近くにいることを周りに知らせるコミュニケーションをしていたのです」

最新の研究で、植物の発するメッセージには、さまざまな種類があることが分かってきました。例えば、山火事のとき。燃えた木は、「カリキン」という物質を放っています。そのメッセージは、「今こそ芽吹け」。一帯がこのメッセージに覆われて初めて、眠っていた草木の種が一斉に発芽します。

植物は、物言わぬ寡黙な生き物ではありません。まるでにぎやかに会話をするようにして、コミュニケーションをとる生き物だったのです。

さらに植物が、「植物以外の生き物」にも、メッセージを送っていることが明らかになってきています。

日本最大の湖・琵琶湖のほとり。ヤナギなどが生えるこの場所を住みかとしている昆虫がいます。テントウムシの中でも最大級の大きさを誇る、カメノコテントウです。

カメノコテントウの大好物は、ヤナギの葉を食べるヤナギルリハムシの幼虫です。多いときで、1日におよそ100匹ものヤナギルリハムシの幼虫を探しだし、食べてしまいます。

しかし、ここに大きな謎があります。

テントウムシの視力は、せいぜい0.01ほど。数メートル先の物の判別も、ままならないはずです。

化学生態学者 高林純示さん(※「高」は はしごだか)「例えば、広い砂浜の中に、一粒の真珠の玉を落とした。それを探そうというくらい難しいようなことを、毎日(虫たちは)やっているわけです」

テントウムシは、どうして広大なフィールドの中で、わずか数ミリの小さな小さな幼虫を見つけることができるのでしょうか?

その謎を解くために、京都大学の高林純示さんたちは、ある実験を行いました。Yの字をした試験管の一方には健康なヤナギを入れ、もう一方にはヤナギルリハムシの幼虫に食べられたヤナギを入れました。テントウムシはどちらに進むか。テントウムシは、圧倒的に、幼虫に食べられたヤナギを選ぶことが分かりました(上写真)。

そこには、私たちの知らない、植物と昆虫の特別なコミュニケーションがあることが分かってきました。

ヤナギルリハムシの幼虫が、大好物のヤナギの葉をせっせと食べているとき…、

葉から何か出てきました!これこそ、植物から昆虫への“メッセージ”。

いくつかの物質を組み合わせて、「“ヤナギルリハムシ”の“幼虫”に“食べられている”」といった意味のメッセージを送ります。メッセージは風にのって、少なくとも数十メートルは広がっていきます。

カメノコテントウは、空気中に漂うメッセージを伝える物質を触角で受け取ります。その信号は、即座に脳へと送られ、「触角葉」という場所でキャッチされます。

「ヤナギが、呼んでいる!」

物質の出どころに向かって飛んでいくカメノコテントウ。みごとに幼虫を発見し、食べてしまいます。カメノコテントウは、さながらヤナギに雇われたボディガード。微量成分を解析する技術の進歩によって、こんなコミュニケーションの中身が明らかになり始めているのです。

他にも、メッセージを伝える物質を使ってボディガードを呼ぶ例は、130以上見つかっています。

例えばニレの木は、ハムシに産卵されると、「“ハムシ”が“卵を産んだ”」というメッセージを発して、その天敵のハチを呼び寄せます。

メッセージを送る相手は、虫だけではありません。アカマツは、マツハバチの幼虫に食べられると、その幼虫が大好物の鳥・シジュウカラを呼びます。

大自然の中で、虫や鳥は、自分の力だけで食べ物を見つけているのではありません。人間の知らない膨大なコミュニケーションが、この地球には存在しているのです。

<植物からのメッセージ 地球を彩る驚異の世界>

教授役 西田敏行さん「我々に見えていない植物たちの世界。人間は、自分の見ている世界だけがすべてだと、分かったような気になりがちですけど、それは大間違いですねえ。人間は、この地球のしくみをこれっぽっちも分かっちゃいない。もっと謙虚にならなきゃいけませんよ、生き物たちにも、地球にも。今の命あふれる地球も、最初はこうじゃなかったんですから。今の地球を作ったのは、植物たちが発した『あるメッセージ』からなんですよ」

<恐竜時代に起きた「植物の大革命」>

「植物たちが発するメッセージが、命あふれる今の地球を作り出した」とは、いったいどういうことなんでしょうか?進化の歴史をさかのぼってみましょう。

5億年前の地球。陸地は、砂と石がどこまでも広がる不毛の大地でした。

4億5000万年前、水辺から上陸を果たしたのが、植物の祖先です。陸というフロンティアに乗り出した植物は、陸上を覆い尽くしました。しかし、当時の植物にはまだ「あるもの」が存在しませんでした。

恐竜がいた白亜紀。その「あるもの」の誕生が、地球を一変させる大革命を引き起こします。陸上生物の「種の数」を劇的に増加させたのです。白亜紀の前は、まだ陸上生物の種の数は、現在の10分の1程度だったとも考えられています。ところがなぜか白亜紀を境に、爆発的に生物の種類が増えていったのです。

中央大学の西田治文さんの研究チームは、最近開発した新しい技術で、革命を起こした「あるもの」の化石を、日本で発見しました。

古植物学者 西田治文さん「これはまさに恐竜の時代、白亜紀のもので、石をまるごと高精細度で全部見て、中まで画像として復元しようというね」

石の中を透視するようにして、見えてきたのがこちら。

西田治文さん「これがすごいんですよ。実は、『花』なんです」

大きさ、わずか3ミリ程度の花。この「花の誕生」こそが、地球を一変させる大革命の始まりでした。肝心なのは、この花が発し始めた“メッセージ”です。

花は自ら、昆虫を呼び寄せることができるようになったのです。

こちらは、同じ時代の琥珀(こはく)に閉じ込められた昆虫です(上写真)。糞(ふん)の中を、レーザー顕微鏡で見ると、ぎっしりと花粉がつまっていることが分かります(下写真)。当時の虫が、花の花粉を好んで食べていたことを示しています。そして昆虫の体にも、花粉がたっぷりついています。

花粉を与える代わりに、昆虫に花粉を運んでもらう。

植物は、そんな昆虫との画期的な関係性を、“花からのメッセージ”によって実現することができたのです。

西田治文さん「植物は、それまで一方的に動物に食べられる、特に虫に食べられるということを、上陸以来、3億5000万年続けてきたわけですけれども、花ができたことで、害を及ぼす虫を逆に利用するという大転換があったわけです」

これをきっかけに、生き物たちの進化が一気に加速します。ある植物が特殊な形に進化すると、虫もそれに合わせるように形を変えました。さらにある植物は、虫が他に行ってしまわないよう「華やかな色」を競い、昆虫は確実に花にたどり着くための「飛翔能力」を進化させました。互いが互いを進化させる「共進化」と呼ばれる“進化の応酬”が起こったのです。

西田治文さん「今私たちが生きている世界、花が誕生しなければ、どういう世界になったかはもう想像でしかないけれども、本当に花のおかげで、私たちが存在している」

その後、花や草木に集まる虫を食べる哺乳類が多様化。花からできる栄養豊富な果実は、私たちの祖先、霊長類の進化も加速させました。花が発するメッセージがなければ、鮮やかで命豊かな今の地球は、存在しなかったかもしれません。

<植物たちが生み出した 見えざる「もうひとつの世界」>

教授役 西田さん「きっと生き物たちは、いつもにぎやかに会話しているんでしょうね。人間のような言葉を使ったコミュニケーションではなく、メッセージを伝えるための物質を使ったコミュニケーション。それが、今の地球上ではメジャーなんですよね」

堺さん「僕たちには見えていない、もうひとつの世界。アナザーワールドだ」

微生物役 関水渚さん「地面の下に、もっとすごいアナザーワールドがあるんです」

教授役 西田さん「“陸の王者”・植物のすごさ。ここに極まれり!」

<「支え合い」が植物たちの“ルール”だった!> 

植物が数億年をかけて築き上げた、もうひとつの世界。それを明らかにしたのは、大自然が広がる巨木の森での研究です。アルバータ大学のジャスティン・カーストさんたちは、森の地下に広がる、思いも寄らない世界を突き止めました。

復元生態学者 ジャスティン・カーストさん「植物の根の先を見てください。これは『菌糸』と呼ばれる細い糸状の菌です。世界中の植物の80%が、このように菌とつながって共に暮らしているのです」

「菌」とは、キノコを作り出す地下の微生物のことです。こちらは、根の周りを菌糸が取り囲む様子をとらえた貴重な映像です(上写真)。菌糸は、根の内部にまで入り込み、一体化しながら土の中にびっしりと張り巡らされていきます。

植物は、窒素やリンなどの栄養を、根から得ています。しかし、根が栄養を取り込む能力は弱いため、実は大部分の栄養は、菌が土から吸収し、植物へと送り込んでいるのです。その代わりに植物は、光合成で得た養分を、菌へとおすそわけ。切っても切れない共生関係を築いているのです。

さらに…。

ジャスティン・カーストさん「菌糸は、少なくとも数十メートルは成長することが分かってきました。そして驚くことに、菌と菌はつながりあうことで、森中の木々をつないでいることが突き止められたのです」

なんと地下には、木と木をつなぐ菌糸の巨大なネットワークが存在していることが分かってきました。

イスラエルにあるワイツマン科学研究所のタミル・クラインさんは、そのネットワークに驚くべき働きがあることを発見しました。

クラインさんは、マツの木の両隣にカシの木を植え、分厚い黒布で覆って、光合成ができない状態にしました。

そして、地面の下に仕掛けを作りました。一方のカシの木は、マツとの間を細かな隙間のあるメッシュで仕切り、根は通さず菌糸は通るように設計。もう一方は、プラスチックの仕切りで完全に分離しました。そして、6か月間放置します。

半年も光合成をしなければ、当然枯れると思われました。黒布を外してみると…、プラスチックの仕切りをした方のカシの木は、完全に枯れていました(下写真)。

しかし、細かな隙間のあるメッシュで仕切った方は、元気に生きていたのです(下写真)。

なぜなのか。

注目したのは、マツが光合成で作った養分の流れです。特殊な二酸化炭素を吸わせて調べました。すると、養分は根に運ばれ、菌糸を通じてカシの木の根に送られていたことが分かりました。光合成で作った養分が、木から菌へ、菌から菌へと受け渡され、日の当たらない日陰の木へと送られるルートがあることが明らかになったのです。

植物生理生態学者 タミル・クラインさん「最初に結果を見たときは、何かの間違いではないかと心底驚きました。菌糸のネットワークは、光合成ができなくて今にも死にそうになっている木に、元気な木から炭素を送る働きをしていたのです。いわば“弱きを助けるネットワーク”が、存在している可能性があるのです」

こうした地下ネットワークの発見で、今、長年の科学の謎が解明されようとしています。

大きな木々の下で、日の当たらない小さな木はどうやって成長するのか?

巨木の森で新しく生まれた幼木は、そのままだと暗い日陰で、数十年、数百年もの間、耐え忍ばなければなりません。しかしその間、幼木は地下のネットワークを通して、生きるのに必要な養分を得ることができます。そうして暗い森の陰で、かよわき幼い命は、少しずつ成長を果たすことができるのです。

さらに、常緑樹と落葉樹の間でも、双方向に養分をやりとりしている実態が確かめられつつあります。夏は光合成が活発な落葉樹から近くの常緑樹へ。秋になると、今度は常緑樹から葉を失った落葉樹へ。まるで、お互いの厳しい季節を支え合うかのように、分かち合っている可能性があるのです。

タミル・クラインさん「私たちはこれまで、植物は、隣の植物と競い合って、光や栄養分の取り合いをしている、競争していると考えてきました。しかし、実際は、違ったのです。彼らは地下では、ネットワークを介して強い協力関係を築くことで、安定した生態系を作っていたのです」

森の地下に広がる、支え合いの世界。それこそが、地球を覆い尽くす“陸の王者”・植物が、大事に守り抜いてきた生き方だったのです。

堺さん「植物の生き方を知った途端、僕の中の常識が揺らいだんです。僕は、生きるって、競争だと思っていたんです。競争に勝ったものだけが、生き残る社会」

教授役 西田さん「実際の地球のしくみは、そうでもないかもしれませんよ。競争するより助け合った方が、命をつなぐことができる。今この地球上では、そういった生き物たちであふれかえっているんですよ。『超・進化論』。私はね、新たに分かったこの地球のルールを、そう呼んでいるんです」

<人間の営みが 植物の世界を変えてしまう>

世界各地の森に設置されている巨大な観測タワー。研究者たちは、森から放出される植物たちの“メッセージ”を伝える物質を、365日モニタリングしています。今、環境汚染によって、植物のコミュニケーションに異変が起きているといいます。

排ガスなどからできるオゾンには、植物が放出したメッセージを分解する働きがあります。肝心なメッセージが届かなくなると、周りの植物への警報がきかなくなったり、花粉を集めるハチを呼べなくなったりする可能性があるのです。

ジェームス・ブランドさん「植物たちの見えないコミュニケーションについて、私たちが環境汚染や気候変動によって何を破壊してしまっているのか、理解を深めることはとても重要です」

森の地下ネットワークの働きを明らかにしたジャスティン・カーストさんは、森林破壊が、地下のネットワークに甚大な影響を及ぼし、森の再生も難しくしているといいます。

ジャスティン・カーストさん「私たちの研究から、森林が大規模で枯れたり破壊されたりすると、これまで生態系に恩恵をもたらしていたはずの地下のネットワークが働かなくなって、若い木が育たなくなってしまうことが分かったのです。私たちは自然に対して、もっと謙虚であるべきです。人間と自然とは別々のものではなく、ひとつのはずです」

今、この瞬間も、世界中で森林は失われ続けています。失われていく森の広さは、毎週9万ヘクタールに及びます。

(第2集のまとめ記事はこちら)