フローズンプラネット~命かがやく氷の王国~

NHK
2023年1月16日 午後3:39 公開

(2023年1月1日の放送内容を基にしています)

氷と雪に支配された北極と南極、その極限環境に息づく生き物たちのドラマを、4年がかりで撮影した「フローズン・プラネット」。南極では海の王者・シャチの驚くほど巧妙な狩りの一部始終を、北極では体重が1トンもあるバイソンの群れとオオカミたちの壮絶な死闘を・・・そのほかにも貴重なシーンの数々を、高精細な映像で捉えました。そこで目撃したのは、いま地球上で最も急速に進んでいる気候変動の脅威です。神秘と感動にあふれた極上の映像旅行へ、さあ、出かけましょう!

<地球で最も寒い場所 南極の生き物たち>

純白の氷で覆われた、南極の海。

海の王者と言われるシャチは、数世代の家族が、10数頭の群れで暮らしています。5メートルほどもある巨体です。

シャチが、氷の隙間から頭を突き出しています。「スパイホップ」と呼ばれる行動で、氷の上にいる獲物を偵察しているのです。アザラシを見つけました。

突然の大きな波。その勢いで、氷の上のアザラシが海に投げ出されました。波を起こしたのは15歳ほどの若い2頭のシャチです。アザラシを氷の上から落とそうとしているのです。再び2頭が横に並び、タイミングをそろえて尾ビレで大きな波を立てます。またも海の中に投げ出されるアザラシ。必死に抵抗し、間一髪、氷の上に逃げました。

しかしシャチはあきらめません。今度は、家族総出で狩りに出ます。シャチは知能が高く、群れで協力して狩りをします。今度は4頭で並び、先ほどより大きい波を起こしました。激しく海へと押し流されるアザラシ。シャチに捉えられてしまいました。

この巧妙な狩りの成功率は、9割以上とも言われます。でも、一頭のアザラシだけでは、とても家族全員のおなかは満たされません。新たな獲物を求めて、再び偵察を始めます。

見つけました。

アザラシの乗る氷は、先ほどの何倍もの大きさです。さて、シャチはどうするつもりでしょう。

なんと、氷の下で波を起こし、大きな氷を小さく砕いてしまいました。そして協力して、氷を押し始めます。狩りがしやすい場所へ、移動させるようです。そこで再び大きな波を立て、アザラシを海へと落としました。

絶体絶命のアザラシ。シャチは、意外な方法でしとめにかかります。頭の上にある鼻の穴から泡を出し始めました。アザラシの視界を遮って混乱させ、体力を奪う作戦です。そして、ついに・・・。氷に覆われた海で磨き上げられた、シャチの驚くほど高度な知恵と技です。

命のドラマが繰り広げられるのは、海の中だけではありません。南極大陸から北へおよそ1500キロにある、サウスジョージア島。この島は、キングペンギンの一大生息地です。その数、実に100万羽。1年を通じて子育てが行われています。

子どもたちは食べ盛り。親は海で魚を捕ってきては、せっせと与えます。そしてまた、わが子のために海へと向かいます。海までは、一生懸命歩いて数時間。親たちの行列が1キロ以上も続きます。

ようやく海にたどりつきました。

ところが、突然ペンギンたちが、一斉に引き返し始めました。海の中から忍び寄る黒い影。ペンギンの天敵、ヒョウアザラシです。魚を捕りにくる親たちを狙って、待ち伏せしていたのです。

なんと、ヒョウアザラシが上陸してきました。アザラシだって、生きるための糧を得ようと必死です。ペンギンたちは、どう切り抜けるのでしょうか。

一瞬の隙をついて、キングペンギンたちが飛び出しました。群れで一斉に泳ぐことで、相手の狙いを分散させます。懸命に追うアザラシ。全力で逃げるペンギン。厳しい環境で生き抜くために、どの生き物も命がけです。

同じペンギンでも、こうした天敵を避け、海から遠く離れた場所で子育てをするものがいます。

季節は、冬。氷点下80℃にもなる極限の環境です。南極特有の突風が吹くなか、集団で身を寄せ合っているのは、体長1.2メートルほど、世界最大のペンギン、コウテイペンギンです。ヒナを天敵から遠ざけるため、あえて極寒の地で子育てをするのです。吹きつける風は、時に風速40メートルにもなります。ペンギンたちは、ぴったりくっついて体温を保ち、厳しい寒さをしのぎます。

そして迎えた春。生まれてから5か月で、ヒナは1メートルほどまで育ちます。このころ、親はわが子の元から離れていきます。実は、親が面倒を見るのはここまで。これから先は、自分たちの力で生きていかなければならないのです。食べ物がある海を目指して、ヒナたちの大冒険が始まります。

厚い氷で覆われた海の上を、よちよちと進みます。海までは、なんと50キロ。数か月にも及ぶ、長い旅路です。その道のりは、平坦ではありません。立ちはだかる氷の山には、くちばしを器用に使って登ります。こんな知恵を、自然と身につけているのです。

でも、一難去って、また一難。

氷の表面に、長い亀裂が走っています。幼い子どもたちにとっては、やっかいな溝です。溝に足を取られながら、なんとか乗り越えました。続いて現れたのは、もっと大きく口を開けた氷の割れ目です。割れ目が急に閉じて、押しつぶされるかもしれません。ヒナたちは、急いで渡りきろうと大慌てです。

氷の世界の大冒険。ついにヒナたちの目の前に、初めて見る広大な海が姿を現しました。先頭の1羽が、恐る恐るのぞき込みます。そして、海へとジャンプ。次々と仲間たちが、あとに続きます。もう怖がる様子はありません。食べ物を求めて泳ぎだします。

地球の最果て、南極。こんな過酷な環境でも、困難を乗り越えてたくましく生き抜く、命のドラマがあふれていました。

<もうひとつの氷の王国 北極の多様な生き物たち>

氷の王国をめぐる旅。次は南極から一気に地球の反対側へ向かいます。北極です。

南極は、海に囲まれた大陸で、その上に降り積もった雪が押し固められ、分厚い氷となっていました。一方の北極は、北緯66度以北のエリアを「北極圏」と呼び、その真ん中に広がる広大な海の水が凍って「海氷」となり、水に浮かんでいます。一体どんな生き物たちが暮らしているのでしょう。

北極圏に位置する、スバールバル諸島。海の表面を一面に覆う真っ白な氷の上に、「北極の王者」とも呼ばれる生き物がいます。ホッキョクグマです。

こちらは、6歳ほどのメス。春の日差しを受けて動き出しました。狩りに向かうようです。獲物の9割を占めるのが、アザラシです。といっても、水中を自在に泳ぐアザラシは、とても捕まえられません。狩りのチャンスは、アザラシが息継ぎをしに氷の隙間から顔を出すときです。

ホッキョクグマは、数十キロ先のにおいも嗅ぎとれるほどの優れた嗅覚の持ち主です。

氷の下のアザラシに気づいたようです。すごい勢いで頭から氷に突っ込み、一気に襲いかかります。体脂肪の多いアザラシは、極寒を生き抜くための重要なエネルギー源です。

そこへ、獲物のにおいを嗅ぎつけて、オスがやってきました。体格が勝るオスと戦うようなことがあれば、命に関わります。ところが、メスは逃げません。気の合うカップルみたい。仲良く追いかけっこをしています。若いメスが、まるでかくれんぼでもするように氷の下へ潜りました。アイススケートのように2頭で氷の上を滑る姿も。あどけなく戯れる北極の王者。めったに見ることができない光景です。

北極の海で暮らす生き物たちにとって、海に浮かぶ氷は大切な存在です。春、氷の上で、恋の駆け引きをするものがいます。ズキンアザラシです。大きく膨らむ不思議な鼻をもつのはオス。独特な音を立てながら、メスにアピールします。

恋の相手を探して海へと繰り出したオスが、さっそくメスを見つけました。すぐそばに生まれたばかりの子どもがいて、子育ての真っ最中です。オスは、このメスが気になってしかたがない様子ですが、メスにその気はありません。オスはあきらめて、別の相手を探します。

今度は2頭のメスを見つけました。しかし、近くにライバルのオスが。そこで勢い込んで氷の上にのし上がり、この邪魔な恋敵を海へ追い払いました。

今こそ、メスにアピールするチャンス!自慢の鼻を精いっぱい見せつけます。ところが、メスの反応はいまひとつ。あきらめないオスは、とっておきの技を繰り出します。なんと、鼻の奥にある真っ赤な皮膚を膨らませました。これこそ、とっておきのプロポーズ。これでもかと見せつけます。

しかし、メスの反応は・・・。あらら、オスを海に押しやります。お気に召さなかったようです。

恋も、子育ても、海に浮かぶ氷があればこそなんですね。

夏が近づくと、海の氷がとけ始めます。すると、氷の中に閉じ込められていた藻類が、海に放出されます。この藻類を食べるプランクトンが大増殖。さらに、それを食べる生き物たちが次々と集まってきて、北極の海は命の楽園に変わります。

この豊かな海を目指してやってくる巨大な生き物が、全長18メートル、重さ100トンにもなるホッキョククジラです。口の内側にびっしりとあるヒゲで、プランクトンをこしとって食べます。

そのホッキョククジラたちの驚くような光景に出会いました。ふだんは沖合にいるクジラたちが、岸辺に集まっています。体が水の底につくほどの浅瀬です。1頭のクジラが、大きな岩に体をこすりつけました。次々とほかのクジラたちも集まってきます。実は、岩で体をこすって、古い皮膚などをそぎ落としているのです。ここは、クジラたちの“エステサロン”のような場所みたいです。

調査の結果、中には推定年齢が200歳を超えるご長寿クジラもいることが分かりました。こんな大集結が撮影されたのは、世界で初めて。北極の豊かさを物語るスペクタクルです。

一方、北極海を取り巻く陸地には、まるで違う生き物たちの世界があります。カナダの北部に広がるツンドラ地帯。樹木が全く生えない、いてついた荒野です。暗闇に閉ざされる冬は、気温が氷点下50℃まで下がります。

この極限の環境で生き抜いているのが、ホッキョクギツネです。保温効果に優れた毛のおかげで、氷点下70℃の寒さにも耐えられるといいます。

獲物を求めて、ホッキョクギツネが動き出しました。果てしなく広い雪の平原。時に3000キロ以上も移動します。何かを探すような歩き方・・・獲物のにおいを感じ取ったようです。雪の下には、ネズミの仲間・レミングがいます。レミングは、雪の中に長さ15メートルもの巣穴を掘って暮らしています。ホッキョクギツネは、レミングが立てるかすかな音を頼りに、獲物の位置を絞り込んでいきます。そしてなんと、高くジャンプして鼻から雪面にダイブ!これがホッキョクギツネの得意技です。何度も繰り返し、徐々にレミングを追いつめ、とうとう捕まえました。広大な純白の世界で生きる、孤高のハンターです。

厳しい極北の地には、群れの絆を武器に生き抜くものもいます。カナダ北部に暮らす、シンリンオオカミです。25頭で構成されるこの群れは、シンリンオオカミでは最大規模です。時に数百キロも移動しながら、協力して獲物を狩ります。

オオカミの群れのリーダーが、獲物の足跡を見つけました。北米最大の哺乳類、アメリカバイソンです。体重はおよそ1トン。こちらも群れでかたまり、鉄壁の防御を見せます。

集団で襲いかかるオオカミ。群れを分散させるのが狙いです。最後尾のバイソンにかみついて、交代で引きはがしにかかります。しかし、バイソンも後ろ足で激しく応戦します。

追跡を始めて、8時間。バイソンの群れが、ようやく足を止めました。オオカミたち全員で、群れを取り囲みます。そのときです。2頭のバイソンが、群れから飛び出しました。これを待っていたオオカミ。すぐに追いかけます。

リーダーのメスが、バイソンにかみつきました。力を合わせて大物をしとめます。

氷と雪に閉ざされた北極。海も、陸も、想像を超える多様な命のかがやきに満ちていました。

<命あふれる氷の王国に 気候変動の脅威が迫る>

さまざまな生き物たちが暮らす、南極と北極。それにしてもなぜ、わざわざ寒さが厳しい場所を選んで生きているのでしょうか。

実は北極も南極も、そこで暮らす生き物たちにとって良いことがいろいろあるのです。まず、極地は季節の変化が大きく、夏は比較的暖かく日光が差し込むため、プランクトンなどが大発生して海の中は食べ物が豊富になります。一方、冬は寒さが厳しいですが、そのおかげで生息できる動物が限られるため、天敵が少ないというメリットがあります。また、有害な寄生虫や蚊なども少ない環境です。厳しい寒さに適応してさえいれば、暮らしやすい面もあるのです。

しかし、生き物たちにとって大事なその極地の環境が、いま急速に変わりつつあります。氷の世界で、大変なことが起きているのです。

北極圏にある世界最大の島、グリーンランド。島の面積の実に8割が氷に覆われ、その量は北半球最大です。その氷がいま、急速にとけ続けています。2019年には、観測史上最多、5000億トンを超える氷がとけ、その後も予想外のペースで氷が失われています。

30年以上、氷河の研究をしてきたノルウェー北極大学のアラン・ハバード博士は、かつてない異変の実態解明に挑んでいます。注目しているのが、近年北極圏で起きている、夏の極端な気温上昇です。

アラン・ハバード博士「2010年に、ここに気象観測所を設置しました。最も高い気温が観測されたのは、2日前です。22.37℃でした。夏のグリーンランドとしては、とても高い気温です」(2019年7月31日撮影)

調査を進めたハバードさんは、驚くべき光景を目撃しました。厚さ1500メートルに達する巨大な氷の平原を進んでいくと・・・氷からとけだした水が集まり、激流と化していたのです。

アラン・ハバード博士「恐ろしいほどの水量の多さです」

水が流れる先をたどっていくと、思わぬものが姿を現しました。大量の水が氷をうがってできた、巨大な縦穴です。「ムーラン」と呼ばれています。

アラン・ハバード博士「ここから水が流れ込み、氷の中の穴がどんどん広げられているのです」

夏場、島全体におよそ1万個ものムーランができるといいます。水が枯れたムーランを見つけて、中に入ってみました。

アラン・ハバード博士「大量の水が移動する音が聞こえます。氷の内部に水が入り込み、複雑な流れを生んでいるようです」

大量の水が、氷河の内部にたくさんの穴を開けて、氷河全体をもろくしていることが分かったのです。そうして、もろくなった氷河はどうなるのでしょうか。

氷河の内部に入り込んだ水は、氷を滑りやすくさせ、1日に20メートル以上というスピードで、氷河全体を動かしています。動き続けた氷河は、最後は海に押し出され、海水にとけていきます。すると、海水面が上昇。その影響は、極地から遠く離れた世界の各地にまでおよび、沿岸の都市などに深刻な浸水被害を及ぼす恐れがあるのです。

アラン・ハバード博士「グリーンランドの氷は、世界の海面を7メートル以上、上昇させるほどの量です。もしそれがとければ、人類にとって大災害です」

急速に進む、北極の氷の減少。それは、生き物たちの暮らしも一変させています。とくに影響を受けているのが、一生のほとんどを海の氷の上で過ごすホッキョクグマです。夏場の北極海の氷が大きく減ったため、足場を求めて、陸地へ泳ぎ渡らなければならなくなったのです。果てしなく広い北極の海を、600キロ以上泳いでいかなければならないこともあるといいます。

海をさすらい、クマたちが集まってくる場所があります。ウランゲル島です。島に泳ぎ着くクマの数は、年々増加。今や3000頭以上にも上り、異常な過密状態となっています。そこで起きているのが、限られた食べ物の奪い合いです。1頭がセイウチの肉をあさっていると、おなかをすかせた他のクマたちも続々と集まってきて、争いが始まりました。

クマたちの深刻な食糧不足は、思わぬ騒動も引き起こしています。

2019年、ロシア北部の沿岸の町に、50頭ものホッキョクグマが食べ物を求めて押し寄せたのです。住宅地への侵入が相次ぎ、町は緊急事態に陥りました。さらに、海から400キロ以上離れた街中にまで、ホッキョクグマが現れました。

極地科学センター エリック・レゲール博士「氷が減ったことで、ホッキョクグマの行動が変化しています。これまでの生息場所とは全く違うところに、出没するようになっているのです。しかしそこには、主食であるアザラシはいません」

急速な気候変動は、氷とともに、多くの生き物たちの未来をも消し去りつつあるのです。

かつてない異変は、南極でも起きています。南極大陸の西にある南極半島。かつてここには、南極半島で最大規模のアデリーペンギンの生息地がありました。40年にわたり、アデリーペンギンを研究してきたポーラル  オーシャン・リサーチグループのビル・フレイザー博士は、近年、環境が大きく変わったと言います。

ビル・フレイザー博士「40年前、この地域には2万羽のペンギンがいました。現在は、繁殖を行っているつがいが400組ほど確認されているだけです」

フレイザーさんが問題視しているのが、気候変動の影響とみられる「雨の増加」です。特にペンギンの生息地がある南極半島の沿岸部では、年々雨の降る量が増えています。ヒナの羽毛は大人と違い、まだ水をはじくことができません。雨水が体の芯まで浸透し、ヒナの体温が奪われてしまうと、フレイザーさんは考えています。体が冷えると素早く動けず、天敵から逃げ切れなくなる恐れもあります。

ビル・フレイザー博士「ずぶぬれのヒナたちは、捕食者に狙われたとき、うまく身を守れません。こんな環境でヒナたちが生き延びるのは難しいでしょう。悲しいことです」

国立極地研究所 渡辺佑基准教授「温暖化の影響が強く出ているのは北極の方で、氷がどんどん減っています。こうなると影響が出るのが、まずホッキョクグマで、なかなか獲物を捕ることができなくなります。ここ数十年間でホッキョクグマの体重が2割ぐらい減少したという報告もあります。もうひとつ、氷には大事な役割があります。氷は、太陽の光を反射する役割があるのですが、氷が減少すると太陽光が反射されず、太陽の熱が海に吸収され、海水が温まります。温められた海水が、さらに氷をとかすという悪循環が起きていると考えられています。

気候変動の影響がいちばん見えやすい形で現れるのが極地です。氷のあるなしというのは環境にものすごい影響を与えます。だから極地の生態を研究することで、いま地球に何が起きているのかを把握する。しかもその大きな変化の大部分は、人間活動の影響によるものだということを、ふだんの生活の中で、常に頭においておくことが大事かと思います」

<美しくもはかない氷の王国で 受け継がれる命>

急速に変化し、失われつつある、美しくもはかない氷の世界。生き物たちは今日も、厳しい寒さの中で命をつないでいます。北極海の氷の上にいるのは、タテゴトアザラシの赤ちゃん。生まれて、まだ1週間ほどです。

母親がやってきました。親と子が一緒に過ごすのは、わずか2週間ほどと言われています。赤ちゃんはその間に、氷の海で生きるすべを学ばなければなりません。母親は海へ入り、赤ちゃんを泳ぎの練習に誘います。赤ちゃんはまだ、たどたどしい泳ぎ方。それでも一生懸命、水をかきます。幼いわが子の体が冷たい海水で冷えきってしまわぬよう、母親はこまめに休憩を取らせます。

日に日に体が大きくなる赤ちゃん。泳ぎの練習時間もだんだん長くなります。生まれてからおよそ2週間。赤ちゃんは、すっかり泳ぎも上達しました。

一方の母親は、母乳を与え続けて、体重が20キロ以上も減りました。自分に栄養をつけるため、母親は海へ泳ぎ出します。実はもう、母親がこの場所に戻ってくることはありません。これから先、子どもは一人で生きていかなければならないのです。

親から子へ。いてつく地球の最果てで、受け継がれる命。きっとこの子も、氷の世界でたくましく生きていくことでしょう。