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タモリ×山中伸弥 超人たちの人体 〜アスリート 限界への挑戦〜(前編)

NHK
2021年7月23日 午後4:32 公開

番組のエッセンスを5分の動画でお届けします

タモリさん

「今回のテーマはなんでしょう」

山中伸弥さん

「きょうのテーマはズバリ『超人たちの人体』。オリンピック・パラリンピックで歴史を塗り替えると期待されているトップアスリート。その驚異の肉体に最新科学で徹底的に迫りたいと思います。」

東京に世界の超人たちがやってくる。現役最強スイマー、ケレブ・ドレセル。常識破りの無呼吸泳法で驚異の世界記録をたたき出した水の怪物。人類史上初!マラソンで2時間切りをねらう絶対王者エリウド・キプチョゲ。トラックの格闘技、車椅子レース。5つの金メダル獲得を目指す野獣 タチアナ・マクファーデン。人間の歴史を超えていく超人アスリートたち。東京で歴史を塗り替えると期待されるこの3超人に番組は、独占密着!最先端の科学で、誰も暴けなかったその強さの秘密に徹底的に迫る。浮かび上がるのは、限界を超えてどこまでも進化する肉体の知られざる姿。超人たちに宿る神秘の世界をご覧いただきましょう。

(2021年7月19日の放送内容を基にしています)

<最新映像技術 シネマチック・レンダリングとは?>

東京オリンピック・パラリンピックで、新たな歴史を作ると期待される超人アスリートの人体を、さまざまな方法で科学的に探る。その強力な武器となるのが最新の映像技術「シネマチックレンダリング」です。その凄さをご覧いただくためにご協力いただいたのは、人類最速の男、ウサイン・ボルト選手です。オリンピック3大会連続の金メダル。いまだ破られぬ陸上100mの世界記録9秒58。その速さの秘密はどこに隠されているのでしょうか。

MRIで、全身を1.5ミリ刻み、2万5000枚以上の画像を撮影。膨大なデータをもとに、ボルト選手の「3DBODY」を構築していきます。

世界で初めて、立体的に浮かび上がったボルトの筋肉の全貌。世界記録を叩き出した巨大な太ももの筋肉が見えてきました。

走るために欠かせないのがお尻の筋肉、大殿筋(だいでんきん)。太ももの横にある外側広筋(がいそくこうきん)も大きく発達していることがわかります。研究者が最も注目したのは意外な場所でした。それは足の裏です。

長年トラックを蹴り続けたボルトの足の裏は驚くほど平ら。いわゆる「扁平足(へんぺいそく)」のようにも見えますが、その内部には見事な骨のアーチ。

土踏まずの部分には分厚い筋肉。なんと骨の下にまでびっしりと筋肉が詰まっていることがわかりました。

この細部まで鍛え上げられた筋肉が世界最速の推進力を支えていたことが、「3D BODY」によって明らかになりました。

<水泳界の超人 ケレブ・ドレセル 驚異の無呼吸泳法に迫る>

今回まず注目する超人が、水泳界の新星、アメリカ代表・ケレブ・ドレセル選手です。

バタフライ100mで、2009年に立て続けに世界記録を更新したのが、水の怪物と呼ばれたフェルプス選手です。この記録は、水の抵抗を少なくする高速水着を着用して出されたもの。2010年に高速水着が禁止されたことで、このフェルプス選手の記録は破れないとまで言われていました。ところが、2019年の世界選手権で、それを一気に0.32秒も縮めて10年ぶりに記録を更新したのがドレセル選手です。

ドレセルの泳ぎが衝撃を与えたのは、高速水着を着たフェルプスの記録を破ったからだけではありません。その泳ぎのスタイルが前代未聞のものだったのです。

疲れの出るレース最終盤、残り15メートル。他の選手の息継ぎの回数は平均5回。ところがドレセルは、顔を水につけたまま一度も息継ぎをせず泳ぎ切りました。この無呼吸泳法こそがドレセルの秘策です。

息継ぎをした場合としない場合で、頭の位置は大きく変わります。その結果、無呼吸泳法では、水しぶきの広がりが抑えられます。この荒技が水の抵抗を少なくし、疲れの出るレース終盤で、スピードを得ることを可能にしたのです。

ヘッドコーチ グレッグ・トロイさん

「レース終盤の無呼吸泳法は、必ず大きな武器になると思いました。もちろん簡単なことではありません。他の選手も挑戦しましたが、成功したのはドレセルだけです」

これまで誰も成し遂げたことのない無呼吸泳法。一体なぜ可能なのか。ドレセルの体内に隠された秘密をシネマチックレンダリングで徹底的に探ります。

MRI画像データをもとに、ドレセルの「3D BODY」を構築。「水の怪物」その体内が見えてきました。    

肋骨に囲まれた大きな空間。ここが肺です。

今度は上から。枝状に見えるのは気管支。酸素と二酸化炭素を肺から出し入れする通り道です。

ピンクの薄い膜は横隔膜。呼吸を司る筋肉、呼吸筋です。息を吸おうとすると、横隔膜が動き肋骨を広げます。すると肺が膨らみ酸素が体内に入ってきます。この肺の容量・肺活量に、無呼吸泳法を可能にする秘密があるのでしょうか。

ドレセルの肺活量は、およそ8500mL。国際クラスの水泳選手の平均を大きく上回る数値ですが、トップ選手としては飛び抜けたものではないといいます。だとすれば、無呼吸泳法を実現するための鍵は、この体のどこに潜んでいるのでしょうか。

そのヒントは、今回特別に撮影が許されたあるトレーニングに隠されていました。通称「ソックス」と呼ばれる練習。足にネットをつけ負荷をかけ息継ぎなしで25mを泳ぎます。

休憩時間は、たったの15秒。すぐにまた折り返しです。25mを16セット。最後まで耐えられるのはドレセルだけです。

競泳 アメリカ代表 ケレブ・ドレセル

「無呼吸で25mを繰り返し泳ぐのは、めちゃくちゃきついです。この練習を1時間、ひたすら続けるのです」

このトレーニングで、ドレセルの体のある筋肉が鍛え上げられている。そう、指摘する研究者がいました。

ルーアン大学 運動生理学 フレデリック・ルメートルさん

「ソックス練習ほど負荷の高いトレーニングに耐えるためには、短い休憩時間にたくさんの酸素を素早く体内に取り入れなければなりません。そのためには横隔膜だけでは不十分です。酸素をより効率的に取り込むためには『胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)』を使う必要があります」

「胸鎖乳突筋」とは、一体どんな筋肉なのか。首の横についている筋肉が「胸鎖乳突筋」です。胸鎖乳突筋を使って、胸骨と鎖骨を持ち上げると肺が一気に広がるため、瞬間的にたくさんの酸素を取り入れることができます。

ドレセルの胸鎖乳突筋はどれほど発達しているのか。ボリュームを測ってみると、青のチームメイトのものと比べて、1.5倍もの大きさでした。

ルーアン大学 運動生理学 フレデリック・ルメートルさん

「彼の胸鎖乳突筋が大きく成長しているのは非常に興味深いです。息継ぎの際、より効率的に酸素を取り込み、無呼吸泳法に役立つのは間違いありません」

競泳 アメリカ代表 ケレブ・ドレセル

「泳ぐことは自分の肉体との勝負です。世界記録も完璧じゃない。改善できることが必ずあります。あと百分の一秒速くなれるはずだと常に思い続けていきたい。あの世界記録は、私が築き上げていく道の踏み石の一つにすぎないのです」

福岡さん「首のトレーニングは継続してやっていました。まさか呼吸に首の筋肉を使うとは。科学の技術を使わないとなかなか気づけなかった」      

<エリウド・キプチョゲ 人類史上初!マラソン2時間切りに挑む>

次に注目するのはマラソン。どうすれば2時間の壁を破り限界に迫れるのか。生命科学が進展した今、筋肉だけでなく臓器の働きを科学の力で知り、限界を突破しようという挑戦が始まっています。

42.195kmを走りぬくマラソンが始まったのは、今から100年前。最初の記録は2時間55分でした。世界中のランナーたちがその記録を少しずつ塗り替え、1999年には2時間5分台に突入。人類は2時間切りを射程にとらえました。そして今、ある国がマラソン界を席けんしています。

マラソン最強王国、ケニア。ここ数年、ケニア人ランナーが次々と記録を更新しているのです。ケニアの中で、絶対的な強さを誇るのが、現在、世界記録を保持しているエリウド・キプチョゲです。

2018年のベルリンマラソン。叩き出したのは2時間1分39秒。それまでの世界記録を一気に1分以上縮めました。圧巻だったのは終盤のペースです。

ベルリンマラソンで、2位以下の選手たちは30kmを過ぎてからガクンとペースを落としていました。これは、いわゆる30kmの壁。筋肉に蓄えられたエネルギー源、糖質が不足するタイミングです。ところがキプチョゲの場合、その30kmの壁を乗り越え、さらにペースを上げていたのです。

マラソン ケニア代表 エリウド・キプチョゲ

「人間に限界はない。私はいつもそう言っています。良い記録を出すためには自分を徹底的に追い込まなくてはなりません」

30kmの壁を突破するキプチョゲの走りの秘密はどこにあるのか。これまで、科学者たちはトップランナーの強さは、心肺機能の高さやエネルギー効率の良いフォームにあると考えてきました。ところが、今、最新の研究から、ケニア人ランナーの強さを生み出す全く別の可能性が浮かびあがってきました。それは"腸トレーニング"です。

一体どういうことなのか?食生活にその秘密は隠されています。

マラソン ケニア代表 エリウド・キプチョゲ

「朝食はパンです。砂糖をたくさん入れたチャイも欠かせません。お昼には、じゃがいもと豆を添えたご飯を食べます。夕方には、おかゆ。また砂糖をたくさん入れたチャイを飲みます」

そして、毎晩必ず食べるのが、このウガリ。トウモロコシの粉を練って蒸したケニアの伝統食です。

マラソン ケニア代表 エリウド・キプチョゲ

「夕食はウガリが欠かせません。ウガリは糖質がとても豊富なケニアの伝統食です」

世界のトップランナーの食生活を比較した研究によると、ケニア以外の国では1日に摂取するカロリーのおよそ半分を糖質で摂っています。ところが、ケニアのランナーは、実にカロリーの8割近くを糖質から摂取していることがわかりました。

スポーツ栄養学が専門のユーケンドルップさんは、このケニア人ランナーの高糖質食が腸に作用することで、マラソンの強さを生み出すと考えています。

ラフバラー大学 スポーツ栄養学 アスカー・ユーケンドルップさん

「キプチョゲの食事は、まさに『腸トレーニング』です。高糖質食をとり続けることで腸に変化が起こると、糖質を吸収する能力が上がります」

腸の変化とは一体なにか。腸の内部を見てみましょう。エネルギーを吸収する絨毛(じゅうもう)が見えます。

表面を詳しく見てみると、糖質の取込み口「トランスポーター」が現れました。大きさは1万分の1ミリ以下。このトランスポーターが糖質を吸収し筋肉へと送りこむことで、走るためのエネルギーが生まれます。

驚くべきことに、高糖質食を食べ続けることで、ケニア人ランナーの腸では、このトランスポーターの数が増え、糖質の吸収力が高まっている可能性があるというのです。

ラフバラー大学 スポーツ栄養学 アスカー・ユーケンドルップさん

「トランスポーターの数が多いと、レース中に補給するドリンクから糖質を効率よく吸収できます。そのおかげで、最後までスピードを維持することができるのです」

2019年10月、ウィーン。ここで、キプチョゲは人類の限界を超えようという挑戦に臨もうとしていました。史上初めてのフルマラソン2時間切りを目指そうというのです。

ペースメーカーは入れ替わり、キプチョゲただ一人が記録に挑みます。平坦で直線が長くスピードの出やすいコースを用意した非公式レースです。

このレースで、キプチョゲは糖質を最大限に摂取し、エネルギー効率を高めるためのある方法を用意していました。

手渡されたのは、最近開発され世界中の選手の間で急速に使用が広がっている新型の高糖質ドリンクです。

腸の入口にある十二指腸には、糖質の量を監視しているセンサーがあります。糖質が一定の量を超えると、その手前にある胃で変化が起こります。元々、活発だった胃の動きが、小さくゆっくりになり、糖質を腸に送りにくくなってしまうのです。大量の糖質によって腸で下痢などが起こるのを防ぐための仕組みです。

ところが、新型ドリンクが胃に辿り着くと、糖質が何かに包み込まれます。ドリンクの中に含まれる特殊な成分が胃酸に触れることでゲル化する仕組みです。

ゲル状になったドリンクは、十二指腸のセンサーを突破。そして腸まで運ばれるとゲルは溶け出し、大量の糖質を吸い込めるというのです。

キプチョゲは、世界記録を出したレースよりも1分半以上早い超ハイペースで、30km地点を通過。高糖質ドリンクでエネルギーを補給しながら、全くペースを落とさずに走り続けます。

マラソン ケニア代表 エリウド・キプチョゲ

「水分補給するたびに糖質を大量に摂取できたので最後まで自分を追い込みきれると思いました」

40km地点を越えて、さらにペースを上げていきます。

タイムは1時間59分40秒。非公式ながら人類史上初めて、マラソン2時間切りを達成した瞬間でした。

マラソン ケニア代表 エリウド・キプチョゲ

「今回の結果は、私だけではなく世界中の全てのアスリートが『不可能はない』ということを知るきっかけになります。近いうちに、他にも2時間切りを達成する選手が出てくるでしょう。私にできたのです。人間に不可能なことはありません」

 <パラ陸上の女王 タチアナ・マクファーデン 諦めない脳のヒミツとは?>

タモリさん「金メダル取るような選手って才能と努力、何%ずつぐらいだと思いますか」

山中さん「もちろん才能も努力も両方大切ですけども、間違いなく言えることは、超人的な努力を長期間ずっと続ける。そういう才能がある人たちだと本当に思います」

杉浦アナウンサー「ここからはトップアスリートの“意志の力”、その秘密に脳科学で迫っていきます。注目するのは、パラリンピック陸上の女王、アメリカ代表のタチアナ・マクファーデン選手です」

杉浦アナウンサー「マクファーデン選手は下半身まひの陸上選手。彼女が女王と言われるゆえんは、前回リオでは車いすのクラスで短距離の100mからマラソンまですべての距離に出場し、なんと、金メダル4つ、銀メダル2つを獲得しているんです。東京パラリンピックでも短距離から長距離まで、金メダルラッシュが期待されています」

陸上トラックの格闘技とも呼ばれる車いすレース。最高時速は、およそ40キロ。百分の一秒を接近戦で争います。

その女王として活躍を続けているのが、タチアナ・マクファーデンです。彼女の武器は、見事に鍛え抜かれたこの上半身の筋肉。瞬発力を必要とする短距離で爆発的なスピードを生み出します。

しかし持久力が求められるマラソンでは筋肉の重さが負担になります。それでも、東京で、マラソンまで含め5つの金メダルを目指すマクファーデン。それを支えるのは驚くべき精神力です。自らの限界に挑んでいく、彼女の凄みをまずは実験でご覧いただきましょう。

およそ時速40キロのトップスピードを保ったまま、どれだけ長くこぎ続けられるか計測します。

この時ポイントになるのは心拍数です。心拍数が170を超えると、体が酸欠状態に陥る可能性があります。アメリカ、マラソン代表のチームメイトの場合、心拍数170になってから18分間でギブアップ。マクファーデンは、どこまで自分を追い込めるか。結果は、28分間。チームメイトの18分間を大きく上回りました。

ボローニャ大学 運動生理学 サミュエル・マルコーラさん

「トップ選手の特別な能力の一つは、生理的限界ぎりぎりまで自分の肉体を追い込める力です。私たちが『もう限界だ』といって運動をやめた時でも、体にはまだエネルギーが残っています。脳がストップをかけているんです」

なぜマクファーデンは常識を遙かに超えて自らを追い込むことができるのか。そのカギを握る「脳の姿」をシネマチックレンダリングで探っていきます。

MRI画像1200枚をもとに「3D BODY」で頭部を構築。頭蓋骨に覆われたその全貌が現れてきました。

これがマクファーデンの脳です。車いすをこぐ実験中に、心拍数をモニタリングしていたのは、脳の一番奥にある脳幹です。生命維持のために、体の状態を監視する働きがあります。

心拍数が上昇し生理的限界に近づいた時、脳幹は体を守るため「動くのをやめろ!」と筋肉に対して指令を出します。

それにもかかわらず、マクファーデンがこぎ続けたのはなぜか。今回の分析で、マクファーデンの脳に大きく成長している場所があることがわかりました。それは第一次運動野と補足運動野という場所。一般の人に比べて、1.4倍大きいことが明らかになったのです。

ここにも筋肉に指令を出す働きがあります。特に自らの「意志」に基づいて体を動かそうとする時、筋肉に「動け!」と指令を出すのだといいます。

NICT脳情報通信融合研究センター 脳科学 内藤栄一さん

「人が意志の力で行動を始める時に働く重要な場所です。車椅子を一生懸命こごうとするトレーニング、それにはかなり意志の力が必要です。そういうことを毎日集中的に、長い期間にわたって行うことが、この領域の拡大につながると考えられます」

もう一つ、マクファーデンの脳の別の部分に注目して分析を行っている研究者がいます。脳神経学者のトマス・パウスさんが重視するのは前頭前野という場所。

ここからの指令の一部も第一次運動野に伝わり筋肉を動かします。脳幹が「生命維持」のための領域なら、前頭前野は「思考」の中枢。まさに意志を生み出す場所です。マクファーデンがこぎ続けたのは、脳幹からの指令を前頭前野からの意志にもとづく指令が、上回ったからだとパウスさんは考えています。

モントリオール大学 脳神経学 トマス・パウスさん

「痛みや辛さ、疲労にあらがってでも行動を起こすためには、強い意志の力が必要です。そういう時に前頭前野からの指令ルートが活発に働くのです」

マクファーデンの前頭前野が活性化する際にトリガーとなる、ある一つの言葉があります。

陸上 アメリカ代表 タチアナ・マクファーデン

「私は子供のころから、『ヤ・サマ!(Ya sama!)』という言葉を何かにつけ、口にしていたそうです」

「ヤ・サマ!」。それはロシア語で「私にはできる」という意味。マクファーデンが生まれたのは旧ソビエトです。六歳で養女としてアメリカに渡るまで、孤児院で育ちました。

陸上 アメリカ代表 タチアナ・マクファーデン

私が育った孤児院には車いすがありませんでした。だから移動をしたい時には手で体をひきずって動くしかありませんでした」

なんとかして自由に動きたい。マクファーデンは思い切った行動に出ました。逆立ちです。

陸上 アメリカ代表 タチアナ・マクファーデン

「孤児院ではただ待っていても何も与えられない。自立しなければ生きていけませんでした。逆立ち歩きだったら、他の子と同じように速く動けるし、狭い場所にも行ける、階段だって上れるようになりました」

モントリオール大学 脳神経学 トマス・パウスさん

「『ヤ・サマ!』という言葉は逆立ちに限らず、その後も、様々な状況で繰り返し使われるキーワードになっていきます。例えば過酷な実験中に『ヤ・サマ!』と思えば、前頭前野は『私にはできる』という判断をして、『こぎ続けよ!』と筋肉に指令を出し続けるのです」

「ヤ・サマ!私にはできる」という言葉とともに、マクファーデンの前頭前野に深く刻み込まれた数々の成功体験。それが自らを限界ぎりぎりにまで追い込んでいく、彼女の大きな力となっています。

陸上 アメリカ代表 タチアナ・マクファーデン

「パラリンピックでは、短距離からマラソンまでメダルを目指します。それが、今の目標です。私の人生は、子供のころからたくさんの壁の連続でした。そのたびにどうやったら乗り越えられるかをずっと試されてきました。時にはいくら努力してもうまくいかないこともあります。それでもあきらめずに生き抜いてきたことに、私は誇りを持っています」

タモリさん「言葉ないですね。すごいですね。この『ヤ・サマ!』っていうのは、呪文のようなものなんですかね。意志の力が必要な時の言葉なんでしょうね。」

吉田さん「私も自分に『ここに何しに来たんだ』『勝つために来たんだ』っていうふうに言い聞かせていた。最後、自分自身に負けないように強い気持ちを持ってマットに上がってたので、共通するものがすごくあった」

(後編へ)