見過ごされた耐震化 ~阪神・淡路大震災 建物からどう命を守るか~

NHK
2022年1月25日 午後6:51 公開

(2022年1月17日の放送内容を基にしています)

27年前の1995年1月17日に起きた、阪神・淡路大震災。

これまで、ほとんど顧みられてこなかった被害がありました。ビルの倒壊で、命が失われる現実です。

あの日、オフィスや飲食店が入るビルが次々と倒壊。被災地で、およそ4400棟が被害を受けました。しかし、その教訓は見過ごされてきました。

実は、全国にあるビルの中には、倒壊のリスクがどの程度あるのか、わかっていない建物が数多くあるのです。さらに、これまで全国で重点的に耐震化が進められてきた住宅でも、新たなリスクが指摘されています。スーパーコンピューターを使った最新の分析から、今の耐震基準を満たしていても、倒壊の危険があることがわかったのです。

巨大地震に直面したとき、あなたがいるその建物は、命を守ることができるのか。

あの日から27年。見過ごされてきた、耐震化の現実です。

武田アナ「6434人の命が失われた阪神・淡路大震災から、27年。先日のトンガの大規模噴火など、自然災害は今も各地で相次いでいます。そうした自然の脅威から何を学び、どう命を守っていくのか。現代に生きる私たちに突きつけたのが、阪神・淡路大震災ですが、実はこれまで見過ごされてきた教訓がありました。あの震災で初めて顕在化したビルの被害です。現在、商業ビルやオフィスビル、倉庫など、住宅以外の建物は、全国に少なくとも450万棟以上あります。そのうち、1981年以前の古い基準で建てられた建物は耐震診断を求められていますが、その結果の公表が義務づけられているのは、学校や病院などおよそ1万6000棟にとどまっています。実は、多くの建物がどれくらい地震の揺れに耐えられるのか、その耐震性はわかっていないんです」

武田アナ「職場や飲食店、商店などが入り、ふだん私たちが利用するビル。そこが大地震に襲われたら。27年前に何があったのか被害の実態に迫りました」

<命が奪われる ビル崩壊の脅威>

見過ごされてきた、ビル崩壊の脅威。その現実に直面した人がいます。

神戸市に住む犬飼好子さんは、夫の隆さんを震災で亡くしました。27年前、隆さんが働いていた場所の映像が残されていました。3階建てのビルの1階で、駐車場の受付をしていた隆さん。地震で1階部分が崩壊し、下敷きになりました。

犬飼さんは救助を待ちながら、側で見守るしかありませんでした。隆さんと対面したのは、5日後。遺体の損傷が大きく、顔を見ることは止められました。

ビルの崩壊で奪われた夫の命。犬飼さんは、今もビルが立ち並ぶ場所には足が向かないといいます。

犬飼さん「大きな建物、今でも怖いですね。街の中にいくのが。ビルというのが本当に怖いです」

これまで、ほとんど顧みられてこなかったビルの被害。取材を進めると、その実態が見えてきました。神戸市の中心部で、ビルを所有する家族が当時の様子を撮影していました。

一階部分が崩壊したビル。

このビルは根元が折れ、他の建物に倒れかかっています。ビルの倒壊は、建物のそばを通りかかった人の命まで奪っていました。

<震災で浮かび上がった 旧耐震ビルの構造的リスク>

阪神・淡路大震災は、旧耐震基準で建てられたビルの構造的なリスクも明らかにしました。

ビルで中華料理店を営む店主です。当時、昼時には、500人を超える客が訪れる店でした。

店主・戎谷昌樹さん「4階に向けて5階が下がってきたという感じなんですかね。まるっきりフロアがなくなってしまっていた状態だったんじゃないですかね」

崩壊したのは、11階建てのビルの4階部分。“中間層崩壊”という現象が起きていました。銀行や旅行会社、不特定多数の人が出入りするビルなど、20棟以上の被害が確認されています。

庁舎の6階で中間崩壊が起きた神戸市役所。当時、警備員を務めていた男性は、庁舎の中にいました。

神戸市役所警備員・中川匠さん「まさかこの市役所というビルが壊れるとは、夢にも思わなかったですね。ロッカーとかデスクとかも外に飛び出てましたんでね」

フロアが押しつぶされ、清掃員ひとりが亡くなった6階。日中には、そこで200人以上が働いていました。

なぜ、中間層崩壊が相次いだのか。建物の構造に詳しい福山洋さんが、市役所の設計図をもとに分析した、中間層崩壊のメカニズムです。中間層崩壊が起きた6階では、5階と比べ壁が薄く、柱は細くなっている箇所がありました。さらに、5階の途中からは、鉄骨がない構造に変わっています。

旧耐震基準の建物では、上層階になるほど揺れが大きくなるという、今では前提とされている特性が、十分に加味されていませんでした。当時は、工期の短縮やコストの軽減につながるこうした工法が一般的に行われていたのです。

国立研究開発法人 建築研究所理事・福山洋さん「人が存在できる空間がなくなる。阪神・淡路大震災で起きたことは、それと同じ建物が残っていれば、それは再現されてしまいます。これが昼間に起きていたら、人がそこにたくさんいるときに起きていたら、ということを想像すると、大変危険な恐ろしい破壊」

<最新シミュレーションから見えた ビル崩壊のリスク>

崩壊のリスクを抱える旧耐震のビルは、どれくらい残っているのか。

今回私たちは、神戸市や専門家と共に、市が保有する42万棟の資産台帳のデータから、ビルの実態を検証することにしました。解析の結果、旧耐震基準の年代に建てられた建物が、およそ3万3000棟、市内に現存することが明らかになりました。

そして今、神戸の街が南海トラフ巨大地震に襲われた場合、どんな被害が生じるのか、世界最速のスーパーコンピューター富岳を使って解析しました。解析には地盤データも反映させます。それによって、従来よりも高い精度で被害のリスクが明らかになります。

総合防災・減災研究チーム 永野康行 客員主幹研究員「今回1棟1棟の動きを、地震の時にどうなるかを再現してあって、『被害を受けるのはこの建物ですよ』というのを特定できるやり方であるというのが、まず手法として決定的に違う」

シミュレーションの結果です。神戸市内は広い範囲が震度6弱の揺れに襲われます。震度7を記録した阪神・淡路大震災と比べ、低い数値です。それでも、286棟のビルが、建て替えが必要になるほど大きく損傷を受ける可能性が示されました。

倒壊のリスクが示されたビルが立つこの場所は、銀行や小売店が入っているビルが、人通りの多い道路に面しています。不特定多数の人に被害が及ぶ危険性が浮かび上がりました。

総合防災・減災研究チーム 大石哲 チームリーダー「人が集まるところで、比較的大きく揺れる建物が多いということは、その地区が一定のリスクがある。大きく揺れるということになれば、街としての対策というものも考えてもいい」

<他の大都市ではさらに大きなリスクも・・・>

阪神・淡路大震災以降も見過ごされてきたビル倒壊のリスク。神戸よりも規模の大きな都市では、さらに危険が高いと指摘されています。

東京都内では幹線道路沿いの建物など、ごく一部の耐震診断の結果が公表されています。

名古屋大学・福和伸夫 教授「『Ⅰ』というのは、震度6強以上の揺れに見舞われたら、倒壊もしくは崩落の危険性が高いと判断されています」

福和教授「この銀座中央通り全体で20棟以上、耐震性が不足する建物がある。見た感じ、そんなに古い建物があるようには見えない。人がいっぱい集まるがゆえに、すごく化粧されている。実は古いんだけど、そのことを我々が気が付かずに歩いている」

しかし、それ以外のビルがどれだけ耐震性を備えているのか、その実態は明らかにされていません。

福和教授「この目抜き通りの一本入ったところの建物に関しては、耐震診断すらされていない(可能性がある)ので、どの建物が危険かすら、全くわかっていないというのが現状です。もしも阪神・淡路大震災が、朝の5時46分ではなく昼間に起きていたら、あの三宮のビルの中で、ものすごく多くの方が犠牲になっていたわけです。我々、起きたことに対しての対策というのはできるんですけど、経験したことがないことについての対策をするのは、苦手なんですね」

なぜこうしたリスクは見過ごされてきたんでしょうか。

取材を進めると耐震化にかかるコストの問題が見えてきました。

<耐震化に踏み切れない ビルオーナーの実情>

神戸市の中心部で築43年のビルを所有する西さんです。震災直後の西さんのビルの映像が残されていました。向かい側のビルが倒れてきた衝撃で壁がはがれ落ち、復旧工事に1億円を要しました。

返済にかかった期間は20年。テナントの営業を止めて、数千万円もの耐震改修工事まで行うことは難しいといいます。

ビルのオーナー・西閲子さん「テナントさん全部入っているので、とりあえず出てもらってということになる。実質的には無理ですよね。耐震化は考えていないわけではないけど、今、耐震化って言われても無理よねって。そこに落ち着いてしまうんでね」

建物が損傷するリスクに対しては、保険で補えばいいという本音を語るオーナーもいました。

取材班「激震が来た時に漠然とした不安は抱えている?」

ビルオーナー「そこらへんのリスクヘッジは建物自体を補強するのではなく、保険の方でカバーできるか、できないか。その辺は視野に入れていますけど」

取材班「人的被害って、保険じゃきかない部分に対しては?」

ビルオーナー「良心は痛みますよ。自分のところのビルでお亡くなりになる方が、万が一出た場合、良心は痛みますけど」

神戸市内のビルを対象に行ったアンケートでは、27棟のオーナーや管理会社から回答を得ました。耐震改修工事に踏み切れない理由として、最も多くあがったのが、経済的な事情でした。

「耐震改修工事を行った後に、テナントが戻ってきてくれるか保証はない」

「工事費用が高額すぎるため、ビルが使えなくなるぎりぎりまで工事はしたくない」

旧耐震のビルで、耐震改修工事を行っていたのは一件もありませんでした。

<耐震化政策進む中で…取り残されるビル>

さらに、耐震化が進まない背景には、国の制度が十分に機能していない現状があることもわかってきました。

井上勝徳さんは国土交通省で長年、耐震化政策に関わってきました。阪神・淡路大震災を機に始まった旧耐震の建物の耐震化政策。全国各地で広く進められたのは、住宅への補助でした。

元国土交通省 建築指導課長・井上勝徳さん「阪神・淡路大震災は早朝に起こったということで、住宅にたくさんの(人的な)被害が出た。住民の安全ということを考えると、一般ビルよりもまず住宅の耐震化を進めていこうという認識が(全国で)強かった」

現在、耐震改修の補助の対象は、住宅に加え、災害時に避難所となる施設。床面積が1000平方メートル以上など、条件を満たした「多くの人が利用する建築物」などです。

しかし、実際に補助するかどうかは、予算を負担する各自治体の判断です。住宅以外のビルなどの建築物に対し、補助を実施している自治体は26%にとどまっています。

さらに、条件に満たない建築物は原則補助の対象外となり、耐震改修工事の費用は、全て自己負担となります。

元国土交通省指導課長・井上勝徳さん「そういったものにまで補助をする必要はないんじゃないかと考えている自治体が多いのではないのかと思います。財政力(の問題)もありますし、実際の現場の能力みたいなことも考慮すると、一律にこうしろというのはなかなかできない」

<耐震化「コスト」を「価値」に>

公的補助が十分ではないなか、独自に耐震改修を進めようという動きが始まっています。

飲食店やオフィスなど400以上のテナントが入る築51年のビル。4年前、耐震診断の結果で、倒壊の危険性が高いとされました。

当初、提示された耐震改修工事の費用は5億円以上。さらに、テナントの一時的な休業も必要でした。のしかかる多額の費用と休業の負担。選んだのは、ビル全体ではなく、弱い場所を補強する部分的な改修でした。鉄板で柱を補強するなどの工事を、構造上、最も弱い4階を中心に行いました。

工事費用は1億9000万円に抑えられ、テナントの営業に支障が出ない場所を工事したことで、休業補償も発生しませんでした。工事の結果、耐震性の評価は「Ⅰ」から「Ⅱ」に1段階あがりました。

ニュー新橋ビル管理組合・田中潤副理事長「完璧を目指せば目指すほど、高額になってしまって手が出なくなってしまう。巨大な地震が来た場合絶対安全か、ということはないですけど、弱いところを一番中心に考えて耐震補強をしていく」

テナント側の意識の高まりが、ビルの耐震化を後押ししている例もあります。

茨城県内を中心に185の店舗を持つ常陽銀行。15年ほど前から、テナントとして入るすべてのビルに耐震化を求めてきました。ビルのオーナーに対して耐震改修の有無を調査。大地震の際に営業を続けられる建物かどうか、判断します。

常陽銀行 日立支店・清水勉支店長「『今後一切、耐震工事をする予定がないよ』という明確な返事があったとしたら、その後テナントとして入り続けるかどうかというのは、考えなきゃならないと思っています」

銀行からの調査を受け、耐震改修が行われたビルのオーナーは、

ビルのオーナー「大きい面積を占めるテナントさんの声というのは、当然無視できない。そういったお話がなければ、耐震補強はもっと後になったかもしれません」

工事が終わって4年後に起きた、東日本大震災。震度6強の揺れで、多くの建物が被害を受けるなか、ビルは被害を免れ、銀行は営業を継続することができました。

常陽銀行 日立支店・清水勉支店長「ビルのオーナーさんにとって、もちろんいろんな負担はかかるんですが、最終的なテナント運営のメリットがある。耐震工事をすることによって、お店を閉めることなく、危ない状況にならないで仕事を続けられること、これが企業価値の向上につながると捉えております」

武田アナ「長年、阪神・淡路大震災の被害や復興過程を研究してきた室﨑さん、ビルのリスクが、これまで見過ごされてきたということを、どう受け止めればいいんでしょうか?」

兵庫県立大学 大学院・室﨑益輝教授「阪神・淡路大震災で言うと、1人1人の命がとても大切だっていうことに気づかされたわけです。その命を守るために、建築物の耐震化が欠かせないということも我々は知ったわけです。住宅も壊れたし、ビルも壊れているので、耐震化をどちらも確かにしなければいけないんですが、犠牲者がどこで出たかというと、住宅。だからまず住宅から、と。それからもう1つはビルを耐震化しようとすると、すごくコストがかかる。だからそれは少し後回しにしたい、っていう思いがあったと思うんですよね。それで結局、ビルの耐震化が見過ごされたと思います」

武田アナ「住宅の耐震化率のデータなんですが、阪神・淡路大震災以降上昇し、最新の統計では全国で87%に上っています。一方でビルの多くは、こうした数字すら把握されていないんですね。こうした状況を、一刻も早く改善していくべきだと感じるんですが」

室﨑教授「命に関わる問題なので、まず実態把握は絶対必要だと思うんですね。まず耐震化の目標を明らかにする。どこに危険な建物があるかってことが分からないと、取り組めない。もう1つは、所有者も利用者も、他人事のように思ってしまう。自分の家だったらなんとかしたいと思うけれども、そうじゃないと思ってしまう。その他人事意識を変えるためにも、建物が危険ですよっていうことを、明らかにしなければいけないので、やっぱり実態調査が必要だと思うんです」

武田アナ「国や行政の責任については、どう捉えていますか?」

室﨑教授「基本的には、“命を守る”という意味で言うと、行政だけじゃなくて、それぞれの市民にも責任があるように思うんです。それを変えていこうと思うと、市民の意識、世論が、しっかり高まっていかないと。やはりその実態調査がされていないこともあって、市民自身もその危険性に気づかされていない。気づかされてないので、『耐震化しろ』という声になっていかないということだと思います」

武田アナ「お伝えしているとおり、住宅の耐震化率は年々上がっていまして、被災地神戸で見ますと94%に上っています。南海トラフ巨大地震の発生が確実視されるなかで、最新のシミュレーションで住宅の1棟1棟のリスクを明らかにしますと、高い耐震化率に隠された盲点も見えてきました」

<新耐震の住宅にも潜む 倒壊のリスク>

神戸の町が南海トラフ巨大地震に襲われたとき、どのような被害が出るのか。シミュレーションに取り組む研究チームです。

広い範囲で、震度6弱の揺れが想定される神戸市内。解析の結果、半壊から全壊の被害が出るとされた住宅は、1万棟近くにのぼることがわかりました。被害の大きかった住宅街を詳しく見ていくと、その多くは、旧耐震で建てられた木造家屋でした。

ところが、1981年以降に建てられた新耐震の住宅でも、「倒壊のリスクあり」と判定された建物がありました。1990年代後半に建てられた木造2階建ての「住宅A」は、震度6弱の揺れに襲われ、全壊の危険性もあると示されました。ここから600メートルほど離れた場所にある「住宅B」。築年数も構造もAと同じですが、大きな被害はないという結果でした。

その違いをもたらしたのは。

総合防災・減災研究チーム 永野康行 客員主幹研究員「やはり地盤の軟弱さが耐震性に及ぼす影響というものが、結果に如実に表れている」

シミュレーションでは、250メートルごとに、地盤の固さによって、分類されているデータを重ね合わせています。Aの住宅は、Bの住宅よりも3段階地盤が弱いエリアに建てられていました。その結果、地震の揺れがBよりも、2倍程度大きく建物に伝わっていたのです。

法令では、地盤の影響を加味することが定められていますが、それを適用していない自治体もあり、リスクが残り続けていると、研究チームは指摘します。

総合防災・減災研究チーム 大石哲 チームリーダー「地盤があまりよくなくて、大きく揺れるような地盤であれば、新しいお宅であっても倒壊する可能性は高い。耐震化率90%という数字そのもので、この神戸の街を(安全だと)語ることはできないんじゃないかと思う」

住宅街の中に、地盤が弱いエリアが含まれる神戸市内の地区ではこの日、研究チームから、巨大地震が起きたときのリスクが伝えられました。防災意識が高く、避難や救助の訓練に力を入れてきたこの地区。今回の結果を受けて、まず地区全体で建物を強くすることが必要だと、耐震化を呼びかける活動を進めようとしています。

防災福祉コミュニティー委員長・森田祐さん「家が潰れた下敷きになった人をどう救出するか、どう避難させるかとか、そういうことばかりで進めていますから、そういうことをしなくてもいいように、『家をしっかり守るような家にせえよ』という方向で進めていかなあかんと思いましたね」

<全国最多の耐震改修 独自制度で取り組む自治体>

耐震改修を進めるためには何が必要か。そのヒントになる取り組みがあります。

高知県では、住民負担を軽減することで、全国最多、年間およそ1500件の耐震改修を実現してきました。県は、耐震改修に関わる工事に、最大155万円を全額補助する制度を整備。ある家の耐震改修の費用は、全国平均の半分以下の110万円。自己負担なしで、工事をすることができました。

耐震改修の費用を安く抑えられている理由は、低コストの工法にあります。通常の工事では、建物の一部を解体して筋交いなどをとりつけますが、この工法では、柱に耐震性のある板を打ち付けるなどして作業を効率化。コストを減らしながら、国の耐震基準をクリアしていきます。

さらに高知県では、これまで補助の対象外となってきた工事に対しても、柔軟に対応する運用を行っています。

吉福八重美さん、84歳です。

吉福さん「足が痛いけんね、階段はそんなに上がれん。(2階には)全然入らん。雨戸も閉めたまま」

吉福さんが行ったのは、1階部分だけの耐震改修。2階まですべて改修すると、補助の限度額を超え、自己負担が発生するため、多くの時間を過ごす一階だけを、まず工事しました。

通常、木造住宅への補助制度は、耐震性の評点、「1.0」に達する工事だけが対象になります。しかし高知県では、建物全体が一度の工事で1.0に届かない場合でも、補助を出すことにしました。

工事前、1階部分の評点が0.07だった、吉福さんの自宅。改修で、1階は1.06にあがりました。

こうした支援に、毎年6億円以上の予算を確保してきた高知県。県の試算では、事前対策に予算をかけ、耐震化を進めることで、被災後の支出をおよそ3割削減することができるとしています。

高知県 土木部住宅課 大原勝一課長「最初に家を補強すると、被災後の行政の財政負担が安くなるんじゃないかと。命を救うということと、最終的には高知県の財政負担が軽くなるという、2つの目的がうまく合致したというふうに考えております」

武田アナ「こちらは、南海トラフ巨大地震で、最大震度7の揺れが予想される県の耐震化率です」

武田アナ「先ほどのシミュレーションで見てきた神戸市よりも、強い揺れが想定されている所が多くありますが、その耐震化率は80%台が多くなっています。室﨑さん、よりリスクが高いところでも対策が十分ではないという状況がうかがえるわけですが、どうご覧になりますか」

室﨑教授「震度7の地域というのは沿岸部が多いんですよね。沿岸部は津波の危険性も非常に高い。今は津波対策ということで、避難の訓練とされているんですが、家が壊れてしまって閉じ込められたら、津波の避難もありえないんですよ。だから津波対策をやる意味でも、耐震化をしっかりやらないといけない。また耐震化が防災対策の基本だということを、きちっと理解していただきたいと思うんですよね」

武田アナ「この27年間ですね、日本全国で地震から命を守る、さまざまな取り組みが進んできたわけですが、まだこうした積み残された課題が残っている。阪神・淡路大震災の教訓を改めてどう捉えていくべきなんでしょうか」

室﨑教授「27年たったということは、次の大地震まで27年近づいたっていうことですよ。もう少し言うと、すぐにでも来るかもしれない、非常に緊迫した状況に、我々今いるということだと思うんです。今までの取り組みというのは、安全な場所に変わっていこうとすると、踊り場でしかないんですよ。1歩進んだけど、本当の意味での耐震化っていうところまでいけてない。住宅はそこそこ進んだけど、ビルは残されてるっていうことだと思いますので、まさに次の踊り場から、もうワンステップ上がるためのビルの耐震化にもっともっと力入れなきゃいけないと思うんですよ」

武田アナ「過去を振り返るっていうことを、今日は本当に大事な日だと思うんですが、それだけではなくて」

室﨑教授「過去だけを見るのではなくて、むしろ前を見て、その前を見る視点で過去を振り返るっていうことがとても大切だと思います」

武田アナ「本当に尊い犠牲に報いるためにも、見過ごしている教訓がないか、何度も目を凝らしていくっていうことが、今を生きる私たちの責務だと言えますね」

室﨑教授「そうですよね。阪神・淡路大震災で大都市が大きな被害を受けた、最も典型的な事例なんです。まさにだからこそ震災の経験と教訓を大切にしなければならない」