新型コロナ 市民と専門家の緊急対話(後編)

NHK
2021年9月22日 午後3:37 公開

(前編はこちら)

(2021年9月19日の放送内容を基にしています)

鎌倉千秋アナウンサー「ここからは、今後再び感染が拡大したときに、どう抑え込んでいくのか議論していきたいと思います。感染が再び拡大したときに、どうすれば人々の行動が変わるのか、アンケートで聞いてみました。人々の行動変化のために、どんな仕組み・制度が必要だと思いますか?当てはまるものを選んでください」

鎌倉アナウンサー「いちばん多かったのは「経済的な補償」で69.2%、2番目が「罰則を科すなど感染防止策の義務化」45.0%でした。そして3番目が「テレワークの推進」43.7%となっています。いちばん多いのは7割近くの方、「経済的な補償」とあります。このあたり市民の方、どんなご意見があるでしょうか」

<経済的補償 どうすればよいか?>

山下春幸さん(飲食店を経営)「うちの海外の事例をちょっと話してみたいと思うんです。海外の店舗は、アメリカ、カリフォルニアにあるんですけど、1店舗あたり約1億円のお金が出ました。1億円のお金がまず出て、その中にちゃんとルールがあって、従業員の給与だったり、お店の家賃だったり、必要な経費はすべて払ってください。そういう話がまずされるわけです。もちろんオーナーの個人的なものは絶対だめなんです。その分に関しては基本返済しなくてもいいよという経済対策が下りるんです。そうすると、いろいろな規制が安心してできるんですよね。すべてに対して経済で補償してもらえば、精神的に安定します。その状態で政府からの指導であれば、いろいろなことに対して受け入れられると思うんです」

政府分科会 委員 小林慶一郎さん(マクロ経済学が専門)「今まで経済の補償は、協力金とか給付金とか、そういう制度があるわけですけれど、なかなか金額が少ない、不公平であるとか、そもそも支払いが遅いというようなことで、非常に使い勝手が悪い。お店の状況とか個人の所得の状況に応じた救済というのができないということですね。そこは市民の皆さんにぜひご意見を聞きたいんですけれども、デジタル化をして、例えばマイナンバーと銀行口座をひもづけて、個人の所得がある程度リアルタイムで分かっているならば、所得が急に減ったときに政府から支払いができる。イギリスがそういう制度を持っています。毎月の個人の所得を政府が把握して、仕事が失われた、急に収入が減ったという人に、リアルタイムで迅速にお金を給付するということができる。果たしてそういうことが日本でやるのがいいのか、あるいはプライバシーの問題があるのでやらない方がいいのか」

山下さん(飲食店を経営)「マイナンバーのひもづけなんですけれど、飲食業も当初、厚生労働省が感染の接触アプリ(接触確認アプリ『COCOA』:感染した人と濃厚接触の疑いがあれば通知が届く)を出したんですが、どうしても個人の情報とか、携帯のGPSの測定とか、名前とかが日本人は、なかなか出しにくいということがあって。実際、アメリカはレジが政府とつながっているので、スピードよく出せたんですが、なかなか日本は税と個人とのひもづけが難しいので、そのあたりはマイナンバーがなかなか普及しないところもあって、実際、先生のお考えは、ちょっと日本では難しいんじゃないかなと」

<どうする感染防止策  “個人の自由”と“公共の福祉”>

政府分科会 会長 尾身 茂さん「日本の社会は特にそうですけれども、なるべく個人の自由とか権利を尊重したいという思いが、日本は欧米諸国にも比べて強い。ところが、この公共の福祉といいますか、感染対策のために個人のどこまで、人々のルールとして、ここまではみんなで守ろうという議論が本当はあってもしかるべきなんだけど、ここはややタブーになっちゃって。つまりバランスですよね。みんな何とか社会のために協力しようという気持ちは、日本人ほとんど全員持っていると思う。そのレベルを本当は議論した方がいいと思うんですけど」

大野 舞さん(先月までフランスで生活)「確かにおっしゃっていたように、日本社会では自由を大事にするという話がありましたけれども、おそらくフランスと日本ではリスクの捉え方が違っていて、それが個人単位なのか、リスクってなったときに、それを社会全体で共有するというか、フランスの人たちが果たしてどこまで納得してやっていたかというのは疑問点もあるんですけれども、実際にロックダウンをして、ある程度の人が守っていましたし、ふだんはマスクなんて着けたこともないようなフランス人が、義務化すると、ほぼ100%するようになったっていうのは私自身も驚いたんですけれども。だから今、ある程度のコンセンサスというのは、必要なのかなと私も思います」

<感染防止策の“義務化”  どこまで許容?>

再び感染が拡大した場合、人々の行動変化のために、どんな仕組みや制度が必要かを聞いた先ほどのアンケート。2番目に多かったのが、「罰則を科すなど、感染防止策を義務化すること」です。

科学文化部 藤原淳登デスク(医療取材が専門)「日本では法律的な問題もあって、こういった対策は難しいとされてきたんですけれども、これが上位にきたことについて、専門家の皆さんはどういうふうにお感じになっていますでしょうか」

政府分科会 委員 鈴木 基さん(感染動向を調査・分析)「正直言って私はちょっとびっくりしました。当然私たち、基本的に自由な社会に生きていると思っておりますので、この感染症対策においても、自主的に、感染を抑えるために感染対策をするというのが前提だというふうに私自身も思っています。一方で、流行拡大が起こったときに、なんで自粛をしない人が一部にいるのかといったような思いから、おそらくこういった義務化の声もでてくるのかなとは思います。ただ、正直ここまで多いとは予測はしていませんでした」

鎌倉アナウンサー「では、罰則を伴う感染防止策を、どこまでならば受け入れられるか。これもアンケートで聞いております」

鎌倉アナウンサー「いちばん多かったのが『マスク着用の義務化」66.5%の方、2番目が『イベント・レジャーの制限」54.4%。そして3番目『ワクチン接種の義務化』40.3%でした。4番目は『飲食店の営業制限』34.8%。そして『外出の許可制』が24.1%となっています』

佐々木 淳さん(医師 自宅療養に対応)「私はやはりワクチンの義務化っていうのは、一部の業種については検討をしてもいいのではないかと思います。と申しますのも、ワクチン接種が行き渡ってしばらくしてから、医療施設とか介護施設ではクラスターって本当に少なくなったんですけれども、それでもクラスターは発生する。発生している施設を見てみると、やはり持ち込むきっかけになっているのはワクチン未接種の方々なんです。私たちは病院・介護施設での入居者・患者と家族の面会制限を非常に厳しくやっています。非常に厳しくやっていますけれど、一方で、ワクチンを打たずに日常生活を社会、街の中で送って、施設や病院で働いているスタッフもいるんですね。ここの部分に、すごくアンバランスさを感じます」

<外出制限されたら・・・ 不安と懸念>

一方、外出の制限などが義務化された場合、追い詰められる人たちがいることを知ってほしいという声も上がりました。

佐々木チワワさん(歌舞伎町に詳しい大学生ライター)「自粛してください。家にいてくださいとなっても、そもそも家が精神的に安全な場所という前提がない人たちも一定数いる。路上で飲んでいる女の子たちとか、ほとんど家出して家に帰ってなかったり、親から縁を切られてっていう、そもそもの安全が保たれていない若者たちというのは、どうしても、そういうところでフラットな、流動的な夜の街に流れてきてしまっていたりとか、夜の街がセーフティーネットになっている側面があると思う。ただ自粛をしてください、家にいてくださいじゃなくて、家という場所が安心できる場所じゃないっていうところ。あと、私は特に公共施設の利用を緩和してほしいと思っていて、私も今大学生で、家で勉強するのが困難な日とかに、図書館の利用が1時間しかできないっていうのがすごくつらくて、勉強するとか、そういう公共施設の、そもそも自宅での環境が整っていない人のための公共施設が、1時間ほどで抑えられてしまうのが、とてもしんどい。そういう側面、社会とか経済の損失以上に、文化と精神的なものも救っていただきたいと思います」

藤本真帆さん(大阪でこども食堂運営)「このコロナになってから児童虐待っていうのが過去最多の20万件で、前年比の5.8%増えたということがあって、さっき佐々木チワワさんが言ってはったみたいに、子供たちにとって全員が全員、家が安全な場所かっていうとそうじゃないと思う。やっぱり家にいられないから、公共の場所、うちのセンターもそうですけど、うちのセンターに駆け込んできた子たちもいてました。子供たちの安全であったり、家が全然安全じゃない人たちに対しての救済措置だったり、サポートっていうのをちゃんとしてもらえないと、やっぱりどこかにしわ寄せがいってるなと思っているので」

大久保健一さん(脳性まひ 車いすで生活)「僕の周りでも(コロナの影響で)ひきこもりになって、精神疾患になっていくことが多くて、僕も自粛していると寝られなくて、よく睡眠薬を飲んだりしてましたけど、そういう人は、お金的にもリモート環境がなくて、外部との接点がますます切られてしまうので、リモート環境がほとんどない人には、行政がもっと保障してほしいなと思っています」

藤原デスク「感染防止策の義務化ですとか罰則化をする場合、いかに感染を抑えるかという視点のみで議論すると、人々の生活の質に大きな影響が出る。そういった部分をしっかり考えなくてはいけないと思うんですけれども、小林さん、これについてはどうお考えでしょうか」

政府分科会 委員 小林さん「コロナによってどれだけ自殺者が増えたのかという研究が出ているんです。それを見ますと、コロナによって増えたであろう自殺者というのは、だいたい3600人ぐらいいる。そのうちの3分の1ぐらいは、コロナによって経済的な困窮が起きて、その結果亡くなったという方。残りの2400人ぐらいはそれ以外の理由。つまり、ストレスであるとか、DVであるとか、コロナによって誘発されたかもしれない社会的なひずみによって亡くなっている方が増えていると。要するに、これからコロナ対策は、たぶん年単位で、1年、2年、ひょっとしたらもっと長い期間、これからも続けていかなければいけないということだと思います。そういう中で、社会や経済にひずみを与えると、それは結局、人命という究極のコストにつながっていくわけです。そこを考えながら感染症対策をどう進めていくのか」

<社会の分断を生まない感染防止策とは>

加藤梅造さん(都内でライブハウス経営)「感染を抑えるということと、経済を回していくということ、それだけじゃない視点というのが、いますごく話されていると思うんですね。それは、前半で佐々木チワワさんが、精神的な部分を、われわれは今、論じるべきだっていうのは、本当に今の議論だと思います。先ほどのアンケートで、イベント・レジャーの制限を罰則化しようというのが54.4%あるというのは、結構大きな数字なんですけど、これってすごく裏返しだと思うんです。だって、みんな旅行したいと思うし、イベント行ったりとか、居酒屋行ったりとか、友達とお酒飲みたいっていうのはみんなそうだと思うんですよ。ただ、それを今できないから、すごく我慢しているから、やってるやつは罰則、罰を与えようみたいな、そういう数字になっていて、ちょっと怖いなと思って。社会の不満がたまってるということの表れだと思うので、ぜひ、これからの議論でいちばん大事なのは、コロナっていうのが、いかに人を分断させて、人を孤立させるか。そこがコロナのいちばん怖い部分だと思うんです」

加藤さんが「分断」の恐ろしさを感じたのは、去年(2020年)4月。自身のライブハウスで、複数の感染者が確認され、大きなバッシングを受けました。そうした批判の声は歓楽街にも。ホストクラブなどで多くの感染が確認された歌舞伎町では、いわゆる自粛警察など市民による監視も行われました。

佐々木さん(歌舞伎町に詳しい大学生ライター)「また夜の街が集中砲火になるっていう動きが見えてくる気がして、すごく心配。実際、歌舞伎町で緊急事態宣言下も営業しているお店って、行列ができてしまうんです。生きるために働いているので、結局(午前)1時以降おなかがすいたり、始発を待つ時間帯に入れる飲食店がなくて、結果的に行列ができて、席を詰めて3密状態での営業が行われていたりっていう現状があって。そもそも、なぜ夜がだめなのかっていうところ。時間帯として制限されて、完全に夜8時から働いている人たちの居場所を奪う政策だったなっていうふうに強く感じています。すごく印象に残ってるのが、昼間に、例えば主婦らがランチでお酒を飲んでるのに、夜の仕事で働いたあとの私が、ファミレスでごはんを1人で食べることすら許されないっていうのはどうなのという意見が刺さっている。コロナは夜行性だから俺たちは昼飲んでいいんだって飲んでる人とか、そういうのを見ると、時間帯っていうものの不公平さを感じたので、ぜひ時間じゃない分け方で平等にしていただきたいなと思います」

政府分科会 会長 尾身さん「もう少しきめの細かい説明ですよね。全部を反映することはできないけど、大事なことは吸い上げるというようなこと。そういうメッセージの出し方ですよね」

佐々木さん(歌舞伎町に詳しい大学生ライター)「ほんとに、それこそ対話っていうのをとてもやってほしいなと思っていて、去年、ホストの子とかと話してると、政府のことはもう信じないから、投票も行かないし、どうせ俺らが言っても聞いてくれない、変わらないだとか。一応ホストクラブって深夜営業って条例で禁止されてるんですけど、東京都の対策としてあまりにも弾圧的すぎるから、そこを蹴破っても俺たちは生きていくみたいな意見を持っていた時期もあるんですね。一方的に情報を公共の電波に流布してるだけだと、たぶん聞かないし、そもそもテレビもなかったり、生きることに精いっぱいだったり。一方的に情報を流してるだけだと、対話がそもそもなされてないと思う。そこを一歩踏み込んで聞くっていう、対話っておっしゃるなら、やっぱり現場に行くとか、今までよりもさらに深く踏み込むっていう姿勢を見せてほしいなというふうに思います」

政府分科会 会長 尾身さん「一つだけ、情報がなかなか伝わらなかったということで、佐々木さんたち、たぶんご存じか、実は我々、武藤さんたちとか、このことについてはかなり早い段階から夜の街の人たちと一緒に、同じ目線で、上から取り締まるんじゃなくてやるという動きは、かなり提案していたし、実際に新宿区なんかが、区長さんなんかと一緒に、夜の街の人たちとグループを一緒の目線でやってという部分も実はあったんだけど」

佐々木さん(歌舞伎町に詳しい大学生ライター)「新宿区はかなり頑張っていらっしゃるのはもちろん知っていて、私もその活動はすごく応援しているんですけど、やっぱりでも、まだ経営者層だけに届いていて、従業員の子って日払いとか、その日で生きてるっていう子たちには、まだ届いていないところがどうしてもあって、すごく対策していただいているし、私も歯がゆいんです。そういうところをぜひ今後はやっていったうえで、時間帯で区切るとかではなく、もうちょっとロジカルなところで対話ができたらなというふうに思います。ありがとうございます」

大久保さん(脳性まひ 車いすで生活)「いちばんのテーマの分断っていうことでいくと、街に出ると、コロナの前までは『お手伝いしましょうか』っていう人は結構いましたが、コロナになって、そういう声を聞かなくなってしまって、接触のことがあるからしようがないんでしょうけど、僕たち障害者は、ますます疎外感を感じるようになりました。それをもっと究極なことで言うと、トリアージ(治療優先度の判断)がでてきた場合に、医療がひっ迫した場合、僕らの仲間の難病の方々は、果たして救ってもらえるんですか」

政府分科会 委員 武藤香織さん(感染症と社会の関係を研究)「対話って、つらいこともたくさんあります。これから。例えば、大久保さんおっしゃっていただいたトリアージの話は、この1年半以上、真正面から議論することを避けられ続けてきたテーマなんですね。もっと深刻な分断を対話によって生む可能性もあるという側面もあるので、そこをどれだけお互いに思いやりをもって、想像力をもって話をしていけるかってことが非常に大事になってくると思います」

<納得できる説明 どう発信していくか>

鎌倉アナウンサー「どうしたら、納得のいく説明になるのか。ご意見ありますか」

橋本(仮名)さん(コロナ後遺症で通院中)「やってることと言ってることがちぐはぐになってるから、それが一緒になるように、うまくもっと説明してもらえたらなっていうのは思います。オリンピックがあったことによって、あれだけたくさんの人を外から中から動かしてる日本政府の言うことを聞き入れるのはどうなんだろうっていうのが正直なところあるんですけれども、これは本当に、なんで私たちだけ我慢が強いられるのかっていう。それで、国は我慢してくださいとか、いろいろなことを言いますけど、やってることと言ってることがちぐはぐで受け入れがたいところもあります」

藤本さん(大阪でこども食堂運営)「それこそ、いちばん最初、去年に出た接触アプリとかもどこ行ったんやとか、アベノマスクどうなってたんとか。それを実際やってみたけど、今どうやったから、次これ試します。みたいなのとかも、あんまり見えてこないような気がしてて。いろいろこの1年8か月たくさんやってきてくれはったと思うけど、それが実際どう効果が出て、どう次に生かせられるかというところを、もうちょっと教えてほしいというか、発信してほしいなと思います」

政府分科会 委員 武藤さん「結構、日本の専門家の方々は発信しているほうだと思います。一生懸命されているんだけれども、もともとのウイルスの特性の複雑さとか、知識がどんどん変わる面で、分からないということを、多少、皆さんも許容してもらいながらやっていかなくてはいけないという側面もあります。一方で、いままでの対策の、まさに藤本さんがおっしゃった『よかったこと』『悪かったこと』『改善すべきこと』というのが、政府も一緒になって、専門家も一緒になって、皆さんに率直なところを伝える機会というのはあまり多くないと思いますので、これはぜひ、これから対話を中心に、これからの長い出口の入り口に、今立っていると思うので、そこを皆さんと一体感を持って乗り越えていくためには必ず必要なことだと私は思います」

鎌倉アナウンサー「きょう長い時間、皆さんと対話をしましたけれども、どんなことを感じたのか」

政府分科会 委員 小林さん「私は経済の専門家で、ほかの皆さんは、医療の専門家ということで、それぞれ自分の見ている分野がすごく大きく重要に見えてしまうというような傾向は誰しもあると思うんです。それは市民の皆さんもそうかもしれないし、専門家の間でもそうだと。これをきょう、お互いの違った立場、違った目線から見たコロナの状況というのが非常によく分かって、大変、目を開かされたというふうに思います」

政府分科会 委員 鈴木さん「自分としては精いっぱい理解をしてきたつもりで、きょうこの場に臨んだつもりだったんですけれども、正直言って、その自分の思い込みを打ち砕かれたという思いです。こんな対話を通すことによって、それは融合することができるものなのだろうなということを、本当に私自身がそうできているのかどうかまだ分からないですけれども、少なくともその方向性をもっと突き詰めていく必要があるのではないかというふうに強く感じました」

佐々木さん(歌舞伎町に詳しい大学生ライター)「先ほど会話したときに、尾身さんに、画面越しですけど、ちゃんと目を見ておしゃべりできたというところに、すごく意味があるのかなと思っていて、そして、私も今回反省として、すごく現場至上主義な、逆に現場しか見えていないところはあったんですけれど、対策側もすごくいろいろ動いていただいていると思うので、そういうことも勉強しつつ、私自身が橋渡しとしてやっていけたらなと思いました。全然無視されてるわけじゃないっていうことが、まずこの番組を通して夜の街の方々に伝わるのが、いちばん重要だと思うので、あとは夜8時以降だけですね(笑)。そこだけどうしても納得のいく説明をしていただけたら、とてもうれしいなと思います」

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鎌倉アナウンサー「尾身さん、対話の最後には若い方とちょっと距離が縮んだようにも見受けられましたけれども、改めて市民の方とのコミュニケーションを取ることの重要性、どう感じますか」

政府分科会 会長 尾身さん「今回は『分断』というのがキーワードだったと思うんですね。しかし、今回の対話で、少しだけ信頼関係が築けるんじゃないかっていう気配を感じました。こうした対話を通じて学んだことを、われわれ分科会も政策提言に反映したい。すべきだというふうに思いました」

鎌倉アナウンサー「リスクコミュニケーションの専門家、奈良さん、こういった対話の仕組みというのは、これまでもさまざまな局面で重要だという指摘、ありましたよね。今回のこのコロナ対策においては、この対話のメカニズム、仕組みをどう生かしていくべきだと考えますか」

放送大学 教授 奈良由美子さん「新型コロナのような長く長く続いて、しかもいろいろな立場の方が関わる問題については、論点をしっかりと抽出して問題を発見していく。そして、合意形成を進めるということが重要で、そのうえでは対話のスキームは非常に有効だと思います。ただ、このときに気をつけなければいけないことは、対話を目的化しないということです。対話のための対話をしないということですね。対話によって得られたことがたくさんあるわけですから、それをきちんとフィードバックして、そして、専門家も市民もですが、それを、そのリスクを小さくすることにつなげていく。それを継続していく。そういった積み重ねが信頼につながっていきます。逆に言えば、対話がもしも形式的なものにとどまってしまった場合には、これはガス抜きじゃないかとか、アリバイ作りじゃないかというふうに、かえって不信を招いてしまう恐れもありますので注意が必要です。このことは何も専門家と市民に限ったことではなくて、それこそ政策担当者にも言えることですし、また、メディアにもお願いしたいことですね。ぜひメディアには、例えば今回の対話でも非常に重要な論点がたくさん出たと思います。特に『分断』はそうですよね。そういったものをしっかりとこれから掘り下げていく。また、次の対話につなげていく。そういったことをしていただきたいというふうに思います」

鎌倉アナウンサー「尾身さん、最後にひと言、対話を対話で終わらせないということで、次、どういった局面でこういった市民の多様な声を反映させていく予定がありますか」

政府分科会 会長 尾身さん「11月ごろになると多くの人がワクチンを打てると思うんで、そうするまでに社会と感染対策のバランスをどうするのか、また、いざ感染が拡大したときにどんな対策をとるかということを提言しようと思います。そのころ、またこういう対話が、もう一度できればいいなと思っています」