(2023年1月7日の放送内容を基にしています)
堺 雅人さん「地球上でいちばんすごい生き物って、なんだと思う?」
住田萌乃さん「強さで言ったら『ライオン』?大きさで言ったら『ゾウ』とか?」
西畑大吾さん「頭の良さで言ったら・・・『人間』じゃない?しゃべれるし」
堺さん「それは、どうかな?」
植物、昆虫、そして微生物。こうした生き物たちの本当のすごさを、あなたは知っていますか?
たとえば「植物」は、陸上にすむ生き物のうち、重さで95%以上を占める圧倒的No.1なんです。そんな植物のすごい能力が、最先端の科学で分かってきました。なんと植物は、虫に食べられると敏感に感じとり、しかもその危険を離れた相手に伝えているというんです。驚いちゃいますよね。
一方、全生物の中で圧倒的に種の数が多い「昆虫」。土の中から大空まで、いろんな場所にいろんな昆虫が進出したのは「完全変態」のおかげです!これまで謎に包まれていた「さなぎ」の中を“透視”することに、世界で初めて成功。脳や飛ぶための筋肉といった大事なものから作られていき、わずか10日で美しいチョウの姿へ大変身していたのです。
そんなすごい生き物たちの「進化」の物語に迫るNHKスペシャル、シリーズ「超・進化論」。キッズ&ティーンズ特別編!
お届けするのは、私たちのすぐそばにいる「身近な生き物たちの進化」についてです。驚きの世界へいざなってくれるのは、“人間代表役”の堺雅人さんと、“植物役”の角田晃広さん。そして不思議な森にやってきた西畑大吾さん(なにわ男子)と住田萌乃さんが、生き物たちのすごい能力を体感していきます。
さあご一緒に、進化の世界へ!
<身近な生き物 驚きの能力>
萌乃さん「あなたは誰ですか?」
<植物役>角田晃広さん「僕は“木”です!ずっと前からここに根づいている“木”です!」
萌乃さん「初めまして、モエノです」
大吾さん「ダイゴです」
堺さん「ずいぶんこの森にも慣れてきたみたいだね。ここは、ただの森じゃない。『進化』のことが分かる森なんだ。『進化』という言葉、聞いたことある?」
堺さん「まずは、このキャベツを召し上がれ。身近なもので『進化』を感じてもらおうと思ってね」
大吾さん「生のまま食べるの?(パクパク)・・・普通のキャベツかな」
萌乃さん「おいしいんだけど、ちょっとピリピリする」
大吾さん「生のキャベツって、たまにそういうのあるよね」
堺さん「そう!それが“進化の味”!そのピリピリこそ、キャベツが進化の過程で手に入れたすごい能力なんだ」
<植物vs昆虫 驚きのバトル!“競い合い”で起きる進化>
身近な「進化」を知る現場。それは東京都内にある畑です。おいしそうな野菜がいっぱいあります。今日の主役はキャベツ!アブラナ科の植物です。植物には、“強敵”がいます。それは、「昆虫」。植物を食べにやってくるからです。
そこで、キャベツは進化で手に入れた“ある秘密兵器”を使って、昆虫から身を守っているんです。その秘密兵器が、あの“ピリピリ成分”!最先端の技術を使って、ピリピリ成分の正体を突き止めることに挑戦です。
キャベツの葉っぱに傷をつけて、虫に食われたときのような状態にしたものを用意します。それを特殊な装置の中に入れてみると、青や緑、赤や黄色が見えてきました(下写真)。これがピリピリ成分の出ている証拠です。
傷のない葉っぱと比べてみると、傷をつけた葉っぱから、たくさんのピリピリ成分が出ていることが分かります(下写真)。
なんとこのピリピリ成分は、昆虫に食べられないようにするための“毒”。葉っぱがかじられて細胞が壊れたときに、“ピリピリ毒”が出される仕組みになっていたんです。
でも、こんなすごい仕組みを進化で手に入れたって、どういうことなんでしょう?
生き物が子孫を残していくとき、たまたま別の姿をしたものや新しい能力を持つものが生まれてくることがあります。たとえば、“毒”を作る能力を手にしたら・・・虫に食べられにくくなりますよね。こうして生き残るのに有利な能力を手にしたものは、より子孫を残しやすくなり、その能力が世代を超えて受け継がれていく。これが進化の一つなんです。
でも、話はこれでは終わりません。
昆虫も黙ってはいないんです。植物と昆虫は、大昔から“進化の競い合い”を続けてきたライバルなんです。
ほら、見てください。穴だらけのキャベツの葉っぱ・・・犯人は、モンシロチョウの幼虫「アオムシ」です。
“毒”があるはずのキャベツを、むしゃむしゃおいしそうにアオムシが食べています。
一体どうして?
なんとモンシロチョウの幼虫も、進化によって“あるすごい力”を手に入れていました。それは「特別な消化液」!キャベツが作り出す“毒”を、毒のない成分に変えることができる消化液を、進化で獲得していたのです。このような進化をしたのは、モンシロチョウだけではありません。
アゲハチョウの場合はミカンの葉、アオスジアゲハはクスノキの葉といった具合に、チョウの幼虫の多くは、特定の植物の“毒”を打ち消す能力を進化で手に入れてきました。
植物vs昆虫の進化のバトルは…どうやら昆虫の勝ち?
いいえ、まだ勝負は終わっていません。植物はさらに、“ある驚きの進化”を遂げていたんです!
アオムシに食われたキャベツの葉っぱが、何かを出しています。なんとこれは、キャベツが周囲に送っている“メッセージ”。最先端の研究によって、植物はいくつかの物質を組み合わせて“メッセージ”を発信することが分かってきました。
キャベツが出しているメッセージとは・・・「わたしは アオムシに 食べられている」。
そのメッセージに反応したのは、体長2ミリほどの小さなハチ「アオムシサムライコマユバチ」です。
アオムシサムライコマユバチが向かった先は、アオムシに食べられていたあのキャベツです。何かを探しているようです。触角をぺたぺた動かしながらアオムシに近づいていき、おしりの針で・・・刺しました(下写真)!アオムシの体に卵を産みつけています。このハチは寄生蜂(きせいばち)で、アオムシの天敵なんです。卵を産み付けられたアオムシは、やがて死んでしまいます。
このハチが近くにいてくれるキャベツには、モンシロチョウのメスがあまり近寄ってこなくなることが分かっています。
周囲にメッセージを出すという進化の果てに、キャベツは、言わばハチを味方につけていたんです。植物と昆虫はこうした“競い合い”の中で、すごい能力を進化で獲得し生きのびてきたのです。
<植物は感じている>
萌乃さん「畑のキャベツも戦っているんだね」
堺さん「キャベツだけじゃなくてね、大根もわさびも、みんな戦っているんだ。大根の辛みも、わさびのツーンとくるやつも、進化によって身につけたもの。それを使って敵を追い払おうとしているんだ」
大吾さん「・・・てか、どうしよう。食べちゃったじゃん!“毒”」
堺さん「大丈夫。野菜が作るピリピリ成分は、人間にとっては“毒”というよりむしろ体にいい成分だから」
<植物役>角田さん「拝啓。チャールズ・ダーウィン様!人類はいま、植物が進化させたものすごい仕組みを解き明かしています。喜んでくれていますか?」
萌乃さん「ダーウィンって、誰?」
堺さん「およそ160年前、進化の仕組みを唱えた偉大な学者だよ。『進化論』と言ってね。いま最新の科学で、その進化論の奥に広がるすごい世界が分かってきたんだ。それを“超・進化論”として、君たちにも感じてほしいと思っているわけ」
<植物役>角田さん「じゃあ、見てみます?植物は何でもお見通しだっていうことが分かる実験映像を!」
<植物役>角田さん「これはキャベツの仲間の『ナズナ』です。特殊な光を当てた状態で、アオムシに食べられたときの反応を見てみます」
萌乃さん「あ、葉っぱが光った!(上写真)」
<植物役>角田さん「葉っぱは、かじられた瞬間に、それをちゃんと感じているんです」
<植物役>角田さん「しかも、かじられている葉とは別の葉っぱも、光っています(上写真)。『虫に食べられた』という信号を、体全体に送っているんです。なぜか?」
<植物役>角田さん「信号を受け取った葉っぱを、別の技術を使って見てみると、紫色に光っているでしょ(上写真)。これは、“毒物質”を作り出す様子です。それ以上食べられないように守っているんです」
萌乃さん「すごいね。全身で感じているんだ!」
<植物は“おしゃべり”する!?>
<植物役>角田さん「それだけじゃないですよ。“おしゃべり”もしているんです!」
<植物役>角田さん「上の写真の左側は、虫に食べられて“毒”を作り出している植物。その周りを見てみたら、なんと隣に生えている、虫に触れられてもいない植物(上写真 右)が、同じように“毒”を作り出す反応をしていることが分かったんです。実はこれが、植物同士が“おしゃべり”している証拠です。左側の植物が右側の植物に、『敵がいる』ことを、メッセージを伝える物質で知らせているんです」
大吾さん「なるほどね~」
<植物役>角田さん「その“おしゃべり”を聞いてみます?この瓶の中に入っているのは、キャベツの苗です」
萌乃さん「穴だらけ…。あ、イモムシがいる!」
<植物役>角田さん「これは、ガの幼虫ですね。植物の“おしゃべり”は、耳で聞くことはできないんですが、鼻でわずかに感じることができるんです」
萌乃さん「(においを嗅ぐ) え!?なんか“漬物”みたいなにおいがする!」
大吾さん「たしかに。“たくあん”っぽい」
<植物役>角田さん「それが『ガの幼虫に食べられている』っていう、キャベツからの“メッセージ”なんです。ちなみに食べている虫が違うと、キャベツが出すメッセージも変わってくるんですよ。そうなると、においもまた変わってくるんです」
堺さん「キャベツと虫みたいに、生き物は競い合うことで進化してきたんだね。でもね、もう一つ面白い進化があるんだよ。“競い合い”とは全く逆の進化がね」
<植物役>角田さん「お互い“頼り合う”ことによって起きる進化。それを教えてくれるのは、“世界一の虫”です」
<“世界一硬い虫”のヒミツ 1億年の進化の物語>
ここは沖縄県、石垣島。この島の雑木林に、ある世界一の虫が暮らしています。その名も「クロカタゾウムシ」。カブトムシやクワガタと同じ甲虫の仲間です。なんと“世界で一番からだが硬い虫”と言われているのです。その硬さは標本用の針も刺さらないほど!「鳥も食べない」と言われるぐらい、無敵の硬さを手に入れた虫なんです。
カブトムシと比べてみると、カブトムシの羽の中はスカスカの空間になっていますが、クロカタゾウムシの羽はぎっしりと中身が詰まっています(下写真)。そんな硬い羽をどうやって手に入れたんでしょう?
生き物の進化を研究する産業技術総合研究所の深津武馬さんのチームは、“他の生き物を頼る”ことで起きた進化によって、クロカタゾウムシの硬い体がうまれたことを突き止めました。一体どんな生き物を頼っているのでしょうか。
深津さんたちは、クロカタゾウムシの幼虫の「腸の入り口」あたりに注目しました。不思議な丸い袋が、いくつもくっついています(下写真)。
袋の一つを拡大して見てみると、赤く見えているもの全てが小さな「微生物」であることが分かったのです(下写真)。
細長い線のように見えるものが微生物の一種「ナルドネラ」という細菌です(下写真)。腸の入口あたりにある不思議な袋は、ナルドネラ菌が暮らすための“専用の部屋”だったんです。
深津さんのチームは、クロカタゾウムシに必ずいるこの細菌が、体の硬さに関係しているのではないかと考えました。
そこで、ある実験を行いました。幼虫にいるナルドネラ菌を、10分の1に減らしてみたのです。下写真の右が、ナルドネラ菌を減らして育てたクロカタゾウムシの成虫です。左の正常な成虫と一見同じように見えますが…。
背中をピンセットで軽くつついてみると、ナルドネラ菌を10分の1に減らした成虫の体は、「ぺこっ」とへこみます(下写真)。
進化生物学者深津武馬さん「本当にフニャフニャになっちゃってるんですよ。“フニャカタゾウムシ”になっています」
一体どういうことなんでしょう?
話は、1億年ほど前にさかのぼります。
クロカタゾウムシの祖先に入り込んだナルドネラ菌の祖先。実はこの菌は、体を硬くする成分「チロシン」を作るのが大得意だったんです。そこでクロカタゾウムシの祖先は、ナルドネラ菌の祖先が作ったチロシンを使わせてもらうようになったと考えられています。そのおかげで、クロカタゾウムシは自分だけでは作れない立派な硬い体を手に入れました。
代わりに、クロカタゾウムシはナルドネラ菌専用の部屋を作り、栄養を分けてあげるようになりました。こうして頼り合っているうちに、お互いがいないと生きていけないほどの深い関係になったのです。
進化生物学者 深津武馬さん「うまく生き残れるものが残って増えていくというのが進化。敵対的にやってうまく生き残ってきたものは、そういう関係性が今も残っているし、一緒にいる方にメリットが出てきてうまくいったものは、クロカタゾウムシとナルドネラ菌みたいな進化の方向性にいたっている」
自分ができないことは相手にやってもらい、代わりに、自分が得意なことを相手にしてあげる。“お互いを頼って生きのびるという進化”が起きていたのです。
<植物・昆虫・微生物 共生する生き物たち>
萌乃さん「このクロカタゾウムシの中に生きているんだね。たくさんの微生物が」
堺さん「こういう関係を、他の生き物と共に生きていくと書いて『共生(きょうせい)』と言うんだ」
大吾さん「自分ひとりで生きているように見えて、そうじゃないということか」
<植物役>角田さん「樹木も『共生』しているんですよ。これはマツの木(上写真)。そばにキノコがいるでしょ。地面の下がどうなっているかというと・・・」
<植物役>角田さん「この白い部分は、キノコが糸みたいな菌糸を伸ばしているんです。キノコというのは、菌類の仲間ですからね。一方、茶色いのは木の根っこです」
萌乃さん「なんか絡まりあってない?」
<植物役>角田さん「絡まりあっているどころじゃありませんよ。実際のマツの木の根っこの断面を見てみると・・・(下写真)、根っこのまわりを菌糸が覆っているのが分かります」
<植物役>角田さん「さらに根っこを拡大してみると、菌糸が根っこの細胞の中まで、入りこんでいるんです(下写真)」
萌乃さん「すごいつながっているね。でもなんで?」
<植物役>角田さん「実は自分の根っこじゃ、あまり土の栄養を吸えないんです。土の中で手を伸ばすように広がっていくのは菌糸で、菌が必要な『栄養』を吸い上げて木に渡してくれることで、大きく成長できるというわけなんです」
<植物役>角田さん「でも代わりに、木は『光合成』して作った『糖分』を、菌にあげています」
萌乃さん「『進化』って、自分の力だけじゃなくて、誰かの力を借りるのもありなんだね」
堺さん「競い合ったり、頼り合ったり・・・いろんな生きのび方がある」
萌乃さん「深いなぁ」
<植物役>角田さん「まだまだここからですよ。実はね、40億年の進化の結果、この地球上にはものすごいものが作り上げられちゃっているんですよ。それは“ネットワーク”」
<驚きの“ネットワーク”! 次々につながる生き物たち>
生き物たちが作り上げた“ネットワーク”。それを身近な「アリ」に教えてもらいましょう。アリは、地球規模で地下の世界を支配する生き物で、その数はなんと2京匹!1兆の2万倍です。そんなアリですが、実は植物や他の昆虫とさまざまなつながりを持つように進化してきました。その結果作られたネットワークを、ちょっとのぞいてみましょう。まずは、「アリ」と「カメムシ」そして植物の「アズキ」。このつながりから。
植物の中には、アリの好きな蜜を出すものがいます。ほら、サクラの葉の根元から出ている蜜を、アリが夢中でなめています(上写真)。
こちらのアズキも蜜を出す植物です(上写真)。でもアリは、ただ蜜をもらっているわけではないんです。
カメムシがやってきました。「実の汁」を吸ってダメにしてしまうので、アズキにとっては困ったやつです。カメムシがアズキの実に向かいます・・・と思ったら、アリがカメムシを追い払おうとしています(下写真)。あら、カメムシは逃げていきました。
「カメムシはアズキの実をねらう」。「アズキは実を守るため、甘い蜜でアリを引き寄せる」。「そしてアリは、蜜と引き換えにカメムシを追い払う」。ここに小さな“ネットワーク”ができていたんです。
こうしたネットワークは他にもあります。アリは、植物だけでなく「昆虫」も守っているんです。
これは「ミヤマシジミ」の幼虫(上写真)。絶滅危惧種に指定されている貴重なチョウです。
幼虫の近くで様子をうかがっているのは、ミヤマシジミの幼虫を襲う天敵の「ハエ」です(上写真)。
幼虫、ピンチ!しかしこのあと、幼虫は驚きの行動をとります。
アリが通りかかったそのとき、「にょき!」。幼虫のおしりから突起が伸びています(上写真)。実は、ここから「僕を守って~」というようなメッセージを、アリに送っていると考えられているのです。
さらに、幼虫はアリを引き付けておくため、なんと自分の体から“蜜”を出します(上写真)。アリはもう夢中です。こうしてアリがそばにいてくれることで、チョウの幼虫は天敵のハエに襲われにくくなります。すごい三角関係ですね。
アリのネットワークはまだまだあります。なんと、いろんな植物の勢力を広げるお手伝いをしているんだとか。
どういうことでしょう。
これはスミレの花(上写真)。
花の季節が終ると、タネが実ります(上写真)。このあとスミレのタネは、はじけ飛んで地面に落ちます。
スミレのタネのこの白い部分は、アリの大好物の甘い「栄養分」です(上写真)。タネを見つけた小さなアリは、タネを懸命にひきずって巣に持ち帰ります。タネは甘い部分をかじられたあと、そのまま放置されます。そして何年かたったころに芽を出し、花を咲かせます。こんなコンクリートの隙間からも!
アリは、日本だけでおよそ200種のタネを運んでいると言われています。そして新たに咲いた花が、今度は別の虫のよりどころになっているのです。アリは、なにも植物や他の虫を助けようと考えているわけではありません。自分のために懸命に生きているだけで、いつの間にか他の生き物とつながり、そのつながりが他の生き物を助けています。そんなつながりによって生まれたネットワークが、進化の積み重ねの末にどんどん広がり、地球の巨大なネットワーク「生態系」が作られているのです。
<生き物のネットワーク みんなが進化の王者!>
堺さん「食べたり食べられたり、守ったり守られたり、栄養を交換しあったり。この地球には200万種もの生き物がいて、彼らが作る膨大な“ネットワーク”があるんだよ。どんな生き物だって、みんな40億年前の『共通の祖先』から始まって、すごい能力を獲得しながら生きのびることに成功してきた。言わば、みんなが“進化の王者”なんだ。しかも人類が誕生するはるか前から、生き物たちは互いの特性をいかして、種を超えてつながって生きのびてきた。そうやって地球の生き物たちのネットワークはできたんだよ」
萌乃さん「私たち人間は?」
堺さん「僕ら人間だって、食べるものや着るもの・・・5万種もの生き物に頼って生きていると言われている」
<植物役>角田さん「ちょっといいですか?みなさんも、この地球で暮らす一員ですよね。なのに、あなたたち人間は欲しいものを手に入れるため、森や草原を際限なく切り開いてきました。そしていま分かっているだけでも、4万種の生き物が絶滅の危機にあるんですよ」
萌乃さん「大丈夫なの?」
<植物役>角田さん「分かりません。生き物たちのつながりは複雑なんです。なので、どんな影響があるのか予測するのは難しいんです」
大吾さん「人間って、何やってんだろうね・・・。僕ら人間は、まるで最も進化した生き物だって無意識に思っていたし、そうふるまってきた。でも本当はそうじゃなかったんだ。僕ら人間も生き物たちのネットワークの中で生きている。生き物たちとのいいつながり方、見つけたいよね。でも、どうしたらいいんだろう?」
堺さん「これは『ソバの実』(下写真)。人間と生き物がもっとうまくつながるためのヒントだよ」
<そば畑で広がる“ネットワーク”>
そばは「ソバの実」から作られているって知っていますか?その実がとれるのが、このかれんな花です(下写真)。
長野県飯島町にあるそば畑で、生き物と人間のよりよい関係を求めて研究を行う東京大学大学院農学生命科学研究科の宮下直さんのチームは、ある小さな工夫をするだけで、ソバの実りが増えることを発見しました。
もともとソバの花には蜜が多く、人間の作った畑でありながら、昆虫にとっては“最高のレストラン”です。ソバの花にとっても、お客さんが来るのは大歓迎。なぜなら花の「受粉」を助けてくれるからです。
受粉を助ける虫といえば、ミツバチやハナアブなどが有名ですが、飯島町のそば畑では100種以上の昆虫が観察されています。たとえば、クマバチに、たくさんのチョウ・・・ハナムグリは花粉をペロリ。蜜が大好きなアリも来ています。
宮下さんによると、農家に“あるお願い”をしたことで、受粉を助ける昆虫が以前よりも増えたと言います。
生態学者 宮下直さん「ソバの咲く2~3週間前から、あえて草を刈らないように残してもらっています」
なんとお願いしたのは、「ソバの花が咲く時期に、あぜ道の草刈りを控えること」だけ!それだけで、畑にやってくる昆虫の数が1.5倍に増え、そのおかげでソバの実り(結実率)が3割ほど増えたのです。
でもなぜ雑草を残すだけで、昆虫が増えるのでしょうか?
その答えは意外なことに、夜にありました。
午後8時。畑の周りのあぜ道をのぞくと、おやおや、虫たちが草の中でお休み中です。あぜ道の雑草は、昼間、畑で蜜を吸う虫たちの大事な寝床になっていたのです。虫たちは、寝床にする植物に好みがあり、あぜ道に生える植物の種類が多いほど、いろんな虫が寝泊まりできるといいます。人間にとってはただの雑草でも、生き物のつながりを豊かにしてくれる大切な場所だったんです。
さらに、畑に来る虫が増えたことで、今度はその虫を食べるトンボやクモといった虫たちも、よく姿を見せるようになりました。“生き物のネットワーク”が広がったのです。
生き物たちのつながりを知り、ほんの少し工夫するだけでも、人間と生き物、みんなにとって豊かな場所に変えていくことができる。私たち人間にも、少しずつできることはあるのかもしれません。
身近な生き物たちの「進化」の物語。いかがでしたか?
庭や畑など私たちのすぐそばに、生き物たちが競い合ったり、頼り合ったりして生きる驚きの世界が広がっています。あなたの近くでも、生き物たちの意外なつながりが見つかるかもしれませんよ。